ゲルマラジオの製作
スピーカ駆動編
2011年3月 KY
◎AMラジオの原理
○中波放送とAM
中波(ちゅうは)放送は国内向けの放送ラジオで、周波数はおおよそ、530KHz〜1600KHz
間です。変調はAMです。
図1のように高周波電流(電圧)をアンテナに接続すれば
電波が発射されます。
しかし、この中には音声信号が含まれていませんので、
音声信号を伝えられません。
したがって、高周波電流に音声信号を乗せる操作が必要
になり、この操作を「変調」(へんちょう)と言います。
AM放送、FM放送はすべて「変調」を行って電波を発射しています。
このAM、FMは変調の方式を意味していて、
AM  振幅変調(Amplitude Modulation)(しんぷくへんちょう)
FM   周波数変調(Frequency Modulation)(しゅうはすうへんちょう)
の略で、中波放送、短波放送はAM、FM放送はFMで変調を行っています。
AM : 電波の利用率が良い
FM : 音が良い
変調する装置を「変調器」と呼び、高周波電流(電圧)を「搬送波」(はんそうは)と呼びます。
また、音声信号は一般的に「信号波」(しんごうは)と言います。
送信側、受信側の簡単な構成図を図2に示します。
受信側は変調されたものを元の信号波(音声信号)に戻すために「復調」(ふくちょう)という操作
を行い、この装置を復調器と言います。
受信側にある「同調」(どうちょう)は希望の放送波を選択する部分です。(選局すること)
○AMの波形
AM波は図3のように搬送波の振幅を信号波で変化させたものです。
信号波と搬送波を合成しただけでは図3 c ) のAM波にはなりませんが、最終的にc)の形に
なります。
例えば中波放送のTBSラジオは周波数が954KHzですが、これは図4のような形になっています。
つまり、搬送波の周波数が954KHzです。
○ゲルマラジオ
受信装置の1番簡単な例として図5に「ゲルマラジオ」を
示します。
復調は検波(けんぱ)とも言いこの部分にゲルマニウム
ダイオードを用いていることからゲルマラジオと呼ばれます。
図6に各部の波形を示します。
AM波の信号波(成分)は搬送波の上下に対称になって
います。ダイオードD1に通すと、下側の成分はカット
されます。
図7にAM波を拡大して、検波の原理を説明します。
a ) のように搬送波が増加する期間はD1→C1のルートで充電されます。
搬送波が減少する期間 b ) ではD1には電流が流れないので、C1→Rdのルートで放電
します。
充放電を繰り返すと d ) の波形になり、搬送波成分は無くなり、信号波のみ再現される
ことになります。
d ) の波形の信号波はギザギザに見えますが、実際は、搬送波と信号波の周波数はかなり
の差がありますので、信号波はなめらかです。
なお、このままでは直流分もありますので、図6のようにC2で直流分をカットして交流(信号波)
のみ取り出します。
◎スピーカの鳴るゲルマラジオ
ゲルマラジオは原理的に信号を増幅する部分がありませんので、遠方の放送受信には
限度があります。
また、スピーカを鳴らす(駆動)ような力は無く、イヤフォンなどで聴くことになります。
そこで、スピーカを鳴らすことが出来ないか、色々と実験し、筆者の受信環境でスピーカ
を鳴らすことが出来ましたので紹介します。
テキスト ボックス: 注意

筆者の受信環境での結果で、すべての地域で
スピーカを鳴らすことが出来るかは分かりません。
○回路図
図8に回路図を示します。
特に変わったことはしていませんが、検波後の負荷がトランスT1になっています。
このトランスは「1.2KΩ:8Ω」のインピーダンス比で、これにより8Ωのスピーカを駆動
しようというわけです。
バーアンテナは市販品を用い、これを改造して「1次コイル」を追加しています。
○部品表
部品番号   部品名   型番   メーカー 数量
C1,C2 セラミックコンデンサ 0.01μF   CCDC50V103*10   2
D1,D2 ゲルマダイオード   1N60P*2     2
J1 絶縁ターミナル     TM505キ   MSK 1
J2 絶縁ターミナル     TM505クロ   MSK 1
J3 Φ3.5ジャック     MJ153   マル信 1
L1 バーアンテナ     PA63R     1
T1 トランス     ST32   SANSUI 1
VC1 ポリバリコン     CBM-113B-1C4   1
XVC1 ダイヤル     DAW     1
  ケース     SW75S   TAKACHI 1
  ラグ板     L590-6P   サトー 1
  ポリウレタン銅線 0.29mm   UEW0.29L20     1
  ビス、ナット類           1式
注意
・セラミックコンデンサは10個単位の型番
・ゲルマダイオードは2個単位の型番
ラグ板(L590-6P)は部品の固定、配線(接続)用です。
ポリウレタン銅線(Φ0.29mm)はバーアンテナ改造用で、この線径にこだわる必要は
ありません。
巻きやすいサイズ(Φ0.3〜Φ0.6くらい)で可。
トランスST32は1.2KΩ:8Ωですが、10KΩ:8Ωなどのトランスのほうが望ましい。
手元に「12KΩ:8Ω」のトランスがあったのでこれも実験してみたが、あきらかにこの仕様
のトランスのほうがスピーカからの音量レベルが上がります。
○製作
ラグ板を用いて製作しました。(これにこだわる必要はない)
写真1に内部の様子を示します。
ケースにSW75Sを用いた場合、ラグ板(L590-6P)は両サイドが若干、ケース側面に当たり
ます。両サイドを少し削って実装。
写真1のように、かなりケース内部が窮屈で、SW75Sの1ランク大きいサイズのほうが作業
は楽になると思います。
バーアンテナは図9のように1次コイルを巻いて追加します。
巻き回数は7回ほどで、この値にこだわる必要はありません。
トランスST32の「赤リード」は未使用で、根元付近でリードをカットします。
バーアンテナの「G」も未使用で、この線はラグ板の余った端子にはんだ付けしておきます。
図10に主な配線部の要領を示します。
◎受信にはアンテナとアースが重要
○筆者の受信環境
図11に筆者の受信環境を示します。
なるべく「高くて長いアンテナ線」と「アース」が必要で、筆者の場合、アンテナの高さが
不十分です。
このアンテナは常時、建っているのですが、時々、高さと長さを変えています。
図11は現在の状態で、ポールの高さは8mと2mになっています。
アースは「アース棒」を大地(地球)へ深さ0.5mほどに埋めて、アース線を屋内へ引き込ん
でいます。
○受信結果
受信環境および地域によって異なりますが、筆者の結果は次のとおりです。
(筆者は関東地区)
(イヤフォンでの受信)
放送局 3局が受信出来た。
周波数 594KHz
周波数 693KHz
周波数 1134KHz
594KHz局と693KHz局は送信所まで約20kmの距離。
1134KHz局は送信所まで約50kmの距離で、受信音はかなり小さい。
(スピーカでの受信)
1134KHz局は確認できず。
594KHz局と693KHz局はスピーカから音が出る。
スピーカでの受信は2局出来ています。
音量レベルは「ガンガン鳴る」ほどではありませんが、実用レベルです。
(強いて表現すれば「控えめ」な感じ)
筆者の仕事場は広さ20畳で、部屋の端〜端でもスピーカからの内容が分かる(認識)
レベル。
6畳ほどの部屋であれば申し分ないレベルです。
594KHzと693KHzは周波数が近いので、イヤフォン受信では若干の混信が感じられます。
ただし、スピーカ受信ではこの混信はほとんど気になりません。
○アンテナとアース
アンテナのみではスピーカ受信の場合、かなり音量レベルが下がります。
アース有/無で極端な感度差になり、やはり、アースが重要。
◎使用感
○音量ボリュームが必要
現在、パソコンなどの作業机の横に置いて聴いています。
音量レベルは「やや、控えめ」な感想ですが、一日中聴くには良いと思います。
(なにしろ、電池代タダ、電気代タダですから)
少し気になるのは「音量ボリュームまたはスイッチ」を付ければ良かったと思います。
電話がかかってきた時にラジオの音量ボリュームを絞るか電源スイッチをOFFにしたい
のですが、このゲルマラジオには音量ボリュームも電源スイッチもありません。
音量を絞るにはアンテナ線を抜くかスピーカコネクタを抜く必要があり、電話がきた時に
慌てます。
スピーカからの音声を切断する「プッシュスイッチ」を思いつきましたが、どうやってケース
に組み込むか検討中です。
○スピーカは少し大きめが良い
写真3に使用風景を示します。
スピーカは少し大きめが良く、用いるスピーカにより音質が異なります。
あらためての感想ですが、ゲルマラジオは「こんなに音が良かったのか」と感じます。
ラジオ受信における余計なノイズ(キーーン、ピーなど)が無く、一日中聴いても疲れない音
です。
テキスト ボックス: 以上、スピーカの鳴るゲルマラジオを製作しました。

アンテナ、アースなどの受信設備および送信所からの距離など
の受信環境によりスピーカから音が出るとは限りません。

試される方は色々と工夫が必要と思います。