マルツ パーツまめ知識
 フォノイコライザーアンプの製作
2011年9月  KY
◎レコードが聴きたい
★アナログプレーヤの購入が始まり
音楽(オーディオ)を聴く手段はCD、デジタルオーディオ等さまざまあり、装置も小型で
どこでも手軽に音楽を楽しむことが出来る時代になりました。
CD(コンパクトディスク)が出現する前は「レコード」(アナログレコード)の時代で、
最近は見かける機会も少なくなりましたが、根強い人気があるようです。
今年になり、たまたまリサイクルショップで「アナログプレーヤ」を見かけ
衝動買いをしてしまいました。
ところが、レコードを再生する装置(アンプ)がありません。
筆者は25年ほど前にアナログプレーヤと一緒にこの装置を手離しています。
この再生装置を「イコライザーアンプ」と言い、ネットで調べてみると販売されています。
イコライザーアンプはオペアンプを用いれば簡単に実現出来ます。
しかし、25年ぶりのレコードの音ですからトランジスタで構成したイコライザーアンプ
製作し「レコード鑑賞」を楽しむことにします。
★レコードの再生
アナログプレーヤからの出力を増幅してもそのままでは「まともな音」になりません。
図1 a ) のようにレコードの録音側では「低域減衰、高域強調」させています。
再生側では図1 b ) のように録音側と逆の特性を持たせて最終的に周波数特性を
平坦にさせる必要があります。
これを等化器(イコライザー)と言い、これが「イコライザーアンプ」です。
図2にレコードを聴くための構成を示します。
テキスト ボックス: 注意

市販のアナログプレーヤの中には、すでにイコライザーアンプを搭載(内蔵)
している機種もあり、この場合、イコライザーアンプの製作は不要です。
このレポートではイコライザーアンプを搭載していないプレーヤ用とし、
「MM型カートリッジ」(レコード針)を対象としています。
◎回路
図3に回路を示します。
片チャンネル3石の構成で、TR1とTR2で「直結アンプ」を構成し、必要な信号レベル
となるように増幅します。
TR3は「エミッタフォロワ」で出力インピーダンスを低くして、次の段
(スピーカアンプ等)に信号を渡す役目です。
電源電圧は市販のACアダプターまたは電池駆動が可能なように15V動作としました。
イコライザー特性は図4のように負帰還ループの中に「EQ素子」を入れて実現しています。
EQ素子の中身は抵抗とコンデンサで図3のR9,R10,C6,C7です。
回路のゲインはR4とEQ素子との組み合わせで決まります。
一般的に仕上がりゲイン(@1KHz)は35〜40dBほどと思われますが、今回の場合、電源
電圧が15Vと低いので、仕上がりゲインは30dBほどに抑えています。
参考として図5にオペアンプで構成した例を示します。
図3と比較してかなり部品点数が少なくて済みますが、ここはやはりトランジスタ構成で
製作することにします。
◎部品表
表1
部品番号   品名   型番   メーカー 数量
C1 セラコン47pF   CCDC50V47P*10   1
C2,C4 ケミコン10μF   UKW1H100MDD ニチコン 2
C3 ケミコン47μF   UKW1H470MED ニチコン 1
C5 ケミコン10μF   UKW1H100MDD ニチコン 1
C6 フィルムコン1500pF   AMCH2A152J アムトランス 1
C7 フィルムコン5600pF   AMCH2A562J アムトランス 1
R1 金属皮膜抵抗 56K   MFS1/4 56KΩ KOA 1
R2 金属皮膜抵抗 2.2K   MFS1/4 2.2KΩ KOA 1
R3 カーボン抵抗 270K  1/4W小型       1
R4 金属皮膜抵抗 1.8K   MFS1/4 1.8KΩ   KOA 1
R5 カーボン抵抗 33K   1/4W小型       1
R6 カーボン抵抗 1K   1/4W小型       1
R7 金属皮膜抵抗 330K   MFS1/4 330KΩ   KOA 1
R8 カーボン抵抗 3.3K   1/4W小型       1
R9 金属皮膜抵抗 47K   MFS1/4 47KΩ   KOA 1
R10 金属皮膜抵抗 620K   MFS1/4 620KΩ KOA 1
R11 カーボン抵抗 1.5K   1/4W小型       1
R12 カーボン抵抗 10K   1/4W小型       1
TR1,TR2 トランジスタ     2SC2240BL(F)   東芝 2
TR3 トランジスタ     2SC1815Y(F) 東芝 1
   
  以上は片チャンネル分。これと同じ内容を1セット必要。  
  以下は全体に共通の部品。  
               
C8 ケミコン100μF     UKW1V101MED ニチコン 1
J1 DCジャック     MJ14ROHS マル信 1
J2,J3 RCAジャック     RJ-232シロ アムトランス 2
J4,J5 RCAジャック     RJ-232アカ アムトランス 2
J6 金属ターミナル   T10   サトー 1
LED1 LED 青     DB2NBBL   サトー 1
R13 カーボン抵抗 3.3K   1/4W小型       1
  ユニバーサル基板   LUPCB-7247-NS Linkman 1
  ケース     KC5-13-10BS   タカチ 1
  金属スペーサ、ビス類         1式
               
(トランジスタ)
特にTR1は「ローノイズ」が望まれ、今回は東芝の2SC2240のBLランクを用いました。
(抵抗)
入力部とEQ素子部は「金属皮膜抵抗」です。この部分に「オーディオ用抵抗」を
用いると良いかもしれません。
特にR4とEQ部は仕上がりゲインとRIAAの特性誤差に影響しますので、
抵抗誤差の大きいカーボン抵抗は不可です。
その他の部分はカーボンの1/4W小型サイズを用いています。
標準サイズの場合、今回の基板サイズ(72×47)では少しきついかもしれません。
(コンデンサ)
コンデンサは音の変わる要素の1つです。
今回はケミコンにオーディオ用のニチコン「KWシリーズ」、フィルムコンデンサにこれも
オーディオ用のアムトランス「AMCHシリーズ」を用いてみました。
(ケース)
これは筆者にとって一番のこだわりです。
「LAPA4755-KITのレポート」と同じKC5-13-10BSで、スピーカアンプはこのLAPA4755-KIT
を意識してみました。
◎製作
★基板
ユニバーサル基板を用いて製作しました。
図6に片ch分の部品配置、写真1に実装状態を示します。
(要点)
@GNDラインを最初に基板の真ん中に1本配線する
AL/RをGNDラインに対して対称に配置する
B入力部はL/Rの距離を出来るだけ離す
CGNDの基準点はC8
★電圧チェック
ケースに組み込む前に各部のDC電圧をチェック(測定)しておきます。
図7に実測値(ほぼ、設計値)を示します。
なお、回路インピーダンスが高い部分があるのでアナログテスタはこの測定には適しません。
必ず、デジタルテスタで行います。
★内部配線と組込み
余計なGNDループを作らないようにジャック(端子)類はすべて「絶縁タイプ」を用いています。
図8に全体の配線を示します。
@配線の前にRCAジャックのGNDがシャーシと導通していないことをテスタにて
確認する。            
             
Aシールド線は不要。太さはAWG22〜AWG24が適当。    
             
Bツイスト処理は電源およびLEDへの配線とし、その他の信号ラインへの配線は
L/Rが平行にならないように自然に配線する。    
             
Cフロントパネルおよびリアパネルは導通を確実にする目的で「アースラグ」を
用いてシャーシ(底)へ線材にて接続。      
             
D各パネルと基板GND間が導通していることを確認。    
◎電気的特性の測定
★SNとチャンネルセパレーション
表2
SN     Lch 70.0dB
      Rch 69.0dB
チャンネルセパレーション   L→R 69.0dB
      L→R 70.0dB
条件
1KHz、300mV出力
10KΩ負荷、入力47KΩ終端
(コメント)
基準出力により値(結果)が異なるのですが、こんなもの
でしょうか。
★RIAA偏差
表3
周波数 規格 Lch実測 Lch誤差 Rch実測 Rch誤差
20Hz +19.27 +18.35 -0.92 +18.42 -0.85
30Hz +18.59 +17.95 -0.64 +18.04 -0.53
100Hz +13.09 +12.84 -0.25 +12.87 -0.22
300Hz +5.48 +5.33 -0.15 +5.33 -0.15
10KHz -13.73 -12.94 -0.79 -12.96 -0.77
15KHz -17.16 -16.25 -0.91 -16.27 -0.89
20KHz -19.62 -18.61 -1.01 -18.63 -0.99
(コメント)
RIAAの規格に対する偏差で一般的には±0.5dB以内であれば
問題無いと言われています。
20Hzと20KHzにて約1dBの偏差となっていますが、高級機では
ないのでOKとします。
★利得
Lch +30.6dB
RcH +30.6dB
★消費電流
13.6mA
(コメント)
設計どおり。
LEDの消費電流が大きい。
乾電池動作が可能な消費電流。
★ひずみ率
グラフ1と表4に示します。
表4 歪率特性
出力(V) Lch
0.1 0.0610
0.2 0.0280
0.3 0.0220
0.4 0.0140
0.5 0.0137
0.6 0.0114
0.7 0.0108
0.8 0.0090
0.9 0.0089
1.0 0.0074
1.1 0.0076
1.2 0.0080
1.3 0.0086
1.4 0.0091
1.5 0.0097
1.60 0.01
1.70 0.011
1.8 0.012
1.90 0.013
2.00 0.014
2.10 0.015
2.20 0.016
2.30 0.017
2.40 0.0188
2.50 0.02
2.60 0.022
2.70 0.0236
2.8 0.026
2.9 0.028
3.0 0.031
3.1 0.034
3.2 0.038
3.3 0.04
3.4 0.045
3.5 0.053
3.6 0.059
3.7 0.069
3.8 0.24
3.9 1.36
4.0 3.4
◎試聴
今、「ご趣味は?」と聞かれると「レコード鑑賞!」と答えそうな自分がいます。
25年ぶりにレコードの音を聴いたわけですが、音質評価は恐れ多くて出来ません。
レコード特有の「スクラッチノイズ」が心地良く、ひさしぶりに心が震えました。
レコードは捨てずに保管しておいたのですが、筆者近くのリサイクルショップでは中古品
が安価にて販売されています。
リサイクルショップでの中古レコードあさりが楽しみな秋となりました。