FETの使い方ガイド

スイッチング用パワーMOS-FET

 MOS-FETは真空管やバイポーラトランジスタなどと同じ能動素子(増幅作用のある部品)の一種で現代エレクトロニクスの主役です。マイコンや各種LSIの中身はほとんどがMOS-FETです。しかし、ほとんどのMOS-FETはICの構成要素として存在しIC内部の素子もカウントに入れた場合には単体(ディスクリート)のMOS-FETが回路全体の部品数に占める割合は少数です。

 スイッチング用のパワーMOS-FETは大型、高電圧、大電流、発熱が理由でIC化されずに残ったディスクリート素子ですが電源系やインバーターなどの用途
には必要不可欠です。現在、市販されているディスクリートのMOS-FETは大多数がスイッチング用です。

 大きく分けてスイッチング速度の遅い機械式スイッチの置き換え(アナログスイッチ)と高速スイッチングが必要なパルス回路用があります。同じ機能の部品としてはリレーが古くから使われています。(因みに、半導体式リレーの中身はスイッチング用MOS-FETに付随回路を組み合わせた形式が採用されているものもあります。)MOS-FETは機械式リレーのような接点の摩耗や火花の発生が無く高信頼・長寿命です。高速スイッチングは機械式接点では実現困難なMOS-FETの特長です。

 動作はスイッチングなのでON/OFFだけとなり難解なバイアス設定や増幅度関係の設計・計算、周波数特性に関わるチューニングなどが不要です。ただし、高速、大電流、高電圧に進化したパワースイッチング用には小信号用や増幅用の素子とは別な配慮が必要です。

品名 PKG VDSS ID PD Vth RON IDSS Yfs toff Ciss Qg
V A W V mΩ(typ) μA(MAX) S ns pF nC
2SK2233 TO-3P(N) 60 45 100 0.8-2.0 40 100 27 130 1800 60
2SK2313 TO-3P(N) 60 60 150 0.8-2.0 12 100 60 220 5400 170
2SK2995(F) TO-3P(N)IS 250 30 90 1.5-3.5 48 100 30 200 5400 132
2SK2847(F) TO-3P(N) 900 8 85 2.0-4.0 1100 100 7 95 2040 58
2SK2312 TO-220NIS 60 45 45 0.8-2.0 19 100 40 180 3350 110
IRFIZ24NPBF TO-220 55 14 29 2.0-4.0 70 25 19 370 20
IRF540ZPBF TO-220 100 36 92 2.0-4.0 21 20 43 1770 42
IRFB3307ZPBF TO-220 75 128 230 2.0-4.0 4.6 20 38 4750 42
IRLU3410PBF TO-251AA 100 17 79 1.0-2.0 105 25 7.7 30 800 34
IRF640NPBF TO-220 200 18 150 2.0-4.0 150 25 6.8 23 1160 67
IRF8010PBF TO-220 100 80 260 2.0-4.0 12 20 82 61 3830 81
IRF1010NPBF TO-220 55 85 180 2.0-4.0 11 25 32 39 3210 120
BUK7509-55A TO-220AB 55 75 221 2-4 9 10 2453 62
BUK7509-75A TO-220AB 75 75 230 2-4 7.7 10 5068
BUK9504-40A TO-220AB 40 75 300 1-2 3.7 10 6200 128
BUK9518-55A TO-220AB 55 61 136 1-2 14 10 1600 34
PSMN2R5-60PL TO-220AB 60 150 349 1.4-2.1 2.3 1 224 11700 223
PSMN4R2-60PL TO-220AB 60 130 263 1.4-2.1 3.6 1 84 8533 20
PHP79NQ08LT TO-220AB 75 73 153 1.1-2 15.5 1 101 3026 30

動作の要点

 スイッチング用MOS-FETはG(ゲート)-S(ソース)間にしきい値電圧Vthを充分上回るゲート電圧(ゲート・ソース間電圧VGS)を加えればD(ドレイン)-S間がONし、G-S間の電圧を0V(短絡)にすればOFFすることが動作の基本です。
小さな駆動電圧、駆動電流でより大きな電圧、電流の負荷をON/OFFできます。

 スイッチング用のMOS-FETを選ぶ場合は、リレーと同様にコイル電圧に相当するゲート駆動電圧を決めれば、あとは、スイッチの接点仕様に相当するD-S間の耐圧(VDS)と流す電流の大きさ(ID)で大体の規格が決まります。

→まとめ:
 ・G(ゲート)-S(ソース)間に与える電圧によってD(ドレイン)-S間がON/OFFします。
 ・OFFするにはG-S間を0V、ONするにはG-S間をVthという値の数倍の電圧にします。(ゲート閾値電圧Vthはデーターシートの電気的特性欄に記載されており、IDが流れだすぎりぎりのVGSとして定義されています。)→後で詳述
 ・OFF時にはD-S間に負荷の電源電圧が加わりON時には負荷の動作電流が流れます。すなわちFETのD-S間電圧の絶対最大定格VDSSとドレイン電流の絶対最大定格ID(max)がリレーの接点の耐圧と電流容量に相当し、負荷の電源電圧と動作電流に対し余裕を持った値のFETを選択します。
 ・理想的なON/OFF動作では電力損失は発生しませんが、MOS-FETのON時にはVDS=0VとならないのでVDS×ID分の電力損失が発生します。これがドレイン損失PDの絶対最大定格を超えないようにします。(ドレイン飽和電圧VDS(sat.)=ID×RON、ゆえにPD=ID^2×RON)場合によっては放熱などの熱対策を講じます
 ・IDの絶対最大定格に対し利用可能な大きさは50%以下となることが普通です。ON抵抗とその測定条件で判定します。
 ・耐圧VDSSはメカニカルなスイッチのようにタフではないので一瞬でも超えたら即破壊と考えて良いでしょう。(実際、半導体の破壊には一瞬で火を噴くようなモード以外に結晶が少しずつ壊れて特性が徐々に劣化するようなモードもあります。短期の実績だけでは判断できません。)

MOS-FETの駆動電圧と負荷の適性を判断するにはVthではなくデーターシートの電気的特性項目でON抵抗とその測定条件として記載されたVGSとIDを参考にします。 SSM3H137TUを参考例とすると、絶対最大定格はVDDS=34V,ID=2A(DC),PD=800mW(連続)です。 測定条件VGS=4V、ID=0.5AでRON=295mΩ(MAX.)とあり、 VGS=4VでONし、ID=0.5A流すとVDS=0.1475V(MAX,)でRON=0.1475V/0.5A=295mΩ(MAX,)となることを意味します。 平易な言葉では“4Vでの駆動が可能”で“ID=0.5Aまで流すことが可能”ということになります。 すなわち、VOH>4V、VOL<0.7Vのデジタル出力でON/OFFできます。(VOLはVthの最小値以下です。) この時のVthは4Vよりはるかに低い電圧(MAX.1.7V)です。(VthはONするかどうかぎりぎりの電圧として規定されます。)負荷に流すことができる電流は測定条件のID=0.5Aで絶対最大定格の2Aを下回るので注意します。ID=0.5Aはこの値でテストしたのでここまでは流せますという保証値です。特性図上ではそれ以上流せますが参考値扱いで保証がありません。独自判断でIDを増やす場合には、VDSとPDの上昇に注意します。 また、VDS=0.5A×295mΩ(MAX.)=0.148V(MAX.)ですが、IDが半分の0.25Aの時、VDSも半分の0.074V(MAX.)になるかどうかは厳密にいうとユーザーの独自判断で保証の範囲外です。 一般にFET側の駆動電圧設定にはおおよそのパターンがあり、5V、12Vなど標準的なデジタル回路の電源電圧に対応しています。たとえば、4V駆動が可能であれば電源電圧5VでVOH>4Vのマイコンポートで駆動できます。 VthはIDが流れ出すすれすれのVGSとして規定されており、十分なIDを流すためにはVthの2倍程度のVGSは必要なようです。駆動電圧は10Vが標準とされ、これに対応した製品を"標準レベル"、Vthが低く、5Vないし4.5V以下で駆動可能な製品を"ロジックレベル"などと呼ぶ場合もありますが、一部のメーカーの慣例のようです。“4V駆動”のように電圧で呼ぶのがより一般的なようです。Vthが低い製品でも実用時にゲート耐圧を超えないVGSまでは駆動可能です。なので、4V駆動品で10V駆動品を兼ねるような品種もあります。(4VでONするものは過電圧で壊れなければ10VでもONする。) 逆にOFFするためにはVGS≒0Vの必要がありますがVthが低すぎるとノイズ等でONする危険があります。

動作の要点 (a)リレー (b)FET

リレー(ラッチング等でない基本型)とMOS-FETの対比ではリレーのコイルと接点は電気的に完全に独立(1次2次絶縁)していること対し、MOS-FETのゲート側とソース-ドレイン側はソースが共通していること(1次2次非絶縁)に注意します。システムの基準電位がGNDでソースがGNDから浮いている場合、ゲートの駆動電圧はGNDではなくソースを基準に与える必要があります。またリレーのコイルと接点に極性はありませんがMOS-FETのゲート-ソース、ソース-ドレインには極性があります。
リレーのON時には常にコイルに電流を流しておく必要がありますがMOS-FETはゲートの電位を上げておくだけで電流は流さずともONします。(ただし状態の遷移時にゲートの充放電電流が流れます。小型LEDの点滅程度では無視できるような値ですが高速のスイッチング時には設計上の配慮が必要です。)

 アナログパワーアンプは意図的に損失を発生させて出力を加減するため出力デバイスの違いはあまり損失に影響しません。そのため、電源電圧や動作点、出力の大きさから損失を算出し、それに耐えうる規模のデバイスを選びます。それに対し、スイッチングは理想的には無損失なので損失は主にMOS-FETの性能と使い方の問題となります。オン抵抗やスイッチング速度などMOS-FETの性能に対応して損失が求まるので、スイッチング用MOS-FETの選択時はメカニカルなスイッチを選択する場合と同様に、先ず耐圧と電流で選択を絞り次に損失の見積もりと言う順序が簡単だと思います。(電圧・電流は絶対最大定格で代表する場合が多いですが実用時は十分なマージンを確保してください。)同時にゲート駆動電圧にVthが対応するものに絞ります。

 特別な要素としてスイッチングの速さを考慮する必要があります。これはデーターシート上にスイッチング速度として記載されている他、ゲートの駆動方法が大きく関係します。MOS-FETのゲートはコンデンサーと等価なため速い速度で電圧を上げ下げするには大きな電流で充放電しなければなりません。具体的にはデーターシートにおける入力容量と入力電荷に関連する特性値を考慮します。マイコンの汎用I/O出力ではVthを超えるゲート電圧を与えることはできたとしても高速スイッチングに必要な電流は出力できないので、間にゲート駆動用のドライバー回路を設けます。DC電源ライン切り替えのパワースイッチなどスピードの遅い回路ではゲート電圧を確保できればON/OFFは可能ですが切り替わりの遷移時にMOS-FETが能動状態に入るので異常動作に注意します。

 汎用の部品で高速スイッチング用のゲート駆動回路を構成するのは技術力と物量を要しますがIRS2110のような汎用ゲートドライブICを使うと簡単です。またもともとMOS-FETを外付けとすることを想定したICでは出力回路が直結可能なように設計されているはずです。リファレンスデザインで指定されたMOS-FETが入手できない場合は似たような特性の代替品を選択すれば多少の違いはあってもリニア回路のように動作点がずれて全く動作しなかったり異常に発熱したりという確率は低いでしょう。


最近の製品動向について

 技術の進歩に伴って古い製品が淘汰されて行くのはMOS-FETも例外ではありません。各社で製品ラインナップの刷新が進んでいます。特に旧い型番規定の2SK,2SJが廃番となりつつあり選択肢が減っています。新製品はメーカー独自名称なのでそちらも調査してください。性能の向上した新製品での代替が推奨されますが、まったく同等品では無いので注意します。

 例えば東芝のMOS-FETで人気のある2SK2233、2SK2312(初稿執筆時点でメーカー発表の生産状況は新規設計非推奨または生産終了予定)はVth=0.8~2Vですがメーカーの代替推奨品はいずれもVth=2~4Vです。


損失について

 スイッチング動作ではOFF時はMOS-FETに電流が流れずON時は電圧が掛りません。そのため電圧×電流=電力損失は原理的にゼロです。しかし、ON時はドレイン飽和電圧がD-S間に存在し、損失の原因になります。飽和電圧は"オン抵抗"(RDS(ON))というより直感的な値としても表記されています。(オン抵抗=飽和電圧/規定のドレイン電流)オン抵抗は数十mΩ以下の値のことも多いですがIDの規格なりに大電流を扱うと看過できるほど小さくありません。ゲート電圧がVthを充分上回らないと半導通状態となりオン抵抗は増えます。このほかスイッチングの遷移時に電流・電圧が中間的な状態になることなども損失の原因となります。(立ち上がり、立ち下がりの時間が長いと損失が増えます。)

 スイッチング用のMOS-FETはリニアな動作を考慮したトランジスタ等と比較するとVDSやIDの最大定格に対してPD(ドレイン損失)が小さくパッケージも小型なことが多いのは原理的に損失を発生しにくいという事情を反映しています。リニア回路への流用など回路設計によっては損失のある使い方も可能ですが一般に小型パッケージはパッケージと放熱板の間の熱抵抗が大きいため放熱がうまくいかない場合もあり得ます。


ゲートドライブの電流と電圧の目安

 MOS-FETは入力インピーダンスが高く駆動が簡単と言われますが、高速にON/OFFするためは瞬時に電荷を充放電しなければなりません。ON/OFFに必要な電荷はデーターシートにゲート入力電荷量Qgという値で記されています。

Q(電荷)=i(電流)×t(時間)|i一定の場合

 なる関係があるので、Qg/t(t:立ち上がり時間・任意に設定)がON/OFFに必要な電流の目安になります。(正確な動作はミラー効果と呼ばれる現象の影響などがあり、もっと複雑です。)例えば、Qg=100nCでt=1μs=1000nsとしたいとき、Qg/t=0.1AなのでマイコンのI/Oポート直結などでは力不足です。

 Qgがデーターシートに記載されている場合、測定条件としてVGSが記載されていますが、この値が確実にONするVGSの目安と考えて良いでしょう。(Vthの数倍です。)


VDSの耐圧とID

一般に高耐圧と大電流は両立せずIDの大きいものはオン抵抗が小さいが耐圧は低く、高耐圧のものはIDが小さい傾向にあります。IDの小さいものは入力容量やゲート入力電荷が小さくなり駆動が楽です。(これらは同じプロセスの製品に関して言えることで、メーカーや開発世代が異なる製品間では関係が逆転することもあります。)耐圧とIDに関しては、大は小を兼ねるという使い方をせず必要に合わせた大きさのものを選択することが性能の向上につながります。


アバランシェ耐量、dV/dt耐量

 負荷の挙動に対する耐久性を表します。
ソレノイドやモーターなど誘導性の負荷をON/OFFする場合、メカニカルなスイッチでも火花(サージ)の対策が必要ですが同様な事象に対する指標です。
ここでの説明のレベルを超えるので詳説は割愛しますが、
「従来はサージ吸収用回路を付けて素子を保護する必要がありましたが、部品点数の削減や機器の小型化からサージ吸収回路をなくし、定格を超える場合でもそのエネルギーをパワーMOSFET で吸収させる要求が強まっています。この要求にこたえるため、アバランシェ耐量の条件下で素子の自己ブレークダウン電圧まで使用できる製品もラインアップされています。」(東芝アプリケーションノート2018-7-26より)
だそうです。
つまり、先ずは従来型のスナバーやサージキラーでサージを抑え耐圧を守ることが簡単確実と言えます。
破壊のメカニズムはダイオードが逆耐圧を超えるような単純なものではなく寄生素子も関係する複雑なものです。(寄生素子=構造上、主体のMOS-FET以外にできてしまう素子。PNの接合=ダイオード、など。)詳細は各メーカーのアプリケーションノートを参照して下さい。


リニア増幅用MOS-FETとの違い

 スイッチング動作はカットオフ(OFF)と飽和(ON)の二点のみ使用し、この2点ではゲート電圧が微小な変化をしても出力電流は変わらないのでgm(≒Yfs、増幅度)はゼロです。これらの動作点では原理的にgmの大きさ(ゲインのばらつき)や発振防止などの配慮は必要ありません。ただしON/OFFの遷移時に波形が振動的になる場合があるのでゲートに直列にダンピング抵抗を入れるなどの施策が一般的です。

 確実なON/OFFのためには(ドレイン電流の変化)/(ゲート電圧の変化)≒gm(正確にはgmは微小変化に対する微分的な概念)が大きい方が有利ですが増幅用のように直線性(ドレイン電流の変化とゲート電圧の変化が比例関係に近いこと)は重要ではありません。 (なぜならゲートがON電圧(VGS(ON))の時にD-S間ONになりOFF電圧(VGS(OFF))の時D-S間OFFになりさえすれば良いので中間のVGSに対してはON/OFFを妨げる動きをしなければ良いからです。)
 また、リニア動作では電極間の容量が大きいと高周波域での増幅度の低下や発振の原因となります。高周波の小信号用では内部構成をカスコード接続とし特に問題となる帰還容量Crssの影響を抑えている品種もあります。(小信号の2SK241など。)スイッチング動作では低インピーダンス駆動でゲートに高速充電できれば良いので高速スイッチング用のMOS-FETでも電極間容量は巨大です。その場合でも動作点がONかOFFで増幅作用が無いため発振はしません。

 原理的にはMOS-FETにスイッチング用もアンプ用もなく、その用途に必要な特性を満たせば使用可能です。ただし、スイッチング用のMOS-FETは増幅用としては最適化されていないので増幅用としての適性はユーザーが独自に評価して判断する必要があります。


SiCパワーMOS-FET

 近年、半導体として従来のSi(ケイ素)に代えSiとC(炭素)の化合物であるSiCを用いたMOS-FETがクローズアップされています。かいつまんで言うとSiに比べてタフで特に高耐圧化と高耐圧での低RON化が得意なことが特徴です。この素材が持つ特性を生かしてパワーエレクトロニクス向けの高耐圧デバイスが開発・供給されています。今のところは従来のMOS-FETの延長線上にあり一部分に飛び抜けた特性値を持った製品群として考えれば良さそうです。従来の視点で100点満点かと言うとそうとも言い切れず、特にVthがSiの従来品より数倍高いので直接の置き換えは難しいかもしれません。(最新世代でかなり改善したというメーカーもあります。)
 なお、オーディオのアナログパワーアンプ用としても注目されているようですがデーターシートの記載を見る限りあくまでスイッチング用です。


スイッチング用小型MOS-FET・ロードスイッチ用小型MOS-FET

 ID=数十AのパワーMOS-FETとは別に2N7002のようなID=1A以下の小型MOS-FETも良く使われています。IC周辺回路のカスタマイズ(=ICそのままでは微妙に対応し切れない"小細工")に使われることが多いようで、マイコンによるLEDの点灯回路やリレーやサウンダーの駆動などがその例です。メインの電源とバックアップ用の電源の切り替えなどに使うロードスイッチとしての使用例も多いようです。これらの用途にはバイポーラトランジスタや汎用ドライバー用小規模ICが使われていましたがVthの低電圧化や用途に適する小型製品の登場によりMOS-FETが採用されるようになったようです。動作はパワーMOS-FETと同じです。IDが小さい分、他も小さくなっています。小さい方が容易な面もあり、特にゲート入力電荷Qgはマイコンポートで高速駆動可能な程度に小さくなっています。ベース電流の制限抵抗が必要なバイポーラトランジスタと違い、Vthさえ条件を満たせば出力ポートに直結可能な点は有利です。三端子パッケージなので一回路であればドライバーICよりも小型化できます。

 MOS-FETはキャリア蓄積が無いためバイポーラトランジスタと比較して高速スイッチングに向くとされます。しかし、指定通り使えば動作が保証されるICと異なり、ディスクリートのMOS-FETは抵抗やコンデンサーと同じ基本部品なのでメーカーの保証の付いた限定的な使い方はありません。どのような動作や特性が実現できるかは使い方次第です。

 パワースイッチング用のFETはMOS型しか使われませんが数十mA以下の小信号用、電圧スイッチにはJ-FETも使われています。

品名 PKG VDSS ID PD Vth RON IDSS Yfs toff Ciss Qg
V mA mW V Ω(typ) μA(MAX) mS ns pF nC
SSM3K7002BSU (面実装) 60 200 150 1.0-2.5 1.62 1 225 18 17
2N7002E SOT23 60 240 350 1.0-2.5 1.2 1 600 18 21 0.4
2N7000BU TO-92 60 200 400 0.8-3 1.2 1 320 10 20 -
SSM3K15AMFV 30 100 150 0.8-1.5 2.3 1 35 35 13.5
SM3K56FS SSM 20 800 150 0.4-1 0.186 1 1400 8.5 55 1
SSM3K324R SOT23F 30 4000 1000 0.4-1 0.045 1 10500 9.5 200 2.2
SSM3J331R -20 -4000 1000 0.7 0.046 1 7200 68 630 10.4
SSM3K337R 38 2000 1000 0.7-1.7 0.135 10 4100 700 120 3
IRF5803PbF -40 -3400 2000 2 0.112 -10 4000 88 1110 -

スイッチング用以外のFET


1.高周波用パワーFET

 送信機の出力段やその前の励振段に使われるパワーFETです。放熱器への取り付けとマイクロストリップラインとの接続に同時に対応するため独特の形状をしています。高速スイッチング用と高周波用で同じような名称のイメージがありますがパッケージ以外に電気的特性もまったくの別物です。

品名 備考 PKG VDSS ID PL(AV) GP
V A W dB
BLF6G27-10 1-carrier N-CDMA、f=2500 to 2700MHz SOT975B 65 3.5 2 19
BLA6H0912-500 pulsed RF、f= 960 to 1200MHz SOT634A 100 54 450 17

2.高周波小信号用FET

 高周波の増幅や発振に使われる小信号用のFETです。帰還容量の影響を避けるため内部をカスコード接続とし中和無しで安定なアンプのできる2SK241(MOS-FET)や2SK161(J-FET)、ゲート接地用のU310や2SK125、ゲートが2つありミキサーの構成が容易な3SK35など特徴のある定番品が存在しましたが旧来からの製品はほとんどが生産終了になりました。ただし、面実装型であれば類似の海外製品が入手可能なものもあります。また生産中止品を専門的にリバイバルさせているメーカーもあります。

高周波用小型FET(MOS-FET)

品名 備考 PKG VDS IDSS PD VGS(off) Yfs Ciss Crss GPS NF
V mA mW V mS pF pF dB dB
2SK241 (参考:MOS-FET、内部カスコード接続、低Crss、生産終了) (リード線型) 20 1.5-14 200 -2.5 10 3 0.035 28@100MHz 1.7
BF991 デュアルゲートMOS-FET (第二ゲートをソースにバイパスすることでカスコードと等価に) SOT-143 20 4-25 200 -2.5(G1) 14 2.1(G1) 0.02 29@100MHz 1.7
BF908 デュアルゲートMOS-FET(上限1GHz) SOT-343R 12 3-27 300 -2(G1) 43 3.1(G1) 0.03 1.5@800MHz

高周波用小型FET(J-FET)

品名 備考 PKG VGDO IDSS PD VGS(off) Yfs Ciss Crss GPS NF
V mA mW V mS pF pF dB dB
2SK192A (参考:J-FET、生産終了) -18 3-24 200 3 7 3.5 0.65 24@100MHz 18
2SK161 (参考:J-FET、低Crss、生産終了) -18 1-10 200 -4.4 9 6 0.15 18@100MHz 2.5
BF512 非対称J-FET SOT-23 -20 6-12 200 -2.2 5@100MHz 5 0.4
BF556A 対称型J-FET SOT-23 ±30 3-18 250 -7.5 2@100MHz 3 0.9
BF556B
BF556C
BF545A~C 対称型J-FET SOT-23 ±30 2-25 250 -8.2 3-6.5 3 0.9
J309ーD ゲート接地用J-FET、2SK125類似 TO-92 25 12-30 350 -5 12
MMBFJ310 ゲート接地用J-FET、J310の面実装版 SOT-23 25 24-60 350 -8.5 12 16@100MHz

3.汎用・低周波用J-FET

 汎用・低周波の小信号用FETはほとんどがJ-FETです。ディスクリートFETの全盛期にはMOS-FETが技術的に未発達だったことが理由の一つのようです。(MOS-FETはJ-FETと比較して1/fノイズが大きく低周波で不利です。)国内での定番は2SK30Aですが生産終了となりました。TO-92型のようなリード線引き出しのパッケージはパッケージ自体が世界的に生産終了の方向にありますが、面実装品であれば同様な規格の製品は今のところ入手可能です。

 G(ゲート)を中心にS(ソース)、D(ドレイン)が対称で入れ替え可能なものが多く増幅用以外にメカニカルなスイッチ同様の双方向アナログスイッチも特徴的な用途の一つです。(通常のMOS-FETはゲートと対になって電流の道(チャネル)を構成するバックゲートがソースに接続された構造のためソース・ドレインの入れ替えはできません。)

 デプレッション型であるJ-FETの特性を生かしてG-Sを接続した定電流回路も良く使われる用途です。これは機能的には定電流ダイオードで代替できます。

品名 備考 PKG VGDO IDSS PD VGS(off) Yfs Ciss Crss NF
V mA mW V mS pF pF dB
2SK30A (参考:J-FET、対称型、生産終了) TO-92 -50 0.3-6.5 100 -5.4 1.2 8.2 2.6 0.5@120Hz
BF545A~C 対称型J-FET、DC、LF、HFアンプ用 SOT-23 ±30 2-25 250 -8.2 3-6.5 3 0.9
PMBFJ111~113 対称型J-FET、スイッチング用(NXP) SOT-23 ±40 2-(20) 300 -10.5 22 3
J111 対称型J-FET、スイッチング用(FSC) TO-92 -35 20 625 -10.5
J112
J113
MMBF5457 対称型J-FET、LFアンプ、スイッチング用 2N5457~5459の面実装型 SOT-23 25 1-16 350 -8.5 1-6 4.5 1.5
MMBF5458
MMBF5459
MMBF5460 対称型J-FET、LFアンプ、スイッチング用 2N5460~5462の面実装型(P-ch) SOT-23 -40 -17 225 0.5-6 1-6 5 1
MMBF5461
MMBF5462

J-FETの国産品主体の現行製品一覧表

品名 PKG VGDS/VGDO IDSS PD VGS(off) Yfs Ciss Crss NF IGSS VGS1-VGS2
(dualのみ)
V mA mW V mS pF pF dB nA mV
2SK30ATM TO-92 -50 0.3 to 6.5 100 -0.4 to -5.0 1.2(min.) - 8.2(typ.) 2.6(typ.) 0.5(typ.) 5.0(max.) -1 (single)
[終了品]国産汎用J-FETのデファクトスタンダード
2SK208 TO-236MOD -50 0.3 to 6.5 100 -0.4 to -5.0 1.2(min.) - 8.2(typ.) 2.6(typ.) 0.5(typ.) - -1 (single)
2SK30Aとほぼ同じ規格の表面実装品。ノイズのリミットなし
2SK879 SC-70 -50 0.3 to 6.5 100 -0.4 to -5.0 1.2(min.) - 8.2(typ.) 2.6(typ.) 0.5(typ.) - -1 (single)
2SK30Aとほぼ同じ規格の表面実装品。ノイズのリミットなし
2SK117 TO-92 -50 1.2 to 14 300 -0.2 to -1.5 4(min.) 15(typ.) 13(typ.) 3(typ.) 1(typ.) 2(max.) -1 (single)
[終了品]国産ローノイズJ-FET
2SK209 TO-236 -50 1.2 to 14 150 -0.2 to -1.5 4(min.) 15(typ.) 13(typ.) 3(typ.) 1(typ.) - -1 (single)
2SK117とほぼ同じ規格の表面実装品。ノイズのリミットなし
2SK880 SC-70 -50 1.2 to 14 100 -0.2 to -1.5 4(min.) 15(typ.) 13(typ.) 3(typ.) 1(typ.) - -1 (single)
2SK117とほぼ同じ規格の表面実装品。ノイズのリミットなし
2SK2145 2-3L1C
(SC-59類似)
-50 1.2 to 14 300 -0.2 to -1.5 4(min.) 15(typ.) 13(typ.) 3(typ.) 1(typ.) - -1 -
2SK117とほぼ同じ規格のデュアル表面実装型J-FET。VGS1-VGS2の規定なし
2SK240 2-6F1A
(TO-92x2)
-40 2.6 to 20 400x2 -0.2 to -1.5 15(min.) 22(typ.) 30(typ.) 6(typ.) 0.5(typ.) 2(max.) -1 20(max.)
[終了品]ローノイズデュアルJ-FETの定番品。マッチング特性(VGS1-VGS2)が規定されていた
JFE2140 SOIC,WSON -40 12 to 23 (放熱依存) -0.9 to -1.5 24(min.) 30(typ.) 17(typ.) - (Vn=1.1nV/√Hz,
@1kHz,2mA)
- ±0.06 4(max.)
[参考]ローノイズデュアルJ-FETクランプ回路付き,TI製
JFE150 SOT-23-5,
SC70-5
-40 24 to 46 (放熱依存) -0.9 to -1.5 55(min.) 68(typ.) 30(typ.) 7(typ.) (Vn=0.9nV/√Hz,
@1kHz,2mA)
- ±0.01 (single)
[参考]高性能J-FETクランプ回路付き,TI製
2SK2880 TO-92S micro -50 0.3 to 12 450 -0.3 to -6 1(min.) 3(typ.) 8(typ.) 1.5(typ.) - - -1 (single)
リード線付きJ-FETの現行品。コンプリメンタリ(2SJ498)が存在する
2SJ498 (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略) (省略)
2SK2880のコンプリメンタリ
2SK2881 TO-92S micro -50 1 to 12 450 -0.1 to -3 6(min.) 15(typ.) 20(typ.) - 1.5(typ.) 2.5(max.) -1 (single)
リード線付きローノイズJ-FETの現行品。NFの上限が規定されている

4.オーディオ小信号用FET

 オーディオ用は汎用・低周波用と大体は同じです。汎用の2SK30A(生産終了品)はオーディオ用としても定番です。しかしオーディオ用には超ローノイズ品や差動回路用のデュアルFETなど特殊な定番品もあります。(ありました。)従来からの定番品はほとんどが生産終了となりました。代替の困難なものがほとんどですが面実装の類似品や他のメーカーによる相当品が存在する品種もあるようです。


5.オーディオ用パワーFET(アナログパワーアンプ用)

 オーディオのアナログアンプに使用されるパワーFET(MOS-FET)です。最終的には2SK1056/2SJ160(コンプリメンタリ)とその耐圧違い版がほとんど唯一現役でしたが供給は定かではありません。(2023年6月時点で新規採用非推奨品としてメーカーサイトに存続していますが各販売店では販売終了です。)MOS-FETの発達初期にはそれらと同様の製品がリニア(アナログ)にもスイッチング用に使われていた時期もありますがリニアアンプ(アナログアンプ)用にはスイッチング用に発達した製品より旧型の製品の方が使いやすく各メーカーが最後までオーディオ用として供給していた製品も旧型製品の継続品です。(最近のスイッチング用とは電気的な特徴が異なります。)
 なお、J-FETは構造がハイパワー化に向かずパワーFETはすべてMOS型です。例外としてJ-FETの構造を改良してハイパワー化したSITの民生版がV-FETと称されてオーディオ用に生産されたこともありましたが短期間で生産終了となり幻と呼ばれる存在になりました。
 最近のパワースイッチング用のMOS-FETはアナログパワー段用として製造されていた旧製品に比べgmと入力容量が桁違いに大きく同じ回路上での置き換えは困難です。SEPPを組む場合はコンプリメンタリのPch側が存在しない場合がほとんどです。(それらしい仕様の製品が存在することがありますがデーターシートやセレクションガイドに明記されません。)
 スイッチング用パワーMOS-FETが技術的なブレークスルーで爆発的に大電流化した時期にその強力さに注目した一部のオーディオメーカーやマニアが特別扱いで採用したこともあったようですが素子の特徴ゆえに回路設計には特別な配慮が必要だったようです。
 旧型のオーディオ用パワーMOS-FETはゲート駆動電力が小さく熱的に安定である等の理由でバイポーラトランジスタ以上の簡便性が謳われていましたがもはや相当する現行製品は見当たらなくなり、わずかな市場在庫が頼りです。
(オーディオアナログパワーアンプ用のバイポーラトランジスタは縮小方向も現在でも製造されています。)

→現在のパワーMOS-FETはスイッチング用に特化されておりアナログのパワーアンプの終段用には不向き
→オーディオアナログアンプのパワー段にはバイポーラトランジスタを使用するのが現実的


FETの使い方

 FETは抵抗やコンデンサと同様に基本部品なので様々な機能を構築できる素養を持っています。1980年代初頭位までのICが未発達で高価だった時代にはFETも含めたディスクリート(単体・個別)部品を用いてアナログからデジタルまで様々な回路を構築していました。現在では、およそ必要な機能はIC単体やICを中心としたメーカーのリファレンスデザイン等で実現されておりディスクリートで一からの実現を試みるより先に既存のリソースを探して利用した方が機能・性能、コスト、製作期間、資材の供給、サポート体制等すべての面で有利です。(そこでディスクリートのFETを外付けする場合もあれば全く不要な場合もあります。どのようなものをどのように使うかはそれぞれのアプリケーションノート等に従ってください。)
 例えば汎用品で最も低価帯のOPアンプICと同等性能のアンプ回路をディスクリートで製作するにはOPアンプICの数倍から数十倍の価格の差動トランジスタを用意しなければなりません。大体が特殊品なので生産品のBtoB対応でも数年の納期を提示されることも覚悟する必要があります。ディスクリートアンプは調整や素子の選別が不可避な場合が多く、調整用のトリマー抵抗一個の価格で無調整かつ高性能なOPアンプICを購入できます。部品の選別は好条件でも必要数の10倍以上からの抽出になります。
 人間の感性が絡むオーディオ用は代替が難しい分野でしたがアナログのオーディオアンプ用として人気のあったFETはほぼ製造中止となりメーカー指定の明確な後継品、代替品もありません。以前は特にレアでは無かったような平凡でありふれたパーツを用いても従来のやり方を踏襲することがほとんど不可能になりました。ここでの解説を超えるようなハイレベルな回路研究目的か経済性や合理性、結果責任を問わない趣味でなければOPアンプICやパワーアンプICの利用が現実的です。
 アナログのパワー段にはバイポーラトランジスタの方が比較的有望です。(メーカーで“オーディオアンプ出力段用”と銘打った現行品が生産されています。)
 最近のパワーMOS-FETのデーターシートにはRONの記載はあってもYfs(≒gfs、gm:相互コンダクタンス)の記載が無いものが増えました。特性曲線(ID-VDS線図)はRONの挙動がわかる低VDSの範囲しかなくアナログアンプのロードラインを引くには不適切です。アナログアンプへの応用はメーカーの眼中に無いということでしょう。
(データーシートにYfs関連の記載が無いということはON/OFF動作のみが保証の対象でアナログ的な動作には関与しないということです。サイリスタのようにあるVGSで階段関数的にONする動作でも規格上OKです。)

 ここではちょっとしたマイコンポートの能力増強等で現在でもICと互角の実現性と利便性があり現行品のFETでも無理なく対応可能な低速のスイッチングに限定して解説します。

※アキバを中心とした小売り店では“最近のものでない”古い製品もまだまだ入手不可能です。
そのような製品の取り扱いについては“古文書”を紐解いてください。


MOS-FETを使用した汎用デジタルポートの能力拡大

 スイッチング動作に限ればFETはメカニカルなリレーと同様の動作をします。
G(ゲート)-S(ソース)端子がコイル、D(ドレイン)-S(ソース)端子が接点にそれぞれ相当します。 リレーと異なりS(ソース)が共通しているためコイルと接点の片側がつながった状態なので駆動電圧=ゲート電圧(ゲート・ソース間電圧VGS)の与え方には工夫が必要な場合もあります。 ここではLED点滅などの比較的スイッチングスピードの遅い回路を対象とした駆動回路例を紹介します。

 ゲートを駆動するコントローラとして代表的なデバイスはMCU(マイコン)です。
例としてArduinoのメインエンジンであるAtmega328p(マイクロチップ)の汎用ポートはIOL=20mAでVOL=0.9V(VCC=5V、Ta=85℃)と言う規格です。
負荷の電流がそれ以上に大きい場合や、MCUの電源電圧(5V)以上の電圧を負荷にかける場合、MOS-FETの外付けも有効です。外付け“も”とあるのはより適切な専用ドライバー(IC)や半導体リレーの類が存在する場合も多いからで、その選択肢も忘れないでください。
 MCUはグラウンドを基準に動作するのでMOS-FETを接続する場合、Nチャネルのものを使用しS(ソース)をグラウンドに、G(ゲート)をマイコンのポートに、負荷を電源とD(ドレイン)の間にそれぞれつなぎます。GとマイコンポートはVthが適合すれば直結できます。
 例えばSSM3K345R(東芝)の場合、データーシートにはVGS=2.5V、ID=1AでRDS(ON)=45mΩ(MAX.)とあるのでデーター上は先のAtmega328p(IOH=-20mAでVOH=4.2V(VCC=5V、Ta=85℃))に直結可能でIOLの能力を数10倍に拡大できます。
 グラフは参考値で保証値は定格表の最大値または最小値です。実施責任が問われる場合、頑として保証値を順守するかメーカーに直接確認を取る必要があります。後者の場合、あらかじめ回答が用意されているような一般案件でなければメーカーは何もコメントできないはずです。(すべてのユーザーに関係するので。)
 いずれの場合も、直結して問題が生じないことはマイコンメーカー、FETメーカー共に保証はしておらずユーザーが評価して判断しなければなりません。
 ICや完成した機能モジュールであれば規定の範囲での動作が保証されます。


FET周辺のR等の役目

 仮に電源立ち上がり時にマイコンのポートがハイ・インピーダンスとなる場合、FETのゲート電圧も不定となり不正な電流が負荷に流れる恐れがあります。そのような場合、G-S間に抵抗をつないでおくことで電圧を0Vに固定する対策法があります。また詳説はしませんがマイコンとゲートの間に直列に抵抗をつなぐことで諸問題を解決できる場合もあり、あらかじめ“おまじない”的に入れる場合もあります。
 負荷は電源とD(ドレイン)の間につなぎますが電源は前段のマイコン等と独立して与えることができます。5V電源のマイコンで12V駆動のLEDをON/OFFする等が可能で、その場合負荷側(LED側)の電源電圧を12Vにするだけでゲート側は何も変更する必要がありません。
 マイコンやデジタルICのちょい足し用途にはポートの電流電圧の拡大以外にもオープンドレインのインバーターとして使うこともできます。基本回路で負荷を単なる抵抗とし電源とD(ドレイン)につなげばFETの出力電圧はマイコンのポートとは論理が反転します。また、FETの出力レベルはVOH≒FETの電源電圧、VOL≒0VとなりFET側の電源電圧を変えることでレベル変換できます。
 スイッチとしてのFETがONになるときに出力電圧はLOWとなることに注意してください。
 1回路入りの標準ロジックインバーターを使った場合、入出力と電源・グラウンドの最小4ピンですがMOS-FETは最小3ピンで小型化が期待できます。

Nチャンネルの駆動 基本形

マイコンポート等でゲートを駆動する場合、出力電圧レベルVOHが不十分な場合(VGS(ON)=10VのFETをVDD=5Vのマイコンで駆動するような場合)、バイポーラトランジスタ等を追加して十分な駆動電圧に増幅(変換)します。この場合も前述のMOS-FETを使った基本回路を応用できます。
MOS-FETの駆動電圧の適性を判断するにはVthではなくデーターシートの電気的特性項目でON抵抗またはON時ドレイン電流の測定条件であるVGSを参考にします。例えば測定条件VGS=4VでRON=100mΩとあれば4Vでの駆動が可能です。この時のVthは4Vよりはるかに低い電圧(<2V)になります。(VthはONするかどうかぎりぎりの電圧として規定されます。VGS=VthではONしてもIDが小さく実用的な大きさに達しません。)
図5のようにプルアップ抵抗でMOS-FETのゲートを駆動する場合、プルアップ抵抗でゲート容量を充電する形となるので高速スイッチング用途には速度(立ち上がりの波形)が問題になります。
プルアップ抵抗を小さくすることである程度は対処できますが限度があります。
より本格的な対処方法としてはゲートドライブICを使います。

電圧変換を用いる

負荷をグラウンドに接続しなければならない場合

 安全性や安定性の関係で片側をグラウンドに接続する必要のある負荷やあらかじめ2端子の片方がボディグランドに接続されたデバイスの電源をON/OFFするような場合、スイッチとなるFETを負荷と電源の間に接続しなければなりません。
 NチャネルFETを使用した基本回路は負荷の+側を電源につなぎFETを負荷のー側とグラウンドの間につなぐ必要があります。つまり、負荷のプラス側を電源に固定しグラウンド側を浮かせてON/OFFする必要があります。
 グラウンド側をフローティングにできない負荷に応用することは簡単ではありません。
 このような場合、PチャネルのFETを使えば比較的簡単に対応可能です。
 Nチャネル(図2)の回路の上下を反転した形となり動作(電圧の極性関係)も上下反転します。
 MOS-FETはS(ソース)の電位を基準に動作し多くの場合、基準電圧=グラウンド電圧(0V)になりますがPチャネルの場合はNチャネルと極性が反転します。(基準電圧=電源電圧)
 注意点は前段(駆動側)のHIレベル(VOH)でFETがOFFになる点です。つまりは前段のHIレベルがほぼ電源電圧まで上がり切らなければFETはOFFしません。先のAtmega328p(マイクロチップ)の汎用ポートはIOH=-20mAでVOH=4.2V(VCC=5V、Ta=85℃)と言う規格でNチャネルの場合のVOL=0.8Vに相当するのでFETを選べば対応可能です。(Vthで判断)いわゆる“C-MOSレベル”のデジタル出力では出力電圧の上下が対称なのでこのようになりますが、“TTLレベル”の場合、出力電圧レベルはグラウンド側に偏っているのでVGS(OFF)の規格上でPチャネルFETとの相性は良くありません。

Pチャンネルの駆動 基本形

PチャネルFETのOFFレベルを確実に満たすためには前段にレベルシフト回路を接続します。
Nチャネルの回路の場合、負荷側の電源電圧だけを変えることで負荷の動作電圧を任意に変えることができました。
Pチャネルの回路では負荷側の電源(PチャネルFETのS(ソース)につながる電源)の電圧は前段と共通でむやみに変えることはできません。前段をレベルシフト回路にすれば負荷側の電源電圧も自由に変更できます。

トランジスタを用いた例

 図6はPチャネルFETを使う少し具体的な例でマイコンを用いた鉛蓄電池の充電回路例です。
マイコンで充電状況を監視し鉛蓄電池とソーラーパネルの接続をON/OFFします。
鉛蓄電池がシステムの電源の場合、マイナス端子はシステムのグラウンドに直に接続されていることが多いと推定します。このような場合にPチャネルFETを使ってプラス端子側をON/OFFする方法が使えます。
1次2次絶縁型の半導体リレー等の代替法もあります。

マイコンを用いた充電制御回路


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