マルツ パーツまめ知識
デジタルテスタ
周波数測定機能の活用
第1回目
◎デジタルテスタの周波数カウンタ機能
最近は安価なデジタルテスタでも「周波数測定機能」(周波数カウンタ)を搭載している機種
があります。
手軽に発振回路などの周波数を測定(チェック)出来て便利ですが、デジタルテスタにおける
周波数測定機能は専用の「周波数カウンタ(またはユニバーサルカウンタ)」と比較した場合、
性能面において制約があります。
そこでデジタルテスタの周波数測定機能を用いる場合の注意点および
実際の測定方法について解説します。
◎基本的な使い方
Linkmanのデジタルテスタ「LDM-86D」を例として解説します。
▼LDM-86D デジタルマルチメーター
★基本操作
DUTY(デューティ)比とは図2のように1周期(T)の時間とHレベルの時間の比率を言います。
図2 b ) ではDUTY比は20%、c ) では80%です。
★周波数測定の例
図3は「タイマIC  555」による発振回路で、発振周波数Fは@式で表わされます。
図4のように黒のテストプローブを回路のGND(ICの1ピン)に、赤のテストプローブをICの
3ピンに接続すると周波数が表示されます。
この場合、ICの発振周波数の設定値が「4800Hz(4.8KHz)」ですから、これに近い値が
表示されます。
(測定には写真1のようなクリップアダプタを使うと便利。ただし、テストプローブの適合
機種があるので注意)
(測定誤差について)
図3の回路では@式で発振周波数が決定されますが、周波数誤差は抵抗、
コンデンサの定数誤差および測定器自体の誤差によります。
一般的に測定器(計測器)の誤差は「確度」という言葉で表わされます。
この確度は正確さのことで、一般的には測定の精度です。
デジタルマルチメータの場合は  ±( 0.5% rdg + 2 dgt )  などのように表現します。
rdg はreading の略で「読取値」のこと、dgt (またはdigit)は最終桁のカウント数を
表わし、
±( 0.5% rdg + 4 dgt ) 
であれば、読取値に±0.5%の誤差があり、なおかつ、最終桁(最下位桁)の数字が
± 4個の誤差があるということです。
例えば、Linkman LDM-86Dの周波数測定では1000Hzレンジにおいて表示最小
単位(最下位桁)は「1Hz」ですから、4800Hzの信号を測定した場合、表示は
4.800KHz」となります。
この表示における0.001KHz(1Hz)が最小単位です。
例えば、4800Hz(4.8KHzの正確な信号源を測定した場合、
(読取)
4800Hzの0.5% → 24Hz(0.024KHz)
(最終桁のカウント)0.001KHz単位の場合
4  (0.004KHz)
(合計)
± (0.024KHz + 0.004KHz) = ± 0.028KHz
この場合、表示は 4.772KHz 〜 4.828KHz の範囲内になります。
したがって、この表示範囲外は抵抗、コンデンサの定数誤差を含んだもの
なります。
部品誤差として抵抗およびコンデンサ定数がそれぞれ、±5%の誤差があったと
すれば、発振周波数の最大値、最小値は以下になります。
最大値 → 5078Hz
最小値 → 4548Hz
設計値は4800Hzですが、この場合、部品誤差による周波数誤差のほうが大きい
ことが分かります。
つまり、測定結果が4548Hz〜5078Hzの範囲を超える場合、回路ミスまたは部品
不良が考えられます。
このように測定器の誤差なのか部品誤差なのかを事前に把握しておくことが
重要です。
◎測定の注意
周波数の測定ポイントは発振回路の出力が基本になりますが、周波数カウンタ(デジタル
テスタ)を接続しただけで発振回路に影響を与えて正確な測定が出来ない場合があります。
また、場合によっては発振不安定または発振停止などの不具合が発生します。
この理由の1つはテストプローブを含めた測定器側を見ると図5のように抵抗とコンデンサ成分
になっています。(インダクタL分もある)
特にコンデンサを含めた外部回路(測定器)を
発振回路に接続すると、この成分が発振に影響
を与えるためです。
そこで、測定可能な場合、測定不可の場合に
ついて解説します。
★測定可の場合
図6は測定可の回路例です。
この場合、出力ポイントにテストプローブを接続しても発振部と出力は分離されていますから、
発振部には影響を与えません。
(前記図3のタイマIC 555も出力ピンは発振部と分離されている)
★測定不可の場合
図7の場合、基本的にこの測定方法は不可です。
この理由は図8のようにテストプローブを接続すると、この成分(特にコンデンサ)により
発振回路に影響を与えます。
図8の場合、発振周波数はクリスタルの指定負荷(基板の浮遊容量を含めたC1,C2)に
より決定されますので、余計な負荷が加わるため、本来の発振条件が変化し、発振
周波数の変化、発振不安定、発振停止などの不具合につながります。
したがって、このような測定方法は間違っていると言えます。
このような場合、テストプローブを含めた測定系の影響を少なくする目的で図9のように
「バッファアンプ」を設け、その出力を測定します。
★感度の把握
一般的なデジタルテスタでの周波数測定では測定出来る信号源の振幅レベルはデジタル
信号を対象としている機種が多いようです。
図3、図6のような回路では問題なく測定できます。
参考として表1、グラフ1に正弦波を入力した場合の感度実測結果を示します。
専用機は計測器メーカー製の周波数カウンタ(ユニバーサルカウンタ)です。
専用機と比較すれば劣りますが、微少電圧でなければデジタルテスタで十分です。
表1 正弦波入力
周波数(KHz) 81D 86D 専用機
0.01 145 42 20
テキスト ボックス: 各周波数において測定(カウント)
出来る最小振幅レベル(実効値)。
振幅の単位はmVrms

81D → Linkman LDM-81D
86D → Linkman LDM-86D
0.1 150 42 20
1 150 40 20
10 150 40 22
100 160 44 22
1000 170 54 22
5000 230 61 22
10000 300 75 22
15000 390 107 24
20000 610 140 25
25000 750 220 28
30000 1240 380 35
◎オシロスコープ用プローブを使う
★オシロスコープ用プローブ
テストプローブを含めた測定系の容量成分が発振回路の観測ポイントによっては影響を
与えることが分かりました。
そこで、この成分を緩和させる方法を紹介します。
オシロスコープで用いるプローブはシールド線などの線材と比較し、かなり容量(コンデンサ)
成分が小さくなっています。
このオシロスコープ用プローブをテストプローブとして用いれば発振回路に与える影響を
少なくすることが出来ます。
図10のようにオシロスコープ用の「10:1プローブ」を用い、デジタルテスタとの接続は
「BNCメス⇔バナナプラグ×2変換コネクタ」を用います。
変換コネクタ、オシロスコーププローブの製品例を示します。
(BNCメス⇔バナナプラグ×2変換コネクタ)
テイシン電機 AD123A
▼【AD-123A】BNCバナナ変換コネクター BNCジャック-バナナプラグ×2
(オシロスコーププローブ 10:1  10MΩ)
帯域
LA05044 40MHz
▼【LA05044】テストリード 40MHz
LA05110 100MHz
▼【LA05110】テストリード 100MHz
★注意点
オシロスコープ用の「10:1プローブ」は容量成分が低いのが特徴ですが、発振回路の周波数
によっては、プローブの容量成分が無視できなく、測定周波数は実際の周波数より若干低く
なります。
特に数MHz以上では無視できませんので、このことを認識しておく必要があります。
一般的なオシロスコープ用プローブを「パッシブプローブ」と言い、特に容量成分を少なくした
プローブの1つで「アクティブプローブ」というものがあります。
参考としてマイコンの発振回路を測定した結果を以下に示します。
表2
    帯域 入力容量 周波数測定値
パッシブプローブ 40MHz 20pF以下 11.98225MHz
アクティブプローブ 1GHz 1pF以下 11.99464MHz
マイコンの発振回路は12MHzですが、一般的なパッシブプローブを用いると11.98225MHzと
低く測定されています。
用いたアクティブプローブの入力容量は1pF以下です。
この場合の測定値は11.99464MHzとなっていますので、真の発振周波数はこれより若干
高い値と思われます。
いずれにしても数MHz以上の領域では測定値が低くなることを意識し、図12のような場合、
「発振確認程度のチェック」と考えるべきです。
また、10:1プローブは図13のように測定器側の入力抵抗を1MΩとしていますので測定器
に入力される実際の振幅レベルは1/10になります。
したがって、用いるデジタルテスタによってはこの電圧ロス分がさらに大きくなる場合があり、
感度不足を生じます。
表3にプローブを含めた感度の実測結果、図14に測定回路を示します。
LinkmanのLDM-86Dではマイコン回路においても30MHzまでは十分な感度です。
(ただし、発振回路に対しては扱う周波数により容量成分の影響がある)
表3  プローブを含めた感度
周波数(KHz) 81D 86D
0.01 1.5 0.38
テキスト ボックス: プローブはLA05044

振幅の単位はVrms
0.1 1.65 0.43
1 2.07 0.41
10 2.3 0.41
100 2.3 0.47
1000 2.67 0.5
5000 3.3 0.55
10000 4.18 0.7
15000 4.86 0.85
20000   1
25000   1.2
30000   1.7
テキスト ボックス: デジタルテスタでの周波数測定のまとめ(第1回目)

@測定器の誤差と部品誤差を事前に把握する
Aテストプローブを含めた測定器にはコンデンサ成分等がある
B発振に影響のないポイントで測定する
C発振に影響する場合、バッファーアンプを設けて測定する
D感度を把握しておく
Eオシロスコープ用プローブの活用
以上、基本的な使い方、注意点についてまとめました。
続く