FMトランスミッタ(ワイヤレスマイク)はマイクからの音声または音楽ソース等を微弱電波で飛ばし、
FMラジオで飛ばした音声等を聞く装置です。従来から「キット」などでも色々と製品化されています。
今回は、その動作原理を簡単に説明します。
◎電波について
中波放送、短波放送、FM放送でのラジオの仕組みは次のようになっています。
図1のように高周波電流(電圧)をアンテナに接続すれば
電波が発射されます。
しかし、この中には音声信号が含まれていませんので、
音声信号を伝えられません。
したがって、高周波電流に音声信号を乗せる操作が必要
になり、この操作を「変調」(へんちょう)と言います。
AM放送、FM放送はすべて「変調」を行って電波を発射しています。
このAM、FMは変調の方式を意味していて、
AM 振幅変調(Amplitude Modulation)
FM 周波数変調(Frequency Modulation)
の略で、中波放送、短波放送はAM、FM放送はFMで変調を行っています。
変調する装置を「変調器」と呼び、高周波電流(電圧)を「搬送波」(はんそうは)と呼びます。
また、音声信号は一般的に「信号波」と言います。
送信側、受信側の簡単な構成図を図2に示します。
受信側は変調されたものを元の信号波(音声信号)に戻すために「復調」(ふくちょう)という操作を行い、
この装置を復調器と言います。
受信側にある「同調」(どうちょう)は希望の放送波を選択する部分です。(選局すること)
 ○ AM
AM波は図3のように搬送波の振幅を信号波で変化させたものです。
信号波と搬送波を合成しただけでは図3 c ) のAM波にはなりませ
んが、最終的に c ) の形になります。
例えば中波放送のTBSラジオは周波数が954KHzですが、
これは図4のような波形になっています。
つまり、搬送波の周波数が954KHzです。
受信側の一番簡単な例として図5に「ゲルマラジオ」の回路を
示します。
FM波は図6のように信号波の振幅の大きさで搬送波の周波数
を変化させる方式です。
信号波の振幅がゼロの時の搬送波周波数を基準として
・信号波の振幅がゼロ
    搬送波周波数は変化しない。
・信号波の振幅がプラス方向
    搬送波周波数は高くなる
・信号波の振幅がマイナス方向
    搬送波周波数は低くなる
搬送波の周波数の変化量は使用する無線設備で決められていて
FM放送であれば、最大ア75KHzになっています。
この最大値の周波数変化量を「最大周波数偏移」と言います。
例えば、80MHzの搬送波であれば
80MHz + 75KHz = 80.075MHz
80MHz - 75KHz = 79.925MHz
ということです。
◎FM変調の原理
FM変調の方法はいろいろありますが、今回は
「バリキャップダイオード」を用いた方法を
紹介します。
バリキャップダイオードはダイオードの一種で、図7のように
逆方向電圧を加えると端子間容量(コンデンサ)が変化します。
したがって、見かけ上は、コンデンサ容量が変化する可変コンデンサ
です。
この性質を利用して共振回路のCとして使えば、共振周波数
が変化します。
つまり、バリキャップに音声信号を加えれば共振周波数
(搬送波)が変化しFM変調を行うことが出来ます。
◎FM変調の設計例
 ○ コルピッツ発振回路
ここでは入門書等でよく解説される「コルピッツ発振回路」で設計してみます。
実際の回路を図10に示します。
R1、R2、R3はトランジスタを動作させるためのバイアス抵抗です。
コンデンサCdは交流的にインピーダンスがゼロになるような値で、トランジスタのコレクタは電源Vcc
に接続されていますので、結局、コレクタは交流的にGNDになります。
Ccはバイアス(直流)がLによってGNDにショートさせないための直流阻止用でコンデンサの
インピーダンスは共振回路に影響を与えないようにします。
抵抗は交流信号(発振周波数)には関係ありませんので、等価的に c ) のようになります。
 ○ 設計例
バリキャップダイオードは前述のように「可変コンデンサ」ですから、これを応用したFM変調回路を
図11に示します。
D1がバリキャップでこれに音声信号を加えれば発振周波数が変化し、つまり、これがFMです。
例えば、東芝のバリキャップダイオード1SV101
は図12のような特性です。
このような特性を持ったバリキャップとC7,C8,C10,C11
およびLの組み合わせで希望の周波数偏移
(例えば、ア75KHz)となるようにすれば良いわけです。
このようにして発振周波数をFM放送帯として製作した試作機の周波数偏移実測データを図13に
示します。
振幅レベル 周波数偏移量実測
50mVrms 28KHz
100mVrms 54KHz
130mVrms 70KHz
140mVrms 76KHz
周波数偏移量は規定値を超えても信号波は歪みませんが、あまり大きいと他の無線設備に影響
を与える恐れがあり好ましくありません。
また、規定の周波数偏移より小さい場合は受信側で受信音が小さくなり、適度な偏移量が
必要です。
図13のデータではバリキャップに与える信号波の適正レベルは100mV〜130mVと言えます。
◎プリエンファシスとデエンファシス
FM放送ではSN比を改善させるために図14のように送信側で信号波の高域成分を強調し、これを
「プリエンファシス」と言います。
受信側ではこの特性と逆の操作を行っていて、これを「デエンファシス」と言います。
FM放送のプリエンファシスの特性は図14のとおりです。
図15にオペアンプでの構成例を示します。
コンデンサは周波数によりインピーダンスが変化しますのでこれを利用してオペアンプ回路の入力
抵抗部(R5,R6,C4)が周波数により変化し、増幅度も変化します。
各定数(R5,R6,C4,R7)の組み合わせで図14の特性となるようにします。
信号源が「音楽ソース」などの場合、この機能は必要です。
(一般的に音声は数KHzまでが主な周波数成分ですが、音楽はそれ以上の高い周波数成分がある)
◎製品例
写真1にキットの製品例を示します。
型番 FMTX1-KIT
特徴 小型(基板サイズ 約19×55mm)
面実装部品主体
主な仕様
電源     1.5V(LR44)
入力     音声用コンデンサマイク
        音楽ソース用LINE
※LINEはプリエンファシス機能付
参考として「FMTX1-KIT」のスペクトラム波形を以下に示します。
(波形データ1)
無変調時の波形。
(波形データ2)
LINE入力に信号1KHzを加え、周波数偏移が「ア70KHz」時の波形。
FM変調はこのように搬送波(この場合は約85MHz)が変化していることが分かります。