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スイッチト・キャパシタ・フィルタとその応用

-原理と実験機設計編-

目 次


◎スイッチト・キャパシタ・フィルタとは


 不要成分を除去し、必要な成分を取り出すものがフィルタです。図1に主な方式を示します。
図1 a ) は一番簡単な抵抗R1とコンデンサC1を用いたもので、CRフィルタと呼ばれるものです。
図1 b ) はRの替わりにLを用い、Cとの組み合わせでフィルタを構成したLCフィルタです。
図1 c ) はオペアンプを用いたアクティブフィルタと呼ばれるものです。
 いずれの場合も特性(カットオフ周波数)はRおよびCまたはLの値で決まります。特性に精度を求めた
い場合、部品(定数)誤差の少ないものが必要になります。





 図2はスイッチト・キャパシタ・フィルタと呼ばれるもので、クロック周波数によりカットオフ周波数を設定
する方式です。以下、スイッチト・キャパシタ・フィルタをSCFと呼びます。SCFはクロックでカットオフ周波
数が決まりますから、クロック周波数を可変すれば、カットオフ周波数も可変出来ることになります。




 スイッチト・キャパシタとは図3のようにコンデンサCaをスイッチS1でA側、B側にスイッチさせます。この
スイッチは電子的なもので、クロックによりスイッチし、クロック周波数(Fck)をVinより十分高いものにすれ
ば、A-B間は抵抗に見えて、その等価抵抗Rは①式で表わされます。例えば、Ca=1pF、Fck=1MHzとすれ
ば、等価抵抗Rは1MΩです。このようにコンデンサを抵抗の働きにさせたスイッチト・キャパシタをフィルタ
に応用したものがSCFです。

◎MAX7426の紹介

★主な仕様

 SCFは各半導体メーカーからIC化されていて、ここではマキシムのMAX7426を紹介します。図4のように
8ピンのICで接続が簡単です。外部からクロックを供給することにより周波数が設定され、その設定(可変)
範囲は1Hz~12KHzです。詳細はMAX7426のデータシートを参照願います。




★エリプティックとは

 MAX7426のフィルタ特性はエリプティックLPF(ローパス・フィルタ)です。エリプティックとは図5 c ) の特性
です。図5 a ) のバタワースは通過帯域での特性が平坦なのが特長ですが、減衰特性はゆるやかです。図5
b ) のチェビシェフは通過帯域でリプルをもたせて減衰特性を急峻にしたものです。エリプティックは通過帯域
と阻止帯域の両方にリプルをもたせてさらに減衰特性を急峻にしたもので、リプルが問題にならなく、減衰
特性を急峻にしたい(つまり、不要成分を大きく除去したい)場合に用いられます。


 図5のチェビシェフおよびエリプティックの通過帯域でのリプル大きさは分かりやすいように誇張して書い
ています。比較する目的でカットオフ周波数が約1KHzとなる各種フィルタを設計したものを図6に示します。
それぞれの計算結果は半端な数値になるのですが、コンデンサは近い市販品の数値(定数)にしています。




 データ1はLtspiceによるシミュレーション結果です。エリプティックが一番減衰特性が急峻であることが分か
ります。データ2は通過帯域の縦軸を拡大したもので、この設計例ではチェビシェフが1dB、エリプティックが
0.5dBのリプル量です。






★コーナー周波数と阻止周波数

 バタワースなどのカットオフ周波数は通過帯域に対して「-3dBとなったポイント(周波数)」で定義されます。

エリプティックでは「コーナー周波数」で定義され、図7のように通過帯域でのリプルを下回ったポイントをコー
ナー周波数fcと言います。コーナ周波数より高い周波数領域では急峻に減衰され、B点が最大の減衰量ポ
イントです。B点を過ぎると、今度は特性がC点まで上昇し、また下がり(減衰)ます。B点の周波数前でC点
と同じ減衰量となるA点を「阻止周波数fs」と言い、fsより高い周波数領域が阻止帯域です。また、低い周波
数領域からfcまでが通過帯域です。
 コーナー周波数fcと阻止周波数fsの比を遷移比rと定義され、②式のようにMAX7426の場合 1.25 です。
例えば、fcを1KHzに設定すれば、fsは1.25Kzとなり、この時の減衰量は37dBになります。




★コーナー周波数の設定

 コーナー周波数の設定は図8のように2通りあります。外部クロック(FCLK)とコーナ周波数fcには③式の
関係があり、例えばfcを1KHzにしたい場合、FCLKを100KHzにします。なお、FCLKのDuty(デューティ)は
40%~60%にします。内部クロックを用いる場合は外付けコンデンサCoscを用いますが、これについてはデ
ータシートを参照願います。




◎アマチュア無線用受信フィルタの実験と製作

★受信フィルタの計画

 SCFの応用として図9のアマチュア無線用受信フィルタを計画しました。特に7MHz帯では混信が多いもの
です。最近の受信機(またはトランシーバ)は混信除去能力も上がっていると思うのですが、従来からある
受信機の混信除去能力を上げる目的でSCFを応用することにします。

 図9のように受信機のスピーカ出力にはノイズを含んだ高域の不要成分(混信成分)があり、大変聞きにく
いものです。これをSCFの急峻なフィルタで必要成分のみ通し、不要成分を除去することにより混信の除去
または緩和を行なおうというものです。用途はSSB用です。この場合の必要帯域(音声)は300Hz~3KHzくら
になり、BPF(バンドパスフィルタ)になります。今回は低域(300Hz)には重点を置かず、高域の3KHz以上の
成分を除去することを目的とします。したがって、SCFのコーナー周波数は3KHzになりますが、これを固定と
しないで可変にすることで混信除去の効果について実験したいと思います。




★仕様
 ①電源 5V        
           
②クロック 内蔵および外部クロック切り替え    
           
③内蔵クロック可変範囲      
  約60KHz~600KHz      
  これによりコーナー周波数600Hz~6KHz  
④外部クロック        
  市販ファンクションジェネレータ    
⑤スルー/LPF切り替え      


 電源は市販のACアダプタで5Vを供給します。クロックは簡易的な発振回路を内蔵し、ボリュームにより周
波数を可変(設定)します。設定範囲はコーナ周波数が1KHz~4KHzくらいになる、つまりクロックとしてはこ
れの100倍になる発振周波数です。今回は少し汎用性を持たせて約60KHz~600KHzとし、これによりコー
ナー周波数の可変(設定)範囲は600Hz~6KHzです。
 正確なコーナー周波数を設定したい場合に外部クロック用のコネクタを設けておき、これをスイッチにて切
り替えます。外部クロックは市販のファンクションジェネレータです。
 スルー/LPF切り替えはスイッチにてLPF(SCF)を通さない「スルー」と「LPF」のポジションを設けておき、混
信除去効果を比較するものです。


◎ブロック図と回路

 内蔵クロックはタイマICの555です。発振周波数はVR1+R1とC2の定数で決まり、VR1にて可変します。
この出力とコネクタJ1からの外部クロックを74HC132による選択回路を経てSCFへクロック供給します。
 スイッチS2がON(GND接続)でクロックは555側が選択され、OFFの場合、555はリセット(発振停止)し、外部
クロックが選択されます。コネクタJ1にはいつも外部クロックが接続されているとは限りません。74HC132は
CMOS-ICです。入力オープン状態は困るのでR2によるプルダウンを設け、ファンクションジェネレータ側との
インピーダンスマッチングを兼ねています。
 受信機からのスピーカ出力はコネクタJ2へ接続し、オペアンプにてバッファーしたものをSCFへ入力してい
ます。オペアンプおよびSCFは単電源動作です。したがって、両方のバイアスが必要になりますので、R5,R6
にて行っています。バッファー部の入力インピーダンスは相手側がスピーカ出力なのでそれほど高くする必
要はないのですが、汎用性を考えて約15kΩにしています。
 スイッチS2がスルー/LPF切り替えです。SCFまたは入力バッファーの出力を選択し、これをオペアンプによ
る出力バッファーを経て、外部へ出力します。オペアンプはRail-to-RailのLMC6482を用いています。





◎各回路説明

★タイマIC 555によるクロック回路(発振回路)

 SCFへの供給クロックのDuty(デューティ)は40%~60%でなければなりません。Dutyとは図12のように周期
T(時間)とHの期間との比を言い、⑥式で表わされます。




 555の発振回路は図13 a ) の接続が良く用いられますがこの場合、DutyはRaとRbの比率で決まります。
(詳細は555のデータシートを参照願います)例えば、Ra = Rb とした場合のDutyは66.6%です。また、発振
周波数は④式で決まります。発振周波数を連続可変にしたい場合、抵抗またはコンデンサCを可変にすれ
ば良いわけですが、このままでは周波数可変が難しいです。
 そこで、Dutyを50%とし、周波数可変が簡単な方法(接続)を図13 b ) に示します。この方法はナショセミの
LMC555のデータシートに掲載されています。この方法であればSCFの必要Dutyをクリアし、周波数可変も
Rcにボリュームを用いれば簡単にできます。




 今回はボリュームVR1(10kΩ)と固定抵抗R1(1kΩ)の組み合わせとし、コンデンサに0.001μF(102)を
用いた場合の発振周波数可変範囲を図14に示します。




★クロック選択回路

 これについては当初、図15のように555および外部クロックのバッファーにシュミット・トリガ・インバータの
74HC14を用い、この出力をスイッチにて切り替える方法を考えていました。ただし、この方法ではショーティ
ングタイプのスイッチでは端子の1,2,3がすべて接続されるタイミングがあり、出力同士が接続されます。出力
同士がぶつかると場合によってはICを壊す恐れがあります。




 スイッチにはショーティングタイプとノンショーティングタイプがあり、図16、17でその違いを説明します。
 図16のショーティングタイプは上ポジションで1-2がON、下ポジションで2-3がONになりますが、スイッチ操
作の途中(移動)ではすべての端子がON(接続)するタイミングがあります。
これに対し、ノンショーティングタイプでは移動途中はすべてOFFになり、1と3が接続することはありません。
 したがって、図15のような用途ではノンショーティングタイプのスイッチでなければなりません。




 ノンショーティングタイプの代表的なものはトグルスイッチです。ただし今回の装置の場合、クロック選択は
頻繁に行わないので操作上邪魔にならないスライドスイッチとし、ノンショーティングタイプを用いようと考え
ていました。とりあえず後でスイッチ選択をすることとし、製作を始めたのですが、気に入ったノンショーティン
グのスライドスイッチがどうしても決まらず、方式を変更することにしました。
 図18のようにこの部分を電子的に行おうというものです。この場合ですと、制御部のスイッチはショーティン
グタイプでも良く、スイッチ選択の幅がひろがります。




 図19に今回の選択回路を示します。2入力のNANDゲートを4個用いた方式です。A0とB0が選択入力で、
これが各クロックに相当します。この2つの入力(信号)をSELの状態(H/L)により選択されたものが出力C
に現れます。

表1 NANDの真理値表  
 A
 L
 L
 H
 H



 表1にNANDの真理値表を示します。一言で表現すれば「A,B両方の入力がHであれば出力YはLになり、
それ以外の組み合わせの出力YはH」ということです。また「A,Bの値が同じであれば出力はそれのNOT」
であり、別な見方をすれば「A,BどちらかをLにすれば出力Yは常にH」です。
 例えば図20 a ) のようにSEL = L の場合、G2の片方の入力がLになりますから出力はB0の値によらず常
にHです。つまり、B0の情報はG2の出力に現れません。これに対しA0側はG4がNOTですからG1の片方の


入力は常にHになり、A0の値をNOTしたものがG1出力に現れます。図20 a ) では A0 = L ですから、G1出
力はHです。さらにG3の片方の入力は常にHなのでG1出力の値がG3によってNOTされたものがCに現れ
ます。この例では A0 = L としましたが、A0 = H であればCはHとなり、A0の情報がCに選択されて出てき
ます。図20 b ) はSEL = H の場合で、今度はB0の情報がCに現れます。
 以上のようにSELの値でA0、B0を選択します。NANDは74HCシリーズの場合74HC00になりますが、今回
はシュミット・トリガの74HC132を用いています。SELはR3によりプルアップし、これをスイッチにてON/OFF
操作し、555と外部クロックを選択します。






表2 G4の動作
A B Y
L L H
L H H
H L H
H H L

ABに同じ信号を入れるとNOT動作

表3 G1,G2の動作 
A B
L
L
H L H
H H L

ABどちらかをLにするとYは常にH




★ファンクションジェネレータとのインピーダンスマッチング

 G2入力はプルダウン抵抗が必要で、この値は一般的に10kΩ~100kΩくらいが適当な値です。ただし、
今回は外部クロックはファンクションジェネレータを用いますのでR2を50Ω(実際は51Ω)にしています。
理由は図21のようにファンクションジェネレータの出力インピーダンスは50Ωであり、設定は50Ω負荷を
前提としています。つまり、RoとR2の値が一致していないとR2両端での値が希望値と違うものになります。




 例えば図22 a ) のようにファンクションジェネレータの出力電圧を5Vに設定した場合、内部では10Vを出力
します。出力インピーダンスRoが50ΩなのでR2も50Ωとすれば、RoとR2で抵抗分割された電圧がR2に印加


され、この場合5Vになります。ところが図22 b ) のようにR2を10kΩにするとR2には9.95Vが印加され、ファン
クションジェネレータの設定値(表示値)と異なった大きな電圧になってしまいます。
 ファンクションジェネレータの接続先である負荷(R2)のデフォルト設定は50Ω終端の場合がほとんどです。
50Ωではなく解放設定も出来るのですが、最初からR2を50Ωにしておけば設定ミスが少なくなります。




 例えば写真1のように設定すれば、50Ω負荷(R2)では図23のように5V/0Vのデジタル信号になります。







★555のリセット

 図24のように外部クロック選択時はG4出力がLになりますので、これを利用して555をリセット(発振停止)
させています。







★オペアンプによるバッファー

 図25,26にオペアンプによるバッファー各部の波形を示します。入力部のR5,R6にてバイアスをかけていま
すのでSCFの出力までは2.5Vを基準に波形が振幅します。







 オペアンプが正常に動作する入力電圧範囲を同相入力電圧範囲と言います。5V動作時の各オペアンプ
の同相入力電圧範囲を図27に示します。NJM4558は5V動作は推奨されていませんが、電源電圧の値に
よらずGND方向の同相入力を下回ると誤動作し、LM358では電源方向は3.5Vまでです。Rail-to-RailのLM
C6482は電源電圧範囲まで入力できるので今回はLMC6482を採用しています。なお、NJM4558の3.5Vと
1.5VおよびLM358の3.5Vは目安の値です。



本記事に登場したスイッチト・キャパシタ・フィルタIC、MAX7426 はこちらです。

▽アクティブフィルタ【MAX7426EUA+】


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