マルツ パーツまめ知識
マイクアンプの製作 その1
2012年3月 KY
マイク(マイクロフォン)と言えば、「ダイナミックマイク」、「コンデンサマイク」などを思い浮
かべますが、コンデンサマイクには電源が必要です。
電子部品では「エレクトレットコンデンサマイク」が安価で手軽です。
そこで、簡単なエレクトレットコンデンサマイク用アンプを製作しましたので紹介します。
◎ECMとは
★コンデンサマイクの動作原理
コンデンサマイクの動作原理を図1に示します。
2枚の電極でコンデンサを形成したものに音声(音圧)を加えると、
これに応じた電圧の変化が現れ、これを電気信号として取り出します。
一般的にコンデンサを形成させるための電圧(電源)は数10V〜数100V必要になります。
このコンデンサ部に「エレクトレック素子」を用いたコンデンサマイクを
「エレクトレックコンデンサマイク」(以下、ECMと呼びます)と言います。
ECMは必要とする高圧電源が不要になるのが特徴の1つです。
★ECMの使い方
図2に使い方を示します。
マイク出力をそのまま接続することは出来ないので
マイク内部にインピーダンス変換用のIC(FET)を内蔵しています。
マイク本体の接続ピン数により「2線式」、「3線式」があります。
内部IC(FET)への電源は2線式は負荷抵抗RLから供給し、信号出力も兼ねています。
これにより線(端子)は2本になり、直流カット用コンデンサCcが必要です。
3線式は電源供給は専用の線(端子)になり、信号およびGNDと合わせて3本(線)です。
また、負荷抵抗RLを外部にて接続しますが、3線式は図2 b ) のように内蔵したタイプも
あり、データシートでの確認が必要です。
負荷抵抗RLの値は各ECMで最適値が推奨されていて、マイクの出力インピーダンスは、
ほぼ負荷抵抗RLの値になります。
これにより次段の入力インピーダンスとRLにより必要なコンデンサCcの容量を決めます。
写真1に製品例を示します。
詳細はメーカーのデータシートを参照願います。
◎コンデンサマイク用アンプの計画
図3にブロック図を示します。
電源は乾電池を内蔵し、
これによりコンデンサマイクへの供給と、アンプ部を動作させることにします。
アンプ前に「感度調整ボリューム」を配置し、アンプ出力にも「出力レベル調整ボリューム」
を設けます。
「L/R振り分け」はマイク信号がモノラルですから、ステレオ機器にも接続できるように簡易的
にL/Rに振り分け(分岐)ます。
◎用いるデバイス
アンプ部はトランジスタで構成しても良いですし、簡単に行うのであればオペアンプが考え
られます。
どちらで構成してもそれほどの部品点数になりません。
そこで実験、比較を目的としてトランジスタ構成およびオペアンプ構成の2タイプを製作する
ことにしました。
◎トランジスタ構成
★仕様
・マイク
2線式コンデンサマイク(出力レベルは -40dBVと想定)
・電源
+3V (単5乾電池×2)
・出力レベル
-10dBV
★回路
回路図を図4に示します。
TR1,TR2による2石のアンプで、TR1は部品点数を削減する目的で「自己バイアス」を採用
しています。
TR2は「エミッタ接地(共通)」とし、これも部品点数の削減を目的としてTR1,TR2を「直結回路」
としました。
さらに負帰還をかけて性能の向上をはかります。
以下、ECMの出力レベルは  -40dBV と想定して設計を進めます。
★回路設計
トランジスタの初段はNPN、2段目はPNPトランジスタで構成しています。
NPNとPNPを交互に構成すると電源の利用率を高めることが出来ます
例えば、図5 a ) の場合は2段目のトランジスタのVCEは1.18Vですが、b ) の構成に
すれば1.65Vとなり、電源電圧が低い場合は有効な手段です。
今回のバイアス設計を図6に示します。
条件は以下のとおりです。
・TR1
  2SC2240-BL
  hFEは350〜700
  設計値は hFE = 500 とする
  動作電流 Ic = 0.2mA
・TR2
  2SA1015-Y
  hFEは120〜240
  設計値は hFE = 180 とする
  動作電流 Ic = 0.5mA
(手順@)
R3を決めます。
R3 = 4.7KΩとすれば、TR1のコレクタ電圧は
V = Vcc - R3×Ic = 3V - 4.7K×0.2mA = 2.06V
となります。
ここの電圧は扱う交流の振幅が小さいので比較的自由に設定できそうですが、後段のトラン
ジスタがPNPなのでこのTR2はエミッタ・ベース間の電圧は0.65Vになりますから、TR1のコレ
クタ電圧の設定は2Vが目安になります。
(手順A)
R5,R6を決めます。
R5 + R6 の値でバイアスに対して安定化(電流帰還)をしていますが、TR1のコレクタ電流値と
TR1のベース電圧の設定値のかねあいで決めます。
ここではTR1のエミッタ電圧を1Vくらいにしておけば、TR1のベース電圧は1.6Vくらいになります。
エミッタ電圧は0.5Vくらいでもかまわないのですが、この場合、R4の値が1MΩを越える値になる
ので、この電圧(約1V)に設定しました。
(手順B)
TR1のコレクタ電圧が2.06V 、 エミッタ電圧が1.006V ですから、ベース電圧は
 1.006V + 0.6V = 1.606V
となって、必要なベース電流は0.4μAですから、
R4 = ( 2.06V - 1.606V ) / 0.4μA = 1.135MΩ →  1MΩにする
となります。
(手順C)
R8とVR2を決めます。
TR2のベース電圧は2.06Vですから、エミッタ電圧は 2.06V + 0.65V = 2.71V です。
電源3Vとの差は 3V - 2.71V = 0.29V となり、コレクタ電流が0.5mA流れるR8は
R8 = 0.29V / 0.5mA = 580Ω →E24系列から560Ωにする
となります。VR2はTR2のコレクタ抵抗を兼ねた部分です。
値は自由に選択できますが、なるべく最大出力となる抵抗値にします。
ここでは VR2 = 3KΩ としました。
(裸ゲイン)
図7に増幅度の算出過程を示します。
結局、トータルの利得(裸GAIN)は +51.6dB です。
(負帰還後のゲイン)
ECMの出力レベルを「-40dBV」と想定し、仕様によりマイクアンプの出力レベルが「-10dBV」
ですから、必要な仕上がりゲインは30dBです。
図8のように、R5 = 330Ω、R7 = 10KΩとすれば、
β = 0.0319
Aは +51.6dB(380倍)なので、
ANF = A / 1 + Aβ = 380 / 1 + 380×0.0319 = 28.96倍 ≒ +29.2dB
★部品表
表1 トランジスタ構成
部品番号 品名   型番   メーカー 数量 備考
C1,C4,C6 ケミコン 10μF/50V 50YK10   Ruby-con 3  
C3 セラコン 100p/50V CCDC50V100P*10   1 数量注意
C2 無極性ケミコン 1μF/50V 50BP1   日本ケミコン 1  
C5,C7,C8 ケミコン100μ/25V 25YK100   Ruby-con 3  
R1 カーボン抵抗 2.2K 1/4W     1  
R2 カーボン抵抗 7.5K 1/4W     1  
R4 カーボン抵抗 1M 1/4W     1  
R3,R6 カーボン抵抗 4.7K 1/4W     2  
R5,R11,R12 カーボン抵抗 330Ω 1/4W     3  
R8 カーボン抵抗 560Ω 1/4W     1  
R10 カーボン抵抗 100K 1/4W     1  
R7 カーボン抵抗 10K 1/4W     1  
R9 カーボン抵抗 1K 1/4W     1  
VR1 半固定抵抗 単回転100KΩ GF063P1B104 東京コスモス 1  
VR2 半固定抵抗 単回転3KΩ GF063P1B302 東京コスモス 1  
TR1 トランジスタ   2SC2240-BL(F) 東芝 1 BLランク
TR2 トランジスタ   2SA1015Y(F) 東芝 1 Yランク
S1 スライドスイッチ 3P SS12SDP2 日開 1  
MIC1 ECM   KUC3523-040245 ホシデン 1  
J1 Φ3.5ステレオジャック MX387GL   マル信 1  
LED1 LED Φ5 赤   HT333SRD Linkman 1  
  感光基板         1  
  単5×2用電池ケース MP-5-2   TAKACHI 1  
  単5電池         2  
  ビス、ナット類       1式  
(ケミコン10μF)
50V耐圧を用いているが電源電圧が3Vと低いので6.3V以上の
耐圧であれば可。
(コンデンサC2)
筆者は手持ちの関係で「有極性ケミコン」を用いたが、この部分
は部品表のような「無極性ケミコン」を用いる。
★製作
感光基板を用いて製作しています。
部品点数が少ないのでユニバーサル基板でも組めますが、
Φ3.5ジャックの実装には工夫が必要です。
◎オペアンプ構成
★回路
図9のようにトランジスタ構成と比較して部品点数を少なくすることができます。
電源が3Vですから、オペアンプには「Rail-to-Rail オペアンプ」を用います。
★部品表
表2 オペアンプ構成
部品番号 品名   型番   メーカー 数量 備考
C100,C102 ケミコン 10μF/50V 50YK10   Ruby-con 3  
C101 無極性ケミコン 1μF/50V 50BP1   日本ケミコン 1  
C103 セラコン 22p/50V CCDC50V22P*10   1 数量注意
C104 ケミコン 10μF/50V 50YK10   Ruby-con 1  
C105 ケミコン100μ/25V 25YK100   Ruby-con 1  
IC100 オペアンプ   LMC6482AINNOPB NS 1 Rail-to-Rail
R100 カーボン抵抗 2.2K 1/4W     1  
R101 カーボン抵抗 7.5K 1/4W     1  
R102,R103 カーボン抵抗 100K 1/4W     2  
R104,R109 カーボン抵抗 1K 1/4W     2  
R105 カーボン抵抗 3.3K 1/4W     1  
R106 カーボン抵抗 10K 1/4W     1  
R107,R108 カーボン抵抗 330Ω 1/4W     2  
VR100,101 半固定抵抗 単回転100KΩ GF063P1B104 東京コスモス 2  
S100 スライドスイッチ 3P SS12SDP2 日開 1  
MIC100 ECM   KUC3523-040245 ホシデン 1  
J100 Φ3.5ステレオジャック MX387GL   マル信 1  
LED100 LED Φ5 赤   HT333SRD Linkman 1  
XIC100 ICソケット   21208NE   Linkman 1 8ピン
  感光基板         1  
  単5×2用電池ケース MP-5-2   TAKACHI 1  
  単5電池         2  
  ビス、ナット類       1式  
(ケミコン10μF)
50V耐圧を用いているが電源電圧が3Vと低いので
6.3V以上の耐圧であれば可
(コンデンサC101)
筆者は手持ちの関係で「有極性ケミコン」を用いたが、この部分
は部品表のような「無極性ケミコン」を用いる。
(オペアンプ)
LMC6482などの「Rail-to-Rail オペアンプ」が必須。
★製作
写真2にそれぞれのタイプの外観を示します。
◎特性比較とまとめ
電気的特性を比較してみました。電源は乾電池です。
表3  測定結果
項目   測定条件   TRで構成   オペアンプで構成
               
消費電流   LED無し   1.2mA   1.0mA  
               
周波数特性 1KHz基準   10Hz〜160KHz 10Hz〜24KHz
               
最大出力   ひずみ率10% 0.6Vrms   1.05Vrms  
               
ひずみ率   出力-10dBV 1.1%   0.13%  
    出力-20dBV 0.56%   0.13%  
残留ノイズ   信号源10KΩ -88.5dBV   -77dBV  
    JIS-Aフィルター        
単純に数値を比較すれば、それぞれ優劣があり、今回のような低電圧動作では最大出力
に関しては「Rail-to-Rail オペアンプ」が有利です。
ノイズに関しては今回の結果ではトランジスタ構成のほうが良い結果でした。
電源電圧を上げたい場合(例えば、6V,9V)はオペアンプ構成であればこのままの定数で
良いかもしれません。
最終的にどちらが良いかは判断できません。
ただし、電源電圧の変更、設計の難易度(面倒くささ)を考慮するとオペアンプ構成のほうが
手軽です。