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【技術情報】7MHz ダイレクト・コンバージョン受信機の試作 その1【構想・実験編】

ダイレクト・コンバージョン受信機

図1にダイレクト・コンバージョン受信機のブロック図例を示します。

スーパー・ヘテロダイン受信機は一旦、中間周波数に変換され、中間周波数増幅、検波、低周波増幅という過程になりますが、ダイレクト・コンバージョン受信機は、可聴周波数(音声)に直接、変換される方式です。

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例えば Fr = 7.02MHz、Fo = 7.021MHz とすれば、Fc = 7.021MHz – 7.02MHz = 1KHzに変換され、CWまたはSSBを復調することができます。
スーパー・ヘテロダイン受信機と比較し、ブロック構成が簡単になり、これにより部品点数も少なくなりますので、自作する場合、アマチュア無線の入門用として最適です。

写真1に製品例(キット)を示します。

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MRX-7Dの後継機をめざして

★部品入手の問題

マルツのアマチュア無線用の受信機キットMRX-7Dは2010年に販売が開始されましたが、現在は部品入手等の問題で販売終了となっています。
このキットは7MHz帯専用で、加工済のケースも付属されており、自作の楽しみがありました。
MRX-7Dの開発担当者として部品入手の問題などで製作することが出来ないのは残念なことです。
この件については以前から気になっていました。
そこで今回、使用部品および回路構成を新しいものとし、MRX-7Dの後継機を開発することとしました。

★SA602Aを採用する

MRX-7Dキットの場合、スピーカアンプ部のみ専用のICを採用し、その他の部分はFET、トランジスタ、オペアンプなどで構成されています。
参考としてMRX-7Dのブロック図を図2に示します。

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キットとしては部品点数もそこそこありますので、作りごたえがあります。
ただし、部品点数が多すぎると、電子工作初心者にとっては製作ミスしやすいものです。
今回はMRX-7Dのように凝った回路構成ではなく、シンプルな構成で部品点数の少ないものを目指すことにします。
そこで今回はミキサーと発振回路を内蔵したSA602Aを採用し、部品点数の削減をはかることにしました。
図3にSA602Aのブロック図を示します。

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▽マルツオンライン RFミキサー【SA602AD/01.118】商品ページ
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/100672/

SA602Aを用いた場合のブロック図をMRX-7Dにあてはめた場合を図4に示します。
検波後のAF-AMPからスピーカAMP以外はSA602Aで実現できることが分かります。

ただし、各部のゲイン配分により、必ずこのブロック構成になるとは限りません。
MRX-7Dのゲイン配分はここでは公開しませんが、SN比の向上を目的として、極端なゲイン配分となっており、総合のゲインが、やや、大きめです。
SA602Aは7MHzで用いた場合の変換ゲインが不明です。
そのまま図3のようにSA602Aをあてはめても仕方ありませんので、変換ゲインの確認と回路構成の検討も兼ねて、実験を行うことにします。

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実験

ユニバーサル基板を用い、基礎的な実験を行うことにします。

★周波数可変方式の検討

図5にSA602Aのピン配置図を示します。
6ピンと7ピンが発振部で、内部は図4 右のようになっていて、トランジスタのベースが6ピン、エミッタが7ピンです。

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つまり、図6のように外部回路でL,CA,CBをこのように接続すればコルピッツ発振回路になり、発振周波数は①式になります。
なお、コンデンサCcは6ピンに直流電圧があるので、これをカットする役目で、発振周波数に影響しない定数にします。
局発は発振周波数を可変しなくてはなりませんので、①式により、CA,CBまたはLを可変すれば良いことになります。

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一般的にはLではなくコンデンサを可変とし、図7 a ) にバリコンを用いた基本回路を示します。
バリコンのみでは周波数可変範囲をうまく調整できない場合、図7 b )のようにコンデンサを追加します。

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このようにバリコンを用いれば良いのですが、キット化するにあたり以下のような検討項目があります。

①周波数微調整の方法
②機構設計の問題
③コスト

①の周波数微調整については、バーニアダイヤルを用いる方法が考えられ、図8にバーニアダイヤルのイメージを示します。

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減速機構になっているのがミソで、これにより回転角度が微動になります。
また、目盛を周波数と思えば、大体の周波数位置が分かります。
このバーニアダイヤルとバリコンとの接続は図9のような方法が考えられます。
図9 a ) はバリコンを基板直付けとし、b ) はLアングル(板)にて取付たものを基板へ配線材にて接続します。

b ) は余計な機構部品(Lアングル)を必要とし、基板への接続も配線材によるものになり、なるべくなら配線材を使う方法は避けたいものです。
a ) はバリコンが基板直付けで良いのですが、バーニアダイヤルとバリコンの結合には延長シャフトのようなものが必要です。

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以上のようにバリコンを用いる場合、色々と機構的に難しい設計となります。
この件についてはMRX-7Dの開発時に検討を行ったのですが、今回の場合も良いアイディアが浮かばないのでバリコンの採用はやめることとします。

★可変容量ダイオードの採用とFINE TUNING方式

バリコンは機械的にコンデンサ容量を可変するものですが、容量可変は電子的にも実現出来ます。
その一つとして可変容量ダイオード(Variable CapacitanceDiode バリキャップダイオード)を用いる方法があります。

図10 a) のようにダイオードのカソードにプラス方向の逆方向電圧を加えると、電流が流れないで、pn接合付近にキャリア(正孔、電子)の無い部分が出来、この部分を空乏層(くうぼうそう)と呼びます。
この空乏層は一種のコンデンサのような状態になっています。
このコンデンサの容量値は図10 b ) のように逆方向電圧の値により、空乏層の領域が変化し、コンデンサの容量値も変化します。
この場合、図10 d ) のように逆方向電圧が大きいほどコンデンサ容量が小さくなります。
このように可変容量ダイオードに加える逆電圧を可変させることにより電子的にコンデンサ容量を可変させることが出来ます。

図11はSA602Aのデータシートでの応用例です。
Cc1,Cc2は直流カット用のコンデンサで、発振周波数に影響しない値にします。
したがって、このコンデンサを無視すれば図11の下のような等価回路になり、これはCA,CBの直列回路にVcが並列接続された形で、発振周波数は②式で表わされます。

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図12に今回の方式を示します。
安定化された基準電圧(DC)をボリュームにより電圧調整したものを可変容量ダイオードへ加えます。
この場合、ボリュームVR1がおおまかなチューニングで、SSBまたはCWを聞きやすい音にするためにボリュームVR2にて微調整します。
これにより一般的なボリュームでも細かく周波数調整が出来ます。
この方式はMRX-7Dと同じで、パネル操作のイメージを図13に示します。

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VR3は半固定ボリュームです。
このボリュームにて受信周波数の下限を決め、トリマーコンデンサVCにて上限を決めます。
例えば、VR1,VR2を左いっぱいに回し切れば最低受信周波数の位置になりますから、VR3にて7.0MHzが受信できるように調整します。
今度はVR1,VR2を右いっぱいに回し切れば最高受信周波数になりますので、VCにて7.15MHzが受信できるように調整します。

コイルLはインダクタンスが可変出来れば、トリマーコンデンサは不要です。
MRX-7Dの場合、この部分はインダクタンスが可変出来る市販のコイルを用いていました。
今回はこのコイルを手巻(自作)とし、インダクタンスが可変出来ない替わりにトリマーコンデンサを用いる方式とします。
コイル製作が簡単であれば、これもキットとして面白いと思います。
図12の回路において用いるコイル、コンデンサ等は検討する必要があるのですが、とりあえず、動くものを製作してから受信機としての全体の構成について検討することにします。

★入力部の方式検討

図14に入力部の方式例を示します。
図14 a ) のC分割方式はC1とC2でインピーダンス変換を行うもので、コイル(L1)は面倒なタップは不要です。
図14 b ) のトランス方式はトランスの1次と2次の巻数数比でインピーダンス変換を行います。
手巻(自作)となると、トランス製作はかなり無理なところです。
そこで、コイル製作が簡単なCタップ方式を採用することにします。

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写真2に外観例と、インダクタンスLと巻数Nとの関係を③、④式に示します。

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AL値はコアの寸法、材質などで決まる値で、NoはAL値に指定された巻数です。
アミドン社のトロイダル・コアにはコア材質によりTシリーズ、FTシリーズなどがあり、型番はT-37-6、FT-50-43などとなっています。

TまたはFTの後の数字はドーナツの外径寸法を表し、その後の数字は材質です。
図15にアミドン社の型番の意味を示します。

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希望するインダクタンスとなるようにシリーズおよび材質を決めるわけですが、例えば、T-37-6のAL値とNoは以下のとおりで、19回巻けば1μHです。

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写真2のように均一に巻くと計算値に近い結果になります。
このようにトロイダル・コアを用いればコイル製作も難しくありません。

★出力部の方式検討

出力は音声信号なので図16 a ) のようにAF(低周波)トランスで受けることができ、市販のAFトランスを用いることが可能です。
市販のAFトランスのラインアップを見ると、接続はリードまたはピンのタイプがあります。(図17)

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ピンタイプが望まれますが、希望するインピーダンスのものでピンタイプが入手できるか不明ですし、結局、コストアップにつながるのでこの方式は採用しないことにします。

結局、図16 b ) のコンデンサカップリングの簡単な方式で進めることにします。

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★フィルター(LPF)の方式検討

出力部には不要な周波数成分除去と聞きやすさを調整するためのフィルターが必要です。
SSB用としては図17のような特性が望まれ、このような特性を実現するためには、アクティブ・フィルターなどが考えられます。
今回はシンプルな構成を目的として図17 b ) のようにC6を用いた簡易的なLPFとし、カットオフ周波数は約3.2KHzです。

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★スピーカAMP

電源は6Vです。したがって、大抵のオーディオパワーICが使えます。
今回は図18のNJM386を採用してみることにします。

▽オーディオパワーアンプ【NJM386BD】
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/56343/

このICについてはほとんどの方がご存じかと思いますが、ゲインを+26dBか+46dBに設定することができ、図18では+46dBの設定です。

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★実験回路と検討結果

図19に実験回路を示します。

SA602Aではなく、シグネティックスのNE612を用いています。
SA602Aは面実装のSO8なので、ユニバーサル基板への実装は難しいです。
そこで、たぶん同じ物?と思われるDIP品のNE612を用いています。

NE612の変換ゲインはおおよそですが、約22~23dBほどでした。
スピーカAMPは+26dBの設定では不足し、やはり、+46dBの設定は必要です。
ゲインアップの方法の一つとしてNE612の4ピンと5ピンからの出力をオペアンプによる差動アンプで受けてみると、これはゲインオーバーです。
差動アンプを用いることは以前から興味があって、AFトランスの替わりとして試してみたものです。

感度についてはSG(信号発生器)からの信号では0dBμは確認できます。
とりあえず、簡易アンテナで受信をしてみると、復調音はそれほど違和感はありません。

ユニバーサル基板による実験基板で、ケースに収納していませんので、最終的な復調音、操作性などは評価出来ていません。

回路構成については、まずは良さそうです。
具体的な評価については、プリント基板を製作し、ケース収納をしてから行いたいと思います。

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第二回へつづきます

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