アナログスイッチ応用 オーディオ用セレクタ兼 ミキシング装置の製作

アナログスイッチIC

応用編

オーディオ用セレクタ兼ミキシング装置の製作

◎アナログスイッチの応用

アナログスイッチの応用として「オーディオ用セレクタ兼ミキシング装置」を製作しましたので
紹介します。

セレクタは図1 a ) のように複数のSPSTを用意し、1つだけスイッチをONすることにより
入力信号を選択することが出来ます。

この場合、用いるアンプを「ミキシングアンプ」の構成にしておけば図1 b ) のように複数のスイッチ
ONでミキシング動作になります。

スイッチを1つだけ選択(ON) → セレクタ

スイッチを複数選択(ON) → ミキシング

 

図1 信号セレクタとミキシング

a ) セレクタ

b ) ミキシング

この例ではCHBを選択

◎ミキシング(ミキサー)の原理

複数の信号を合成(ミキシング)する 方法の一つにオペアンプを用いた
「加算アンプ」があります。

図2に加算アンプの原理図を示し
ます。

図2では入力がV1,V2の2つですが、
この場合の出力Voは①式であらわ
されます。

入力数は出力Voが飽和しない信号
レベルであれば任意に増設可能で
その場合の出力Voを②式に示します。

この例ではCHAとCHCをミキシング

2 単電源反転型加算アンプ

◎単電源でのアナログスイッチの使い方

SPSTのTC4066を単電源として用いる場合の例を図3に示します。 単電源ですからTC4066のVDD端子は電源Vcc、VSSはGND(0V)に接続します。

★オフセット電圧を印加しておく

抵抗RA,RB,RC,RDを同じ値(例えば100KΩ)にすればアナログスイッチの入出力端子は同電位 です。この場合、Vccの半分(1/2Vcc)の値です。

このようにあらかじめ直流電圧を印加しておくことを「オフセットをかける」と言います。 オフセットをかけて入出力電位を同電位にしておく目的は、オーディオ信号の場合、入出力端子の 電位が異なると、スイッチON/OFF時にノイズが発生します。 これを緩和する目的で同電位にしておきます。

扱う信号レベルがVcc,GNDまで達しない小さいものであればオフセット電圧は必ずしもVccの半分 である必要はありません。

 

 

図3 単電源での動作

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★CA,CBの目的

コンデンサCA,CBは直流カット用です。
アナログスイッチ側は直流オフセット電圧が印加されていますから、相手側との直流電位が異なる
とぶつかります。

それを回避する目的でコンデンサを用います。

図4 コンデンサCA,CBの役目

★アナログスイッチのON/OFF

TC4066の場合、ON/OFFのコントロール電圧は、

Vccレベル → ON

VSSレベル → OFF

ICのVSS端子をGNDに接続していますから、コントロール電圧がGNDレベルでスイッチOFFです。

TC4066の推奨動作条件は以下のとおりです。

最少 3V 最大 18V

電源をマイコンを含めたデジタル系と同じにすればデジタル系からそのままON/OFF制御できま
すが、電源が異なる場合、図5のようにレベル変換する必要があります。

図5の例ではデジタル系が5V、アナログ系が15Vです。
デジタル系の信号をCONT端子へ接続しても「Hレベル」は5VでスイッチONになりません。

TC4066Nデータシートでは15V動作時のCONT端子の「Hレベル」検知電圧は11V(最少値)
となっています。

したがって、CONT端子へは11V以上にしないとスイッチONになりません。

このような場合、トランジスタによるレベル変換を用いれば、異なった電源でもON/OFF制御を
することが出来ます。

図5 トランジスタなどでレベル変換する

◎製作

★回路

図6のように入力は4つです。

アナログスイッチにTC4066を用い、オペアンプにはNJM4558を用いています。
動作電圧の上限はTC4066で決定され、最大18Vです。
下限はTC4066が3Vですが、用いるオペアンプにより左右され、5Vが最小値です。

実際には扱うアナログ信号と用いる電源で決めます。
ここでは市販のスイッチングACアダプタを用いることとし、12Vまたは15Vとしました。

1/2Vccのオフセットは抵抗R20,R21による抵抗分割で行い、これを各ポイントへ抵抗を介して
振り分けます。

オペアンプの2段目はミキシング部が反転型ですので、入出力の位相を合わせる目的で反転
アンプを追加しています。

アンプとしてのゲインは、R9(R10,R11,R12) = R13 、R14 = R15 としましたので、加算アンプ部は1倍、
反転アンプ部も1倍、したがって装置全体としても1倍です。

S1~S4はON/OFF用の機械スイッチで、直接、VccとGNDに切り替えます。

このスイッチは2連なので、これを利用してON時にLEDを点灯させます。

なお、図6は片チャンネル分です。

S1~S4は共通回路なので、CHA,CHB,CHC,CHDの各信号をもう一つの回路のCONT端子へ
接続します。

 

図6

回路図

 

 

 

 

 

★部品表 表1

部品番号

部品名

 

型番

 

 

メーカー

数量

備考

C1~C4

ケミコン10μF  

25YK10

 

 

Ruby-con

4

 

C5,C6

セラコン100pF

 

CCDC50V10

 

 

2

数量注意

 

C7

ケミコン10μF  

25YK10

 

 

Ruby-con

1

 

C8

ケミコン100μF  

25YK100

 

 

Ruby-con

1

 

C9~C11

セキセラ0.1μF  

CT4-0805B

Linkman

 

3

数量注意

 

IC1

オペアンプ

 

NJM4558D

 

 

NJRC

1

 

IC2

アナログスイッチ TC4066BP(

東芝

 

1

 

 

 

R1~R4

カーボン抵抗 47K  

 

 

 

4

473

 

R5~R8

カーボン抵抗 100  

 

 

4

104

 

R9~R12

カーボン抵抗 22K  

 

 

4

223

 

R13~R15

カーボン抵抗 22K  

 

 

3

223

 

R16,R17

カーボン抵抗 100  

 

 

2

104

 

R18

カーボン抵抗 47K  

 

 

1

473

 

R19

カーボン抵抗 560  

 

 

1

561

 

R20,R21

カーボン抵抗 3.3  

 

 

2

332

 

 

上記をもう1回路分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

R22~R25

カーボン抵抗 100K

 

 

 

4

104

R26~R29

カーボン抵抗 1K

 

 

 

4

102

S1~S4

照光スイッチ

PB61303AL4

Linkman

4

 

 

φ3.5ステレオジャック

MJ073H

 

マル信

2

 

 

DCジャック

MJ14ROHS

 

マル信

1

 

 

RCAジャック

MR699Gアカ

 

マル信

3

 

 

RCAジャック

MR699Gシロ

 

マル信

3

 

 

基板(片面)

LUPCB-9572-NS

Linkman

1

 

 

基板(両面)

LUPCB-7247-ND

Linkman

1

 

 

ケース

TS1

 

タカチ

1

 

 

金属6角スペーサ

メスーメス 15mm

 

4

 

 

ビス類

 

 

 

1式

 

 

スイッチングACアダプタ

STD-12010U2

Linkman

1

 

OUT端子(ステレオ)はRCAジャック。

入力CHA~CHDには

CHA,CHB→ φ3.5ステレオジャック

CHC,CHD → RCAジャック

片面基板(LUPCB-9572-NS)はメイン基板用。 両面基板(LUPCB-7247-ND)はスイッチ基板用。

電源は12V/1Aの仕様です。
手持ちの関係で上記型番を用いましたが、12V~15Vで電流容量が0.5A以上であれば可。

ケースは操作性を考慮して「傾斜型」を採用。

★製作

写真1に基板外観を示します。

1枚の基板にすべて部品が搭載出来れば良いのですが、用いたケースとパネルデザインにより

「スイッチ基板」と「メイン基板」に分けています。

スイッチ基板には以下の部品を実装することにより基板間の配線本数を極力少なくします。

S1~S4

R22~R29

これによりメイン基板間との線材による配線は6本です。

写真1 基板外観

メイン基板は写真1のようにLchとRchを分けて部品配置し、信号系のケミコンは部品間距離を
離します。

GNDは図7のようにLch,Rchを分離し、電源の入り口ですべてのGNDを接続しました。
コネクタ類はすべて絶縁型です。

7 GNDの接続例

配線の長さは短くすることが基本ですが、特に注意する部分を図8に示します。

図8 配線距離を極力短くする部分

図9 ケース実装の様子(横から見た図)

写真2 内部の様子

用いた線材はAWG24各色

各チャンネル入力からの線材は軽く「ツイスト」し、結束バンド、

バンド固定具を用いて「小ぎれい」にまとめる

◎スイッチOFFの減衰量

ユニバーサル基板で製作したことと、入力部の配線が若干長いので電気的特性にはバラツキが発生し、 また、再現性も良くはないと思いますが、参考として筆者製作試作機の特性を以下に示します。

スイッチOFFの減衰量は信号セレクタとして用いた場合、スイッチOFFで出力(OUT)に現れる漏れです。

数値はデシベルで表しています。

この値は大きいほど漏れ信号量が少なくなり、チャンネルによって異なる結果になっています。
この原因は基板での配線および入力部での配線具合によると思いますが、おおむね77dB以上
になっています。

85dB以上は欲しいところですが、実際の使用では問題ないと思います。

表2

 

Lch

Rch

条件

CHA

79.2dB

80.3dB

1KHz

CHB

82.0dB

79.0dB

0dBV出力

CHC

81.7dB

77.7dB

JIS-A

CHD

77.8dB

81.6dB

10KΩ負荷

アナログスイッチIC自体の減衰量はこの値より大きく取れます。

スイッチOFFの減衰量は回路構成と基板パターンに左右されます。
今回はユニバーサル基板での製作なので、パターンの具合で大きく変わります。

製作当初、結果が思わしくなく、ICのピン・アサインの変更とパターン(線材)の変更により改善
された結果が表2の値です。

図6の回路図でTC4066にピン番号を付けていないのはこの理由です。
理想的にはプリント基板を用い、「ガードパターン」を入れるとさらに改善されると思います。

電気的特性としてはこれ以外に「SN比」、「ひずみ率」、「チャンネルセパレーション」などがあり、 結果として問題ありませんでした。

これ以外の注意点として重要なのはミキサーとして用いた場合の出力飽和レベルです。

1つの入力では電源電圧が12VでNJM4558を用いた場合、出力3.2Vrmsくらいで飽和(波形クリップ)
します。

つまり、4ch同時入力、同位相の場合、3.2V / 4 = 0.8Vrmsの入力レベルで飽和するということで、
飽和しない入力レベルを上げたい場合、電源電圧を大きくするか、レール・ツー・レールオペアンプ
を用います。

筆者の場合、大きな入力レベルは扱わないので12V電源で可としています。

◎使用感

★LED表示は便利

いままで機械式スイッチのセレクタを用いていたのですが、どのチャンネルを選択しているのか
少し分かりにくかったのものです。
今回用いたスイッチはボタン部が青色で点灯し、選択チャンネルが良く分かります。

★ボリュームが欲しい

図10は筆者の使用例で各入力チャンネルのレベルが異なります。
ミキサーで用いると入力信号レベルを調整する必要があります。

そこで、図11のように各入力チャンネルにボリュームを設け、さらに全体のゲインを調整する マスターボリュームを追加すれば使い勝手の良いものになります。

10 筆者の使用例

図11

チャンネルボリュームとマスターボリューム

 

★スイッチをリモコンにする

アナログスイッチは機械式スイッチと異なり、ON/OFF制御はオーディオ信号ではありません。
そこで図12のようにスイッチ部を本体と切り離し、リモコン化することも可能です。
いっそのこと、ワイヤレス化するのも良いです。

 

12  リモコン化

◎まとめ

アナログスイッチは機械式スイッチと異なり、ON/OFF制御を電子的に行うことが特徴の1つです。

ON/OFF制御部は信号ラインと分離されていますから今回の応用例のような場合、部品配置、
配線が機械式スイッチと比べて自由度があります。

また、ON/OFF制御を高速で切り替えることが出来ることも機械式スイッチにない特徴ですから
さらに応用例が広がります。