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パーツまめ知識
帰還型定電圧回路
◎帰還型定電圧回路とは?
定電圧は負荷が変動しても出力電圧が一定でなければなりません。
オペアンプを用いた定電圧の方式例を図1に示します。
この方式は「帰還型定電圧回路」と呼ばれるもので、出力Voutが変動しても変動分を検出し、
自動的に出力の変動を抑えて、一種の帰還ループを構成しています。
このような方式を「帰還型定電圧回路」と言います。
基準電圧は安定した電圧で、Voutと基準電圧を比較し、
その差がなくなるようにTR1を制御します。
この方式は「シリーズドロッパ(シリーズレギュレータ)」方式の直流安定化電源に良く
用いられます。
比較回路の具体例を図2に示します。
特に、「誤差増幅器」と呼ばれ、この例ではオペアンプを用いていますが、トランジスタでも
構成することが出来ます。
動作原理は以下のとおりです。
VoutをR1,R2で分圧した電圧と基準電圧Vrefをオペアンプで比較します。
オペアンプは負帰還をかけた場合、その性質によりオペアンプのプラス端子と
マイナス端子はバーチャルショートですから同電位です。
この時、オペアンプの出力はTR1のベース・エミッタ電圧VBEだけ
Voutから高い電位になります。
結局、TR1のベース・エミッタ間を抵抗と思えばVrefが入力電圧の「非反転アンプ」です。
したがって、この回路の出力Voutは、
◎シリーズレギュレータへの応用例
応用例を図3に示します。
★仕様
表1
出力電圧可変範囲 0V〜18.4V    
出力電流   300mAmax    
入力電圧   24V      
出力保護   出力電流300mA以上で電流制限  
入力は市販のスイッチングACアダプタ(DC24V)を利用し、
今回はLinkmanのSTD-24010Uを採用しました。
この電源は24V/1Aですから、最大1Aまでは電流を取ることは可能ですが、
シリーズレギュレータ部の放熱を考慮し、最大300mAとします。
★各部の設計
@ トランジスタTR1の選択
ベース電流はオペアンプで駆動しますので、オペアンプの駆動能力を1mAとすれば必要なhFEは
300mA / 1mA = 300
です。一般的なトランジスタではhFEは100〜300ですからこの部分はダーリントンタイプまたは
hFEの大きなトランジスタが必要です。
コレクタ損失PcはVoutが低いときが最大となります。
このVoutを1Vとし、その時の最大電流が300mAですから、Pcは
Pc = VCE×Ic = (24V - 1V) × 300mA = 6.9W
耐圧(VCEO)はVinが24Vですからこの値の2倍以上必要です。
以上の条件を整理すると、
hFE = 300以上
Pc = 20W以上
  (必要な6.9Wに対して3倍のマージンとした)
VCEO = 50V以上
これらの条件から今回はダーリントンの2SD1785を採用しました。
その主な規格を表2に示します。
※【2SD1785】汎用パワートランジスタ(ダーリントン) 120V/6A
表2 2SD1785
項目 定格 備考
VCEO 120V  
Ic 6A  
Pc 30W Tc = 25℃
hFE 2000min  
パッケージ TO220F  
A オペアンプIC1
単電源用で電源電圧が24Vですから、今回はLM358を採用しました。
※【LM358N-N】低消費電力デュアル汎用オペアンプ
B 基準電源
ここの性能(安定性)で安定度が決まります。
今回は基準電圧用のTL431を採用しました。これにより基準電圧は2.5Vとなります。
出力電圧Voutはこの基準電圧をボリュームにより可変することにより、
0Vまでの可変が可能になります。
※【TL431CP】Adjustable Shunt Regulator.8PDIP (得)特選品   
C R1,R2
仕様から0V〜18Vとなるように値を決めるわけですが、この値は1KΩ以下では抵抗の
消費電力が心配になります。
例えば、Voutが16Vの場合、かなりの消費電力になりますので、一般的な 1/4W の
抵抗を使うためには数KΩ以上の値にしなけれがなりません。
今回は R1 = 30K, R2 = 4.7K として、 Vout = 0V〜18.4V としています。
なお、この部分の抵抗は金属皮膜抵抗を使います。
(理由は設定誤差と温度係数を考慮)
D C2
オペアンプの発振防止用コンデンサです。数10pF以上にします。
ここでは100pFとしました。
E TR2とR4
ここは出力Voutがショート時の保護と出力電流の制限(リミット)をしている部分です。
動作原理は図4のようにR4を流れる電流により、TR2のベース・エミッタ間に電圧が発生し、
この値がトランジスタがONするための電圧0.7V以下であればTR2は動作しなく、
TR1へは影響を及ぼしません。
この値が0.7Vを越えるような電流が流れればTR2がONし、結果としてVoutが下がり
電流は一定となります。
この特性を図5に示します。
TR2がONする電流条件は
I = V / R
です。 V = 0.7 R4 = 2Ω とすれば
I = 0.7V / 2 = 0.35A
となります。つまり、出力電流が0.35A以上で出力がリミットされます。
R4は最大0.35A流れますので、この部分での最大消費電力は
P = 0.35×0.35×2 = 0.245W
となり、ここでは余裕を見て 2W タイプの抵抗とします。
以上の計算はTR2がONするベース・エミッタ間を0.7Vと仮定しています。
実際にはこの値は0.7Vになるとは限らないので、製作時に動作確認しR4の値を
決定することにします。
なお、今回は最大出力電流を300mWとしましたが、この値を大きくすることは可能です。
ただし、用いる放熱器によりTR1(放熱器)の表面温度が高くなりますので、
出力電流の仕様については動作確認で決定することにします。
F出力表示
少し使い勝手を良くする目的で、「出力スイッチ」および出力ON状態を表示する
LED2を追加することにします。
余ったオペアンプの1回路をコンパレータとして用い、出力電圧が約1V以上で
LED2が点灯します。
なお、「CHK端子」は出力ON前に設定電圧を確認するテストポイントです。
★部品表
表3
部品番号 部品名   型番   メーカー 数量 備考
C1 ケミコン10μF/50V 50YK10   Ruby-con 1  
C2 セラコン 100pF CCDC50V100P*10   1 数量注意
C3 ケミコン47μF/50V 50YK47   Ruby-con 1  
C4,C5 セキセラ 0.1μF CT4-0805B104K*10 Linkman 2 数量注意
D1 基準電圧IC   TL431CLPE3   TI 1  
IC1 オペアンプ   LM358N-N   NS 1  
J1 DCジャック   MJ14ROHS   マル信 1  
LED1 LED Φ3 赤         1  
LED2 LED Φ3 青   LLED-B301   Linkman 1  
R1 金属皮膜抵抗 30K 1/4WキンピR 30KΩ KOA 1  
R2 金属皮膜抵抗 4.7K 1/4WキンピR 4.7KΩ KOA 1  
R3 カーボン抵抗 1.8K 1/4WカーボンR 1.8KΩ     1  
R4           1 要調整
R5,R6 カーボン抵抗 7.5K 1/4WカーボンR 7.5KΩ     2  
R7 カーボン抵抗 47K 1/4WカーボンR 47KΩ     1  
R8 金属皮膜抵抗 220K 1/4WキンピR 220KΩ KOA 1  
R9 金属皮膜抵抗 10K 1/4WキンピR 10KΩ KOA 1  
R10 カーボン抵抗 22K 1/4WカーボンR 22KΩ     1  
R11 カーボン抵抗 4.7K 1/4WカーボンR 4.7KΩ     1  
R12 カーボン抵抗 10K 1/4WカーボンR 10KΩ     1  
S1 スライドスイッチ 5FD1-S1-M2-S-E Linkman 1  
TR1 トランジスタ   2SD1785   サンケン 1  
TR2,TR3 トランジスタ   2SC1815Y(F)   東芝 2  
VR1 2連ボリューム50K,B RD925G-QA1-B503 Linkman 1  
  ユニバーサル基板 LUPCB-7247-NS Linkman 1  
  放熱器   T220N(55)-25   水谷 1  
  ACアダプタ 24V STD-24010U   Linkman 1  
  ボリューム用つまみ       1  
  金属スペーサ、ビス       1式  
  チェック端子         1式 橙黄茶
(VR1)
2連である必要は無い。基板実装タイプ。
(R4)
希望する電流リミットとなる値。
筆者は「1.3Ω+1Ω=2.3Ω」とした。
(放熱器)
この放熱器はトランジスタ取り付け用の穴が空いているので、実装に便利。
★製作
ケースに収納していませんので、DCジャックの端子部の絶縁に注意します。
なるべくなら、ケース収納をお勧めします。
★動作確認
ケース収納していませんので、放熱器を触る可能性があります。
あまり温度が高いと危険ですので、TR1の表面温度を測定しました。
図6に測定結果を示します。
(条件)
・室内
・5V出力/0.3A
・電源ON30分後
温度上昇分として「51℃」の結果です。例えば、夏場に周囲温度が30℃であったとすれば
TR1の表面温度は 30 + 51 = 81℃ になるということです。
0.3A連続動作を行わなければ、この温度までにはなりません。
結論として、この温度上昇で可と判断しました。
「出力電圧特性」を表4およびグラフ1に示します。 表4
出力電流 出力電圧
出力電流値(負荷電流)によらず、出力電圧が 0 5.001
一定となっています。 50 5.001
(つまり、定電圧動作) 100 5.001
150 5.002
また、出力電流が350mAで保護機能が働き、 200 5.003
この時の出力電圧は0.47Vと下がっています。 250 5.004
300 5.005
350 0.471