資料・技術情報
レフレックスラジオの製作 ゲルマニウムトランジスタ改造編
◎ゲルマニウムトランジスタ
部品を整理していたら写真1のゲルマニウムトランジスタが出てきました。
未使用品ではなく何かの基板から取り外したもので、シリコンの2SC1815と比較するとゲルマニウムトランジスタの外観は個性があります。
手元にあるCQ出版社1979年版トランジスタ規格表で用途を調べてみると、写真1の2SAはRF用、2SBは低周波用です。
ゲルマニウムトランジスタは2SAと2SBで用途がはっきりしているようです。
ちなみに、2SC1815のコンプリメンタリである2SA1015はAF,RFつまり、低周波、高周波となっています。
規格表ではゲルマニウム、シリコンなどの材料とは別に、構造(製造方法)などが記載されています。
2SA100はドリフト型、2SB33は合金接合型(アロイ型)となっています。
私はゲルマニウムトランジスタを用いた製作経験はほとんどなく、1石ラジオキットと5~6石のアンプキットを組んだ記憶があります。
ゲルマニウムトランジスタはベース・エミッタ間電圧(VBE)が小さいという知識しかありません。
そこで、ゲルマニウムトランジスタを実際に動作させてみようと思いつきました。
◎実験
★2SBトランジスタの動作実験
手持ちの2SBはすべて低周波用ですから実験は簡単です。
まず、図1のように直流動作を確認することにしました。
回路は固定バイアスとし、コレクタ電流が正常に流れるか確認します。
電源電圧を3Vとし、コレクタ電流を1mAに設定します。
コレクタ抵抗Rcを1.5kΩとしましたので、これに1mA流れれば、コレクタ・エミッタ間電圧は1.5Vになります。
ベース抵抗値を変えて、コレクタ電流が1mAとなるようにします。
図1のベース抵抗560kΩは実験結果での最終値です。
ベース電流はベース抵抗の両端電圧を抵抗値で割った値ですから、5.1μAです。
コレクタ電流も同様に抵抗両端電圧を抵抗値で割ったものですから、1.08mAです。
したがって、hFEはコレクタ電流とベース電流の比ですから、211と計算されます。
2SB187のhFEは規格表には掲載されていなかったのですが、けっこう大きな値だと思います。
なお、図1の測定方法は各抵抗の両端電圧を測定し、これにより電流値に換算する方法ですから、抵抗値の誤差が含まれます。
カーボン抵抗を用いれば誤差±5%ですが、今回のような確認用途では十分です。
ベース・エミッタ間電圧は0.125Vでした。
シリコントランジスタと比較すると小さい値です。
用いたトランジスタは正常なようなので、交流信号を入力して増幅作用を確認してみます。
図2が実験回路です。
交流負荷は、ほぼ1.5KΩと見なせます。
コレクタ電流が約1mAですから、電圧利得は35.3dBと計算され、実測35dBでした。
写真1にこの時のコレクタの波形です。
エミッタを基準(GND)としていますので、コレクタはマイナスになり、約-1.5Vを中心として振幅しています。
波形が少し歪んで見えます。
図2の回路は信号に対して負帰還をかけていませんので、写真1の波形ひずみは仕方のないことです。
小信号レベルまたは用途によっては写真1の波形ひずみは問題にはならないと思います。
負帰還回路は色々とあるのですが、簡易的な負帰還回路を図3に示します。
エミッタに抵抗を追加することにより負帰還がかかります。
エミッタ抵抗値を大きくするほど帰還量が多くなるのですが、220Ωとした場合のコレクタ波形を写真2に示します。
かなりきれいな波形になったことが分かります。
★電源設定にご注意
実験当初、操作ミスでトランジスタを破損してしまいました。
直流動作の確認は図4の回路にてベース抵抗をボリュームにして希望のコレクタ電流となるように調整します。
この場合、ボリュームのスライダーを図4の下方向に動かすと抵抗値が小さくなりますので、ベース電流が増加します。
これに伴いコレクタ電流も増加し、当然のことですがこの電流は電源から供給されます。
実験回路自体の消費電流(つまり、コレクタ電流)は1mA程度です。
用いた電源は出力電流の制限値が設定できます。
1mAしか消費しない回路ですから設定値は数10mAで十分です。
ところが、この設定を省いてしまい、1Aくらいの設定になったままです。
ベース抵抗のボリューム位置を中央付近にして実験を開始し、コレクタ電圧が電源電圧の半分となればコレクタ電流は1mAです。
この監視はオシロスコープで行うのですが、誤ってボリューム最少方向に回した途端、コレクタ電圧が0Vとなって電源の電流値を見ると1Aくらいになっています。
慌てて電源出力をOFFにしても遅く、トランジスタを破損してしまいました。
この実験ミスには2つの原因があり、電源の設定ミス以外に実験回路の不備があります。
図4の回路ではベース抵抗はボリュームです。
この場合、スライダーを回す方向によって0Ωになります。
つまり、ベース電流を制限することが出来なく、過大なコレクタ電流が流れてしまいます。
したがって、ボリューム単体ではなく固定抵抗を追加することにより、ベース電流を制限することが必要です。
実験にはミスはつきものです。
回路不備および接続ミス、ショートなどは起こると思ったほうが良いです。
特に電源の選択は重要で写真3のような出力電流制限設定機能があるものをお勧めします。
★2SAトランジスタ
2SA100と2SA221はどちらも高周波増幅用です。主な規格は以下のとおりです。
表1
VCBO(V) | Ic(mA) | Pc(mW) | fαb | |
2SA100 | -40 | -10 | 60 | 20MHz |
2SA221 | -20 | -15 | 70 | 55MHz |
CQ出版社1979年版トランジスタ規格表から抜粋
図5にエミッタ接地における電流増幅率hfeとベース接地における電流増幅率hfbの周波数特性を示します。
低周波における電流増幅率に対して1/√2(つまり、-3dB)低下する遮断周波数がfαeおよびfαbです。
fTはトランジション周波数と呼ばれるものでエミッタ接地におけるhfeの値が1となる周波数ですが、各関係は①式のとおりです。
mはトランジスタの構造で決まる値で、仮に2SA211のmを0.5、hfboを0.987、hfeoを80とすればfαeは0.478MHzとなり、fTは約38MHzです。
(仮の値なので計算結果についてはご容赦願います)
トランジスタ規格表の2SAを見ると型番の古いゲルマニウムトランジスタはほとんどfαbで示されています。
ちなみに、シリコントランジスタの2SA1015はfTで示されていて80MHzです。
◎レフレックスラジオにゲルマニウムトランジスタを用いる
高周波用と低周波用がありますので、以前に製作した2石レフレックスラジオに用いてみました。
図6に回路図を示します。
用いているトランジスタはシリコンの2SC1815です。
この部分をゲルマニウムトランジスタの2SAに置き換えてみようというものです。
トランジスタをNPNからPNPに置き換えると、電源の極性を逆にしなければなりません。
これに伴い、ダイオード、ケミコンなどの極性が逆になります。
図7は変更後の回路です。
RF増幅(Q1)には2SA221、低周波増幅(Q2)に2SB187を用い、定数はR3のみを変更しています。
写真4に変更後の基板の様子を示します。
実際に放送局を受信してみると改造前と感度差はありません。
音に関しても特に変わったとは思えなく、音がやわらかいとか、温かみがあるとかもなく、普通に鳴っています。
交換したトランジスタは写真4のように外観が汚く、製造されてからどのくらいの年数を経過しているのか分かりませんが、普通にスピーカから音が鳴っていることが不思議です。
◎まとめ
表2に主な規格をまとめたものを示します。
表2
型番 | 構造 | VCBO(V) | Ic(mA) | Pc(mW) | fαb | 用途 |
2SA100 | ドリフト | -40 | -10 | 60 | 20MHz | RF.IF.Conv.Mix.Osc |
2SA221 | ドリフト | -20 | -15 | 70 | 55MHz | RF.Conv |
2SB33 | 合金接合 | -20 | -50 | 150 | 1MHz | PA |
2SB172 | 合金接合 | -32 | -125 | 125 | 0.35MHz | PA |
2SB186 | 合金接合 | -25 | -150 | 200 | 1MHz | PA |
2SB187 | 合金接合 | -25 | -150 | 200 | 1MHz | PA |
2SA1015 | エピタキシャル | -50 | -150 | 400 | 80MHz* | AF.RF |
*fT
CQ出版社1979年版トランジスタ規格表から抜粋
参考文献によると、ドリフト型は高周波用と解説されています。
規格表を眺めていると2SBのゲルマニウムトランジスタは合金接合型が非常に多く、用途はPA.AFがほとんどです。
2SAにも合金接合型があるのですが、fαbがドリフト型と比較すると低いです。
今回のレフレックラジオの各増幅部に対応させた場合、高周波増幅(Q1)は2SA100、2SA221どちらでも良いですが、低周波増幅(Q2)ではコレクタ電流が不足します。
したがって、この部分には2SBが適切です。
参考としてシリコントランジスタの2SA1015の規格も入れてみました。
数値だけ見るとすべての項目において優れています。
高周波増幅も含めて2SA1015だけで構成できます。
普段、トランジスタの構造を考えることはないのですが、数値と構造を見ていると面白いです。
参考資料、文献
・「1979年版トランジスタ規格表」 CQ出版社
・「トランジスタとその使い方」 奥沢清吉 著 誠文堂新光社 昭和38年