ヘッドホンアンプの製作
ディスクリート編 その2 (DHP-2)
  2011年10月 KY
◎FETが主体
ディスクリートによるヘッドホンアンプは前回にDHP-1を製作しました。
▼ヘッドホンアンプの製作  ディスクリート編 その1
http://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/170.htm
この構成は「エミッタ共通増幅2段+プッシュプル」のトランジスタですが、
今回はFETを主体として製作しましたので紹介します。
◎ケース選定が最初
用いるケースはLAPA4755-KITレポートで用いたタカチの「KC5-13-10BS」とします。
▼LAPA4755-KITレポート
http://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/173.html
▼KC5-13-10BS
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/24557/
このケースがお気に入りとなってしまい、これに収納できる基板サイズおよび回路構成から
考えることにします。
ケース内のサイズは約110mm×80mmですから、ボリューム、入出力端子等を考慮すると、
基板サイズは90mm×70mmが取れそうです。
これに近いユニバーサル基板は95mm×72mmがありますが、少し窮屈になりそうなので
感光基板にて製作することにします。
◎回路
図1の回路とし、これを「DHP-2」と名づけました。
初段部はJ-FETによる「差動増幅」とし、次段はトランジスタによるエミッタ共通増幅
最後はMOS-FETによるプッシュプルの5石です。
Q3部もFETで実現できれば「オールFET」になるのですが、部品点数を考慮し、この構成
としています。
差動増幅部のR4はトランジスタによる「カレントミラー」を使いたくなりますが、部品点数を
減らす目的で、この部分は抵抗とし、調整箇所もVR2による「アイドリング調整」のみとして
います。
アイドリング電流の設定値は20mAです。DHP-1の時はこの値を大きくして「A級動作」と
しましたが、今回は放熱方法が思いつかず、おとなしく「AB級動作」です。
利得はDHP-1と比較する目的で同じ約+10dBです。
動作電圧もDHP-1と同じように外部から12Vを供給しますが、内部で簡易的に±6V動作と
なっています。
参考として図2に各部の動作電流設計値を示します。
◎部品
★部品表
表1
部品番号   品名   型番   メーカー 数量
C1 ケミコン 両極性 1μF/50V UES1H010MDM   ニチコン 1
C2 セラコン 150pF   CCDC50V150P*10   1
C3 ケミコン 両極性 470μF/35V UES1V471MHM   ニチコン 1
C4 フィルムコン0.047μF   EOL100S47J0-9   FARAD 1
C5 セラコン 47pF   CCDC50V47P*10   1
R1 カーボン抵抗 100K         1
R2,R3 カーボン抵抗 2K         2
R4,R6,R13 カーボン抵抗 10K         3
R5,R9 カーボン抵抗 4.7K         2
R7,R8 カーボン抵抗 100Ω         2
R10,R11 抵抗2W 5.1Ω   2WMOS(X)キンピR 5.1オーム KOA 2
R12 抵抗1W 10Ω   1WMOS(X)キンピR 10オーム   KOA 1
Q1,Q2 FET     2SK170GR(F)   東芝 2
Q3 トランジスタ     2SA970-GR 東芝 1
Q4 MOS-FET     2SK213-E   ルネサス 1
Q5 MOS-FET     2SJ79   ルネサス 1
VR2 半固定抵抗 単回転5KΩ GF063P1B502*2   東京コスモス 1
               
  以上は片チャンネル分。これと同じ内容を1セット必要。  
  以下は全体に共通の部品。  
               
C6,C7 ケミコン 470μF/25V   UFW1E471MPD   ニチコン 2
R15,R16 カーボン抵抗 1K         2
R14 カーボン抵抗 3.3K         1
VR1 2連ボリューム 10K,A   R1610G-QB1-A103   Linkman 1
J1 DCジャック     MJ14ROHS マル信 1
J2,J3 Φ3.5 ステレオジャック   MJ073H   マル信 2
LED1 LED 青     DB2NBBL   サトー 1
  ツマミ  Φ25   25X15JXS-7   Linkman 1
  アースラグ           3
  ケース     KC5-13-10BS   TAKACHI 1
  ゴム足     BP42   TAKACHI 4
  配線材 AWG24各色         1式
  金属スペーサ         4
  ビス、ナット類         1式
C2,C5は10個入りの型番。数量に注意。
GF063P1B502*2は2個入りの型番。数量に注意。
2SK170GR(F)は10〜20個から選別する。
フィルムコンの0.047μFは他の候補として
CL21XB-DC100V0.047UF ボディは黄色
PILKOR-473/100V ボディはオレンジ
EOL100S47J0-9はボディがグリーンなので回りの部品色のバランスから
この部品を採用
★2SK170の選別
Q1,Q2による差動増幅は2つのFETが同じ特性であることが望まれます。
簡易的に近い特性を選別する方法を図3に示します。
ゲート・ソース間電圧がゼロの時のドレイン電流を「ドレイン飽和電流IDSS」と言い、この値
を測定、選別することにより「ペアのFET」を簡易的に作ります。
図3のようにゲートとソースを同じGNDに接続し、ドレインに接続した抵抗100Ωの両端
電圧を測定し、これを電流に変換します。
例えば、両端電圧が「0.45V」であったとすれば、この時の電流Iは、
I = V / R = 0.45V / 100Ω = 4.5mA
2SK170のGRランクはIDSSの値が2.6mA〜6.5mAですからこの範囲に入っているはずです。
なるべくなら10〜20個購入し、測定値から近いもの同士を「ペア」とします。
表2に筆者の測定結果を示します。
表2  IDSS測定結果
条件
電源電圧6V、室温26℃
サンプルNo. IDSS(mA)
1 6.17
テキスト ボックス: この結果から、

 No.1とNo.3
  No.4とNo.7

同じ時期に10個まとめて購入
意外とバラツキが少ない
(たまたまかもしれない)
2 5.7
3 6.17
4 6.1
5 6.23
6 6.03
7 6.1
8 5.99
9 5.8
10 5.45
◎製作
★基板
図4に部品配置例を示します。
(要点)
@GNDラインを最初に基板の真ん中に1本配線する
(ユニバーサル基板の場合、太いラインは引けないが、メッキ線等
で1本、引くだけでも良い)
AL/RをGNDラインに対して対称に配置する
B入力部はL/Rの距離を出来るだけ離す
CGNDの基準点はC6,C7の接続点
写真1に基板の様子を示します。
オーディオ用ケミコン「ESシリーズ」のさわやかなグリーンが印象的です。
★ケース
タカチKCシリーズのKC5-13-10BSです。
このケースの構造はLAPA4755-KITレポートを参照願います。
▼LAPA4755-KITレポート
http://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/173.html
図5にパネルの部品配置を示します。
★内部配線と組込み
余計なGNDループを作らないようにジャック(端子)類はすべて「絶縁タイプ」を用いています。
図6に全体の配線を示します。(要領はLAPA4755-KITレポートを参照)
★調整
調整は「アイドリング電流」のみでR10(またはR11)の両端DC電圧が「0.102V」となるように
VR2を調整します。
これによりアイドリング電流は
0.102V 5.1Ω = 20mA
となります。
参考として図7に各部のDC電圧を示しますが、この値になるとはかぎりません。
FETはバラツキの大きい素子なので、測定値に若干の差が出ます。
特にオフセット電圧(R10,R11の接続点)は図7の場合、プラスの値ですが、マイナスになる
場合もあります。
◎電気的特性
利得および周波数特性は設計値になりますのでその他の項目の測定結果を以下に示し
ます。
条件
使用電源はKENWOOD PA18-3A
負荷は33Ω抵抗
表3
      条件   実測値  
最大出力     1KHz,ひずみ率1%時 約150mW  
SN比     50mW出力 Lch→111.2dB
      JIS-A   Rch→111.5dB
チャンネルセパレーション 1KHz,50mW出力 L→R  64.1dB
      JIS-A   R→L  64.0dB
最大出力は「ひずみ率が1%になった時」のレベルです。
実測150mW取れていますが、実際にヘッドホン(筆者は32Ω)で聴くには150mW
は必要ないと思われます。
このDHP-2は電源として「鉛蓄電池」を意識して12Vとしています。
用いるヘッドホンにもよると思いますが、動作電圧を下げて「乾電池動作」にするのも
面白いと思います。
SN比は用いる電源により若干異なり、鉛蓄電池が一番少ない結果です。
ただし、100dB以上SN比が取れていれば、ほとんど「無音」で、100dBも110dBも差は
感じられません。
むしろ、用いるデバイスによる差のほうが大きいようです。
Q1,Q2には2SK170-GRを用いたわけですが、ちなみに、この部分に2SK30-GRを用いると
SN比がかなり悪化しました。
出力対ひずみ率をグラフ1および表4に示します。
アイドリング電流は20mAの設計値ですが、この値を増加すればひずみ率を大幅に改善
することは可能です。
しかし、このDHP-2は「放熱器無し」なので20mAで良しとしています。
放熱に工夫が付けば、アイドリング電流を増加するほうがベストと思います。
表4 ひずみ率特性
出力(V) Lch Rch
0.1 0.0096 0.0100
0.2 0.0054 0.0055
0.3 0.0052 0.0052
0.4 0.0080 0.0076
0.5 0.0105 0.0113
0.6 0.0175 0.0175
0.7 0.0270 0.0275
0.8 0.0360 0.0400
0.9 0.0460 0.0480
1.0 0.0520 0.0560
◎おわりに
以上のようにFET主体のヘッドホンアンプDHP-2を製作しました。
極力、部品点数を少なくしたわりには「ちゃんと音が出ます♪」
Q3がトランジスタなのは残念です。
機会があれば(DHP-2に飽きた頃)オールFETのヘッドホンアンプを製作してみようと
思います。
現在、「DHP-1」がサブになり、このDHP-2がメインのヘッドホンアンプです。
ケースもタカチのKCシリーズとしましたので「フォノイコライザーアンプ」とペアになりました
ので、秋の夜長にヘッドホンでレコード鑑賞を楽しんでいます。