PoEとBluetooth Low Energyを組み合わせてスマート照明インフラをコスト効率良く実装
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-08-20
マルツ掲載日:2020-12-14
スマート照明は、効率的で長持ちするLEDをワイヤレス接続と組み合わせたものです。これにより、ビル管理者は照明を入居者に合わせてカスタマイズし、エネルギー消費を最小化できます。
新しいビルにスマート照明を設置するのは比較的簡単ですが、既存のビルの改造は複雑ではるかにコストがかかります。既存物件のビル管理者は、進歩した照明が活用できるような、低コストの代替手段を探しています。
シンプルでコスト効果のよい代替手段は、既存のEthernetネットワークにパワーオーバーEthernet(PoE)を追加して、LEDに電源を供給することです。この代替手段の短所は、Ethernetは、スマート照明の制御と構成に使用される少量で低頻度のデータ送信ではなく、コンピュータ間で大量の情報を頻繁に送信するように設計されているため、スマート照明のコネクティビティにあまり適していないことです。
解決策は、PoEとBluetooth Low Energy(LE)コネクティビティを組み合わせて、スマートフォンからのワイヤレス構成による制御を実現することです。この短距離RF規格は、スマート照明向けにすでに幅広く採用されています。
また、極めて重要な点は、スマートフォンと相互運用可能なことです。この相互運用性により、高価な専用ユーザーインターフェースを必要とせずに、スマートフォン上のアプリから照明を直接制御できます。
この記事では、PoEを紹介し、PoEベースのLED照明インフラストラクチャの利点を説明します。また、設計者がPoE LED照明ソリューションを実装する方法も説明します。
次に、この記事は、Maxim Integrated、STMicroelectronics、ON Semiconductorが提供するPoE plus Bluetooth LEリファレンス設計および評価キットを参考にして、Bluetooth LEを使用してネットワークのワイヤレス構成による制御を実装する方法について説明します。
PoEの概要
最初のPoE技術(IEEE 802.3af「タイプ1」)は、公称15.4WのDC電源(最小DC44V、350mA)を各デバイスに提供するものでした。この技術は、Ethernetネットワークで一般的なRJ45コネクタとCat5ケーブルを使用します。
電力は、Ethernetケーブルの未使用導体で伝送されるか(Alternative B)、ケーブルの差動シグナリングデータ送信と干渉しない各ペアに、コモンモード電圧を適用することにより、ケーブルのデータ導体経由で伝送されます(Alternative A)。
IEEE 802.3afでは、給電装置(PSE)と受電デバイス(PD)の2種類のPoEデバイスが定義されています。PSEは独自の従来型電源から電力を取得し、それからEthernetケーブルネットワークを介してPDに送信される電力を管理します。
このPDは、必要な電力をPoEから取得します。IEEE PoE規格は、PSEとPD間のシグナリングを提供します。これにより、適合デバイスがPSEに検知されます。PSEは導体全体に2.8~10VのDC電圧を印加し、ループ電流を測定することにより、PDが接続されているかどうかを判断します。
PDは、120nFの並列静電容量を備えた19~27kΩの抵抗性負荷を示す必要があります。PDが検出されると、PSEとPDは必要な電力量または使用可能な電力量を「ネゴシエート」します。
2009年には、最初の規格である15.4Wよりも多くの電力を必要とするデバイスの増加に対処するため、「PoE+」(IEEE 802.3atタイプ2)が導入されました。この技術では、最大公称25.5WをPDに供給できます。
PoE+の電流は、最初の規格の350mAから600mAに増加しました。(PoEとPoE+の詳細については、「Power-over-Ethernet(PoE)入門」をご覧ください。)以降のバージョン(IEEE 802.3btタイプ3とタイプ4)では、それぞれ公称60Wと90W、600mAと960mAを供給します。
ミッドスパンPoE設計の実装
PSEは、スイッチ/ハブのエンドスパンに配置されるか、ミッドスパンとして実装されます。一般的に、エンドスパンPSEはEthernetスイッチ内に配置されますが、ミッドスパンPSEは通常のEthernetスイッチとPD間のどこかに配置される「パワーインジェクタ」であり、データ送信に影響を与えることなくネットワークケーブル経由で給電します。
PSEをミッドスパンに設置できることで、既存のEthernetスイッチをPoE対応の新しいモデルと交換するためにコストがかかる従来のネットワークにもPoEを導入できます。
PoEミッドスパンの実装では、未使用のEthernetペアを通して電力が直接分配されます。正のPoE PSE出力(V+)はワイヤ4と5に接続され、負のPSE出力(V-)はワイヤ7と8に接続されます。
この構成では、電力ペアは元の信号ペアから分離され、PoEミッドスパンのパワーインジェクタを直接通過します。このタイプの実装は、Maxim IntegratedのMAX5969シングルチャンネルPDコントローラとMAX5980 4チャンネルPSEコントローラを使用して構成されます(図1)。
図1:Ethernet Cat5ケーブルで以前は未使用の電源ワイヤを経由して通電するPoEミッドスパンの実装。(画像提供:Maxim Integrated)
MAX5969は、IEEE 802.3af/at PoEシステムに準拠したPD向けの完全なインターフェースを提供します。このデバイスは、検出シグネチャ、分類シグネチャ、突入電流制御付き統合絶縁パワースイッチをPDに提供します。
入力電圧に応じて、MAX5969は4つの異なるモード(PD検出、PD分類、マークイベント、PD電力)の1つで動作します。デバイスは入力電圧が1.4~10.1Vの場合にPD検出モードに入り、12.6~20Vの場合にPD分類モードに入ります。入力電圧がVON(35.4V)を超えると、デバイスはPD電力モードに入ります。
MAX5980 4チャンネルPSEコントローラは、IEEE802.3af/at PoE PSEの実装で使用するために設計されています。このデバイスは、PDの検出、分類、電流制限、負荷切断検出の機能があり、以下の4つの動作モードで動作します。
・自動モード:デバイスはソフトウェアを必要とせずにデフォルト設定で自動的に動作できる
・半自動モード:ポートに接続されたデバイスを自動的に検出し分類するが、ソフトウェアにより指示されるまでポートに給電しない
・手動モード:デバイスの完全なソフトウェア制御が可能で、システム診断に役立つ
・シャットダウンモード:すべてのアクティビティを終了させ、ポートへの給電をオフにする
Maximは、MAX5980を使用した開発作業向けにMAX5980EVKIT評価キット(EK)を提供しています。この評価キットは、-48Vまたは-54Vの電源向けに、MAX5980 PSEコントローラと4つのNチャンネルパワーMOSFETで構成されるEthernet 4ポートPSE回路を備えています。
この評価キットは、4つのEthernet出力ポートのそれぞれに個別の独立した電源チャンネルを実装することにより、技術者がこれらの各チャンネルにおいてPSEコントローラの機能を十分に発揮できるようにします。設定可能な動作モードと高電力モード(ポートごとに最大30Wをプログラム可能)を設定できます。
また、技術者は、I2Cインターフェース経由のポート電流情報、PD検出、PD分類、過電流/不足電圧/過電圧保護、電流フォールドバック、DC切断監視などについて実験することができます。
ビットレベルで各レジスタにアクセス可能なPC互換ソフトウェアを介して構成を完了できます(図2)。
図2:MAX5980評価キットに含まれる、PSEコントローラが管理する4つのポートを簡単に構成できるPC互換ソフトウェア。(画像提供:Maxim Integrated)
PoEベースのLED照明の追加
PoEコネクテッド照明の主な利点は、スマート照明の配線を新しく設置する必要がないことのほか、LED照明器具の電源の複雑さを低減することです。
PoEソケットに接続されたLED照明器具はPDとして機能し、ACからDCに変換したり、主電源電圧を降圧したりするための1次パワーレギュレーション段を必要とせずに、ネットワークからクリーンな安定化DC電源を直接使用します。
ただし、PoEの(公称)44V DC電源はLEDに直接給電するのに適していないため、LEDドライバを電源と照明の間に取り付ける必要があります。LEDドライバは入力を安定化させ、LEDが必要とする定電流/定電圧に変換します。
PoE動作用に設計されたLEDドライバの好例は、Maxim IntegratedのMAX16832です。このデバイスは、6.5~65Vの電圧入力範囲を備えた降圧、定電流、高輝度のLEDドライバで、±3%の精度で最大1Aの定出力電流を提供します。専用PWM入力により、広範囲の輝度レベルでパルスLED調光が可能になります。
2MHzのスイッチングでは、小型磁気部品が使用できます。45V入力で5個のLEDを直列駆動する場合、効率は約95%と表示されています。LEDストリングの温度が規定された温度を超えると、アナログサーマルフォールドバック機能によってLED電流が低減されます。図3は、MAX16832の代表的な応用回路を示しています。
図3:MAX16832高輝度LEDドライバの応用回路。このドライバは、PoE LED照明アプリケーションに適切。(画像提供:Maxim Integrated)
PoEベースのLED照明をBluetooth LEと組み合わせる
LEDは、精密に調光したり、瞬時にオン/オフを切り替えたり、多くの温度や色のバリエーションを設定したりすることができます。コネクティビティにより、消費者がこのような適応性を簡単に活用できるようになります。スマート照明コネクティビティ向けにEthernetネットワークを直接使用することも可能です。
ただし、Ethernetネットワークは、LED照明間で少量のデータを低頻度で送信するのではなく、コンピュータ間で大量のデータを頻繁に送信するように設計されているため、この方法は複雑になります。
Ethernetネットワークとは対照的に、Bluetooth LEはスマート照明コネクティビティの要件に最適です。主な利点には、最大100mの範囲で少量データをエネルギー効率良く送信すること、広範なベンダーベース、スマートフォンとの相互運用性(追加のユーザーインターフェースを必要とせずに構成と制御が可能)、特定の照明や照明グループの即時制御をサポートするメッシュネットワーキング機能などがあります(Bluetooth Meshの設計情報の詳細については、「Bluetoothメッシュを使用したBluetooth Low Energyスマートアプリケーションの設計-第1部」をご覧ください)。
Bluetooth LEをPoE LED照明に追加することは些細なこととは言えません(Bluetooth LEを使用した設計の詳細については、Digi-Key技術記事「IoTの要件を満たすBluetooth 4.1、4.2、および5対応Bluetooth Low Energy SoCおよびツール(第1部)」をご覧ください)。
しかし、はっきりした利点があるため、実行する価値があります。さらに、PoEベースのワイヤレス接続されたスマート照明のプロトタイプの開発は、チップベンダーのリファレンス設計や評価キットにより、はるかに容易になりました。
その1例は、 STMicroelectronicsのBluetooth LEコネクティビティを備えたPoEリファレンス設計STEVAL–POEL45W1です。このリファレンス設計は、同社のPM8805TR IEEE802.3bt対応PD PoEインターフェース、最大3Aの電流を供給可能なLEDドライバ、Bluetooth LEモジュールに基づいています。このリファレンス設計は、45Wの電源出力を提供します。
このリファレンス設計(STSW-POEL45FW)で提供されるファームウェアは、PoE照明のAndroidアプリケーションと通信し、500Hzパルス幅変調(PWM)デューティサイクル(ファームウェアによっても生成される)の制御により、LEDドライバのオン/オフモードおよび調光を管理できます。
設計者は、LEDのワイヤレス構成による制御を強化するためにアプリケーションソフトウェアを自由に開発し、同社のSTSW-BNRG1STLINKユーティリティを使用してBluetooth LEチップをプログラムすることもできます。
ON Semiconductorは、LIGHTING-1-GEVKコネクテッド照明プラットフォームを提供しています。この製品は、複数のプラグイン評価ボード(デュアルLEDドライバ、LED照明、およびBluetooth LE機能)で構成され、ワイヤレスコネクティビティを使用した完全な業務用照明ソリューションとして構築できます。デフォルトの電源はAC/DCコンバータですが、同社はPoE電源LIGHTING-POWER-POE-GEVBも提供しています(図4)。
図4:ON Semiconductorが同社のコネクテッド照明プラットフォームで使用するPoE電源。LED照明器具をIEEE 802.3af/at/bt対応PDに変換。(画像提供:ON Semiconductor)
PoE電源の中核をなすのは、同社のNCP1096PAR2G PoE PDコントローラです。このチップは、LED照明器具をIEEE 802.3af/at/bt対応PDに変換します。NCP1096は、内部パストランジスタを通して高電力アプリケーション(最大90W)をサポートします。
コネクテッド照明プラットフォームをPoE電源で使用するには、PSEミッドスパンパワーインジェクタを電源入力に接続する必要があります。ON Semiconductorは、56V(100~240V入力)で最大90Wを提供するPhihong POE90U-1BT-2-Rというミッドスパンパワーインジェクタを推奨しています。
PSEミッドスパンパワーインジェクタをPoE電源入力に接続すると、LEDドライバを電源出力に、LEDをドライバ出力に、Bluetooth LEコネクティビティモジュールをLEDドライバ上のコネクタに接続するだけで、完全なPoEベースのワイヤレス接続されたハードウェアシステムになります。
コネクテッド照明プラットフォームのファームウェアは、さまざまな統合開発環境(IDE)で実行される設計ツールである、同社のBluetooth CMSISソフトウェア開発キット(SDK)を使用して開発されます。
このファームウェアは、CMSIS SDKの一部として含まれるリアルタイムオペレーティングシステムであるFreeRTOSで実行されます。IDE上にインストールされると、設計者はSDKにより以下のBluetooth LEサービスを実験できるようになります。
・光制御サービス:コネクテッドLEDストリングの状態を読み取ったり、変更したりするために、コネクテッドデバイスが使用
・テレメトリサービス:プラットフォームによって測定された変数をコネクテッドデバイスに公開。この変数には、各LEDドライバを流れる電流やシステム電圧が含まれる
・PoE電力供給サービス:PoEインジェクタとプラットフォーム間でネゴシエートされたデバイスにPoEが課した電力制限についての情報をピアデバイスが取得することを許可
Bluetooth CMSIS SDKには、多くのサンプルアプリケーションが含まれます。これらは、IDEワークスペースに簡単にインポートでき、さらにそこからコネクテッド照明プラットフォームのBluetooth LEチップに移植できます(図5)。
図5:ON Semiconductorのコネクテッド照明プラットフォームで使用できるサンプル照明アプリケーションが含まれるBluetooth CMSIS SDK。(画像提供:ON Semiconductor)
コネクテッド照明プラットフォームには、iOSやAndroidスマートフォンの両方と互換性のある関連スマートフォンアプリ(RSL10 Sense and Control App)も付属します。スマートフォンにダウンロードすると、このアプリは開発者にコネクテッド照明プラットフォームとペアリングするよう指示します。このアプリから、開発者は以下のことが実行できます。
・測定されたLEDチャンネル電流とシステム電圧テレメトリデータを表示
・各LEDチャンネルのPWMデューティサイクルを個別に設定(これにより調光を制御)
・PoE PDコントローラとPSE間でネゴシエートされた電力制限についての情報を表示(図6)
図6:コネクテッド照明プラットフォームから構成情報や性能情報を提供するON SemiconductorのSense and Control App。(画像提供:ON Semiconductor)
結論
スマート照明は、効率的で長持ちするLEDとワイヤレス接続の利便性を組み合わせたものです。既存のインフラをアップグレードするための簡単でコスト効率の良い代替手段は、LED照明に給電するためのPoEを商用Ethernetネットワークに実装し、スマートフォンからワイヤレスで照明を構成し制御するためのBluetooth LEコネクティビティを追加することです。
PoEベースのワイヤレススマート照明の設計は些細なこととは言えませんが、成熟したPoE PSEやPDソリューションが数多くあり、PoE対応LEDドライバも充実しています。また、Bluetooth LEはスマート照明を考慮に入れて設計されています。
さらに、主要なチップメーカーが提供するすぐに使用可能なPoE plus Bluetooth LE評価キットやサンプルファームウェアをベースにプロトタイプを設計すると、開発プロセスが容易になります。
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