マルツ パーツまめ知識
ステレオパワーアンプキット LAPA4755-KIT 使用レポート
2011年9月 KY
◎キットの概要
Linkmanのステレオパワーアンプキット「LAPA4755-KIT」はスピーカアンプ専用IC
「LM4755」を用い、部品点数が少ないため手軽に組み立てることが出来ます。
以下、主なキットのテクニカルデータを示します。
表1
周波数特性   30Hz〜80KHz  (8Ω、1W、-3dB)    
最大出力     2W+2W  (8Ω、THD=10%)    
ひずみ率     0.08%以下 (1W出力、1KHz、8Ω、THD+N  80KHz)
SN比     85dB以上 (JIS-A、8Ω、1W出力基準)  
チャンネルセパレーション 60dB以上 (JIS-A、8Ω、1W出力基準、1KHz)
利得     +34dB        
電源電圧     DC15V        
基板サイズ   100mm×65mm      
出力が2W+2Wですから、小型のスピーカ駆動に適しています。
キットは専用基板と電子部品および入力端子、スピーカ端子等のセットでこのまま組み上げ
ればスピーカを鳴らすことが出来ます。
ケースに組み込む場合は別売のケースキット(ボリュームツマミ、配線材等)を利用すること
が出来ます。
ケースキット LAPA-CASE1-KIT
◎オリジナルバージョンを作る
★概要
基板はコンパクトに仕上がっていますのでケース組込みは容易です。
上記ケースキットを用いても良いのですが、ここは筆者の「こだわり」でケース、入力端子、
スピーカ端子等、好みの部品で構成、製作しましたので紹介します。
  @周波数特性の改善    
  Aヘッドフォン端子(出力)の追加  
  Bケースおよび入出力端子のこだわり  
  Cその他のこだわり      
写真1にLAPA4755-KITの部品セットと今回製作に用いた追加部品を示します。
★部品表
ケースには「こだわり」があります。シルバーを基本とし、サイドパネルは黒をイメージし、
比較的安価なものの中からタカチの「KC5シリーズ」を採用してみました。
端子類は「ゴールド」を基本とし、ツマミも重要なポイントですから、これもゴールドです。
表2
品名   型番     メーカー 数量 備考
アンプキット   LAPA4755-KIT   Linkman 1  
RCAジャック   RJ-232アカ   アムトランス 1  
RCAジャック   RJ-232シロ   アムトランス 1  
絶縁ターミナル CP-237G     アムトランス 2 スピーカ用
2連ボリューム R1610G-QB1-A103   Linkman 1  
DCジャック   MJ14ROHS   マル信 1  
Φ3.5ジャック MJ073H     マル信 1  
LED   DB2NBBL     サトー 1  
ツマミ   25X15JXS-7   Linkman 1  
ケース   KC5-13-10BS   タカチ 1  
1W抵抗   1WMOS(X)キンピR 22オーム KOA 2  
カーボン抵抗 10K       2  
カーボン抵抗 3.3K       1 LED用
オーディオ用ケミコン UFW1V222MHD   ニチコン 2  
ゴム足   BP42     タカチ 4  
M3スペーサ   金属 メスーメス 10mm     4  
ビス、アースラグ等         1式  
配線材   AWG22〜AWG24     1式  
端子(ジャック、ターミナル)はすべて「絶縁タイプ」。
ボリュームはシャフト長さ15mm。ツマミ(25X15JXS-7)との組み合わせでは
シャフトをカットしなくて済む。
LED用の3.3Kは用いるLEDにより定数変更の必要がある。
★周波数特性の改善
周波数特性は前記表1のように30Hz〜80KHzです。
低域は30Hzですが、大型スピーカを用いた場合、より低域が出るようにしてみました。
低域の周波数特性に関わる部分を図1に示します。(Lch)
C1およびC4の値で低域のカットオフ周波数が決定され、その計算式と結果を以下に
示します。(RinはLM4755のデータシートから83KΩ、スピーカは8Ωを想定)
入力側ではすでに4Hzですから、出力側のコンデンサ容量を増加して特性を改善して
みます。Co=2200μFとした場合の計算結果を以下に示します。
周波数特性は入出力の総合になりますから、実際に特性を測定し確認してみることにします。
参考として改善前(キットの定数)も記します。
改善前 → 25Hz
改善後 → 14Hz
(用いたコンデンサ)
オーディオ用ケミコンのFWシリーズを用いました。
ニチコン UFW1V222MHD
(交換方法)
C4,C5を交換します。
元々の1000μFと交換の2200μFは取り付けピッチが異なります。
図2のようにC4,C5の取り付け穴はピッチの異なるものが用意されていて、
2200μF(7.5mmピッチ)は外側の穴に実装します。
★ケース実装のための部品削除
キットには基板上搭載用のボリューム(半固定)、入出力端子が付属しています。
これらを好みの部品に交換するために実装済みであれば削除しておきます。
J1 (電源端子)
J2 (入力端子)
VR1、VR2 (半固定ボリューム)
CN1、CN2 (スピーカ端子)
LED1
抵抗R3は用いるLEDにより定数変更の必要があります。(筆者は3.3KΩに変更)
★ヘッドホン端子(出力)の追加
深夜等、スピーカではなくヘッドホンで聴くためにヘッドホン端子を追加してみました。
図3に回路を示します。
スピーカ出力は2W(8Ω負荷)ですから22Ωの抵抗を追加して適性なヘッドホン出力
となるようにします。
筆者は32Ωのヘッドホンを想定してこの値にしましたが、音量レベルを変えたい場合は
定数変更が必要です。
追加の10KΩは「接地抵抗」です。
なお、スピーカとヘッドホンの同時使用は不可で、どちらかを接続します。
追加の10KΩは元もとのCN1、CN2のランドを利用し、22Ωはスピーカ端子じか付けと
しました。
ヘッドホンのGNDはC8のマイナス端子に接続し、やや太めの線(AWG22)を用いています。
★ケース
今回はタカチの「KCシリーズ」のKC5-13-10BSを用いてみました。
図4のようにパネルがABS樹脂(黒)でそれ以外は金属(シルバー)の構造となっています。
今回は図5のようにABS部をサイドパネルとし、パネルフレームをそれぞれフロント、リア
としてみました。
図6にパネルの部品配置を示します。
放熱穴は必要で、筆者の場合、以下の穴数としています。
シャーシ(フタ)→Φ3.5を10mm間隔で21個
サイドパネル→Φ3.5を10mm間隔で8個
★内部配線と組込み
余計なGNDループを作らないようにジャック(端子)類はすべて「絶縁タイプ」を用いています。
図7に全体の配線を示します。
@配線の前にRCAジャックのGNDがシャーシと導通していないことをテスタにて
確認する。            
             
A基板への接続点は図7のとおりですが、線材は各ランドの穴へ通さないで、
基板裏へはんだ付けする。        
             
Bシールド線は不要。太さはAWG22〜AWG24が適当。    
             
Cツイスト処理は電源およびLEDへの配線とし、その他の信号ラインへの配線は
L/Rが平行にならないように自然に配線する。    
             
Dフロントパネルおよびリアパネルは導通を確実にする目的で「アースラグ」を
用いてシャーシ(底)へ線材にて接続。      
             
E基板上の「FG1」(ランド)がシャーシGND用なので、金属スペーサでシャーシ
(底)へ確実に接触させる。        
             
F各パネルと基板GND間が導通していることを確認。    
スピーカ端子は図8の要領で取り付けます。
この端子(CP-237G)は端子部が回らないストッパ構造になっていて、線材接続用穴が上下
になるようにします。
スピーカ端子用として普段はジョンソンターミナルを愛用しているのですが、加工穴が丸穴の
場合、端子本体がまわってしまいがちです。
CP-237Gのような構造であればまわってしまう心配はありません。
また、ネジ部の操作もスムーズで今回の「お気に入り部品」の1つになっています。
RCAジャックはRJ-232を用いましたが、ピンプラグの装着がスムーズで感触が良い。
◎電気的特性
完成後に電気的特性を確認してみました。
表3
      テクニカルデータ 実測値  
ひずみ率     0.08%以下   0.0664%  
SN比     85dB以上   Lch→86.3dB
          Rch→86.8dB
チャンネルセパレーション 60dB以上   L→R  64.1dB
          R→L  64.0dB
テクニカルデータ内に収まっています。
測定して気が付いたのですが、測定値が安定しています。
特に「ひずみ率」は測定系の接続具合(接触)に敏感に反応する項目です。
スピーカ端子にジョンソンターミナルを用いた場合、部品によっては負荷の接触具合
によって測定値が変化(変動)することがあります。
今回用いたRCAジャックおよびスピーカ端子によるものか断定できませんが測定値が
安定しています。
このように入出力部には安定した信頼性のある部品を用いることをお勧めします。
思いつきで「ソーラーパネル」(パーツまめ知識のソーラーパネルを参照)を電源として
利用したところ、DC15V動作時と異なる音に聴こえました。
▼https://www.marutsu.co.jp/user/mame/169.htm
ソーラーパネルはDC20Vですからキットの定格をオーバーします。
放熱器を手で触ると我慢できない熱さではありません。そこでDC20V時におけるひずみ
率特性を測定した結果をグラフ1、表4に示します。
15V動作時と比較し、特性が向上し、最大出力も大きく取れることが分かります。
6畳くらいの部屋で小型スピーカを鳴らすには2W出力で十分ですが、20Vまたは24V動作
で試されてはいかがでしょうか?
ただし、放熱器は現状より大きくする必要があります。
表4 歪率特性
出力(W) 15V動作 20V動作
0.1 0.1400 0.1200
0.2 0.1150 0.0947
0.3 0.0992 0.0824
0.4 0.0908 0.0750
0.5 0.0842 0.0695
0.6 0.0792 0.0654
0.7 0.0756 0.0617
0.8 0.0720 0.0591
0.9 0.0692 0.0562
1.0 0.0664 0.0540
1.1 0.0643 0.0524
1.2 0.0629 0.0500
1.3 0.0611 0.0493
1.4 0.0597 0.0481
1.5 0.0587 0.0460
1.60 0.057 0.045
1.70 0.2 0.044
1.8 0.99 0.043
1.90 2 0.043
2.00 3 0.042
2.10   0.041
2.20   0.04
2.30   0.04
2.40   0.039
2.50   0.039
2.60   0.039
2.70   0.039
2.8   0.038
2.9   0.038
3.0   0.038
3.1   0.038
3.2   0.038
3.3   0.04
3.4   0.073
3.5   0.24
3.6   0.52
3.7   1.16
3.8   1.51
3.9   2.3
4.0   2.7
◎おわりに
オーディオは「見た目」が重要です。
個人的には今回用いたケースの縦横比率が美しく、また、フロントパネルのシルバーおよび
サイドパネルの黒にゴールドのジャック、ツマミ類が非常に冴えた印象で気に入っています。
次に製作するヘッドホンアンプ、イコライザーアンプ等はしばらくこのケースで統一しようと
思っています。
キット自体は部品が少なく基板もコンパクトに仕上がっていますので、好みのケース、部品
で構成されたらいかがでしょうか?
また、20Vまたは24V動作への変更も興味深いところです。
(ただし、放熱器を大きくする必要がある)
電気的特性の測定結果から分かるように同じ1W出力または2W出力でも特性に余裕が
出ます。
部品点数も少ないですから、ユニバーサル基板で組むことも可能で、配線パターンはキット
のパターンをそのまま流用されると良い結果が得られると思います。