◎はじめに
オーディオ装置のチェックまたは回路チェックなどでは
正弦波などの信号源(発振器)があると便利です。
オーディオ帯域用の発振器は各計測器メーカーにより販売されていますが、
自作によるものでも十分な場合があり、1台あると便利なものです。
そこで、比較的部品点数が少なく簡単に製作できるものを紹介します。
写真1 基板の様子
◎発振の原理
発振はタイマICの555などのように抵抗、コンデンサの充放電を利用したものが
ありますが、これとは別に「帰還型発振回路」と呼ばれるものがあります。
帰還型発振回路の原理図を図1に示します。
図1 帰還型発振回路
この場合、増幅器は位相反転型(入出力の位相が180°)で、帰還部でさらに
位相を180°ずらせば、合計360°です。
したがって、入力と同じ位相になり、この帰還を「正帰還」と言い、
回路全体の利得が発振を満たす条件であれば発振します。
帰還型はこのように出力から入力に戻す際に位相操作を行っています。
具体的には図2のコルピッツ発振回路はLとCにより位相操作を行っています。
図2 コルピッツ発振回路
◎移相型発振回路
前記図2のコルピッツはLとCにより正帰還を行っていますが、
Lが無くてもCとRで正帰還を行うことが出来ます。
その1つの例として「移相型発振回路」があります。
この方式は図3のように増幅器と移相回路で構成されています。
例えば、ある周波数において位相が60°ずれるものを3段通して入力へ戻します
3段なので 60°× 3 = 180°となって正帰還となります。
図3 移相型発振回路
位相をずらすのは進み方向または遅れ方向でも良く、位相を進めて正帰還を行う回路
をHPF型(ハイパス)、遅らせて正帰還を行う回路をLPF型(ローパス)と言います
(HPF型)
HPF型の1段の回路を図4に示します。
コンデンサ両端の電圧Vcは流れる電流Iinより90°遅れます。
加えた交流信号の電圧Vinは
Vin = Vc + VR
です。ここで、ある周波数において VC / VR = 1 / √3 となるようにCRの値を選べば
VinとVRの位相差は60°になります。
この場合、VRはVinに対して60°進んでいます。
したがって、この回路を3段接続すれば位相が180°進みます。
この方式を「進み移相型発振回路」とも言います。
(LPF型)
HPF型のCとRの位置を入れ替えればLPF型になります。
図5に示します。
この場合、VcはVinに対して60°遅れています。
この方式を「遅れ移相型発振回路」とも言います。
図4 HPF型 |
図5 LPF型 |
図6 ベクトルの位相
図7,8にそれぞれの原理回路を示します。
発振周波数は①、③式になります。
発振するための条件は増幅器の電圧増幅度をAvとすれば Av ≧ 29 です。
つまり、電圧増幅度が29以上あれば発振を持続します。
図7 トランジスタ移相型(HPF型)原理回路 図8 トランジスタ移相型(LPF型)原理回路
◎回路
図9に今回製作したHPF型回路を示します。 |
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(仕様) |
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・電源電圧 9V |
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・発振周波数 1KHz近辺 |
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図9 回路図 |
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TR1が増幅部で電流帰還バイアスを用い、動作電流は約2mAです
発振出力はTR1のコレクタに現れますが、これをそのまま出力として用いると
負荷(相手側)によっては発振に影響を与えてしまいます。
そこで、TR2のエミッタフォロワを追加し、VR1にて出力レベルを調整したものを出力として用います。
TR2のバイアスはTR1からの直結とし、部品点数の削減を行っています。
TR2の動作電流はTR1と同じ2mAです。
電源を006Pの積層電池としましたのでTR2の動作電流を抑えめにしています。
電源の電流容量に余裕があれば(例えば、単3×6本)、TR2の動作電流を大きくすれば重い負荷でも駆動可能です。
C1~C3が図7におけるCに相当し、R1,R2,R3がRに相当します。
発振周波数は①式のようにCとRの組み合わせです。
コンデンサ定数は細かい値はありませんので、最初にコンデンサCの値を決めます。ここでは、C = 0.01μFとしてみます。
つまり、6.5KΩにすれば発振周波数が1KHzになります。
実際にはR3,R4とTR1の入力抵抗分があり、これによる誤差と、R5の値による誤もあるのですが、ここでは R1 = R2 = R3 = 6.8KΩとしてみました。
発振する条件は利得が29以上です。
TR1の動作電流が2mAであり、R5 = 1.5KΩですから、概算すると
Av =
◎部品表
部品番号 |
部品名 |
型番 |
メーカー |
数量 |
C1~C3 |
マイラーコン 0.01μF |
FARAD |
3 |
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C4 |
セラコン100pF |
CCDC50V100P*10 |
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1 |
C5,C6 |
ケミコン 100μF |
25YK100 |
2 |
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C7 |
ケミコン 10μF |
25YK10 |
1 |
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R1~R3 |
カーボン抵抗6.8K(682) |
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3 |
R4 |
カーボン抵抗22K(223) |
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1 |
R5 |
カーボン抵抗1.5K(152) |
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1 |
R6 |
カーボン抵抗620Ω(621) |
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1 |
R7,R9 |
カーボン抵抗330Ω(331) |
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2 |
R8 |
カーボン抵抗2.2K(222) |
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1 |
TR1,TR2 |
トランジスタ |
2SC1815Y(F) |
東芝 |
2 |
VR1 |
ボリューム10KB |
Linkman |
1 |
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ユニバーサル基板 |
Linkman |
1 |
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ツマミ |
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1 |
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電池スナップ |
006PI |
Linkman |
1 |
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電池 |
006P |
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1 |
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金属スペーサ、ビス類 |
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1式 |
◎製作
ユニバーサル基板にて製作しました。
用いたボリュームは2連ですが、1回路のみ使用します
写真1のように出力はチェックピンを用いましたが、コネクタ類を用いれば使い勝手が良くなります。
配線は特に注意する点はありません。
写真1のように回路どおり部品を配置しています。
写真1 基板の様子
出力波形をデータ1に示します。
発振周波数が1.02KHzの正弦波です。
ひずみ率の実測値は2~3%で、それほど波形品質は悪くないと思います。
出力レベルは10KΩ負荷、VR1maxで約2Vrms得られており、十分です。
実際にはこのレベルで用いることはほとんど無く、VR1を調整して小さいレベルで
用いることになります。
今回は簡易版として基板むき出しとしましたが、小さ目のケースに収納すると
さらに使い勝手の良いものになります。
データ1 出力波形
10KΩ負荷 VR1max
発振周波数 1.02KHz 出力レベル 2.06Vrms
◎応用例
図10のトランジスタ増幅回路における電圧増幅度を確認してみます。
この回路の電圧増幅度は⑤式(簡略式)で表され、計算結果は24.77倍(+27.87dB) です。
この結果になっているか、今回製作した発振器とオシロスコープを用いて確認
します。
図10 自己バイアス(電流帰還型)回路
調整を行います。
図11 観測ポイントと手順
手順
①CH1の波形が飽和しないレベルとなるようにVR1を調整。 ②CH1,CH2の波形レベルを測定する。
写真2 測定風景
写真2のようにCH1とCH2の位相が逆になっているのは図10の回路が位相
反転型の増幅器だからです。
このように発振器(正弦波)を用いることにより位相チェックが出来ます。
また、波形品質(ひずみ具合等)も簡単にチェックすることが出来、写真2の
波形結果から図10の定数設計もそれほど間違っていないと推測できます。
以上、移相型発振を用いた発振器を紹介しました。
発振周波数は1KHzの固定としましたが、100Hz,10KHzなどを用意しておけば
さらにチェック項目も増えて便利に使えると思います。