マルツTOP > APPLICATION LAB TOPページ おすすめ技術記事アーカイブス > 高精度、低消費電力、小型温度監視を実現する画期的なアプローチ

高精度、低消費電力、小型温度監視を実現する画期的なアプローチ

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 氏
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-10-18

マルツ掲載日:2024-02-26



 ウェアラブルや白物家電、医療機器、産業機器など、ほぼすべての電子システムの設計者にとって、熱が課題となる可能性があります。特に、気づかないうちに熱が蓄積すると問題になる場合があります。この問題を回避するために、温度感知ICや正の温度係数(PTC)サーミスタなど、熱を検出するためのオプションがいくつか用意されています。

 ただし、これらにはそれぞれ制限があります。それぞれの感知オプションでは複数の部品を使用し、ホストマイクロコントローラユニット(MCU)への専用接続が必要になるため、貴重な基板スペースが占有され、設計に時間がかかり、精度も制限されます。

 しかし、設計者にとって新たなオプションが登場しました。複数のPTCサーミスタと一緒に使用するためのICが開発され、ホストMCUに1回接続するだけで、1個のICで正確な過温度検出を行えるようになりました。

 設計の柔軟性を高めるため、これらのICでは、さまざまなPTCサーミスタに対応する出力電流を選択できます。MCUインターフェースの選択が可能で、ラッチング機能が含まれる場合もあります。1.6×1.6×0.55mmの小型SOT-553パッケージで提供され、消費電流は11.3μAのため、小型で低消費電力のソリューションを実現できます。

 この記事では、電子システム内の熱源を確認し、PTCサーミスタを感知ICやディスクリートトランジスタと組み合わせて使用する温度監視ソリューションについて検討します。また、これらのソリューションと温度測定用ICとの比較も行います。この記事では、低消費電力でコスト効率に優れた熱保護を行える東芝のICを紹介し、その適用方法を説明します。

熱源

 電子部品から発生する熱は、ユーザーの安全やデバイス/システムの動作に悪影響を及ぼします。中央演算処理装置(CPU)、グラフィカルプロセッシングユニット(GPU)、特定用途向けIC(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタル信号プロセッサ(DSP)などの大型ICは、かなりの量の熱を発生する可能性があります。保護は必要ですが、過剰な熱を監視しなければならないデバイスはそれら以外にもあります。

 抵抗内を流れる電流は熱を発生させ、大型ICの場合は多数の微小な熱源が存在するため、熱管理という大きな課題につながる可能性があります。これらのICでは多くの場合、電源ピンに直接隣接した正確な電圧安定化装置が必要になります。そのため、多相のポイントオブロード(POL)DC/DCコンバータや低ドロップアウト(LDO)リニアレギュレータが必要になる場合があります。

 POLでのパワーMOSFETやLDOでのパストランジスタのオン抵抗は、デバイスの過熱を引き起こし、電圧安定化装置の精度を低下させて、システム性能を損なう可能性があります。

 熱を発生させるのは、POLやLDOだけではありません。AC/DC電源、モータドライブ、無停電電源システム、ソーラーインバータ、電気自動車(EV)ドライブトレイン、無線周波数(RF)アンプ、光検出・測距(LiDAR)システムなど、さまざまなシステムで熱を監視および管理する必要があります。これらのシステムには、バルクエネルギー貯蔵用の電解コンデンサ、電圧変換と絶縁用の電磁トランス、電気絶縁用の光アイソレータ、レーザーダイオードなどが含まれます。

 電解コンデンサのリップル電流、トランスの渦電流、光アイソレータのLEDの電流、LiDARのレーザーダイオードなどは、これらのデバイスの潜在的な熱源と言えます。温度監視は、安全性、性能、信頼性の向上という点で、これらすべての場合に役立ちます。

従来のPTCサーミスタのアプローチ

 温度を監視することは、熱保護で重要となる最初のステップです。過温度状態が特定されれば、是正処置を講じることができます。PTCサーミスタは多くの場合、プリント基板の温度を監視するために使用されます。PTCサーミスタは、温度が上昇すると電気抵抗が大きくなります。

 PTCサーミスタの設計は、過電流、短絡保護、温度監視などの特定の機能向けに最適化されています。温度監視用PTCサーミスタには、温度係数の高い半導体セラミックが使用されています。室温では比較的低い抵抗値ですが、キュリー温度以上に加熱されると抵抗が急激に上昇します。

 PTCサーミスタは、GPUのような特定のデバイスを監視するために個別に使用することも、POLでのMOSFETのような広いグループのデバイスを監視するために複数を直列に使用することも可能です。

 PTCサーミスタを使って温度監視を行うには、いくつかの方法があります。一般的な方法としては、センサICやディスクリートトランジスタを使用してPTCサーミスタの抵抗を監視します(図1)。


図1:PTCサーミスタを使用した2つの一般的な温度監視方法には、センサインターフェースIC(左)とディスクリートトランジスタソリューション(右)によるものがあります。(画像提供:東芝)

 どちらの場合も、一連のPTCサーミスタに対して、ホストMCUへの接続は1つです。これらのアプローチには、次のようにいくつかのトレードオフがあります。

部品点数:トランジスタアプローチでは6つのデバイスが必要なのに対し、ICソリューションでは3つのコンポーネントを使用します。
実装面積:ICソリューションは使用部品が少ないため、小さいプリント基板面積で使用できます。
精度:どちらのアプローチも電源電圧の変化に影響されますが、トランジスタアプローチは温度上昇に伴うトランジスタ特性の変化にも影響されます。総合的に見て、ICアプローチの方が高い精度を実現できます。
コスト:トランジスタアプローチでは安価なデバイスを使用するため、ICアプローチに比べてコスト面での利点があります。

センサICとThermoflagger

 PTCサーミスタの代わりに、複数の温度感知ICを使用することができます。温度感知ICは、チップの温度を測定してプリント基板の温度を推定します。プリント基板とICの間の熱抵抗が低いほど、温度の推定精度が上がります。

 プリント基板に正しく実装すると、温度感知ICは高精度の測定を行うことができます。温度感知ICを使用する場合の2つの制限要素は、温度を測定する必要があるすべてのポイントにICを配置する必要があることと、各ICからホストMCUへの専用接続が必要になることです。

 東芝のThermoflaggerは、第4のオプションを提供します。Thermoflaggerを使用すると、温度測定ICを使用する場合に比べ、1つの部品を追加するだけで温度測定回路を実装することができます。ホストMCUに複数の接続を行うのではなく、Thermoflaggerソリューションでは1つのMCU接続で済むため、安価なPTCサーミスタを使用した複数箇所の同時監視が可能になります(図2)。


図2:温度センサICによる監視では通常、潜在的な熱源ごとにICが必要であり、センサICごとにMCUへの接続が必要になります(左)。Thermoflaggerと複数のPTCサーミスタを組み合わせるソリューションの場合は、MCU接続が1つです(右)。(画像提供:東芝)

 次のように、Thermoflaggerを検討する理由はまだあります。

・他のソリューションに比べ、プリント基板占有面積が小さい。
・電源電圧の変動に影響されない。
・シンプルな冗長温度監視の実装に使用できる。

Thermoflaggerソリューションとはどのようなものか?

 Thermoflaggerは、接続されたPTCサーミスタに少量の定電流を供給し、その抵抗を監視します。個々のPTCサーミスタまたは一連のPTCサーミスタを監視することができます。温度が上昇すると、監視対象のPTCサーミスタの種類にもよりますが、PTCサーミスタの抵抗が急激に上昇し、Thermoflaggerが抵抗値の上昇を検知します。

 1μAや10μAなど、さまざまな定電流を持つThermoflaggerは、幅広いPTCサーミスタに対応します。消費電流が11.3μAのThermoflaggerは、低消費電力監視を可能にするよう設計されています。

 検出トリガ温度は、使用する特定のPTCサーミスタによって決まり、別のサーミスタに置き換えることで変更できます。過温度状態になると、ThermoflaggerはPTCサーミスタの抵抗値上昇を検出し、PTCGOOD出力の変化をトリガしてMCUに警告を発します(図3)。


図3:Thermoflaggerは、正常な動作温度に関連付けられた低い抵抗値(上)との比較に基づき、加熱されたPTCサーミスタの抵抗値(下)の上昇を検知します。(画像提供:東芝)

Thermoflaggerの仕組み

 Thermoflaggerは、ホストMCUへの接続用に最適化された出力を持つ高精度アナログICです。以下の動作説明については、図4の数字を参照してください。

(1) PTCO端子から定電流が供給され、接続された1つ以上のPTCサーミスタの抵抗を利用して電圧に変換されます。Thermoflaggerソリューションが電源電圧の変動に影響されないのは、内部に定電流源があるためです。これは他の温度監視手法と比べて大きな差別化要因です。PTCサーミスタが加熱されて抵抗値が大幅に増加すると、PTCO電圧は電源電圧(VDD)まで上昇します。PTCO端子がオープンの場合も、PTCO電圧はVDDまで上昇します。
(2) PTCO電圧が検出電圧を超えると、コンパレータの出力は反転し、「Low」出力を送ります。PTCO出力の精度は±8%です。
(3) Thermoflagger ICには、オープンドレインとプッシュプルという2種類の出力形式があります。オープンドレイン出力にはプルアップ抵抗が必要です。プッシュプル出力の場合、抵抗は不要です。
(4) コンパレータ出力が反転した後は、PTCサーミスタの温度低下による出力の変化を防ぐためにラッチされます(Thermoflaggerにオプションのラッチング機能が搭載されている場合)。
(5) ラッチは、RESETピンに信号を印加することで解除されます。


図4:ホストMCUへの接続用に最適化された出力を持つ高精度アナログIC、Thermoflaggerの主な機能を示すブロック図。(画像提供:東芝)

アプリケーションの検討

 Thermoflaggerソリューションは、システムオンチップ(SoC)のような大型ICの電源回路や、産業用/民生用システムのモータドライブ回路のMOSFETやLDOの監視に特に有用です。代表的な用途には、ノートパソコン(図5)、ロボット掃除機、白物家電、プリンター、バッテリ駆動のハンドツール、ウェアラブルデバイスなどがあります。
 Thermoflagger ICの例は、以下のとおりです。

(1) TCTH021BEは、PTCO出力電流10µA、非ラッチングオープンドレイン出力
(2) TCTH022BEは、PTCO出力電流10µA、ラッチングオープンドレイン出力
(3) TCTH021AEは、PTCO出力電流10µA、ラッチングプッシュプル出力


図5:ノートパソコンでのThermoflaggerの代表的な実装。(画像提供:東芝)

 他の高精度ICと同様、Thermoflaggerにも、特定のシステム統合に関する以下のような考慮事項があります。

・PTCOピンに印加される電圧が1Vを超えないこと。
・Thermoflaggerは、内部コンパレータの信頼性の高い動作を保証するために、システムノイズから保護する必要がある。
・Thermoflagger ICとPTCサーミスタの間隔は、プリント基板を通してThermoflagger ICに熱が伝わらない程度に離す必要がある。
・VDDとGNDの間にデカップリングコンデンサを配置すると、安定した動作の確保に役立つ。
・すべてのGNDピンは、システムグランドに接続する必要がある。

シンプルな冗長性

 システムによっては、冗長温度監視の利点が得られます。高価なICを監視している場合や重要な機能が関係している場合は特にそうです。Thermoflaggerはシンプルでソリューションサイズが小さいため、温度監視の追加レイヤを簡単に統合でき、堅牢で信頼性の高い温度監視システムが実現します(図6)。


図6:Thermoflaggerは、温度監視ICをベースとした基本的な温度監視ソリューション(左)に対し、レイヤや冗長性を追加する(右)ことができます。(画像提供:東芝)

まとめ

 信頼できるシステム性能を確保するために、設計者は過剰な熱を監視する必要があります。温度感知ICやPTCサーミスタなど、いくつかの熱監視オプションを利用できます。新たなオプションとしては、東芝のThermoflaggerが挙げられます。

 これは、複数の低コストPTCサーミスタの使用、フットプリントの縮小、部品点数の削減、MCUへの単一接続、電源変動への耐性、シンプルな冗長温度監視の実装オプションなど、多くの利点を備えています。




免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKey Electronicsの意見、信念および視点またはDigiKey Electronicsの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

 

このページのコンテンツはDigiKey社より提供されています。
英文でのオリジナルのコンテンツはDigiKeyサイトでご確認いただけます。


DigiKey社の全製品は 1個からマルツオンラインで購入できます

※製品カテゴリー総一覧はこちら



ODM、OEM、EMSで定期購入や量産をご検討のお客様へ【価格交渉OK】

毎月一定額をご購入予定のお客様や量産部品としてご検討されているお客様には、マルツ特別価格にてDigiKey社製品を供給いたします。
条件に応じて、マルツオンライン表示価格よりもお安い価格をご提示できる場合がございます。
是非一度、マルツエレックにお見積もりをご用命ください。


ページトップへ