テキスト ボックス:        FM放送受信プリアンプの製作

              2010年9月  KY
◎はじめに
筆者はFM放送は車の中より、室内で良く聴いています。
図1は筆者のFM受信システムで、アンテナは「ミニコンポ」に付属していた「簡易アンテナ」です。
最近はFM放送局が増えてFMチューナーのバンド内、いたるところで受信できるのですが、
雑音すれすれの局があり、気になっていました。
アンテナを本格的な「八木アンテナ」にすれば、かなりの感度改善になるのは分かるのですが、
アンテナを設置するのはかなり面倒
そこで、現状の簡易アンテナでも感度改善できないかと考えているうちに「受信用プリアンプ」
を追加する方法を考えました。
プリアンプは図1のようにアンテナとチューナーの間に入れる「アンプ(増幅器)」です。
今回は「FM放送受信プリアンプ」を製作してみようというわけです。
◎設計
使用するデバイス(トランジスタまたはFET)に迷うところです。今回は東芝の「2SK192A-GR」
を用いてみました。
回路は図2のように2SK192Aのデータシートどおりです。
FM用アンテナおよびチューナーのインピーダンスは「75Ω」です。
ただし、今回のプリアンプの入出力インピーダンスは「50Ω」で設計しています。
したがって、このままでは「ミスマッチング」になりますが、このままでも実用上、特に問題
無いと思います。
気になる場合はC1,C2を「トリマーコンデンサ」にすれば良いです。
L1,L2のコイルは「手巻き」です。(これが楽しい)
設計方針は以下のとおりで、
・利得を若干抑える
・出力側のQを若干抑える
・ノイズフィギュア(NF)を意識する
「利得とQを欲張らない」ようにしています。
表1 部品表
部品番号   品名   型番   メーカー 数量
C1 セラミックコンデンサ 8pF   CCDC50V8P*10   1
C2 セラミックコンデンサ 15pF    CCDC50V15P*10   1
C3 セラミックコンデンサ 0.01μF セラミックC50V103   1
C4 電解コンデンサ 22μF/25V 25YK22   ルビコン 1
L1,L2 Φ0.6 スズメッキ線   TCW0.6L10   適量
TR1 FET     2SK192A-GR 東芝 1
VC1,VC2 トリマーコンデンサ 20pF   TZ03T200F169B00 村田 2
  DCジャック     MJ14ROHS マル信 1
  ケース     MB1   TAKACHI 1
  BNCコネクタ     BNC-R     2
  M3×6 ナベビス         8
  M3用ナット           8
  M3用スプリングワッシャ         8
  アースラグ 3mm用         2
  カット基板 片面 紙フェノール       適量
  t = 0.3mm 銅板         適量
◎製作
○基板
扱う周波数は高周波(76MHz〜90MHz)ですからユニバーサル基板では性能が出ません。
具体的には「周波数特性があばれる」可能性があります。
言い方をかえると、「ユニバーサル基板で動作しない周波数が高周波」と言えます。
そこで、プリント基板の採用になりますが、今回は「手を抜いて」写真1のように「カット基板」
を用い、基板製作時間を短縮しました。
(真夏の暑い時期だったので、パターン設計、エッチング、穴開けをする気力が無い)
筆者は使用期限が大幅に経過した「片面感光基板」の感光膜を除去したものを用いまし
たが、新規に製作される方は以下の基板が良いと思います。
サンハヤト
NO10
図3に製作方法を示します。
銅箔面を「ベタGND」にし、信号間の配線はカット基板を小さくカットしたものを瞬間接着剤
で固定し、この上に部品をはんだ付けします。
○部品実装
図4のようにベースとなる基板サイズは30mm×50mmです。
カットは「電動糸ノコ」で行い、小さいカット部は電動糸ノコで細長くカットした後に必要長
をニッパ(古くなったものが良い)でカットします。
最近の部品は形、サイズ、実装方法(リード、面実装)がさまざまで、用途に応じたはんだ
コテを使うことが重要です。
筆者は部品によって数種類のはんだコテを使い分けています。
参考として、今回の製作に用いたはんだコテを以下に示します。
メーカー:大洋電機産業
型番:TQ95
熱容量が「15W/90W」と切換られるので、「ベタGND」へのはんだは90Wに切り替えると
作業が楽。
この型番に限らず、はんだコテは数種類用意しておくことをお勧めします。
写真1に部品実装の様子を示します。
シールド板は図5のサイズで下部の切り欠きはTR1のドレイン信号配線部を避ける部分
です。ベタGNDへの固定は下部2箇所で行います。
なお、トリマーコンデンサは図6のように取り付け極性があります。
○コイルはきれいに作るのが成功へのカギ
コイルは「きれいに作る」ことが重要で、くずれた形は設計値からずれて、動作しない場合
があります。
○ケースへの組込み
金属ケースへ収納しないと性能が出ません。
今回はケースに、
TAKACHIのMB1
を用い、基板の固定方法を図8に示します。
ANT側コネクタとのはんだ付け部分で基板がケースに固定となります。
電源用のDCジャックはOUT側パネルに配置しています。
◎調整方法
実際の放送局を受信し、FMチューナーの出力(信号強度を表示するメーターがあると便利)
が最大となるように、VC1とVC2を調節します。
この時、L1、L2の値(インダクタンス)が大幅にずれていると最大感度になりません。
VC1、VC2を調節しても出力レベルが上がらない場合はL1、L2を「伸び縮み」させて
適正なインダクタンスになるようにします。
調整に用いる放送局は特に感度アップしたい局(周波数)が良いかもしれません。
後述のグラフ1のように利得は周波数特性をもっています。
VC1,VC2の調整は必ず「セラミック調整ドライバー」を用います。
参考として筆者が今回用いた調整ドライバーを以下に示します。
メーカー:太洋電機産業
型番:CD20
この型番に限らず、調整ドライバーは複数所有することをお勧めします。
◎性能測定
作りっぱなしではいけませんので、主な特性を測定してみました。
電力利得および雑音指数(ノイズフィギュア、NF)を以下に示します。
注意
電力利得は入出力75Ω系で測定
NFは入出力50Ω系で測定
設計上は入出力インピーダンスは50Ωですから、若干、利得が抑え目です。
しかし、バンド内(76MHz〜88MHz)は10dB以上取れていますので、これでOKと判断。
なお、C1,C2もトリマーコンデンサにすれば75Ω系ともマッチングできますが、調整箇所
を増やさない意味でC1,C2は固定コンデンサにしています。
ちなみに、C2をトリマーコンデンサ(20pF)にして調整してみましたが、かなりの利得アップ
になりました。(ただし、あまり欲張らないほうが良さそう)
表2
周波数 試作機
76 11.5
77 13.5
78 15.8
79 17.7
80 19.1
81 19.5
82 18.9
83 17.7
84 16.5
85 15
86 14
87 12.7
88 11.5
表3
周波数 試作機
76 3.43
77 2.87
78 3.1
79 2.73
80 2.35
81 2.33
82 1.72
83 1.61
84 1.8
85 1.93
86 2.17
87 2.4
88 2.82
◎実際の使用
○感度比較
筆者が使用しているFMチューナーは「SIGNALメータ」が付いています。
図10のようなアナログメータ(5分割の目盛)で数字が大きいほど受信レベルが大きいこと
になります。
AMP有/無でのSIGNALの違いをグラフ3に示します。
劇的に信号強度がアップされることが分かります。
表4 SIGNALメータの読み値
周波数 AMP無 AMP有
76.2 2.7 3.8
76.5 2.8 3.8
77.2 3.2 4.2
78 2.2 2.9
78.4 3 3.2
79 3 3.4
79.5 3.2 3.9
80 3.7 4.5
80.3 3.2 3.4
81.7 3.6 4.5
82 1.2 2.4
82.5 3.5 4.2
84.8 1.2 2.2
85.2 3.1 3.2
86.4 3.2 3.2
  最大感度調整周波数
比較の接続は図11を参照
○実際の受信音
SIGNALメータが3以下の場合「やや、ノイズっぽい」感じでしたがAMPを入れたことに
より、受信強度が増し、ノイズ感もなくなり快適です。
消費電流は、実測「約13mA」です。
電源電圧の設計値はDC10Vですが、DC6V〜DC10Vの間で動作します。
写真3のような市販の直流安定化電源が良いです。