資料・技術情報

7MHz ダイレクト・コンバージョン受信機の試作 その2【1次試作編】

前回はユニバーサル基板を用いた実験機により回路構成等を検討しました。

7MHz ダイレクト・コンバージョン受信機の試作 その1【構想・実験編】
http://www.marutsu.co.jp/wp/datatech/6655/

今回はプリント基板を製作し、ケース収納を行い、各種試験、評価を行いたいと思います。

◎基板設計

★基板サイズと部品配置

ケースデザインはMRX-7Dと同じものを考えています。
したがって、フロントパネルに配置されるボリューム類はMRX-7Dの基板と同じ位置になります。
部品点数はMRX-7Dと比較し、大幅に少なくなりますので、基板サイズを小さくすることが出来ます。

基板は片面です。
配線を始める前に、部品実装の改善を図ることにしました。
図20のようにMRX-7Dでは抵抗がアキシャルとラジアルの二通りあり、ジャンパー線の取付ピッチも統一できていません。
これは限られた基板面積に収めるためにこのようにしたのですが、製作の面からすると良くはないと思います。
そこで今回は抵抗をすべてアキシャルとし、ジャンパー線の取付ピッチを1種類とすることにします。

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図21に1次試作の部品配置図と機構部品との接続を示します。
基板サイズは縦方向がMRX-7Dより10mm小さくなっています。

VR1,VR2,VR4は基板実装部品です。
これによりMRX-7Dのフロントパネルのデザインを思いついています。
VR1はAFボリュームで、MRX-7Dの開発当初、スイッチ付のサンプル品を見せてもらい、これを採用するつもりでした。
ただし、残念なことに、当時、この部品はまだ販売出来ないということで、仕方なくスイッチ無しタイプとし、電源スイッチはリアパネルにトグルスイッチを配置しています。

今回はスイッチ付が使えますので、この点は少しすっきりしたような気がします。
参考として用いたスイッチ付ボリュームの型番を以下に示します。

製品名:スイッチ付2連式ボリューム A特性 10kΩ
メーカー : Linkman
型番 : RD925S-QA1-A103
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/89805/

SA602Aは面実装ですから基板のはんだ面にあります。

D2は可変容量ダイオードで、この図ではリード部品ですが、はんだ面に面実装用のパターンを設けています。
最近、リード部品が面実装に置き換えられることが多く、入手困難な場合が多いです。
この可変容量ダイオードも1次試作では、とりあえずリード部品を用い、その後は面実装品にするつもりです。

ケミコンは取付方向を統一することが出来て良いのですが、トリマーコンデンサ(VC1,VC2)の取付方向が逆になってしまいました。
これを統一するとなると、かなり大変で、今後の検討課題です。

赤の線が配線材による接続(はんだ付け)で10本で、この数は少ないほうがキットとしては良いのですが、これ以上のアイディアが浮かびません。

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◎基板設計

サンハヤトの感光基板で製作しました。
写真3に部品実装済の基板外観を示します。
けっこう部品点数が少なく、1時間ほどで実装できています。

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◎ケース

ケースはMRX-7D開発時の試作品(手作り)が残っていましたので、これを流用しています。
このケースはTAKACHIのMB-3です。
これにラッカースプレーで塗装し、完成形のイメージとしています。

MRX-7Dの場合、TUNINGの操作性を良くするために横方向のサイズはMB-3より若干長くしています。
RFゲインボリュームはオリジナルのトグルスイッチの位置に配置します。

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◎組み込み

写真5に内部の様子を示します。
部品を見ると、MRX-7Dよりかなり少なくなっていることが分かります。

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◎評価

★局発部の定数が実験時と異なる

組み込み後に局発のチェックをします。
SGから7MHzの信号を加え、トリマーコンデンサおよび半固定ボリュームを調整しても信号が受信できません。
局発が発振していないのかもしれませんので、オシロスコープでSA602Aの7ピンを観測してみます。
発振はしていますが、大幅に周波数が下方向にずれています。
用いているオシロスコープのプローブはパッシブプローブですから、これの容量成分により周波数は下にずれます。
そこで、オシロスコープでの波形観測ではなく、SGからの信号をもう一度受信してみると、あきらかに7MHzより下になっています。
発振周波数に関わるコンデンサの定数を替えてやると、今度は7MHz近辺を受信することが出来ます。

実験時はSA602Aではなく、NE612を用い、しかもユニバーサル基板です。
基板のストレー容量はユニバーサル基板とプリント基板で異なるのは承知の上ですが、その差がちょっと大きいような気がします。
とりあえず、7.0MHz~7.15MHzまで調整できるコンデンサ定数を決めました。

★変換利得

SA602Aの変換利得を測ってみました。
この件については実験時にNE612での簡単な確認はしていましたが、あらためて、SA602Aでの変換利得を測ります。
結果、変換利得+26dBです。

★感度

SGからの信号は-20dBμ(EMF)までは確認できます。
比較するとMRX-7Dのほうが感度的に余裕があります。
感度を追及するような受信機ではありませんので、SGによる確認はこのくらいにしておいて、実際の受信で判断することにします。

★スピーカの問題とトロイダル・コアの選定

局発の定数設定、変換利得、感度確認をしたところで、ケースカバーを閉めると局発周波数が変化する現象が発生しました。

SGからの信号を受信しながらカバーを閉めると、今まで受信出来ていた信号が突然いなくなります。
ひょっとしてと思い、用いているスピーカと同じものを基板に近づけると同じ現象です。
用いたスピーカはマグネットが付いているタイプです。
(図22)マグネット、つまり、磁石です。

基板上にあるコイルはトロイダル・コアです。
スピーカのマグネットがコアに影響を与えてインダクタンスが変化するようです。
スピーカとコイルとの位置関係は図22のとおりで、カバーを閉めると受信周波数が70KHz~80KHz下方向にずれます。
このような現象は以前にも別の機種で経験しているのですが、実験時にはその事は頭になく、1次試作で気が付いたところです。
ちなみに、スピーカをパーツキャビネット(金属製)の壁に押し付けると張り付いたまま落ちてきません。
強力な磁石です。

スピーカの位置をずらしてもダメで、アルミ板、銅板をスピーカとコイルの間に入れてもダメです。
スピーカを替えたらどうかということで、手持ちの色々なスピーカを試してみると、薄型のスピーカであれば影響しないことが分かりました。
ちなみに、マグネット付スピーカはMRX-7Dで採用していますが、これによる影響はありません。
スピーカの原理、構造については詳しく分からないのですが、マグネットと音には関係があり、奥が深そうです。

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スピーカを替えればマグネットの影響がなくなることが分かりましたが、他の解決策がないか悩んだ後、気が付きました。
トロイダル・コアの材質を替えたらどうかということです。
そもそも、コア材の選択が間違っていないかということです。
そこで他のコア材で実験すると、マグネット付タイプのスピーカでもほとんど影響を受けません。
SGからの信号を受信しながらカバーを閉めても受信音にほとんど変化がありません。
結局、コア材の選択が間違っていたということです。
影響しないコア材では巻数が大幅に増えますが、これは仕方のないことです。

★局発の周波数変動

図24に測定システム図を示します。
SA602Aの7ピンにFETによるバッファーアンプを接続し、この出力にFETプローブを介して周波数カウンター拡張装置に入力します。

周波数はデジタルテスタの周波数カウンター機能で測定します。
この場合、用いたPC5000は7MHzはカウント出来ないので周波数カウンター拡張装置で周波数を1/10にしてから測定します。
周波数カウンター拡張装置については資料・技術情報の記事を参照願います。

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測定の前に、この測定システムでの正確さを確認しておきます。
図25のように安定度2ppm/℃のファンクションジェネレータ出力を測定してみます。
この場合、ファンクションジェネレータ出力の周波数変動は、7MHzでは±14Hz/℃になります。
測定結果にこれ以上の周波数変動があった場合、これは測定システムでの変動ということになります。

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データ1に図25の測定結果を示します。
PC5000のアプリケーションソフトの画面です。
ファンクションジェネレータを30分のエージングを行った後に、測定システムの電源をONしてから測定しています。

測定時間は10分ほどで、室温はほとんど変化してません。
縦軸は周波数でKHzの単位です。
例えば測定結果が700.02KHzの場合、PC5000の表示は700.020KHzになり、実際には周波数カウンター拡張装置で1/10分周しているので、7.0002MHzです。

縦軸の1マスは実際の周波数に換算すると200Hzです。
変動は20Hz~30Hzの結果となり、これはPC5000の最下位桁の変動に相当します。
したがって、測定システムの周波数変動はPC5000の最下位桁だけです。
今回は20~30Hzあたりの周波数変動までは要求しないので、この測定システムで十分です。

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データ2に局発周波数変動結果を示します。

電源0N直後から約30分までの特性です。
室温は電源ON直後で24.0℃、中間地点で24.3℃、30分後で24.3℃です。
電源ONから3~4分ほどまでは約100Hz下降し、その後に上昇、10分後あたりからほとんど一定です。
30分までの特性ですが、その後もたぶん変動は落ち着いているものと思われます。
変動が落ち着いてからの細かい変動(20~30Hz)はPC5000の最下位桁かもしれません。
データ2の特性になるまでにコンデンサおよびトロイダル・コアを色々と試していて、検討、評価にけっこうな時間がかかっています。
局発コイルのコア材は当初の計画と違うものになり、巻数が増えてしまいました。
最終的に用いたい面実装の可変容量ダイオードとの組み合わせは未検討なのですが、周波数変動の件については1次試作としてこれでOKとします。

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★実際の受信テスト

SSBの復調音はきれいです。
移動局を10分ほど聞いていましたが、復調音に変化がなく、周波数変動はまったく感じられません。

感度はMRX-7Dと比較すると劣っています。
これについてはゲインがMRX-7Dより小ないことは最初から分かっていたことなのですが、実際に受信し比較すると明らかです。
用いたアンテナは簡易的なロングワイヤーで、ちゃんとしたアンテナを接続し、比較しなければ感度不足は感じられないかもしれません。

信号レベルの小さい局を受信した場合、試作機ではAFボリュームを最大にすれば確認できますが、MRX-7DはAFボリューム位置はセンター付近で十分です。
別な表現をすると、MRX-7Dは余裕のある受信で、試作機の場合、目いっぱいの受信をしている印象です。

また、MRX-7Dのほうが静かな受信音です。
スピーカAMPとスピーカは試作機とMRX-7Dは異なりますが、全体的に各ブロックのゲイン配分の違いがそのまま表れている感じです。
また、なんとなく、試作機はチューニングのキレがない感じで、フィルター(LPF)の特性なのかなと思っています。
この点はフィルター特性の違いが分かっているので、それによる先入観かもしれません。
いずれにしても、フィルター特性についても、あらためて検討、評価する必要がありそうです。

◎1次試作のまとめと今後の展開

1次試作はこれで終了します。

感度については、やはり、このままではNGと思います。
感度が悪いとは言いませんが、MRX-7Dと比較すると感度不足がすぐに分かってしまいます。
1次試作機のゲイン配分は図26のとおりです。
結論として、このゲイン配分では感度不足ということが言えます。
部品点数を少なくした構成でしたが、うまくいかないものです。

1次試作については他の試験、評価項目があったのですが、感度改善等を目的とした次の2次試作で評価することにします。

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次回に続きます。

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