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7MHz ダイレクト・コンバージョン受信機の試作 その3【2次試作 フィルタ検討編】

◎2次試作での検討項目

1次試作の結果により、いくつかの検討項目がありました。
大きなところでは以下の2点です。

①感度改善
②フィルタの検討

感度改善については全体のゲインが不足しているということなので、解決策として、図27 b ) のようにAFボリュームの前にAF AMPを設けることにします。
この部分のゲイン設定値が重要で、スピーカAMP部のゲインとも関係してきます。
フィルタについてはLとCを用いたパッシブフィルタまたはオペアンプを用いたアクティブフィルタなどが考えられます。

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◎フィルタの検討

★フィルタの周波数特性

フィルタはSSB用およびCW用として図28のような特性が望ましく、どちらもBPF特性(バンドパスフィルタ)です。

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フィルタ特性を整理する意味で図29に周波数特性により分類したフィルタの種類を示します。

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a ) LPF ローパスフィルタ。
ある周波数までは通過し、それ以上の周波数は減衰。
b ) HPF ハイパスフィルタ。
ローパスフィルタとは逆の周波数特性となり、ある周波数以上は通過し、それ以下の周波数は減衰。
c ) BPF バンドパスフィルタ。
ある帯域(c図でfc1とfc2)の周波数は通過させ、それ以外の帯域は減衰。
d ) BEF バンド・エリミネーション・フィルタ。
バンド・リジェクションまたはノッチフィルタとも言う。
BPFの逆の周波数特性となり、ある帯域(fc1,fc2)のみを減衰。

通過域と減衰域の境目はカットオフ周波数fcで表わし、これは図30のように通過域の振幅レベルに対して-3dBとなるポイントの周波数です。

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★SSB用を検討する

図28のようにSSB用とCW用の特性は異なるので、フィルタを2種類用意し、モードにより切り替えたいところなのですが、この場合、回路規模が大きくなります。
そこで、SSBを目標としたフィルタを搭載することにします。
例えば図31の特性はSSB用のBPFで、カットオフ周波数は300Hzと3KHzです。
この特性は見方を変えると、低域の300Hz以下に減衰域のあるHPFと高域の3KHz以上に減衰域のあるLPFです。

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したがって、図32のように単独のHPFとLPFを用意し、これを直列接続すればBPFになります。

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混信除去としては図31のように急峻な特性が望まれますがそれなりの回路が必要で部品点数が多くなります。
そこで、図33のように低域(HPF)はそれほど急峻としないで、高域(LPF)のほうをなるべく急峻となるように検討します。

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★アクティブフィルタの採用

CRのみによるフィルタでは良好な減衰特性を得ることはできません。
(図34 a) )図34 b ) のようなLCによるフィルタも一つの方法ですが、オーディオ帯域ではL(コイル)の部品入手性などに検討が必要です。
そこで特別な部品を必要としない図34 c )のアクティブフィルタを採用することにします。

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★通過域の特性

フィルタ特性としては、バタワース、チェビシェフ、ベッセルなどがあります。

ベッセルは主にパルス伝送などのフィルタに用いられ、今回のようなフィルタには適しません。
そこで、チェビシェフかバタワースを採用するわけですが、それぞれの特徴を図35に示します。
チェビシェフは図35 a ) のように通過域にリップルをもたせることにより減衰傾度を大きくしたものです。
バタワースは通過域の特性が平坦で、カットオフ周波数は通過域に対して必ず-3dBになります。
また、減衰傾度は次数をnとすれば、6×ndB/octになります。

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チェビシェフとバタワースは通過域の特性と同じ次数での減衰傾度に違いがあるだけで、回路的な違いはありません。
図36にLPFの回路例とバタワースでの減衰傾度を示します。

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★バタワース2次LPFの設計例

次数を多くすれば減衰傾度は大きくなります。
例えば、図36の4次では2回路入りのオペアンプが必要です。
今回は1回路をAF AMPとして用いるとすれば、2回路入りのオペアンプではフィルタには1回路となり、2次または3次で構成することになります。
前述しましたが、バタワースとチェビシェフには回路的な違いはありませんが、図37に回路例を示します。
この回路は正帰還型と呼ばれるもので、通過域のゲインは1(倍)です。
設計はバタワースの場合、Q = 0.7071として⑤~⑧式にて行います。

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例えば、fc(カットオフ周波数)を3KHzとして設計してみます。
R1,R2は任意の値になりますが、ここではE24系列の22kΩとしてみます。
これを元に⑥⑦⑧式によりC1,C2を計算します。

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C1,C2が半端な値となりました。
3411pFと1705pFは実際の部品定数にはありませんので、これに近い数字として C1 = 3300pF  C2 = 1800pF とします。
図38にシミュレーション回路、グラフ1にLtspiceによるシミュレーション結果を示します。
当然ながら計算値では3KHzにおけるポイントでは-3dBですが、3300pFと1800pFの組み合わせでは-3.47dBの結果です。

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★BEFを併用する

バタワースの減衰傾度は-6×ndB/octにしかならないのですが、さらに大きく減衰させる一つの方法として図39のようにLPFにBEF(ノッチ)を組み合わせることを検討しました。

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低域はそれほど重要視していないのですが、試しにカットオフ周波数300Hzの2次HPFも追加することにし、構成を図40に示します。

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図40の各フィルタはすべてオペアンプによるアクティブフィルタです。
グラフ2にシミュレーション結果を示します。

通過域に対して高域では4KHzのポイントで-35dB、5KHzのポイントで-48dBです。
おおむね、高域での減衰レベルは-40dB以上といったところです。
もう少し定数をチューニングすれば、良好な特性が得られると思います。

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低域については2次のHPFなので、その特性がそのまま出ています。
図41に2次HPFの回路例と計算式を示します。
これも正帰還型と呼ばれるもので、図37のLPFのCRの位置を入れ替えたものです。

参考として C1 = C2 = 0.01μF、fc = 300Hz とした場合の計算結果を示します。

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★簡易的なBEFで検討

グラフ2の特性を得るにはかなりの部品点数が必要で、これを基板上に載せるとなると現実的ではありません。
たぶん、基板面積が倍になると思います。
そこで、BEFを1個とし、さらに図42のように簡易的なもので高域特性がどうなるか検討してみました。

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グラフ3に図42のシミュレーション結果を示します。
比較する意味でLPFのみの場合と、BEFを追加した場合を同時にトレースしています。
こういった点、シミュレーションは便利です。

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★2次試作でのフィルタの設計方針

グラフ3のように簡易BEFを追加したほうが減衰傾度が大きくなることはあきらかです。
ただし、これは電気的特性での結果です。
ちなみに、MRX-7Dのフィルタはチェビシェフなので、グラフ3のLPFのみよりは減衰傾度は大きいです。
とりあえず、2次試作としてのフィルタは図42の方式とし、実際に音を聴いて判断しようと思います。

次回に続きます。

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