デバイス
7MHz AM送信機の実験(その2) 1次試作編
◎大失敗
1次試作では9R-59Dの制御部分はありません。
とりあえず、送信機単体での回路構成を決めることが目的です。
結果、さんざんなもので、当初の回路、構成からかなり違ったものになっています。失敗した回路なので、ここでは公開しません。写真7に基板の様子を示します。
少し不安な部分や検討が必要なところは事前に実験をしたほうが良いです。
今回は多少の変更、追加ぐらいでなんとかなると思っていたのですが基板パターン
面で空中配線している部分がかなりあります。
これでも動くレベルにはなっています。出力は1Wに届かず、約800mWです。
◎構成図
図7に構成図を示します。
クリスタルは手持ちの関係で7100KHzです。
音量ボリュームは設けていません。
マイクは市販のマルチメディアマイクロホン(コンデンサマイク)を用い、ボリュームは不要のレベルでした。
トランジスタは特別なものではなく、電力増幅部は2SC3421を採用しています。
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/40867/
このトランジスタはオーディオ用で、表1に簡単な仕様を示します。
筆者は2SC3421をオーディオアンプで良く使い、在庫も沢山あります。
プラスティックモールドなので放熱器に絶縁物が不要です。
表1 2SC3421
VCEO | 120V |
---|---|
Pc | 1.5W(Ta=25℃) |
Pc | 10W(Tc=25℃) |
Ic | 1A |
fT | 120MHz |
パッケージ | プラスティックモールド |
◎マイクアンプ用LPF
★特性検討
当初の設計ではマイクアンプ部のLPF(ローパスフィルタ)は簡単にCRで構成していました。
ところが、出来上がって変調音を聞くと、ひどい音です。
歪んでいるわけではありません。一言で表現すると「うすっぺらな音で了解度が悪い」です。
自分のAM変調音を聞くのはずいぶん久しぶりなのですが、「がっかり」です。
そこで、マイクアンプ部のLPFをいじってみることにしました。
周波数特性をいじるわけですが、TX-88DSのLPF特性を調べることにしました。
取扱説明書の回路図を見ると、この部分はLCで構成されています。
ところがLの定数が記載されていません。
回路図は他に公開されているはずなので、雑誌で調べてみると、これにもLの定数が入っていません。
仕方ないので現物確認をしてLの定数を調べることができました。
筆者が所有しているTX-88DSの取扱説明書はメーカーから購入したものです。
取扱説明書の内容はキットなので製作手順などが説明されています。
ひょっとしたら、別に実体配線図があり、その中にLの定数が記載されているのではないかと想像しています。
なにぶんにも、リアルタイムでTX-88DSを購入して組み立てたわけでもないので想像です。
とりあえず、TX-88DSのマイクアンプのLPFの回路と定数が分かりました。
データ1にLtspiceによるシミュレーション結果を示します。
赤のラインがTX-88DSで、青が今回の1次試作で変更した回路のシミュレーション
結果です。
TX-88DSの場合、3KHzを越えたあたりから急激に減衰していますが、1次試作では「かなりあまい特性」です。
同じLCでの構成なのですが、TX-88DSのほうがLPFの段数が多く、1次試作では図8の構成なのでこれは仕方ありません。
部品点数を増やせばTX-88DSと同じような特性を実現することは可能です。
しかし、部品入手のことを考えると、図8のほうが容易なのでこの回路にすることにします。
これでもCRで構成したフィルタよりはかなりマシです。
なお、図8では入出力インピーダンスは690Ωで設計しています。
この理由は手持ちコイルの関係で、50mHを最初に決めた結果です。
★回路
図9にマイクアンプのLPF回路を示します。
図8のようにLPFの入出力インピーダンスは690Ωなので、コンデンサマイクからの信号をエミッタフォロワにてインピーダンス変換しています。
参考としてエミッタフォロワの出力インピーダンスZoの計算式を①式に示します。
hieはエミッタ共通回路のhパラメータでトランジスタの入力抵抗です。
図9の動作条件では約1.53kΩになります。
Raはエミッタフォロワの出力インピーダンスと抵抗のE24系列を考慮し、680Ωとしています。
RbもE24系列から690Ωに近い680Ωの設定です。
LPF部は以上のような定数設定になりますが、ついでにCa,Cbにて簡易的なHPF(ハイパスフィルタ)を構成しています。
したがって、図9の回路はBPF(バンドパスフィルタ)になっています。
データ2にLtspiceによるシミュレーション結果を示します。
低域は300Hzから低い周波数領域ではゆるやかなHPF特性となっているのが分かり、全体的に見ればBPF特性です。
なお、シミュレーションではトランジスタに2N3904を用いています。
★音質
ずいぶんマシになりました。
最初に9R-59Dで受信してみたのですが、受信機自体のハム音が気になって細かい評価になりません。
そこで、メーカー製のトランシーバにて受信をすることにしました。
ICOMのIC-726Sです。最近、中古で購入してしまいました。
LPFの特性によりAM変調音に変化が出ることは確認できたのですが、まだ物足りない感じです。
筆者が開局のころに聞いた真空管式送信機の音ではありません。
これは仕方のないことなので、とりあえず、音に関してはこのへんで良しとしておきます。
それにしても、TX-88DSはどのようなAM変調音だったのでしょうか。
1次試作はこれで終了することにします。
基板が写真7のような状況ですので、2次
試作できちんとしたものを製作し、各種評価したいと思います。
▼続きは その3 2次試作 制御回路編 です。