マルツ パーツまめ知識
D級パワーアンプ TPA3122D2 使用レポート
2012年2月 KY
◎D級アンプとは
★最終出力段の違い
図1 a ) は従来からあるプッシュプル(AB級)方式のアンプ最終出力の構成例です。
入力される信号はアナログ信号で、スピーカへの出力信号もアナログ信号です。
これに対しD級アンプは図1 b ) のように最終出力段は「ON/OFF」のスイッチング動作
しています。
従来からのアナログアンプはA級、B級、AB級などに分類されますが、
D級アンプとは最終出力段でデジタル的にスイッチング動作をするものを言います。
つまり、D級アンプは最終出力段の分類の1つで、以下のような特徴があります。
@スイッチング動作するので他の方式(A級、B級等)と比較して
 変換(電力)効率が良い
A効率が良いので放熱器が小さくて済む
 場合によっては放熱器不要。
テキスト ボックス: バイアス
★D級アンプの動作原理
図2のように単純にアナログ信号で最終
出力段でスイッチングしてもこのままで
はアナログ情報(信号)を含んでいない
デジタル信号です。
そこでD級アンプではアナログ情報を伝える方法の1つとしてPWM(パルス幅変調
pulse width modulation)が用いられています。
PWMとは図3のように出力のパルス幅(周期)は一定ですが、入力される信号の大きさに
応じて「H」、「L」の時間(幅)が異なります。
つまり、
アナログ信号の大きさ → パルス幅に変換
このように、アナログをデジタルに変換し、これによりアナログ情報をデジタルに伝えます。
PWMの発生原理を図4に示します。
アナログ信号と三角波をコンパレータで比較するとコンパレータ出力はPWM信号になります。
コンパレータは図4 b ) のように+端子と−端子に入力された信号の大きさを比較し、
その大小関係により出力がVcc(+)またはVee(-)のどちらかにデジタル的に変化します。
図5にコンパレータの入出力波形を示します。
(アナログ信号が0V)
「H」、「L」の幅が同じ
(アナログ信号がプラスの区間)
必ず「H」の幅が多く、信号レベルが大きいほど「H」の幅が大きい
(アナログ信号がマイナスの区間)
必ず「L」の幅が多く、信号レベルが大きいほど「L」の幅が大きい
このままではアナログ信号で変調したPWM信号ですから、これを図6のようにローパス
フィルタ(LPF)に通すと、極性および大きさに比例したアナログ信号に変換されます。
(アナログ信号が0V)
電圧がゼロ
(アナログ信号がプラスの区間)
プラスの極性で大きさは「H」の幅に比例
(アナログ信号がマイナスの区間)
マイナスの極性で大きさは「L」の幅に比例
図6では再現されたアナログ信号は直流ですが、PWMに変換するための三角波の周波数
をアナログ信号に対して十分高い周波数で行うことによりオーディオ信号が再現されます。
★D級アンプの構成例
図5、図6のように得られたPWMをLPFに通せば良いのですが、このままではスピーカを
鳴らすだけの力がありません。
そこで、一般的には図7のようにコンパレータからのPWM信号でスイッチング回路を
駆動し、スイッチング出力をLPFに通すことによりアナログ信号に変換しています。
◎TPA3122D2の概要
TI社のD級オーディオパワーアンプ「TPA3122D2」は図7のような構成になっており、
LPF部を外部にて組むことにより簡単にD級アンプを製作することができます。
▼15W、ステレオ、Class-D オーディオ・パワー・アンプ
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/65920/
なお、三角波の発振周波数はTPA3122D2の場合「250KHz」です。
以下、主な仕様を記します。
★動作電圧
10V〜30V
★出力(ステレオ動作)
Vcc = 12V
RL = 4Ω
THD+N = 1% 4W
THD+N = 10% 5W
Vcc = 24V
RL = 8Ω
THD+N = 1% 8W
THD+N = 10% 10W
★GAIN
以下の4つから選択
20dB
26dB
32dB
36dB
★MuteおよびShutdown機能
詳細はTPA3122D2のデータシートを参照願います。
▼15W、ステレオ、Class-D オーディオ・パワー・アンプ
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/65920/
◎TPA3122D2を用いた設計例
★回路
★GAIN設定
TPA3122D2はアンプのGAINを設定することが出来ます。
図9のように「GAIN0」と「GAIN1」の状態により4通り設定出来、表1に組み合わせを示します。
論理はジャンパーすれば「0」、ジャンパー無しで「1」です。
また、GAINの値によりアンプの入力インピーダンスは表1のように異なります。
表1  GAIN設定
GAIN1 GAIN0 AMP GAIN AMP Zi
0 0 20dB 60KΩ
0 1 26dB 30KΩ
1 0 32dB 15KΩ
1 1 36dB 9KΩ
★LCフィルタ
LCフィルタの定数は用いるスピーカのインピーダンスで異なります。
筆者はスピーカインピーダンス8ΩでLCの定数を決めています。
(4Ωなどのインピーダンス時はTPA3122D2のデータシートを参照願います)
データシートでは
L = 47μH
C = 0.39μF
が推奨されていますが、図10のように C = 0.22μF としています。
この理由は C = 0.39μF では筆者の1次試作において高域周波数で特性が少し「あばれた」
ことで、0.22μFのほうが「すなおな特性」になったためです。
周波数特性の実測結果については後述します。
用いる部品は
インダクタ → ひずみの発生が少ない
コンデンサ → フィルム系
が望まれます。
★入力カップリングコンデンサ C1,C2
C1,C2は直流阻止用コンデンサ(カップリングコンデンサ)で
周波数特性の低域に影響します。
図11のようにコンデンサ定数とアンプ(TPA3122D2)の入力インピーダンスZiで特性が
決定され、計算式を以下に示します。
Ziの値はアンプのGAIN設定で異なります。(表1参照)
@式から同じコンデンサ容量であればZiの値が小さきほどカットオフ周波数は高くなり、
AMP GAIN 36dB時のZi = 9KΩ で計算してみます。
1μF以上のコンデンサを用いれば、さらにカットオフ周波数は低くなりますが、ここでは
1μFとします。
テキスト ボックス: 注意
厳密には前に接続されるボリュームおよび信号源インピーダンスも計算に
含まれますが、この成分を無視して@式で計算しています。
★出力カップリングコンデンサ C12,C15
これも直流阻止用で、同じように低域特性に影響します。
この場合の計算式をA式に示します。
以下、C12 = C15 = 470μF、スピーカのインピーダンスを8Ωとして計算してみます。
★ミューティング回路
電源ON時にスピーカから「ボッ、プツ・・」などの「ポップ音」が気になりました。
これを防止する目的でTR1,TR2,RL1による「ミューティング回路」を設けています。
図13のように電源ON直後ではIC出力が不安定で、これが「ポップ音」です。
そこで、IC出力が安定(ポップ音が無い)したところでIC出力をスピーカに接続することに
よりポップ音を防止することが出来ます。
つまり、電源ONから一定時間経過後にスピーカを接続すれば良いわけです。
一定時間(DELAY)は図14のようにR7,C19による「充電」を利用し、C19の両端電圧は電源ON
直後から徐〃に上昇します。
このトランジスタがONするまでの時間がDELAY時間で、R7 = 150KΩ、C19 = 100μFの
場合、約5秒となっています。
IC2の3端子レギュレータ(5V)はリレー駆動用の電源です。
セット自体の電源を12V〜24Vの間で任意に選択できるようにしたかったので、リレーは
内部で5V駆動です。
電源が24V固定であれば3端子レギュレータは不要で、リレーの動作電流も少なくなり
ますから、定数によってはトランジスタも1個で済むかもしれません。
電源電圧15V固定の場合は、12Vリレーを用い、リレーへの駆動電源を若干下げても
良いと思います。
なお、電源OFF時にもポップ音が発生します。
この場合の防止は「電源OFF」を検出し、これによりすばやくC19の電荷を「放電」すれば
リレーがOFFし、ポップ音発生前にリレーをOFFします。
筆者の場合、検出回路を設けて対応しましたが、TPA3122Dでは特に気になるレベルの
ポップ音ではないと思います。
★部品表
表2
部品番号   品名   型番   メーカー 数量
C1,C2 セキセラ 1μF   CT4-0805Y105M*10 Linkman 2
C3,C4 セキセラ 1μF   CT4-0805Y105M*10 Linkman 2
C5,C8 ケミコン470μF/35V   ELXZ350ELL471MJ20S*10 日本ケミコン 2
C6,C7 セキセラ 0.1μF   CT4-0805B104K*10 Linkman 2
C9,C14 セキセラ 0.22μF   CT4-0805Y224M*10 Linkman 2
C10 セキセラ 4.7μF   CT4-0805Y475M Linkman 1
C11,C18 セキセラ 0.1μF   CT4-0805B104K*10 Linkman 2
C12,C15 ケミコン470μF/35V   ELXZ350ELL471MJ20S*10 日本ケミコン 2
C13,C16 フィルムコン 0.22μF   EOL100P22J0-9 FARAD 2
C17 セキセラ 0.22μF   CT4-0805Y224M*10 Linkman 1
C19 ケミコン100μF/25V   25YK100   Ruby-con 1
D1 ダイオード     1N4007   レクトロン 1
IC1 D級アンプIC     TPA3122D2N TI 1
IC2 5V 3端子レギュレータ   NJM7805FA NJRC 1
J1 RCAジャック 白 (絶縁型) RJ-2003/W Linkman 1
J2 RCAジャック 赤 (絶縁型) RJ-2003/R Linkman 1
J3 DCジャック     MJ14ROHS マル信 1
J4 絶縁ターミナル 白   TM505シロ MSK 1
J5,J7 絶縁ターミナル 黒   TM505クロ MSK 2
J6 絶縁ターミナル 赤   TM505アカ MSK 1
JP1,JP2 ピンヘッダー 4P         1
L1,L2 インダクタ 47μH   RTP8010-470M サガミ 2
LED1 LED 青     DB2NBBL   サトー 1
R1,R5,R8 カーボン抵抗 4.7K         3
R2,R6 カーボン抵抗 1K         2
R3,R4 カーボン抵抗 10K         2
R7 カーボン抵抗 150K       1
RL1 DC5V リレー (2C)   G5V2DC5V OMRON 1
TR1,TR2 トランジスタ     2SC1815Y(F) 東芝 2
VR1 2連ボリューム 10K.A   R1610G-QB1-A103 Linkman 1
XJP1,XJP2 ジャンパーピン(ショートプラグ)       2
XIC2 放熱ホウネツ     16PB16L25BA   LSIクーラー 1
  ユニバーサル基板 95×72mm LUPCB-9572-NS Linkman 1
  ケース     KC5-13-10BS タカチ 1
  ボリューム用ツマミ   25X15JXS-7 Linkman 1
  ゴム足     BP42   タカチ 4
  金属スペーサ、ネジ類       1式  
  配線材 AWG24 各色       1式  
  は型番と数量に注意
(フィルムコン 0.22μF)
他の候補として
PILKOR-224/63V Linkman
(ダイオード)
50V/1A以上の定格で可。
他の候補として
1N4001
◎製作
★基板
ユニバーサル基板を用いました。
筆者はD級アンプの製作は初めてです。
特にGND配線をどのように行って良いのか分かりません。
TPA3122D2はメーカーにて「User's Guide」が公開されていて、基板パターン例も掲載され
ています。
ただし、多層基板の例ですので、そのままユニバーサル基板へは応用(まね)出来ません。
そこで、筆者の勝手な解釈で次のように行うことにしました。
@L/RのGNDは独立させる。
AアナログGNDとデジタルGNDの接続ポイントは任意に設定できるよう
  にしておく。
BL/Rの部品配置は対称
L/RのGND独立に関しては分かり易いように回路図にてGNDシンボルにL,Rなどの添え字
を付けています。(少し、おかしな回路図になっている)
部品配置に関しては「User's Guide」が参考になると思います。
電源が24V時は3端子レギュレータに放熱器を付けてください。
★内部配線と組込み
余計なGNDループを作らないようにジャック(端子)類はすべて「絶縁タイプ」を用いています。
用いたケースはタカチの「KC5-13-10BS」です。
ケースと組込み要領はパーツまめ知識「ステレオパワーアンプキット LAPA4755-KIT使用
レポート」を参照願います。
https://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/173.html
◎電気的特性測定
測定はデータシートと比較する意味で
以下の条件で行っています。
GAIN = 20dB 表3
8Ω負荷 周波数 2次試作
20 -7.00
なお、電源電圧はことわりのないかぎり 30 -4.60
15Vです。 40 -3.20
50 -2.30
★周波数特性 60 -1.78
70 -1.40
低域は入出力のカップリングコンデンサで、 80 -1.10
高域はLCフィルタで特性が決まります。 90 -0.93
100 -0.78
グラフ1のように「素直な特性」です。 200 -0.24
300 -0.10
-3dB以内での帯域はおおよそ 400 0.00
40Hz〜60KHz です。 500 0.00
600 0.00
低域はC12(C15)の定数が支配的で、 700 0.00
40Hzよりさらに低域にしたい場合は 800 0.00
容量をアップ(例えば1000μF)します。 900 0.00
1000 0.00
10000 0.00
20000 0.00
30000 0.00
40000 -0.20
50000 -1.00
60000 -2.93
70000 -6.15
80000 -9.50
90000 -12.40
100000 -14.90
★最大出力
表4
電源電圧   ひずみ率1% ひずみ率10%
15V   3.25W   4.0W  
24V   8.28W   10.23W  
条件 8Ω負荷
ほぼ、データシートどおり
24V動作で10W出力には驚き!
★消費電流
表5
電源電圧   消費電流 備考
15V 無入力 0.115A  
15V 3W+3W 0.55A 1KHz
24V 8W+8W 0.775A 1KHz
無入力時に消費電流が0.115Aとなっているのはリレーの動作電流(約100mA)
とLEDの消費電流を含んでいる
3W+3W (または8W+8W) はL/R同時出力の意味
★ひずみ率特性
グラフ2に1次試作品および2次試作品
の特性を示します。 表4 ひずみ率特性(15V動作)
出力(W) 1次試作 2次試作
(測定条件) 0.01 0.398 0.330
0.02 0.230 0.200
プリ ローパス フィルタ PRE-LPF 0.03 0.180 0.167
カットオフ周波数 20KHz 0.04 0.154 0.135
減衰量 24.1KHzで約60dB 0.05 0.150 0.127
0.06 0.150 0.126
0.07 0.150 0.122
0.08 0.140 0.121
0.09 0.140 0.123
0.10 0.140 0.130
0.20 0.140 0.110
0.30 0.112 0.071
0.40 0.117 0.065
0.50 0.124 0.056
0.60 0.127 0.053
0.70 0.130 0.053
0.80 0.132 0.056
0.90 0.136 0.058
1.00 0.139 0.061
2.00 0.182 0.093
3.00 0.370 0.148
(1次試作と2次試作の相違点)
2次試作で特性がかなり改善されています。
1次試作でひずみ率特性がデータシートと比較して良くなかったので2次試作を行っています。
相違点
@1次試作のIC(TPA3122D2)実装はICソケット(板ばね式)
 2次試作では基板直付け
A470μFのケミコンは
1次試作 → 一般的なケミコン
2次試作 → 低Z品のELXZ350ELL471MJ20S
両方ともユニバーサル基板で部品配置、配線は、ほぼ同じです。
ただし、ユニバーサル基板では同じように配線したつもりでも
微妙なはんだ付けで特性に差が出る場合もあります。
正確に断定するならば、プリント基板にして部品交換する方法で評価する必要があります。
◎試聴
消費電流は前記表5のとおりですが、これは正弦波入力の場合です。
実際の音楽ソースではこの値より大きなピーク電流が流れます。
したがって、用いる電源の電流容量は余裕のあるものを用いたほうが良いようです。
ちなみに、15V動作にて安定化電源のCC設定値を1Aにしても、音楽ソースでは時々、電流
リミットがかかりました。
部品配置およびGNDを含めた配線は「これがベスト」とは思っていません。
D級アンプは、たぶん意識しなくても身の回りにあるのかもしれません。
筆者は意識してD級アンプの音を聴くのは今回の1次試作が初めてで、軽い衝撃を受け
ました。
音質に関しては個人差がありますので、ここでは表現しませんが、オーディオの楽しみ方が、
また1つ増えました。
TPA3122D2は部品点数が少なく、手軽にD級アンプが組めますので、D級とはどのような
ものなのか、一度、試されてはいかがでしょうか?
テキスト ボックス: 写真2  完成外観
テキスト ボックス: 落ちついたピンジャックの赤と「Class D」の文字が印象的

10W+10Wの出力が得られるとは思えないほどコンパクト
に仕上がっている