電子部品、半導体の調達、通信販売から製造受託のマルツオンライン

 

スイッチト・キャパシタ・フィルタとその応用

-製作、実験編-

目 次

◎周波数カウンター出力の追加

★内蔵クロックの周波数表示
 基板が出来上がったところで「内蔵クロックの周波数表示をどうするか」ということで悩みました。周波数表示は当初、図28 a ) のようにボリュームに目盛を入れることを考えていました。周波数カウンターでボリューム位置による周波数を測定し、これを書き込むわけです。しかしこの作業を考えると「かなり面倒」で、ボリュームつまみがズレル可能性があります。そこで、図28 b ) のようにコネクタを用意し、周波数カウンターを接続する方法が考えられます。この場合、接続する周波数カウンターにもよりますが、少し邪魔です。 内蔵クロックの最高発振周波数は今回の場合、約600KHzです。この周波数であればカウント可能なデジタルテスタを用いれば邪魔になりません。そこで図28 c ) の方法にすることを思いつきました。

★追加回路
 図29のように555の7ピン(DISHARGE)から取り出します。このピンは通常の発振回路における放電用の端子になりLMC555CNの場合、オープンドレイン出力です。図30にLMC555CNの内部回路を示します。RS-FFからの出力がOUTのゲート入力とFETのゲートにも接続されていますので、OUTの発振出力と同じものになります。FETはオープンドレインなのでこのままでは波形として現れません。そこで、R11を介して電源にに接続すれば7ピンにも発振波形が現れます。(R11をプルアップ抵抗と言います)
 プルアップ抵抗値は発振周波数がやや高め(最高発振周波数は約600KHz)なので、10kΩなどでは波形がなまってしまいます。抵抗値を小さくすれば波形なまりが緩和され、今回は1kΩとしています。


◎部品表

 セキセラの0.1μFはすべて電源パスコン用です。セキセラではなくラジアルリードのセラコンでもかまいません。C2の1000pFコンデンサはフィルム系が良いです。このコンデンサはVR1およびR1との組み合わせで発振周波数が決まります。ケミコンは耐圧50V品ですが、電源電圧が5Vなので10V以上の耐圧であれば可です。タイマーICの555は各社から販売されていますが、今回はNS社のLMC555CN指定です。

 NANDのHC132は東芝のTC74HC132AP(F)を用いました。この型番にこだわる理由はなく、他メーカー製のHC132でも可です。

 トグルスイッチは一般的なレバー長より短いショートレバー形のM2022LSです。ボリュームの近くにトグルスイッチを配置したいので、レバーが邪魔にならないショートレバーを採用しました。M2022LSは2回路です。
今回は2回路の必要はありません。1回路(3P)では同じシリーズでM2012LSなどがあります。

 チップジャックは周波数カウンター接続用で、これにデジタルテスタのテストリードを挿入します。

 ICはすべてソケット実装です。8Pは板バネと丸ピンで使い分けていますが、なるべくならすべて丸ピンにしたほうが良いです。オーディオ信号用コネクタ(J2,J3)はRCAピンジャックで統一してみました。

 ボリュームVR1はシャフト長15mmのものを用いました。今回用いたつまみとの組み合わせではパネルからの出っ張り具合が丁度良いです。

 アースラグはシャーシGND接続用です。コネクタはすべて絶縁タイプなのでシャーシ(ケース)は電気的に浮いた状態です。金属ケースを電気的にGNDに接続すればシールドになりますので、アースラグを利用して基板のGNDに接続します。

表4 部品表
部品番号 品名 型番 メーカー 数量
C1,C3,C4 セキセラ 0.1μF 3
C2 フィルムコンデンサ 1000pF EOL100D10J0-9 FARAD 適量
C5,C6 ケミコン 1μF/50V 50PK1MEFC Ruby-con 2
C7,C8 セキセラ 0.1μF 2
C9 ケミコン 10μF/50V 50PK10MEFC Ruby-con 適量
IC1 タイマーIC LMC555CN NS 適量
IC2 SCF MAX7426EUA Maxim 適量
IC3 NAND IC TC74HC132AP(F) 東芝 適量
IC4 オペアンプ LMC6482AIN NS 適量
J1 BNCコネクタ(絶縁タイプ) 適量
J2 RCAピンジャック(絶縁タイプ) MR699Gシロ マル信 適量
J3 RCAピンジャック(絶縁タイプ) MR-699キ マル信 適量
J4 DCジャック MJ14ROHS マル信 適量
J5 チップジャック(白) TJ-1-W サトー 適量
J6 チップジャック(黒) TJ-1-B サトー 適量
R1 カーボン抵抗 1/4W 1kΩ 適量
R2 抵抗 51Ω、1W 1WMOS(X)キンピR 51オーム KOA 適量
R3~R6 カーボン抵抗 1/4W 47kΩ 4
R7,R10 カーボン抵抗 1/4W 1kΩ 2
R8,R9 カーボン抵抗 1/4W 47kΩ 2
R11 カーボン抵抗 1/4W 1kΩ 適量
S1 スライドスイッチ SS-12F15G4 Linkman 適量
S2 トグルスイッチ M2022LS NKK 適量
VR1 ボリューム 10KΩ、B R1610N-QB1-B103 Linkman 適量
XIC1,XIC4 ICソケット 板バネ 8P 21208NE Linkman 2
XIC2A ICソケット 丸ピン 8P 21218NE Linkman 適量
XIC2B ピッチ変換基板 D008 ダイセン 適量
XIC2C DIP連結ソケット WDIP-PIN8 適量
XIC3 ICソケット 板バネ 14P 212014NE Linkman 適量
XVR1A つまみ K10022RLGY サトー 適量
XVR1B つまみキャップ K10022CLOR サトー 適量
ユニバーサル基板 ICB288V サンハヤト 適量
ケース YM130 タカチ 適量
アースラグ(3mm) 適量
金属スペーサ、ビス類 適量
配線材 UL1007 AWG24 各色 適量

◎製作

★基板
 MAX7426EUAは面実装の0.65mmピッチです。このままではユニバーサル基板に実装できないので、2.54mmのDIPに変換します。用いた変換基板はD008で外観を写真3に示します。この基板は面実装の1.27mmと0.65mmの8ピンに対応していて、これを2.54mmのDIP-8ピンに変換します。これを連結ソケットのWDIP-PIN8に実装します。図31にその組み合わせを示します。D008はWDIP-PIN8の太い方のピンへ接続(はんだ付け)し、これでDIP-8ピンに変換されます。このままユニバーサル基板へ実装できますが、今回は部品交換などを考慮し、さらに丸ピンのICソケットへ実装する方法にしています。


★ケース加工

 久しぶりにミスをするところでした。簡単な加工なので加工図面を書かずに穴あけ作業を進めて、チェックもしないで数日放置していました。その後の部品実装の段階で穴径が小さいのに気付き、穴を大きくすることで大事にならないで済みました。これが大きすぎる穴をあけてしまったら大変なことになるところでした。


 写真4は筆者の板金工作作業台です。いつもいる仕事場とは別棟の建物の隅にあります。ボール盤の向うにエッチング液が見えます。プリント基板のエッチングはこの作業台脇の机で行い、基板カッターなどの工具が置いてありますが、それ以外にはたいした工具はありません。まわりを見ると、草刈り機、チェーンソーなどが立てかけてあったり、使わなくなったロジック・アナライザと壊れた測定器がころがっています。


ボール盤は購入してから25年くらいたちますが、プリント基板の穴あけはこのボール盤で行っています。
 写真6は今回のケース加工に用いた工具です。電気ドリルは無段変速をお勧めします。ヤスリは種類が多いほど良く、今回はスライドスイッチの角穴加工に用いましたが、形状が小さく目が細かいものがあると良いです。バリ取はヤスリとバリ取ナイフで行い、HOZANのK-35です。これ、すごく便利!

★組み込み
 基板は金属スペーサ(M3、長さ10mm)を対角線2か所で固定し、この1か所にシャーシGND接続用アースラグをシャーシ底と共締めします。アースラグは基板のGNDラインに線材を用いて接続します。
 線材にはUL1007のAWG24各色を用いました。束線を兼ねて軽いツイスト処理を行い、小奇麗にまとめます。ボリュームなどがあるカバー間との配線が長くなりますので、結束バンドなどを用いてまとめます。
 小奇麗にまとめたつもりなのですが、写真で見るとそれほど綺麗でもありませんね。

◎評価

★消費電流
 実測約4.7mAでした。電源は006P電池に5Vの3端子レギュレータの構成でも良さそうです。

★内蔵クロックのDutyと可変範囲の確認
 MAX7426へのクロックDutyは40%~60%でなければなりません。内蔵クロックのLMC555はDuty50%の設定ですから、これを確認します。確認方法はオシロスコープでの波形観測などがありますが、デジタルテスタで行ってみます。最近のデジタルテスタは周波数測定、Duty測定などの機能を搭載した機種があります。
 写真9はLinkmanのLDM-81Dです。ファンクションスイッチを「Hz」にして「Hz/Duty」ボタンで「Duty」を選択します。観測ポイントは図32のようにMAX7426の8ピンで、写真9のように「50.1%」の測定結果です。


 ちなみに、図33は良く用いる555の発振回路で、Ra = Rb とすればDutyは約66.6%になります。写真10はブレッドボードに組んだものを測定した結果で66.3%になっています。このように、オシロスコープでなくてもデジタルテスタでDuty測定が可能です。



 クロックの可変範囲の確認も同様に行います。この場合、MAX7426の8ピンではなく、追加した555の7ピンでもよいです。筆者はこの方法(ポイント)で実測し、56.3KHz~493.2KHzの結果となりました。これにより、コーナー周波数の可変範囲は563Hz~4.932KHzになります。計算値と異なるのは計算式の若干の誤差と、実際に用いた抵抗、コンデンサの部品誤差によるものです。

★周波数特性
 出来上がった実験機の周波数特性をデータ3に示します。クロックにはファンクションジェネレータで100KHzに設定定したものを入力しています。コーナー周波数はこれの1/100になりますから1KHzです。
 1KHzを越えたあたりから急激に減衰し、コーナー周波数の1.25倍である阻止周波数1.25KHzでの減衰量は約-37dBです。300Hzから下の低域でゆるやかに減衰しているのはSFCの特性ではなく、オペアンプによる入出力バッフアーの特性です。

★IC-726Sでの評価
 一通りの動作、特性の確認がとれたところで図34のようにICOMのIC-726Sの外部スピーカ端子に接続し、実験機の電源には市販のスイッチング式ACアダプタ(5V)を供給します。自作スピーカアンプ側の音量ボリュームを適度な位置に調整しておき、IC-726S側の音量ボリュームを調整してひずまない程度にしておきます。
 実験機は内蔵クロックです。ここで実験機の「スルー/LPF」切り替えを行って、混信および了解度の比較を行います。
 まず、スルーポジションで適当に混信しているSSB交信を受信します。ここでLPFポジションに切り替えてコーナー周波数を可変します。3KHz以上では混信の変化はありません。ここで、2.5KHz以下にすると混信の聞え具合が変化し、2KHz以下で混信が消えます。予想を超える効果です。さらにコーナー周波数を下げてみます。少し大げさな表現をすれば「信号号が浮かびあがり、了解度が上がる」イメージです。この範囲は2KHz~1.5KHzくらいに感じられ、1.5KHz以下では鼻づまりのような感じで了解度は下がります。

 以上はSSBの場合で、CWではコーナー周波数800Hz~1KHzが良いようで、復調音(受信音)が高い状態でLPFに切り替えると音が消えます。
 データ3にフィルター特性を示しましたが、実際に音で聞いてみると、「かなりのキレ」が実感できます。
減衰量は「-37dB」とびっくりするほどの大きさではありませんが、遷移比1.25によるところが「キレ」の良さになると思います。

★FR-50Bでの評価
 古い真空管式受信機FR-50Bに用いてみました。筆者のFR-50Bの受信音は「にぎやかに聞え」、好きな受信機の1つです。LPFを接続すると、かなり静かな音になります。IC-726S単体と比較すると、受信状況によっては、FR-50B+LPFのほうが了解度が良い場合があります。特に微弱な信号ではコーナー周波数を調整すると信号が浮かび上がるイメージです。
 ただし、全体的にはFR-50B+LPFでは少し低域成分が多い気がします。これは実験機での低域での特性が少し伸びすぎている影響なのかもしれません。

★内蔵クロックのドリフト測定
 無線機による評価が終わったところで、内蔵クロックの周波数ドリフトを測定しました。SCFのコーナー周波数はクロックで決まりますので、このクロックの周波数が変動(変化)するとコーナー周波数も変動してしまいます。周波数が変動することを周波数ドリフトと言い、電源ON直後からの時間経過により周波数がどのくらい変動するか測定します。この方法は写真13のデジタルテスタ Linkman LDM-86D を用いています。このテスタはPCとの接続機能があり、図35に接続を示します。
 測定手順は、実験機の電源をONした直後から測定を開始し、その後の時間経過による周波数値は記録されます。画面左の大きな数値はその時の周波数値で、この場合、101.2KHzとなっています。記録値はファイルに保存され、グラフまたは数値で時間毎のデータを読むことが出来ます。今回の結果は、電源ON直後のクロック周波数は100.8KHzで、20分経過後での値が101.2KHzでした。したがって、その差は400Hzですから、コーナー周波数に換算すると4Hzとなり、まったく問題ありません。


★クロックの漏れ
 SCFは原理的にクロックが出力に漏れます。この成分(クロック)はオシロスコープで観測出来ます。
今回はFFTアナライザにて観測したものをデータ5に示します。観測条件は図36のように750Hzの正弦波を入力し、クロックの設定を約93KHzにしています。
 750Hzのレベルは約-10dBVで、クロックの漏れとクロック周波数±信号波の成分が93KHz近辺に出ているのが分かります。信号波750Hzとは約45dBくらいの差です。このようにSCFもADコンバータなどのようにクロック以外の不要な成分が発生します。しかし、クロック周波数がコーナー周波数の100倍になりますので特に問題にはならないと思います。
 クロックの漏れは簡単なLPFを外付けすれば改善することが出来ます。しかし、今回のシステムではクロック周波数が約56KHz~493KHzですから、スピーカからは聞えません。したがって、今回はクロック漏れ対策は行っていません。ちなみに、外部クロックを1KHzなどに設定して加えて、スピーカアンプを実験機に接続すると、スピーカから1KHzの音が確認出来ます。

★使用感
 コーナー周波数をデジタルテスタで表示する方法は便利です。写真10はその様子ですが、テストリードを縦に接続する方法は少し邪魔です。実験機とテスタとの接続はテストリードではなく、両端BNCプラグの同軸ケーブルのほうがすっきりして良いと思います。
 内蔵クロックを可変にしたことは大正解でした。特にSSBでは混信および了解度がコーナー周波数の設定により変化します。LPFの周波数特性を確認する必要がなければ、外部クロックは不要と感じました。結局、外部クロックを用いたのはデータ3の特性を取る時と内蔵クロックでカバーできない周波数での確認用途だけでした。

◎まとめ

 SCFの応用としてアマチュア無線機用の受信フィルタを実験しました。MAX7426の「キレ具合」が分かりましたので、少し気合いを入れてちゃんとしたものを作りたくなってきました。
 例えば、図37のような仕様(案)です。コーナー周波数表示はデジタルテスタでクロック周波数を表示し、これを頭の中で1/100に変換する方法でしたが、やはり、紛らわしいのと、少し邪魔です。そこで、マイコンを用いてコーナー周波数に変換したものをLCD表示すればすっきりします。
 スピーカアンプは内蔵すべきです。HPFも内蔵すれば、違った音(了解度)になると思います。

 以上、SCFの簡単な動作原理およびMAX7426を紹介しました。SCFはクロックを与えることにより正確な周波数設定が出来る方式ですが、最大の特徴は周波数を可変することが出来ることだと思います。
 色々なアプリケーションにSCFを用いてはいかがでしょうか。


本記事に登場したスイッチト・キャパシタ・フィルタIC、MAX7426 はこちらです。

▽アクティブフィルタ【MAX7426EUA+】


原理と実験機設計編はこちら

i