簡単治具製作シリーズ
電池チェッカーの製作
2011年3月  KY
◎チェックの原理
筆者は古くなった電池をすぐに捨てられなく、置き場所に困っています。
そこで、自分なりに「もう、捨てても良い」ように電池がまだ使えるかチェックする
「電池チェッカー」を製作しましたので紹介します。
図1にチェックの原理を示します。
図1 a ) のように電池には内部抵抗roがあります。このまま負荷を接続しない状態で電池電圧
を測定した場合、多少古くなった電池でも、ほぼ、定格電圧の値になります。
これでは実際に負荷を接続した場合、roによって電圧降下が発生し、機器が使えるか分かり
ません。
そこで、図1 b ) のように実際の機器(負荷)に合わせた電流を流し、この時の電池電圧を
測定し、電池状態を判断します。
◎試作1号機
○ブロック図
図2にブロック図を示します。
電池電圧と基準電圧を比較し、電池電圧を5個のLEDで表示
させます。
例えば、電池電圧が「1.45Vを越える場合」、1つのLEDを
点灯し、「1.2Vを超える場合」であれば別のLEDを点灯させ
ます。
このようにして、電池状態(電圧)を判断します。
○比較回路
比較回路には「コンパレータ」を用い、その原理を
図4に示します。
○回路
試作1号機の回路を図5に示します。
基準電圧にはTL431を用い、この出力をR2〜R6による抵抗分割回路により、それぞれの基準
電圧を作ります。
用いたコンパレータは4個入りのLM2901です。
図6に各電池電圧時の状態を示します。どれか1つのLEDが点灯します。
電池の負荷電流を図7に示します。
スイッチS1により、3段階に切換て、次のような値としました。
上 : 約170mA
中 : 約20mA
下 : 約103mA
市販の電池チェッカはこの値を単1、単2、単3・・の種類により固定されているようです。
試作機では電池の種類により負荷電流値を固定しないで、用途によって負荷電流値を
選択するようにしてあります。
コンパレータ駆動用および基準電圧用の電源供給はチェックする電池電圧をDC/DC
コンバータICにて3.3Vに昇圧して用います。
用いたDC/DCコンバータICは「HT7733A」です。
○ブレッドボードにて動作確認する
図5の回路にて、ブレッドボードを利用して動作確認してみました。
動作的に設計どおりですが、少し「気に入らないこと」がありました。
試作機の電源はチェック電池を利用する方式で、DC/DCコンバータ部の消費電流も
電池にとっては負荷になります。
当初、この部分は数mAと見込んでいたのですが、5個のLEDが点灯するポジションで
消費電流が異なります。
一番少ない状態で6mA程度、一番多い状態で20mAほどで、変動幅は14mAとなります。
電池にとっての負荷電流はS1のポジションと、このDC/DC部になりますので、LED点灯
ポジションによって負荷電流が異なるのは困ります。
100mAを超える負荷電流の場合は、このDC/DC部の消費電流は誤差の範囲になると
思いますが、20mAポジションでの変動幅14mAは大きな誤差です。
消費電流が大きくても変動幅が少なければ、消費電流を負荷電流と見込んでおけば問題
ありませんが、変動幅が大きいのは困ります。
ここが、「おおいに気になる点」です。
抵抗値などの定数変更では改善が見込めなく、思い切って方式を変えた試作2号機
を作ることにします。
◎試作2号機
○試作1号機の誤差原因
LED点灯ポジションにおいて消費電流が一番大きくなるのは図6においてd ) の場合です。
つまり、コンパレータ出力がすべて「L」の場合です。
コンパレータには「オープンコレクタ」を用いていますから、プルアップ抵抗が必要で、この
抵抗はLED点灯時の電流制限を兼ねています。
抵抗値を上げれば消費電流は少なくなりますが、今度はLED点灯が暗くなってしまいます。
○コンパレータ出力でLEDを駆動しない
テキスト ボックス:   選択回路
LEDが点灯する場合、必ず1本の制限抵抗に
電流が流れ、プルアップ抵抗値を大きくする
方式を図8に示します。
LED2〜LED5は選択回路を通して点灯し、
LED1のみコンパレータ出力で駆動する
方式です。
○選択回路
コンパレータA1〜A4は入力電圧に応じて
出力が変化(H/L)します。
この変化パターンを利用して、どれか1つが
「L」となるようにして、この「L」レベルでLED
を点灯させることにします。
図9にディジタルICの74HC138を示します。
このICは入力A,B,CおよびG1,G2の状態により出力Y0〜Y7のうち1つを「L」にします。
真理値表を表1に示します。
つまり、コンパレータ出力を74HC138の入力にすれば、入力パターンによりどれかの出力
が「L」になります。
表1 真理値表
G1  G2 C B A Y0  Y1 Y2  Y3 Y4  T5 Y6  Y7
X   H X X X H   H H   H H   H H   H
L   X X X X H   H H   H H   H H   H
H   L L L L L   H H   H H   H H   H
H   L L L H H   L H   H H   H H   H
H   L L H L H   H L   H H   H H   H
H   L L H H H   H H   L H   H H   H
H   L H L L H   H H   H L   H H   H
H   L H L H H   H H   H H   L H   H
H   L H H L H   H H   H H   H L   H
H   L H H H H   H H   H H   H H   L
○点灯パターン
表2に点灯パターンを示します。
コンパレータA1のみ入力レベルが基準レベルを超えたら「L」になるようにしておきます。
他のコンパレータは入力レベルが基準レベルを超えたら「H」です。
コンパレータA1の出力が「H」の間は74HC138はA,B,C入力が有効になり、その入力
パターンに応じてY出力が変化します。
A1が「L」になればY出力はすべて「H」となり、この時LED1はコンパレータA1自身で
点灯させます。
表2 LED点灯パターン
G1  G2 C B A Y0  Y1 Y2  Y3 Y4  T5 Y6  Y7
X   H X X X H   H H   H H   H H   H
L   X X X X H   H H   H H   H H   H LED1
H   L L L L L   H H   H H   H H   H LED5
H   L L L H H   L H   H H   H H   H
H   L L H L H   H L   H H   H H   H
H   L L H H H   H H   L H   H H   H
H   L H L L H   H H   H L   H H   H LED4
H   L H L H H   H H   H H   L H   H
H   L H H L H   H H   H H   H L   H LED3
H   L H H H H   H H   H H   H H   L LED2
○コンパレータ基準電圧
各コンパレータの基準電圧を見直し、計算結果を図10に示します。
定格電圧1.5Vに対する割合とし、80%以上を乾電池使用可としています。
なお、A2〜A4は計算結果が半端な数値ですが、それぞれ90,80,70%と考えます。
○試作2号機回路
図11に回路を示します。
LED1部に並列接続されているR19は消費電流調整用です。
○部品表
部品番号 部品名     型番   メーカー 数量
C1 ケミコン     47μF     1
C2 ケミコン     22μF     1
D1 ダイオード     1N4007     1
D2 基準電圧     TL431CLPE3 TI 1
D3 ダイオード     11EQS04     1
IC1 コンパレータIC     LM2901N   NS 1
IC2 ディジタルIC     TC74HC138AP(F)   東芝 1
IC3 DC/DC     HT7733A     1
J1 チップジャック     TJ1アカ   サトー 1
J2       ビスを利用     -
L1 インダクタ47μH   LLI-8X10-470*5 Linkman 1
LED1〜3 Φ3 青     LLED-B301   Linkman 3
LED4 Φ3 黄           1
LED5 Φ3 赤       1
PC1 ユニバーサル基板   LUPCB-7247-NS Linkman 1
R1 カーボン抵抗     750Ω     1
R2,R6 カーボン抵抗     82K     2
R3 カーボン抵抗     8.2K     1
R4 カーボン抵抗     10K     1
R5 カーボン抵抗     9.1K     1
R7 カーボン抵抗     100K     1
R8 カーボン抵抗     120Ω     1
R9 抵抗10Ω/1W   1WMOS(X)キンピR 10オーム   KOA 1
R10 カーボン抵抗     18Ω     1
R11,R19 カーボン抵抗     3.3K     2
R2〜R4 カーボン抵抗     100K     3
R15〜R18 カーボン抵抗     3.3K     4
S1 スライドスイッチ   センターOFF     1
XIC1 ICソケット14P     板ばね14P     1
XIC2 ICソケット16P     板ばね16P     1
XJ1,2 ピンチップ(赤)     TJ2Pアカ   サトー 2
  スペーサ 10mm   金属6角メスーメス   4
  ケース     SW95S   TAKACHI 1
  ビス、線材類            
(ケミコン)
部品には「高さ制限」があります。
長さ10mmのスペーサで基板固定するので、すべての部品はこれより高い
とケースに当たります。
今回はケミコンに一般的な部品を使用し、寝かせて取り付けています。
低背のケミコンを用いると良く、以下、主な低背のケミコンを紹介します。
高さ5mm 22μ/16V ESRM160ELL220MD05D*10 日本ケミコン
高さ7mm 22μ/16V ESRA160ELL220ME07D*10 日本ケミコン
高さ5mm 47μ/16V ESRM160ELL470ME05D*10 日本ケミコン
高さ7mm 47μ/16V ESRA160ELL470MF07D*10 日本ケミコン
(ダイオード)
D1の1N4007は1000V/1Aです。
手持ちの関係でこの型番を用いていますが、1000Vの必要は無く、100V/1A
程度のダイオードであれば代用可。
D3はDC/DCの効率に若干関係します。
他の代用として「11EQS03L」などがあります。
(IC1,IC2)
各メーカーでの代用可。
(LED)
LEDはなるべく高輝度が望まれます。
(J2)
電池のマイナス端子接続用で、基板固定ビスで代用。
(L1)
DC/DCの効率に関係。
(PC1)
ユニバーサル基板を用いています。
この基板は「GND用パターン」が付いていて、これを電池のマイナス極性配線用に
利用しています。
(抵抗)
カーボン抵抗は「小型サイズの1/4W」を用いています。
標準サイズの場合、基板に部品がすべて載らないかもしれません。
R9は1W品を用いていますが、1/2W品で十分です。
(S1)
このスライドスイッチは「センターOFF」タイプです。
3ポジションですが、真ん中のポジションではスイッチ接点がどこにも接続
されません。つまり、このポジションではR8のみが電池負荷になります。
(ケース)
TAKACHIのSW95S(W58×H18×D95)
基板、内部配線に対してぎりぎりのサイズです。
部品リードが長いとフタに当たる可能性があり、もう少し大きいサイズのほうが
製作しやすい。
○製作
基板のケースへの固定は10mmスペーサを用いています。
図12のようにケースまで10mmしか空間がありませんので、部品高さに注意。
写真1,2に基板と内部の様子を示します。
○動作確認と評価
図13にS1各ポジションにおける負荷電流の実測値とDC/DC部の消費電流を示します。
DC/DC部の消費電流はLED点灯ポジションにより値が異なりますが、試作1号機と比べて
かなり改善されています。
値の変動幅は最大4.1mAです。もう少し改善の余地はありそうですが、この結果で可と
します。
次に各LEDの点灯レベルを確認します。
基準電圧部の抵抗分割は誤差±5%のカーボン抵抗ですから、それなりの電圧誤差があり
ますが、特に問題のあるレベルではありません。
むしろ、図14のような「LEDの二重点灯」が気になります。
たとえば、95%と90%のLEDが両方点灯したり、ちらついたりします。
この現象はコンパレータの「チャタリング」が原因で、試作1号機の時も気になっていたので
すが、改善することにします。
本来、チャタリング防止(改善)には図15 a ) のような「ヒステリシスコンパレータ」が効果
的です。
抵抗2本を追加するだけなのですが、この抵抗はコンパレータ数必要です。
試作2号機を製作する前に全体の部品点数を考慮して、この部分を削除してしまっています。
(最初から組み込んでおけばよかったと後悔)
仕方なく、チャタリング対策は図15 b ) のようにコンパレータ出力に0.1μFのコンデンサを
追加して誤魔化しています。
○使用感
図16に使い方を示します。
電池のマイナス端子は
「ビス」に当てて、プラス
端子は両端がピンチップ
の接続ケーブルにて接続
します。
電池チェッカーの電源をチェックする電池から得る方法には満足しています。
(ただし、2号機まで製作することになってしまいましたが)
試作1号機はDC/DC部の消費電流による誤差が若干大きいですが、気にならない場合
は試作1号機の方式も面白いと思います。
LEDでの判断を「95%、90%・・・・」としたのは正解で、この%表示にて電池の状態が分かり
やすく、使い勝手が良いです。
電池は単1〜単5を想定負荷電流により切り替えてチェックしています。
写真3に完成した試作2号機の外観を示します。
以上、筆者の「こだわり」で試作2号機まで作ってしまいました。
今回は改善策として「HC138」を用いましたが、他にもっと良い方法があると思います。
思いつきですが、PICなどの8pinマイコンを用いれば、マイコン部とDC/DC部のみで構成
できそうな気がします。