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製作・実験編はこちらです
単電源で動作させる/イコライザ部の定数と使用部品/製作/視聴

▼ グラフィック・イコライザとは

グラフィック・イコライザとはオーディオ機器(装置)の1つで、周波数特性を変えて音質調整を行うものです。
音質調整には一般的に高域カット低域強調などのトーンコントロールがありますが、グラフィック・イコライザは可聴帯域をいくつかに分割して、増強、減衰をさせる機能です。

図1に特性例を示します。

例えば、特性を変化させなければ図1 a) のようにフラット(平坦)ですが、特定の周波数近辺を増強させると図1 b) の特性になります。
これを「ブースト」と言います。
また、図1 c ) のように減衰させることを「カット」と言います。

図1 フラット/ブースト/カットの説明

ブースト、カットはボリュームにより可変し、図1 d ) のように最大量として±6dB,±12dB、±15dBなどの製品があります。

ブースト、カットは特定の周波数近辺になりますが、これを複数の帯域で分割した特性を図2に示します。

図2 複数の帯域で分割

実際の製品では、15分割(バンド)、31分割(バンド)などがあり、緻密な音質調整が可能です。

▼ 動作原理

★直列共振回路を用いる

図3に「直列共振回路」を用いたグラフィック・イコライザの原理図を示します。

オペアンプは非反転アンプの形をしており、プラス端子とマイナス端子の間にボリュームを接続します。
このボリュームのスライダー部に直列共振回路を接続し、この特性は図3のように共振点(周波数)で回路インピーダンスが最少になります。
以下、直列共振回路部をZとして表現します。

図3 直列共振回路を用いたグラフィック・イコライザ

★ボリューム位置による特性

フラット、ブースト、カットはボリューム位置により操作します。

図4 a ) ボリュームセンター
この場合、直列共振回路のインピーダンス(Z)の値によらず特性がフラット
図4 b ) ボリューム下方向
ブースト特性となり、ボリューム位置が下最大で最大ブースト
図4 c ) ボリューム上方向
カット特性となり、ボリューム位置が上最大で最大カット
図4 ボリューム位置による特性

少し分かりにくいと思いますのでボリュームセンターの場合を図5に示します。

図5の右はこの時の等価回路で、オペアンプは負帰還をかけていますから、A点とB点はバーチャルショートにより同電位です。
ここで、 R1 = R2 RA = RB とすれば、入出力の電圧は同じになり、また、Zの値にもよらず同じです。つまり、入出力のゲインは1(0dB)で、周波数特性もフラットです。

ボリュームセンターの動作イメージ

ボリューム下方向の動作イメージを図6に示します。

今度は、ボリュームの比率が異なりますので、増幅の帰還部の比率が変化します。
したがって、ボリューム位置により増幅度も変化し、下方向最大では図6の右の状態となり、これがブースト最大です。

この時のゲインを①式に示します。

ボリューム下方向の動作イメージ数式

ボリューム上方向の動作イメージを図7に示します。

オペアンプのプラス端子に入力される信号はR1とZで分割されたものになります。
ボリューム最大では、アンプのゲインは1であり、この状態が最大カットとなります。
この時のゲインを②式に示します。

ボリューム上方向の動作メージ数式

▼ 半導体インダクタ

直列共振の中身はインダクタ(コイル)ですが、これを半導体回路で置き換えたものを図8に示します。

これを「半導体インダクタ」と言い、特定の周波数近辺ではインダクタに見えます。

半導体インダクタ

この半導体インダクタに図9のコンデンサCAを追加すると直列共振回路となります。
この場合の共振周波数とQを③、④式に示します。

直列共振回路

Q(アルファベットのキュー)とは図10のように共振の鋭さを表すもので、⑤式で定義されます。

Qの値が大きいほど周波数の選択性が鋭くなり、グラフィック・イコライザに用いた場合、変化できる周波数帯幅が狭くなります。
例えば、多分割(バンド)の場合、Qの値を大きくすれば、他の周波数帯域への影響が少なくなります。
図9の回路では④式のように各抵抗、コンデンサの組み合わせで決めることができます。

Qとは

▼ 基本回路

図11にグラフィック・イコライザの基本構成を示します。
この例では3バンドとし、直列共振回路の数は任意です。

グラフィック・イコライザ 3バンド基本構成

▼ 共振周波数1KHzで設計&シミュレーション

共振周波数1KHzで設計してみます。

★手順

以下に関係式を示します。

関係式

どこから始めてよいか迷うところですが、まずは、ゲインとQを決めます。

◎ゲインとQ
ゲイン(ブースト、カット)は一般的に±6dB~±15dBの間の製品が多いようです。
ここでは、±12dBとし、Q= 1.5 と決めました。

◎rとR1,R2の値
R1,R2はボリュームVRとの間に VR ≫ R1,R2 の関係が必要で、VRを数10KΩとすれば、数KΩです。
ここでは、 R1 = R2 = 3KΩ として設計を進めます。
R1 = R2 = 3KΩ で、ゲインが12dB(4倍)ですから、⑥式から、

数式

◎CAの値
fo = 1000KHz 、Q = 1.5 、r = 1KΩ ですから、⑧式より、

数式

コンデンサの計算結果が半端な場合困るのですが、これは良い計算結果です。
これにより、0.1μFのコンデンサが使えます。

◎CBの値
CBは⑨式により求めますが、Rcの値によっては半端な数字(容量)になります。
そこで、Rcの値を概略決めて、これによりCBの値に見当をつけておきます。
rは増幅度に関係しますので、1度決めると変更できないのですが、Rcは「ある程度」融通がききます。
Rc ≫ r の関係が必要なのですが、ここではRcの値を数10KΩとして、CBの値に見当をつけておきます。

例えば、CBを切りの良い数字の3300pFとして計算をしてみます。

数式

Rcが、やや、半端な数字です。
E96系列であれば、71.5KΩか73.2KΩがこれに近いです。
E24系列の75KΩが使えれば良いのですが、少し不安です。
別な方法としてE24系列の68Kと4.3Kを直列接続すれば68K + 4.3K = 72.3Kとなって、「どんぴしゃ」になりますが、少しかっこ悪い気がします。

用いるコンデンサはフィルム系になります。
コンデンサの容量誤差も考えなければなりません。
一般的に±5%の製品が多いと思います。±1%または±2%品が入手できれば良いですが、どこまでの性能を目標とするかによります。
このように抵抗とコンデンサの誤差を考えるとますます不安になり、とりあえず、75KΩとしておいて、シミュレーションで確認することにします。

以上のような手順になります。

なるべくコンデンサを基準とし、入手できる値にしたほうが良いです。
抵抗は半端な値になっても、E96系列またはE24系列の組み合わせ(直列、並列)
で計算結果に近いものにすることは可能です。

後で気が付いたのですが、CBを3900pFにすれば、Rcは62KΩが使えそうです。計算してみてください。

★シミュレーション

図12にシミュレーション回路を示します。
ボリュームはRA,RBの固定抵抗とし、各シミュレーション時に抵抗値を変えます。
シミュレーション時に適当なLabel netを付けて、入出力の比(ゲイン)を見るように設定してください。
オペアンプはオーディオ帯域用であればなんでも良いです。
ここでは、GBWが5MHzのLT1492を用いました。

1KHz シミュレーション回路

フラット特性は100KHzあたりまで平坦でしたので、ここでは省略します。

データ1に最大ブースト時の特性を示します。
1KHzのポイントでブースト量が11.77dBです。

ブーストのピークは1KHzに見えますが、各定数は計算結果ではなく実際に用いる定数にしましたので、ピークは1.012KHzです。
これくらいの誤差であれば、計算値ではなく図12の定数でよさそうです。
また、「-3dB」のポイントは左側で713Hz、右側で1428Hzですから、⑤式からQは以下のように1.4となりました。

1KHZブースト(最大)

データ2は最大カット時の特性で、カット量は-11.77dBです。

1KHzカット(最大)

以上は図12の定数でのシミュレーション結果です。
実際には抵抗、コンデンサの誤差がありますので、用いる部品の誤差(±5%、±2%など)で、どのくらい特性がずれるのか確認してみてください。

▼ 3バンドの設計

実際の製品では、15バンド、31バンドなどがあり、ここでは3バンドで設計したものを図13に示します。

さきほどの1KHzに100Hzと10KHzを追加したもので、1KHzに対して周波数は1/10,10倍の関係ですから、単純にコンデンサの定数を1/10,10倍にしただけです。

定数はこれがベストとは思っていません。他の良い組み合わせがあると思います。定数変更または他の周波数にしたい場合は前述の要領でやってみてください。

グラフィックイコライザ 3バンド

データ3、4にそれぞれを操作した場合の特性を示します。
実際に音楽で聴いてみたいものです。

データ3 すべて最大ブースト データ4 100Hzと10KHz最大ブースト、1KHz最大カット

▼ まとめ

グラフィック・イコライザなどのフィルター設計では、はたして思った通りの特性が出るのか不安です。

このような場合、SPICEシミュレータを用いることにより定数ミス、回路ミスなどを事前に防ぐことが出来ます。

今回の例のように定数計算結果が半端な場合、部品誤差を考えた場合など事前に特性が分かりますので大変便利です。

とりあえず、目標とする特性をシミュレーションで確認することができましたので、次回は実験機を製作し、音を聴いてみようと思います。


参考文献
動作原理等の説明にあたり、以下の資料を参考としました。
・「三菱汎用リニアIC ユーザーズマニュアル」三菱電機株式会社 昭和61年
・M5227Pデータシート