マルツ パーツまめ知識
真空管ラジオの製作
2-BAND  0-V-1 
2011年8月 KY
◎はじめに
今年の夏、我が家も「地デジ対応テレビ」を購入しました。
筆者の最初のテレビは「東京オリンピック当時」に購入した「真空管式白黒テレビ」でした。
「メキシコオリンピック」は真空管式カラーテレビだったと思います。
現代では真空管を使う、または、触れる機会が少なくなって、真空管を見たことも無い方が
ほとんどと思います。
そこで、簡単に真空管の動作原理を説明し、ひさしぶりに真空管ラジオを製作しましたので紹介
します。
◎真空管とは
★エジソン効果
真空管(しんくうかん)とは図1のような「エジソン効果」を応用したものです。
金属を熱すると電子が放射され、この電子が別の金属(極性はプラス)に飛びつきます。
電子の移動は電流の流れ(電流は電子の移動方向と逆)となります。
この時の別の金属板を「プレート」と呼びます。
真空にする理由はフィラメントが燃焼しないようにすることと、電子の移動を妨げないように
することです。
図2に「2極菅」の回路シンボルを示します。
電子を放射する方法として、直接、フィラメントを熱する方式を「直熱型」、別の金属(電極)
を用意し、(この電極をカソードと呼びます)これにヒーターで加熱する方式を「傍熱型」
(ぼうねつがた)と言います。どちらも、動作は「ダイオード」と同じです。
★3極菅
2極菅は「プレート」と「カソード」の2つの電極ですが、
これに第3の電極を追加したものを「3極菅」と言い、
この回路シンボルを図3に示します。
第3の電極を「グリッド」と呼び、これにより「増幅作用」
をさせることが出来ます。
図4に3極菅の特性を示します。
グリッドにカソードに対してマイナスの電圧を加えると、この値によりプレート電流が変化します。
つまり、グリッド電圧でプレート電流を制御することになり、これが増幅作用です。
例えば図5のようにグリッドに直流電圧と入力信号(交流)を加えれば入力信号に応じて
プレート電流が変化し、これに抵抗Rを接続すればRの両端に電圧波形として現れます
このような動作は「接合型FET」と同じで、図6に「pチャネル接合型FET」の特性と3極菅との対応を
示します。
◎ラジオの方式
図7に主なAMラジオの構成例を示します。
ストレートラジオはアンテナから入ってきた信号(電波)をそのまま増幅する方式で、スーパー
ラジオ(スーパーヘテロダイン)は一旦、別な周波数(中間周波数)に変換し、これを増幅
する方式です。
現代は、このスーパーヘテロダインが主流です。
d ) は今回の方式で、検波(増幅)後に入力に戻しています。(正帰還)
この正帰還のことを「再生をかける」と言い、これにより増幅度(感度)を上げる方式です。
★真空管式での方式名称
真空管を用いた再生方式は、「0-V-1」、「0-V-2」などと呼ばれます。
0-V-1は「ゼロ、ブイ、ワン」、0-V-2は「ゼロ、ブイ、ツー」と読み、最初の数字は高周波増幅
の段数を意味し、次のVは真空管検波、最後の数字は低周波増幅段数を意味します。
例えば、0-V-1は高周波増幅無で低周波増幅が1段を表わし、この場合のブロックは図8 a )
になります。
1-V-2は図8 c ) のように高周波増幅1段、低周波増幅2段です。
◎中波放送専用 0-V-1
★回路
中波放送専用での「0-V-1」回路を図9に示します。
真空管(V1)は1本で、型番は「12AU7A」です。この球(タマ、真空管の場合は球と言う)は3極菅
が2個入っています。
▽【12AU7】真空管
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最初の段が「検波」で、後ろの段で電圧増幅を行い、この構成で「0-V-1」です。
真空管は一般的に、プレート電圧を200Vくらいで用います。
しかし、真空管に慣れていないと高圧をかけた場合危険ですので、このラジオではDC12V動作
としています。
今回用いた真空管は「12AU7A」というタマですが、この型番の付け方の意味は次のとおり
です。
12AU7は4,5,9ピンがヒーターピンで、図9のように5ピンと4ピン間に12Vを接続して「12V点灯」。
★検波方式
今回のラジオは「再生検波」という方式を用いています。
図10 a ) は「グリッド検波」と呼ばれる方式で、グリッド、カソード間の2極菅部により検波する
ものです。
図10 b ) は「再生検波」と呼ばれるもので、プレートに現れた信号をコイルを通して入力に戻し
ています。
この戻された信号は「正帰還」なので、さらに増幅され、グリッド検波のみと比較して増幅度が
上がります。また、正帰還は発振ですから、発振の手前で止めるようにVR1で調整します。
★電圧増幅
後段は「電圧増幅」です。
電圧増幅度は無負荷時に約70〜80倍ほどあります。(実測値)
◎中波/短波 2-BAND 0-V-1
★2-BAND化する
貴重な真空管ですから、欲張って中波放送と短波放送が受信出来る「2-BAND受信機」
を製作しましたので紹介します。
つまり、昼間は地元の中波放送を聴き、夕方から夜間にかけて電波コンディションが良く
なる短波帯での海外日本語放送を聴こうというものです。
図12に回路を示します。
中波と短波の選択はスイッチS1により「コイル」と「再生方法」を切り替えます。
中波は前記図10 b ) のように「再生用コイル」を設ける方式ですが、短波の場合は、
同調コイルL2に「タップ」を用いて、カソードに接続する方式を用いています。
当初、短波の場合も中波のように再生コイルを用いる方式で組んでみましたが、
再生がうまくいかず、結局、「カソード・タップ方式」に落ち着きました。
スイッチS1はS1-a〜S1-dの4回路(連動)ロータリースイッチで図12の状態が短波受信
です。
中波、短波ともに電波形式はAMですので、ここでは受信BANDを区別する意味で、中波を
「MW」(middle wave)、短波を「SW」(short wave)と表現しています。
(正確には短波帯ではAM以外の電波形式も用いられている)
★部品表
部品番号 部品名     型番   メーカー 数量
C1,C3 セラコン 220pF   CCDC50V220P*10   2
C2 セラコン 100pF   CCDC50V100P*10   1
C4,C5 セキセラ 0.1μF         2
J1 絶縁ターミナル   TM505アオ   MSK 1
J2 絶縁ターミナル   TM505ミドリ   MSK 1
J3 アースターミナル   T10   サトー 1
J4 Φ3.5ジャック   MJ164H   マル信 1
J5 絶縁ターミナル   MJ14ROHS   マル信 1
L1 バーアンテナ   PA63R   アイコー 1
L2 コイル     自作   - 1
R1,R3 カーボン抵抗   1MΩ     2
R2,R4 カーボン抵抗   47K     2
R5 カーボン抵抗   1MΩ     1
S1 ロータリースイッチ   4回路2接点     1
VC1 ポリバリコン     CBM-113B-1C4   1
VR1 ボリューム Φ16   20K B     1
V1 真空管     12AU7A     1
XV1 ソケット 9P     S9-241B-00   1
  アルミシャーシ   S10   LEAD 1
  アルミパネル         適量
  バーニアダイヤル   バーニア36MM180 新見 1
  ラグ板           適量
  ツマミ           2
  ビス、線材類         適量
  コイル用ボビン   Φ12  ベーク   1
  ポリウレタン銅線   Φ0.29     適量
  ポリウレタン銅線   Φ0.5     適量
  クリスタルイヤホン         1
  延長シャフト     ポリバリコン用   1
  電源 DC12V/1A   SPS1201PC Linkman 1
(セラコン)
型番は10個単位のもの。数量に注意。
(L2)
Φ12のベークボビンを用いたが、他のボビンでも可。
(真空管)
12AU7でも可。
(S1)
筆者は「6回路2接点」のロータリースイッチを4回路分使用。
(ラグ板)
サトーパーツのL590-4Pなどを用い、端子数は配線状況により選択。
★製作
アルミシャーシを用いて昔ながらの方法で製作しました。
図13に構造を示します。
(真空管ソケット)
真空管は真空管ソケットを用い、配線要領を図14に示します。
(内部配線)
「ラグ板」を配線用中継端子として用い、抵抗、コンデンサはなるべくソケット直付けの空中
配線。
写真1に内部配線の様子を示します。
(コイルの製作)
コイル製作の良し悪しで再生具合と性能が決定されます。
MW用コイルを図15に示します。
既存の巻き横に再生コイルを追加し、極性(P,V)は図の通りですが、再生がかからない
場合は極性を逆にするか、巻き数を加減します。
SW用は図16のとおりになりますが、用いるボビン径、配線方法によりベストな再生状態
になるとは限りませんので、筆者の巻き数は公開しません。
(「カット・アンド・トライ」が必要)
(バーニアダイアル)
MW専用であればバーニアダイヤルは不要です。
この場合、ポリバリコンを直接、フロントパネルに取り付ける方法が加工は楽になりますので、
この方法をお勧めします。
SWの場合、受信周波数範囲を4MHz〜12MHzと広く取りましたのでバーニアダイヤルまたは
その他の方法による「減速回転機構」が必要です。
(L1)
L1は「バーアンテナ」ですから、「指向性」があります。
なるべく金属部から遠ざけて「横」に実装します。
写真2にシャーシ上の様子を示します。
★動作チェック
いきなりの電源投入は危険です。十分に配線チェックを行った後に電源投入します。
動作チェック用の電源は「CV-CC機能」の直流安定化電源をお勧めします。
安定化電源が無い場合は、出力保護機能付きのスイッチングACアダプタでも良い
ですが、定格はDC12V/1Aが適当です。
電流容量がこれより大きくても小さくても良くありません。
電源投入直後の消費電流は0.5A以上で、真空管が安定すると0.14A程度になります。
電流値が読める(表示)電源であれば、この電流変化が分かり、配線ミス等の不具合
確認に役立ちます。
真空管なので音が出るまでに10秒ほどかかり、図17のように真空管の内部がかすか
に光るのが見えます。
次に、各真空管のプレート電圧(DC)を確認します。
図18に筆者の測定データを示します。今回の回路は電源電圧が低く、回路インピーダンス
も高いので内部抵抗の低いアナログテスタでの測定は適しません。
必ず、デジタルテスタで測定します。
真空管は特性にバラツキがあります。図18の値にならない可能性があり、±20%ほど
ばらつくかもしれません。
各グリッドを指で触り、イヤホンから「ブーーー」と音が出れば真空管は正常動作していると
思われます。
★調整が大切
MWは地元局がいれば再生をかけなくても受信出来ると思いますので全体の接続チェック
を兼ねてMWから行います。
VR1を右に廻していくと図19のように「ザーー音」が出るポイントがあり、これが「再生状態」
です。さらに右へ廻していくと、今度は「ピーーー」と発振します。
MWの場合はL1の再生コイルの巻き数を調整し、図19のようなボリューム位置関係となる
ようにします。
(ザーーとピーーの位置関係が逆の場合はVR1の端子番号を確認する)
ただし、図19は理想の関係であり、周波数の下限と上限で異なります。
ある程度の再生具合で妥協します。
受信は発振状態からボリュームを左に戻した再生状態が最大感度になります。
筆者の場合、MWはSWとの兼ね合いで図19の再生位置よりかなり右になっています。
★SWは「根気」が必要
当初、SWもMWと同じ再生コイル方式を用いましたが、あまりうまくいかず、カソード
タップ方式への変更と各種コイルボビンの実験も含めて調整に2日ほどかかっています。
結局、Φ12のベークボビンを用いて受信範囲は約4MHz〜約12.1MHzとなりました。
C2は図20のようにMWとSWの再生具合にも関係し、最終的に100pFとしました。
筆者の場合、MWはすべて再生がかかりますが、SWは低い周波数では再生がかからず、
約5MHz以上で再生がかかる調整結果となっています。
★部品配置が悪かった
部品配置は写真1、写真2のように行っていますが、これは短波帯を考えた場合、非常に
配置が悪い。
ケース加工時に何も考えないで行った結果で、特に、MW/SWの切換部への配線が長く
なっています。
L2は当初、計算値で巻いても実際の受信値およびタップ位置がかなり異なった結果に
なりました。
仕方なく、「カット・アンド・トライ」でコイルを製作したわけですが、部品配置および配線
方法に工夫が必要で、いきなりの「2-BAND化」ではなく、MW専用、SW専用のほうが
コイルとVC1間の配線が短くなり、良好な結果になると思います。
◎受信成果
★MW
MWはスーパーヘテロダインにはおよびませんが、「そこそこの感度で実用的」です。
ストレートラジオの「高1ラジオ」よりは感度が良好で、分離度もこの0-V-1の方が良い。
MWも「外部アンテナ端子」を装備しましたが、外部アンテナは不要でした。
以下、参考として筆者の地域にて受信出来た結果を記します。
MW 昼間 関東地区
NHK第1 594KHz
NHK第2 693KHz
AFN 810KHz
TBS 954KHz
栃木放送 1062KHz
文化放送 1134KHz
スーパーヘテロダインであれば、上記以外の放送局も受信できますが、この0-V-1では
以上の結果でした。
注意:同じ関東地区でも地域により受信状況は異なる
★SW
SWは「ロングワイヤー」などの外部アンテナが必要です。
北京放送、韓国KBSワールドなどの強い海外日本語放送は良好に受信出来、モンゴルの
「モンゴルの声」が受信出来ています。
周波数 時間
韓国KBSワールド 7275KHz 1700-1800
台湾国際放送 11605KHz 1700-1800
モンゴルの声 12085KHz 1800-1830
◎:良好
○:受信可
△:受信確認できるが、少しつらい
モンゴルの声は良く聴かないと聞き取れないレベル。
0-V-1は再生を発振気味にすることにより、AM以外のモードSSB/CWでも復調可能です。
7MHzのアマチュア無線は強い局であれば、きれいにSSBを復調出来ています。
◎FETとの比較
3極菅と接合型FETの特性は前述のように似ています。
そこで、写真4のようにFETを2個用いて真空管とそのまま差し替え出来るようにしてみま
した。
つまり、「グリッド→ゲート」、「プレート→ドレイン」、「カソード→ソース」と対応させれば
良いわけです。
対応は「検波部→2SK192A-Y」、「低周波増幅→2SK30A-Y」としますが、動作電流値
(プレート電流とドレイン電流)が異なりますので、FET接続時に負荷抵抗を下げています。
また、低周波増幅部のみ「自己バイアス」としています。
@FETのほうが感度が良い
それぞれの相互コンダクタンスは測定していませんが、結果は
こうなっています。
ただし、真空管が12V動作なので単純比較出来ない。
A再生はFETのほうが早く始まる
B再生操作は真空管のほうがスムーズ
FETの場合、再生開始は早くなりましたが、適正な再生位置にする
ためのボリューム操作が少し難しく、真空管のほうが操作しやすい。
別な表現をするとFETでの再生は「ギスギス」しているが真空管での
再生は「ソフト」。
今回は設計、製作に不備な点があるかと思いますので、以上の比較結果は参考程度に
とどめておいてください。
※参考資料、文献
「解説ラジオ工学 第3巻回路編」 田中 末雄 著 ラジオ科学社 昭和29