発振器 LTC1799 使用レポート
2009年4月 KY
◎概要
リニアテクノロジーの発振器「LTC1799」についてレポートします。
図1 LTC1799 基本接続
LTC1799は図1のように
外付けの抵抗器RSETで1KHz〜30MHzの発振周波数が設定できます。
ICのパッケージは「SOT-23ミニ」で、
2.7V〜5.5Vの単電源で動作します。
発振周波数foscは@式で表わされ、Nの値はDIVピンの状態で決定(選択)されます。
DIVピンの状態とNの関係を表1に示します。
表1 |
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N |
DIVの状態 |
1 |
GND |
10 |
Floating |
100 |
V+ |
発振周波数の精度はIC単体で誤差1.5%以下になりますので、
セラミック発振器等の置き換え、簡易的なクロック源としてのアプリケーションが考えられます。
特に、ICが小型で外付け部品が非常に少ないのは魅力的です。
詳細はデータシートを参照願います。
◎応用例の概要(簡易信号発生器)
LTC1799は@式のようにRSETおよびNの値で発振周波数が決定されます。
特に、RSETに「ボリューム」を用いれば周波数可変の発振器が実現できることになります。
LTC1799の発振器出力はデジタル信号です。
このままですと、発振器の接続先はデジタル機器に限られてしまいますが、
周波数の可変範囲も広いので、アナログ機器にも信号源として応用できるものを製作してみようというわけです。
図2に本装置の利用例を示します。
▼デジタル回路のクロック源
デジタル回路の簡易的なクロック源として利用します。
▼ラジオの調整用信号源
中波ラジオおよび短波ラジオの簡易的な信号源(調整用)として利用します。
◎ケースのデザイン
ケースのデザインを決めます。
表示部は最初「液晶表示」にしようと思ったのですが、ケースの大きさ、部品配置を検討した結果、
「7SEG-LED」を採用することにしました。
図3にフロントパネルおよびリアパネルの外観を示します。
▼フロントパネル |
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・周波数表示 |
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7SEG-LED
5桁。1KHz分解能。 |
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・RANGE |
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発振周波数のレンジ切換スイッチ(2ポジショントグルスイッチ) |
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・CW/AM |
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ラジオ用信号源出力のMODE切換。(2ポジショントグルスイッチ) |
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「CW」で搬送波。「AM」で「AM変調(もどき)」。 |
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・OUTPUT |
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ラジオ用信号源出力端子。(BNCコネクタ) |
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・LEVEL |
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ラジオ用信号源出力のレベル調整ボリューム。 |
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・FREQ |
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発振周波数設定用ボリューム。(粗調整) |
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・FINE |
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発振周波数設定用ボリューム。(微調整) |
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LTC1799の発振周波数の可変(設定)が広いので、「FREQ」と「FINE」の2つのボリューム |
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を用いて、周波数設定しやすいようにしています。 |
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▼リアパネル |
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・DC |
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電源入力端子。(ACアダプター) |
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・CMOS/TTL |
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デジタル回路のクロック源出力端子。(BNCコネクタ) |
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(出力インピーダンス50Ω) |
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・INPUT |
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周波数カウンター用入力端子。(BNCコネクタ) |
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・OFFSET |
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周波数カウンターモード時の表示周波数オフセット選択。 |
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+455 |
測定周波数から455KHzを加算した |
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ものを表示。 |
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ZERO |
測定周波数をそのまま表示。 |
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-455 |
測定周波数から455KHzを減算した |
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ものを表示。 |
表示部も含めたすべての操作部をフロントパネルに配置しようと思ったのですが、
いろいろな市販のケースで検討してみても、なかなか、しっくりくるケースが手元になく、
最終的に採用したケースはTAKACHIの「AU-1」です。(サイズ 100×50×150)
写真1に完成したフロントパネルを示します。
今回は「チルトスタンド」を使用し、操作性を良くしています。
使用したものは、TAKACHIの「TI-70B」です。
◇チルトスタンド【TI-70B】
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/34419
ケース底にはケースに付属のゴム足ではなく、
やや高さのあるゴム足を用いて、チルトスタンドを折りたたんでも操作できるようにしています。
このように、ちょっとした部品(チルトスタンド)を利用することにより操作性の良いものになります。
いつものことですが、ケースのデザインを決める作業は実に楽しいです。
筆者は機械(機構)設計は専門ではありませんが、
市販の安価(数万円)な機械CADを利用しています。
このようなCADを利用すると今回のような簡単なケース設計は楽です。
部品の「DXFファイル」を公開している部品メーカーもあり、
筆者の安価な機械CADでもDXFファイルを扱うことができますので、
特に「部品の当たり具合」を確認するには便利です。
また、図面を印刷したものをケースに貼り付ければ、そのまま、穴加工が出来ます。
写真1のようにフロント面はコンパクトに仕上がっています。
ボリュームはΦ16のものを使用し、
間隔がギリギリになりましたので、ボリュームツマミはΦ14にしています。
◎基板構成
図4に基板構成を示します。
周波数カウンター基板は以前に製作した「LA1600を用いた短波ラジオ」の基板を用いました。
これにより、新規製作は「発振基板」と「表示基板」です。
▼発振基板
LTC1799の発振器と「AM変調(もどき)」およびCMOS/TTL出力へのバッファーアンプ機能です。
▼表示基板
今回使用した7SEG-LEDはROHMの「LB303VK」です。
◇【LB-303VK】7セグメントLED(3桁・赤・カソード)
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/15316
このLEDは文字高さ8mmと小型で、ダイナミック点灯用に各セグメントがLED内部で配線済です。
したがって、基板の配線本数が少なくできますので、
特に今回製作の「片面基板」では非常に重宝なLEDです。
このLEDを2個並べると6桁になりますが、
今回は使用しない桁はケース部にて見えない構造にしました。(同じLEDで2桁のものがあると良いのですが)
◎発振基板
図5にブロック図を示します。
AM変調部は「AM」に設定(切換)するとAMラジオの場合、受信(同調)すると約1KHzの信号が聴こえて
感度調整、周波数調整等が出来ます。ただし、今回のAM変調は本格的なAM変調ではなく簡易的
(AMもどき)なものです。
LTC1799部の詳細を図6に示します。
発振周波数は、各ボリューム値が最大で最小発振周波数fosc(min)となり、
ボリューム最小(0Ω)で最大発振周波数fosc(max)になります。
図6の定数で、N = 1 での計算結果を以下に示します。
実測で 約107KHz〜30.25MHz の発振周波数範囲になりました。
低い方の発振周波数が計算結果より高いのは使用したボリュームの抵抗値誤差によるものです。
低い方も100KHz(または1MHz)をカバーしたい場合は
「FINE」のボリューム値を5K〜10KΩのものを用いれば良いと思います。
発振周波数の最大が約30MHzとなりましたので、短波ラジオの調整に利用できます。
今回は2ポジションのトグルスイッチで上記の周波数範囲になりましたが、DIVを「H」レベルにすると
発振周波数が約100KHz以下になります。(データシートを参照願います)
スイッチに「3ポジションのトグルスイッチ」等を用いれば良いと思います。
LTC1799は面実装部品で0.95mmピッチです。
2.54mmピッチのユニバーサル基板では実装は難しいです。
ユニバーサル基板へ実装したい場合は「ピッチ変換基板」を利用すれば良いと思います。
今回は、片面のプリント基板(サンハヤトの感光基板)に実装しています。
写真2に実装状態を示します。
写真2ではLTC1799のパスコンにもチップセラコンを用いましたが、
リード部品でも良いです。
写真3にケース内部の様子を示します。
発振基板および周波数カウンター基板の大きさはサンハヤトの感光基板10Kの半分のサイズです。(約75×45)
発振基板のメインの発振部(LTC1799)は写真2のように小スペースですから、
かなり、余裕のある基板サイズになっています。
周波数カウンター部のマイコン(PIC)を除いたすべての部品をチップ部品にすれば、
発振基板と周波数カウンター基板を一緒にしてもかなり小さくなると思います。
写真4に製作したセットを用いた「短波ラジオの調整風景」を示します。
発振器からの信号(10MHz)を受信し、短波ラジオの受信ダイアル目盛の調整(校正)を行っているところです。
チルトスタンドは便利です。
欲を言えば、図7のように高さ調整の出来るチルトスタンドがあると便利です。
◎使用感
LTC1799を用いた「簡易信号発生器」の使用感を以下に記します。
▼発振周波数の精度について
発振周波数は前述の@式のように使用する抵抗器の精度が関係します。
IC単体では、データシートによると
です。抵抗器に金属皮膜抵抗を用いて発振周波数を実測してみました。
表2に実測結果を示します。
測定は、抵抗器の抵抗値を実測し、これによる計算値と実測の周波数値を比較します。
表2 発振周波数誤差(電源電圧5V、ICサンプル数1) |
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抵抗値(実測値) |
DIV |
計算値周波数 |
実測周波数 |
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誤差 |
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99.7778KΩ |
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OPEN |
100.2226KHz |
100.6995KHz |
0.47% |
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9.98135KΩ |
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OPEN |
1.001868MHz |
1.006430MHz |
0.45% |
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9.98135KΩ |
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GND |
10.018684MHz |
10.06508MHz |
0.46% |
この結果から、IC単体での誤差は0.45%〜0.47%になっています。
ただし、ICのサンプル数は1個ですから、参考データと考えてください。
▼発振周波数のドリフトについて(温度安定性)
今回の試作機では周波数の可変に一般的な「ボリューム」を使用しています。
正確な「温度ドリフト」のデータは取っていませんが、セット内部の温度上昇等により、
「数100Hzくらい」の周波数ドリフトがありました。
※周波数ドリフトについて
具体的には周波数を「10.000MHz」にボリュームで設定しても、時間とともに変動します。
この原因は使用したボリュームの「抵抗値温度係数」が良くない為です。
ラジオ用の簡易的な信号源としてはそれほど問題にはならないと思いますが、
このままですと、デジタル回路のクロック源としては少し、「難がある」感じがします。
したがって、
温度ドリフト(温度安定性)を改善したい場合は温度係数の小さい抵抗器を使用する必要があります。
一般的な金属皮膜固定抵抗器の温度係数は±50ppm〜±100ppmですから、このようなものを使用しても良いですし、
可変抵抗(ボリューム)であれば、少し高価ですが「多回転精密ポテンショメータ」等を使用すれば良いと思います。
IC(LTC1799)単体での温度係数は「±40ppm/℃」ですから、
セット全体の温度係数は、ほぼ、使用する抵抗器で左右(決定)されます。
以上のように、抵抗器の温度係数は良いものを使用することをお勧めします。
デジタルのクロック源として使用したい場合は、金属皮膜固定抵抗器を複数用意し、
これをスイッチ等で切換えるのも1つの方法です。
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マルツ パーツまめ知識
(c)マルツエレック株式会社
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