▼ 単電源で動作させる
設計・シミュレーション編で検討した回路を、実際に製作し、特性確認と試聴を行います。
★回路
シミュレーションではオペアンプを両電源動作としていましたが、実際に製作となると、両電源を準備するのは面倒です。 そこで、電源は9Vの006P電池を1個とし、単電源で動作させることにします。
図14に回路を示します。
実際にはステレオ構成になり、図14では片チャンネル分しか表現していませんので注意してください。
また、半導体インダクタ部は1バンドしか表現していません。

★バッファーが必要
イコライザー部は非反転アンプですが、カット時は図15のようにR5の抵抗値が低いです。
信号源側の出力抵抗Roが無視できない場合、これによりカット量に誤差が発生します。

このような場合、図16のようにイコライザーの前段にバッファーアンプを設けることにより誤差を少なくすることができます。
つまり、ある程度せ高い入力インピーダンスで信号源からの信号を受けて、低い出力インピーダンスで次段のイコライザー部へ信号を渡ば良いわけです。

★バイアスを供給
単電源動作のためのバイアス供給を図17に示します。
R2,R3およびR4にてバッファーアンプへバイアス供給し、R2 = R3 ですから、オペアンプのプラス端子には、ほぼ、電源Vccの半分の直流が印加されます
R4はバッファーアンプの入力抵抗(インピーダンス)を決めるための抵抗です。
コンデンサC2のリアクタンスを扱う交流信号に対して、十分小さくなるようにすれば、C2のプラス端子のポイントは交流的にGNDとみなせることができます。
したがって、バッファーアンプの入力抵抗はR4の値そのものになり、47kΩ です。

(1/2)Vccのポイントは半導体インダクタへのバイアスも兼ねています。
接続が分かりにくいと思いますので、図18に接続詳細を示します。
なお、(1/2)Vccは余ったオペアンプの入力処理にも用い、図14を参照願います。

▼ 半導体インダクタ(イコライザ)部の定数と使用部品
★定数
図19に定数を示します。
10KHzは前回のシミュレーションではCB3 = 330p,Rc3=75kΩでしたが、手持ち部品の関係でCB3を470pFとしました。
これに伴い、Rc3は51kΩです。ボリュームは、これも手持ち部品の関係で50kΩです。

★用いるコンデンサ
表1に用いたコンデンサを示します。
手持ち部品の関係で1μFのコンデンサが容量誤差±10%品です。
品名 | 型番 | 誤差 | メーカー |
---|---|---|---|
フィルムコンデンサ 470pF | WDQC-471/100V | ±5% | Linkman |
マイラーコンデンサ 1000p | EOL100D10J0-9 | ±5% | FARAD |
マイラーコンデンサ 3300p | EOL100D33J0-9 | ±5% | FARAD |
マイラーコンデンサ 0.01μF | EOL100S10J0-9 | ±5% | FARAD |
マイラーコンデンサ 0.033μF | EOL100S33J0-9 | ±5% | FARAD |
マイラーコンデンサ 0.033μF | EOL100P10J0-9 | ±5% | FARAD |
フィルムコンデンサ 1μF | PCMT36771105 | ±5% | - |
★ボリューム
イコライザー用ボリュームはBカーブでセンタークリック付が望まれます。
例えば図20のようにボリューム位置センターで「フラット」、右方向で「ブースト」、左方向で「カット」としたい場合、センター位置が機械的に分かると便利です。
センタークリックとはボリューム位置がセンターでクリック感があるボリュームです。

ボリュームのAカーブ、Bカーブの特性を図21に示します。
イコライザー特性がフラットになる条件は図21のボリューム端子「1-2」と「2-3」の抵抗値が同じであり、しかも、ボリューム位置がセンターであることが望まれます。
したがって、Bカーブの特性を用います。

今回はクリック付ではありませんが、基板用のボリュームを用いています。
写真1にボリュームと各コンデンサを示します。

▼ 製作
★回路
ステレオ構成なのでオペアンプは2回路入りのNJM4558Dを6個用います。
入力バッファーとイコライザアンプを同一パッケージとし、半導体インダクタ部はそれぞれ2個用いますので、オペアンプが2回路余ります。
ただし、バッファー部を同一パッケージとすればオペアンプは5個で済みます。今回はL/Rを独立させたかったので、あえて、6個使いとしました。

★部品表
半導体インダクタ部を除いた主な部品を表2に示します。オペアンプはICソケットを用います。
部品番号 | 部品名 | 型番 | メーカー | 数量 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
C1,C3 | ケミコン 1u/50V | 50PK1MEFC | Ruby-con | 2 | |
C4,C6 | ケミコン 1u/50V | 50PK10MEFC | Ruby-con | 2 | |
C2,C5,C7 | ケミコン 1u/50V | 25PK47MEC | Ruby-con | 3 | |
CF1,CF2 | マイラー 1000pF | EOL100D10J0-9 | FARAD | 2 | |
C8~C13 | セキセラ 0.1μF | CT4-0805B104K | Linkman | 6 | 10個入り |
IC1~IC6 | オペアンプ | NJM4558D | 新日本無線 | 6 | |
J1,J2 | Φ3.5ジャック | MJ-073H | マル信 | 2 | |
LED1 | LED 青 | LLED-B501 | Linkman | 1 | |
R1,R4,R7 | カーボン抵抗 47k | 3 | 1/4W | ||
R8,R11,R14 | カーボン抵抗 47k | 3 | 1/4W | ||
R2,R3 | カーボン抵抗 10k | 2 | 1/4W | ||
R9,R10 | カーボン抵抗 10k | 2 | 1/4W | ||
R5,R6 | カーボン抵抗 3k | 2 | 1/4W | ||
R12,R13 | カーボン抵抗 3k | 2 | 1/4W | ||
R15,R16 | カーボン抵抗 1k | 2 | 1/4W | ||
R17 | カーボン抵抗 10k | 1 | 1/4W | ||
S1 | スライドスイッチ | 5FD1-S1-M2-S-E | Linkman | 1 | |
VR1~VR3 | 2連ボリューム50k | RD925G-QA1-B503 | Linkman | 3 | 基板実装 |
ICソケット8P | 21208NE | Linkman | 3 | 板バネ式 | |
ユニバーサル基板 | ICB-96GU | サンハヤト | 1 | ||
電池ホルダー | BH-9V-3P | タカチ | 1 | 基板実装 | |
ボリューム用つまみ | B-15黒 | レックス | 3 | ||
電池 | 006P | 1 | |||
スペーサ、ネジ等 | 1式 |
★製作
写真2のように最初にICソケットの配置を決め、電源パスコンを配線します。
用いた基板「ICB-96GU」はICパターンなので、電源、GNDの配線が楽です。

写真3に完成外観を示します。
製作には1日かかるかなと思っていましたが、意外と早かったです。
ICB-96GUのICパターン、連結パターンをうまく利用すれば早いです。4時間ほどで完成しました。
基板の裏は汚いのでお見せ出来ません。

▼ 実験基板の特性を測定
出来上がった実験基板の特性がどうなっているか測定します。
★使用機材と接続
写真4に使用機材、図23に接続図を示します。


ファンクションジェネレータを信号源とし、ボリュームを変化した時の周波数特性を電子電圧計にて測定します。
- 信号源
今回はファンクションジェネレータを用いています。オーディオ帯域のCR発振器でも良いですが、この機種は周波数がディジタル表示なので、今回のようなフィルター測定には便利です。
メーカー:インステックジャパン 型番:AFG-2105
- 電子電圧計
オーディオ帯域の電子電圧計で、今回はアナログメーター式を用いています。
写真4のものは古い機種なので、同等品の現行機種を参考までに以下に記します。
(2014年6月現在)メーカー:インステックジャパン 型番:GVT-417B
- オシロスコープ
波形観測用です。波形クリップ、発振などによる測定ミスを防ぐ目的で用います。アナログ、ディジタルどちらの方式でも良いです。
- ダミー抵抗
特別なものではありません。図24のようにφ3.5ステレオプラグに抵抗10kΩを2個(ステレオ)接続して自作しています。
★電子電圧計のメモリの読み方
写真5に電子電圧計のメーター目盛例を示します。
この例ではデシベル値が主目盛で一番上がdBV、その下(赤)がdBm、3番目と4番目が電圧(V)になっています。
機種によっては電圧値が主目盛となるものもあります。

dBVとdBmはどちらも相対値ではなく絶対値です。
1Vrmsの電圧を0dBVとしています。
例えば、
2Vrms → +6dBV
1Vrms → 0dBV
0.1Vrms → -20dBV
0.01Vrms → -40dBV
電力1mWを基準0dBmとしたもので、オーディオ系の場合、回路抵抗は600Ωとしています。
フィルター特性などはデシベルが単位になりますので、dBV目盛で値を読んだほうが楽です。
写真6にdBV目盛の読み方例を示します。例えば、「-10dBレンジ」の場合、
(赤) 読み値が0なので「-10dBV」
(青) 読み値が+3なので、-10+3 = -7dBV
(黄) 読み値が-4なので、-10-4 = -14dBV

★測定手順
(手順1)
始めに、各ボリュームがセンターでのフラット時の出力基準レベルを設定します。
この出力レベルは回路部で飽和しないレベルであることが必要で、今回の場合、「-10dBV」の設定としています。
図25のように1KHzの正弦波を基板に加え、電子電圧計の読みが「-10dBV」となるようにAFG-2105の出力レベルを調整します。

(手順2)
最大ブーストまたは最大カット時の特性を測定します。
例えば、1KHzバンドの特性を測定したい場合、100Hzおよび10KHzのボリューム はセンターとし、1KHzのボリュームは最大または最少にしておきます。
図26のようにAFG-2105の周波数を変えて、電子電圧計のレベルを読みます。この時、メーターが振り切れ、または小さい場合、値(レベル)が良く読めるように適当にレンジを切り替えます。
測定はすべての周波数帯域で行う必要はなく、1KHzバンドの場合、100Hz~2KHzの範囲で100Hzステップで良いです。

周波数を変えて電子電圧計のレベルを読むわけですが、この場合、dBV値で読むと、後で相対値のデシベル(dB)に換算するのが面倒です。そこで、最初から読み値をdBで読んでおくと楽です。
図27のように電子電圧計のレンジは10dB毎(ステップ)です。
この各レンジはdBVのレンジでもあるわけですが、この読みを相対値のdBと読めば、そのまま、dBに置き換えられます。
例えば図25で基準レベルを-10dBVとしましたが、この読みを「頭の中で0dBと思う」ことです。つまり、この位置(読み)が0dBであり、レンジを0dBにした時にメーターの位置が同じであれば、その値は+10dBです。
また、レンジを-20dBにしてメーターの読みが-4dBVであれば、それは基準レベルに対して-14dBということになります。
このようにして頭の中でdBとしてメーターを読めば、そのまま、dBとして測定できますので、作業は早いです。
ただし、慣れないうちはdBVで読んで、後でdBに換算してください。
★結果
グラフ1~グラフ3に測定結果を示します。



それぞれのセンター周波数はそれほどズレていないようです。実際に用いた抵抗、コンデンサの誤差がどれほどか分かりませんが、ほぼ、シミュレーションに近い特性です。
グラフ1の100Hz特性で、10~30Hz付近がシミュレーションと異なっているのは、図28のようにC3,R7,RLの組み合わせでハイパスフィルター(HPF)を形成しているので、これによる影響のためです。

周波数(Hz) | ブースト | カット | 周波数(Hz) | ブースト | カット | 周波数(Hz) | ブースト | カット |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
10 | -8.5 | -8 | 100 | 0 | -0.5 | 1000 | 0.2 | -0.1 |
20 | -2 | -4 | 200 | 0.8 | -1 | 2000 | 0.9 | -0.6 |
30 | 0.5 | -3.6 | 300 | 1.8 | -1.8 | 3000 | 1.8 | -1.5 |
40 | 2.5 | -4.3 | 400 | 3 | -3 | 4000 | 3 | -2.7 |
50 | 4.5 | -5.5 | 500 | 4.5 | -4.5 | 5000 | 4.5 | -4.1 |
60 | 6.4 | -7 | 600 | 6.1 | -6.2 | 6000 | 6 | -5.6 |
70 | 8.1 | -8.5 | 700 | 7.8 | -7.8 | 7000 | 7.7 | -7.5 |
80 | 9.7 | -10 | 800 | 9.4 | -9.4 | 8000 | 9.2 | -9 |
90 | 11 | -11 | 900 | 10.5 | -10.6 | 9000 | 10.3 | -10.7 |
100 | 11.4 | -11.5 | 1000 | 11.1 | -11.2 | 10000 | 10.9 | -11 |
110 | 11.1 | -11 | 1100 | 10.9 | -11 | 11000 | 10.8 | -11.1 |
120 | 10.4 | -10.2 | 1200 | 10.2 | -10.4 | 12000 | 10.2 | -10.5 |
130 | 9.5 | -9.2 | 1300 | 9.5 | -9.5 | 13000 | 9.5 | -10 |
140 | 8.5 | -8.3 | 1400 | 8.5 | -8.6 | 14000 | 8.5 | -9.2 |
150 | 7.7 | -7.5 | 1500 | 7.8 | -7.8 | 15000 | 7.6 | -8.5 |
160 | 7 | -6.5 | 1600 | 7 | -7 | 16000 | 6.9 | -7.7 |
170 | 6.4 | -6 | 1700 | 6.4 | -6.5 | 17000 | 6 | -7 |
180 | 5.8 | -5.5 | 1800 | 5.7 | -5.9 | 18000 | 5.5 | -6.5 |
190 | 5.3 | -5 | 1900 | 5.4 | -5.4 | 19000 | 4.7 | -6 |
200 | 4.8 | -4.5 | 2000 | 5 | -5 | 20000 | 4 | -5.5 |
▼ 試聴
図29に試聴のシステム図を示します。
普段はデジタルオーディオプレーヤーをヘッドホンアンプを用いて聴いているのですが、その間に本装置を入れて、音質をコントロールします。

音質等は個人差がありますので、ここではあまり詳しく表現しません。 一つ言えることは、低域をブーストさせると、ヘッドホンとの相性があるのかもしれませんが、筆者には好みの音になっています。
★気が付いた点
製作後に気が付いたのですが、消費電流が少し多いと思います。
当初、電源は単電源とし、用いる電池は006Pと思い込んでいました。
用いるオペアンプを決めないで、そのまま設計を進めてしまい、消費電流のことは気にかけていません。
手持ち部品の関係でオペアンプはNJM4558Dを用いようと思ったところで、消費電流のことに気づきました。
消費電流を測定すると約23mAです。電池持続時間が気になるところです。
したがって、NJM4558Dを用いた場合、電源は単3×6本にするか、消費電流の少ないオペアンプを用いたほうが良いです。
ちなみにNJM4558Dの電源消費電流はデータシートによると以下のとおりです。
【NJM4558D】 電源消費電流 標準:3.5mA 最大:5.7mA
今回、オペアンプは6個用いていますから、上記数値を6倍したものが本装置の消費電流になります。
図22の回路図のところで少し触れましたが、バッファー部を同一パッケージとし、オペアンプ5個使いでも良かった気がします。
▼ まとめ
グラフィック・イコライザをシミュレーションしながら設計、製作しました。
100Hz,1KHz,10KHzの3分割としましたが、これ以外の任意の周波数、分割数でもシミュレータを用いれば、設計、特性確認をすぐに行うことができます。
シミュレータを活用して、15分割などにチャレンジされてはいかがでしょうか。