レポート第2回【ヘッドホンアンプ1次試作

 
◎電気的特性の確認
 前回は実験機を製作して簡単な動作確認を行いました。この真空管を用いた応用例は色々とあると思います。応用の前に電気的特性を把握しておく必要があり、主な特性を確認することにします。

★周波数特性
 低域は十分な特性なので高域特性をグラフ低域は十分な特性なので高域特性をグラフ 2 に示します。100kHzにおいて約-2.5dBですから、これも十分な特性です。

   

 

   
★プレート抵抗と GAIN


 実験時はプレート抵抗が330kΩ、電源電圧が 12V でした。電源電圧は電池動作では 9V、6Vなどが考えられ、また、プレート抵抗値によって GAIN が変わります。
 そこで、プレート抵抗と電源電圧におけるGAINを実測したものを表1に示します。電源電圧は 6V、9V、12V、プレート抵抗は330k、220k、100k、47k です。
 GAINは相互コンダクタンスに抵抗を掛けたものですから、抵抗値が大きいほどGAINが高くなります。測定はBIAS 調整後の値です。参考としてその時のBIAS値を記しておきますが、必ずこの値になるとは限らないと思います。プレート抵抗47kΩでは最大出力ポイントが調整できませんでした。バラツキがあるかもしれませんが、プレート抵抗47kΩは使用不可かもしれません。

   

 GAINを増加した場合、図15のように行います。真空管を増設すればいいわけですが、左のように直結する方法はNGです。この真空管は出力インピーダンスが高く、入力インピーダンスが低いのでこの方法では1段目でGAINが取れません。
 図15の右のように段間に高入力インピーダンスのバッファーを入れて、2段目の影響を無くします。簡単なのはオペアンプによるバッファーです。

   

   

   

★ひずみ率特性
 各電源電圧、各プレート抵抗における出力対ひずみ抵抗率をグラフ3~グラフ5に示します。得られる出力は電源電圧が高いほど大きくなります。

   

◎ヘッドホンアンプへの応用(1次試作)  
★回路

 真空管6P1の応用としてヘッドホンアンプを考えてみました。図16に回路を示します。6P1でヘッドホンを直接ドライブすることはできません。
IC1でドライブします。電源は乾電池動作が可能な9Vとしました。プレート抵抗(R5)はグラフの特性から220kΩを選択しました。
 入力機器はポータブルデジタルオーディオプレーヤを想定し、入力バッファは不要です。また、CD出力なども利用できるようにボリュームVR1を搭載します。コンデンサC3は直流カット用ですが、極性に注意してください。
 用いるオペアンプはAD8397です。出力は32Ω負荷で30mWほどを見込んでいます。このICの特徴は高出力電流、出力Rail-to-Railであることです。一般的なNJM4558、NJM4580などの汎用オペアンプではすぐに出力が飽和(波形クリップ)してしまい、今回の用途には適しません。具体的に言いますとヘッドホンのインピーダンスを32Ωとすれば(実際にはいろいろな値がある)、1Vの出力では31mA流れます。ですから、これだけの駆動能力が必要です。ちなみにAD8397は32Ω負荷時、310mAのピーク電流で駆動可能です。詳細はAD8397のデータシートを参照願います。

   



   

   

★基板設計
 
 サンハヤトの片面感光基板で製作しました。図17に部品配置図を示します。振動対策(マイクロフォニック・ノイズ)が必要なのですが、真空管は寝かせて取り付ける構造です。
 クッションを挟むことなどが考えられ、材料をどうしたら良いか悩むところです。良い案が思い浮かばないのでとりあえず出来てから考えることにしました。
 J1 が入力ジャック、J2 が出力ジャックです。つまり、信号は基板の左から入力され、右方向に行きます。
 基板サイズは 45×100 で少し小さ目です。もう少し大きくすればオーディオ用抵抗が実装できます。他の
基板と集合させる目的でこの基板サイズにしました。
 ドライブ能力がある他のICも実装交換できるようにIC1は8ピンのICソケットです。AD9397は面実装なので変換基板(面実装→DIP)
を用います。
 図 18 はパターン図です。真空管は 17 ピンまでありますが、NP(NO Pin)は実際にはありません。CAD 入力時に真空管のシンボルを作るのが面倒でしたので、コネクタの17ピンを代用しています。基板の穴あけ後に実装確認をしようとしたらNPはピンが無いことに気づき、余計な穴を作ってしまいました。実験時に現物の真空管を見て、NPの存在は知っていたのですが、コネクタをシンボル替わりにしたことが原因です。
 パターンは特にオーディオを意識していません。この基板サイズで配線できることを優先させました。
 実は回路図入力時にミスしていて、J2の配線が 1 本足りません。今回は時間を気にしてノーチェックです。やはり、仕事は落ち着いてやらないとミスしやすいものです。
 








   

   

★試作機外観
  
 基板単体ですとショートなどが心配です。そこで写真7 のようにアルミ板をL型に加工したものをシャーシ代わりにしてます。
 用いる電源は単3×6 本です。この電池ケースをシャーシに固定し、電源スイッチもシャーシ取付です。基板の固定は長い金属スペーサを用い、スペーサの一つが基板GND と接続する構造で、これがシャーシGNDになります。
 写真8 のように組み上げてコンパクトに仕上がりました。

   

   

   

★振動対策
 
 基板に衝撃を与えるとその振動でキーーーンというようなノイズ(マイクロフォニック・ノイズ)が出ます。
 回の応用例は机の上に置いて使うものなので、図19のように真空管と基板との間にゴム足を用い、振動対策というよりは真空管の固定が目的です。
 この状態で基板をたたくと、やはりノイズは出ます。なにかのケースに付属していたゴム足ですが、効果
はありません。
 ゴム足のようなクッションの材質を替えれば効果があるのかもしれませんが、基板に振動を与えなければ
良いので、今回はこれでOKとしました。




   

★電気的特性

 表 2 に試作機の主な電気的特性実測値を示します。
 L/R の GAINGAIN 誤差はカーボン抵抗の誤差も含めてもう少し大きいかなと思っていたのですが、結果的に誤差が少なく、問題無いレベルです。
 周波数特性は 1KHz を基準を基準(0dB)とした場合のマイナス3dB のポイントです。低域が 10Hz ですから、これも良好な特性です。
 SN 比は 6P1の利用ガイドの測定条件と異なると思いますが、たぶん同程度と思われます。

 クロストークはチャンネルセパレーションのことです。ステレオですから片方のチャンネルへの漏れ度合を意味します。L→R は Lch に信号を入力した時のRchへの漏れ信号のレベルでR→Lはその逆です。
 クロストーク値が約40dBです。かなり悪い値です。クロストークの原因は部品間の干渉、GNDパターンによる影響などがあるのですが、この試作機は別な原因です。
 主な原因は L/Rの電源を共通にしていることで、プレート電源が考えられます。ちなみに、プレートへの
電源供給を CRによるデカップリング回路を設けることによって大幅に改善されました。
 この場合、大き目な電解コンデンサと抵抗が必要になり、基板面積が大きくなってしまいます。

   

   

 グラフ6はヘッドホン出力でひずみ率特性です。

   


   

   

★1次試作のまとめ

 一つ気になるところがあり、電源ON/OFF時のポップノイズが大きいと思います。ポップノイズとは電源ON/OFFの過渡期に「ボッ、ブッ、」などのノイズが発生する現象です。
 ノイズレベルはオペアンプの型番によって異なるのですが、波形1 に実測値を示します。上側が電源、下側がヘッドホン出力です。
 電源ON/OFF時に発生していることが分かり、この例では電源ON 時のポップノイズピーク値が約5Vです。負荷は33Ωなので電力は750mW となり、耳に痛いレベルです。
 最近、私はインナーイヤータイプのヘッドホンを購入しました。規格を見ると最大入力が30mWです。電源ON/OFF 時の一瞬ですが、はるかにヘッドホンの最大入力を超えてしまいます。
 改善策は色々あります。例えば、プレート電源にデカップリング回路を入れることも1 つの方法です。
試しにこの方法で実験してみるとかなり改善されました。このレベルで判断することができないので市販のヘッドホンアンプと比較することにします。ずいぶん前に購入した安い製品です。ノイズレベルは市販品のほうがデカップリング回路改善品よりかなり大きいです。しかし、ノイズの質が異なります。市販品は「ボッ」というような感じでノイズレベルが大きいわりには不快ではありません。これに対して試作機は「ブッ」というような感じで少し不快な気がします。
 結局、デカップリング回路だけではNG と判断し、別の方法でポップノイズ対策をした2次試作を行うことにしました。


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