ナショナルセミコンダクターの「LM4752」を使用して
コンパクトなステレオアンプを製作しました。
このICは「ステレオ・オーディオ・アンプIC」で、手軽にパワーアンプを構成することが出来ます。
◎ステレオアンプの製作
(主な仕様)
・TO-220 7ピンパッケージ
・ステレオ
・外付け部品が少ない
・単電源動作 (9V〜40V)
・出力電力
(Vcc = 24V、RL = 4Ω、1KHz、THD+N=10%) 11W(typ)
(Vcc = 24V、RL = 8Ω、1KHz、THD+N=10%) 7W(typ)
詳細はデータシートを参照願います。
図1に今回試作の回路を示します。
VR1-A,VR1-Bは2連ボリュームです。
C1,C2,C3の定数はデータシートの標準回路と異なっています。
C1,C3,C6,C8の定数で周波数特性の低域特性が決定されます。
参考として図1の場合の測定結果を以下に示します。
周波数特性(8Ω負荷、1W出力、-3dBポイント)
低域 25Hz
高域 95KHz〜105KHz
C6,C8の値を2200μFにすれば、さらに低域特性が伸びます。
大きいスピーカの場合は2200μFをお勧めします。
◎試作機の仕様
試作を行うにあたり、手持ち部品を考慮し、以下の部品をキーパーツとしてみました。
▼電源は外部ACアダプター DC15V
電源電圧が高いほど出力は大きくなります。データシートによると前記のように
「(Vcc
= 24V、RL = 8Ω、1KHz、THD+N=10%) 7W(typ) 」 です。
ただし、この出力を得るには「それなりの放熱器」が必要です。
あまり、放熱器を大げさにしたく無い事と、手持ちのACアダプターが15Vのもの
しか無いことが最大の理由です。
▼ケースはTAKACHIの【YM-150】
基板サイズと部品高さを考慮すると、このケースサイズがぴったりです。
▼入力はCDプレーヤまたは携帯デジタルオーディオ機器とし、音量ボリュームを設ける。
▼放熱器は水谷の【T220N5525】
以上のようなキーパーツと仕様目標にすれば出力は最大2Wが望めます。
◎試作1号機
放熱器に前記【T220N5525】使用としましたので、IC(
title=LM4752>LM4752)の温度上昇確認を目的として
試作1号機を作りました。
基板はサンハヤトの感光基板を用いての手作りです。10Kサイズを使用し、仕上がりサイズは
100×65 としました。10Kサイズは100×75なのでこのままでも良いのですが、75→65に
すると各部品サイズと基板の縦横の比率が微妙にバランスが良いです。
オーディオ機器は基板の見栄えが大切です。特に、放熱器の「座り具合」が美しい。
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パターン設計
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ICの温度上昇が目的なので、基板はユニバーサル基板でも良かったのですが、
電気的特性の実力と当たり具合を確認する目的でプリント基板にしています。
図1のように「これだけの回路」ですから、2時間もあればパターン設計できます。
図2に概略の部品配置図を示します。
とりあえず、「自信のあるパターン設計」と自己満足。 (・・・これがトラブルの始まりです)
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放熱評価
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ケースにはYM-150を使用しましたが、ケースの放熱穴は必要です。
今回はケースの上面と側面に丸穴(Φ3.5)をいくつか空けて放熱穴としています。
温度上昇試験は時間がかかるものです。放熱穴の数を増やしながらデータ取りを行ったので、結局、
この試験だけで2日ほどかかってしまいました。
ICのボディは導通チェックしてみましたが「GND」のようです。
これにより、放熱器とIC(LM4752)の取り付けには「絶縁シート」は使用していません。
ICの放熱器への固定はスプリングワッシャー、平ワッシャーとセットになっている「3点セムスネジ」 (セットネジ)を用いると作業が楽ですし、確実に固定できます。
写真1に試作機のケース外観を示します。
写真1 ケース外観
この面が「フロント」で、「リア」にスピーカ端子用として
「ジョンソンターミナル」およびDCジャックを配置しています。
放熱穴は写真のように「黒のカバー」上面と両サイドに丸穴を空けています。
基板はケースに実装すると愛着がわきます。
また、電気的特性も安定しますので、ケース実装をお勧めします。
INPUT端子の横にあるのは電源表示LEDです。
手持ちの関係で「緑色」にしてみましたが、
ちょっと貧相な印象でこれは失敗でした。
鮮やかな「青色」LEDを採用すれば良かったと思います。
内部配線は「シールド線」は使わないで、線材はすべてUL1007(AWG24)を用い、
基板とシャーシGNDとの接続は基板ランドと金属スペーサを利用しての「1点アース」です。
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特性評価
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放熱評価が一段落した後に「電気的特性」を測定してみました。
「まあ、これだけの回路で部品点数」ですから、データシート通りの結果になると思っていたのですが、
意外な結果です。
電気的特性は以下の項目を測定しています。
・周波数特性
・チャンネルセパレーション
・SN比
・歪率特性
結果は「チャンネルセパレーション」以外はデータシートと同等かそれ以上に良い値で、
チャンネルセパレーションだけが極端に悪い値です。(実測35dB)
35dBの測定結果はありえない数字なので、測定ミスかなと思い、何度か測定してみますが、
やはり、悪い値です。
測定データの分かっている他のオーディオ機器を測定してみてもそれなりの測定結果です。
これにより測定ミスでは無く、試作1号機は「確実に悪いデータ!!」と判明。
これには「ん〜ん・・・と唸る」しかありません。
このような場合、下手に基板をいじらないでその日は唸るだけにしておいて
少し冷却期間を置くことにします。
チャンネルセパレーションは一般的に言う「クロストーク」です。
クロストークの原因は「部品間の距離」、「共通インピーダンス」などがあります。
試作機では「距離」の問題では無いようです。(十分に部品間距離を取っているつもり)
残るは「共通インピーダンス」ですが、
「どう見ても、この単純なパターン」で大きな共通インピーダンスがあるとは思えません。
CAD画面を見ながら、思いついたのは「コンデンサC2」のGNDラインです。
ここのラインは共通インピーダンスの影響は無いように見えましたが、
実験的にコンデンサを外して
マイナスリードを各GNDポイントへ接続してみます。
すると、以外なGNDポイントへ接続するとクロストーク値が改善されることが分かりました。
このポイントは極端な表現をすると「距離10mm単位」で大きく変化します。
「これか!」と思いながらデータを取りながら
最適なGNDポイントを探します。結局、最適なポイントが
分かりましたが当初の接続ポイントから約30mmの移動です。この移動量はつらい。
基板パターンに反映するのに一苦労です。
◎試作2号機
試作1号機の「チャンネルセパレーション対策」をしたものが2号機です。
C2のGNDポイントを移動しただけです。移動距離30mm。
このラインは他人が見ると「なんでこんなことするの?」と言われそうです。
しかし、これで特性改善ですから、自信を持って基板製作です。
◎基板による比較
試作2号機完成後に基板仕様による比較を行ってみました。
試作1号機のように基板パターンの良・悪で特性に差が出ますので、
@オーディオを意識した基板パターン設計
AGNDをすべて「ベタGND」にしたパターン設計
Bユニバーサル基板を用いた基板
の3つで、特性がどのようになるのかを比較してみました。
上記@の基板は試作2号機です。
Aは試作2号機のGNDパターンをそのまま「ベタGND」にしたものです。
Bは試作2号機の部品配置をそのままユニバーサル基板に配置し、GNDを含めた各パターン
を「メッキ線」を利用して配線したものです。
測定は写真2のように、なるべくケース内部の配線(束線等)の形を変えない
ように注意し、エージングをそれぞれ30分行ってから行います。
(写真2 写真内、左から 試作2号機 GNDベタ基板 ユニバーサル基板)
ケース実装しない測定は「再現性」が良くないので無意味です。
表1に歪率特性以外の結果を示します。
(条件)
・電源電圧15V
使用電源 KENWOOD PA18-3A
・擬似負荷8Ω
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チャンネルセパレーション
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「ベタ基板」は予想通り悪い結果です。
データシートと今回の測定条件が若干異なる(基準レベルが異なる)のですが、
試作2号機はそれを考慮(換算)するとほぼ同じ値です。
表1のデータは1KHzのもので、ユニバーサル基板が一番良い結果になっています。
ただし、他の周波数(100Hz,10KHz)については試作2号機が一番良い結果でした。
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SN比
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「信号対雑音比」のことで、この値が大きいほどノイズ(雑音)が少ない機器になります。
3つの基板ともほぼ同じ値で、差はあまり無いです。
(この項目で差が出ることは、よほど悪い基板ということです)
データシートにはこの項目はありません。他の項目データ(残留ノイズ等)を考察すると、
ほぼ、この測定結果は実力どおりと思われます。
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消費電流
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最大出力近辺(2W〜2.5W)で約0.5A消費します。
電流容量1A以上の電源をお勧めします。
1Aクラスの電源を自作するのは少し面倒ですし、材料費も、おそらく、このアンプ数台分
になると思います。
ちなみに、筆者は以下の市販スイッチングACアダプタを用いています。
Linkman 【SPS151D7PC】
仕様:DC15V / 1.75A
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歪率特性
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グラフ1〜グラフ3に特性を示します。
歪率特性は図3のように出力が大きくなるほど歪率値が小さくなり、
電源電圧近辺から波形がクリップするので、急に値が大きくなります。
一般的には増幅器の歪率特性は このような特性になります。
歪率の値は小さいほど良好な増幅器と言えます。
なお、測定は、
1KHz,THD+N(帯域80KHz)
の条件で行っています。
▼試作2号機
電源電圧がデータシートと異なりますので、クリップポイントも異なりますが、
ほぼ、データシートと同等と思われます。
若干のL/Rの差が少し気になるレベルです。
最大出力を「歪率=3%時の出力」と規定すれば、約2Wになります。
定格歪率を出力1W時と規定すれば、グラフ1では
Lch → 0.0716%
Rch → 0.0747%
です。
▼ベタGND基板
出力0.1Wの時点から歪率がかなり悪く、波形クリップポイントまで歪率が下がらない特性です。
われながら、「見本のような悪い特性」です。
「FFTアナライザ」で成分分析をしてみました。非常に興味深い解析結果です。
▼ユニバーサル基板
試作2号機と比較するとこちらのほうが良好です。
グラフ1〜グラフ3は周波数1KHzの特性です。これ以外に100Hzと10KHzについてもデータを
取りましたが、今度は2次試作のほうが良好です。
特に100Hzにおいてその差が顕著でした。
◎まとめ
音質に関しては「個人差」がありますので、ここではコメントしません。
ステレオ2Wの出力は6〜8畳の部屋で聴くには十分な音量です。
スピーカの前で「腕組みをして、しかめっ面をしながら耳を傾ける」事も無く、
気軽に聴けて良いです。
なによりも「薄型のケース」に仕上げられたのと、
市販のスイッチングACアダプタの電源1つですから
場所を取りません。しばらくは、この2号機が筆者のメインアンプとなりそうです。
音が通過する部分のコンデンサは「オーディオ用コンデンサ」を採用してみると面白いかもしれません。
参考として、試作機での使用コンデンサを以下に示します。
フィルムコン0.47μF/50VECQV1H474JL2(W)
ケミコン1000μ/35V UFW1V102MHD ニチコン
出力のケミコンC6,C8は今回は1000μFですが2200μFをお勧めします。
上記のコンデンサに限らず、色々なコンデンサを試してみるのも良いです。
このような「聴き比べ」が市販品には出来ない自作オーディオならではの楽しみです。
▼基板に関して
ユニバーサル基板で手軽に製作出来ます。
今回の場合は、サンハヤトの「ICB-293」相当が丁度良いサイズです。(サイズ 72×95)
ICは「千鳥足」なので前列と後列のピッチが0.1インチの半分になりますが、前列の足を少し
ズラスようにすると難なくユニバーサル基板へ実装することが出来ます。
試作機の部品配置は、入出力部の方向を決めてから配置したのでデータシートの配置と
かなり異なります。また、部品間距離は十分取ったほうが良いです。
部品点数が少なく、基板パターンにより特性に差が大きく出ますので、
「オーディオパターン」の学習に最適なICと思います。
自信を持った2号機でしたが、すべての項目でユニバーサル基板を上回ることが出来なかった
ことには少し「がっかり」です。
特性により音質が決定されるわけではありません。また、2号機がベストとは思いません。
簡単なICですが、試作と比較を通して色々、楽しめました。
部品代も安価ですから、いっその事、4〜5枚の異なるパターンで製作しても良いですし、
仲間同士で製作したものを比較するのも楽しみ方の1つです。