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PoE(Power-over-Ethernet)-新しいIEEE802.3bt規格によるIoTアプリケーション向け技術の強化

著者 Dany Haikin 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-06-16

マルツ掲載日:2020-10-05


 これまで多くの記事やブログで、PoE(Power-over-Ethernet)技術やその概念について取り上げられてきました。たとえば、Digi-Keyの記事「Power-over-Ethernet入門」もその一つです。

 本記事では、最新のIEEE 802.3bt規格によってあらゆるモノがインターネットに接続、制御、監視される今日のIoTの世界にもたらされる新たな機能を分析してその真価を探ります。

IEEE 802.3btでの機能強化

 最初に着目すべき802.3bt規格での最も重要な機能強化は、より大きな電力(71.3W)をエッジデバイス(受電側機器、PD)に供給し、給電装置(PSE)側からは90Wを出力できる点です。

 第2に、Cat5eケーブルでのネットワーキングデバイス間の転送速度、最大10Gb/秒をサポートすることです。

 これらの電力供給と信号速度における機能向上により、消費電力の大きい多数の新しい高速IoTデバイス、特に高速IIoT(産業用IoT)デバイスに、PoE技術を介して電源を供給できるようになります。その新たな用途には、次のものがあります。

・プロフェッショナルオーディオ
・デジタルサイネージ
・5Gスモールセル無線ユニット(モバイルインフラストラクチャ:3G、4G、5Gテクノロジ)
・802.11acワイヤレスアクセスポイント(WAP)
・高スループットのワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)
・産業用アクセス制御
・照明
・スマートホーム
・ビル/ファクトリオートメーション
・販売時点管理(POS)端末
・情報キオスク
・ヒータ付き屋外IPカメラ
・モニタ/ラップトップ
・天井用デジタル照明

IEEE 802.3btの新機能

 新しいPoEのIEEE 802.3bt規格では、以前のIEEE802.3at規格と比べて新しい機能や機能の強化がいくつか定義されており、それにより省力化や効率性の向上が可能になります。このため、より多くのエッジデバイスがPoE技術を使用できるようになるのです。

 基本的に、IoTプラットフォームには以下4つの構成ブロックが含まれています。

・センシング/監視
・処理(MCU)
・コネクティビティ(無線または有線)
・電源管理

 IEEE 802.3bt規格での新機能/機能強化は、上記のIoT構成ブロックのうち、電源管理にメリットをもたらします。これらの新機能/機能強化には、ショートMPS(Maintaining Power Signature)、Autoclass、PDのシングル/デュアルシグネチャ、PDへの電力拡張の4つが含まれます。これらについては、以下で詳しく説明します。

ショートMPS(Maintaining Power Signature)
 MPSは、PDが消費する最小の消費電力です。MPSによりPDが動作し続け、PSEによって切断されません。PSEはMPSが400ミリ秒以上存在しないと電力を削除する必要があり、切断されたケーブルに電力が残存しないようにします。

 さらに、IoTアプリケーションで使われるほぼすべてのPDには、低電力モードやスリープモードがあります。このようなPDは、電力供給を受け続けるために消費電流が高めになってしまい、低電力スタンバイモードの発想が裏目に出ます。

 ショートMPSは、この問題に対処するために、デューティサイクルを削減し、電源接続を維持するために電力シグネチャの生成が必要な期間を短縮します。この修正により、最小スタンバイ電力が10分の1に向上し、IoTエッジデバイスはPoEを使用して給電を受けながら許容可能なスタンバイ電力を得られるようになります。

 PoEを使用するデバイスを多く含むIoTアプリケーション、たとえばLED照明などでは、スタンバイ電力を減らすことが重要です。

Autoclass
 Autoclassにより、PDへのPSE電力供給量全体の割り当てをより適正に最適化できます。PSEは基本的に、Ethernetケーブルの損失と接続済みPDの消費電力を決められた期間にわたり「測定」し、PDクラスにより定義された高めの「割り当て」電力ではなく「実際の」電力を当該PDに供給することを「認知」します。これにより、同じPSEで給電できるPDが増えるため、より多くのIoTエッジデバイスに電力を供給できるようになります。

PDのシングルシグネチャ/デュアルシグネチャ
 IEEE 802.3bt規格では、シングルシグネチャPDとデュアルシグネチャPDという2種類のPD構成がサポートされます。PSEは、シングルシグネチャPDとデュアルシグネチャPDの両方をサポートする必要があります。

 デュアルシグネチャのデバイスは、シングルシグネチャのデバイスと同じ最大レベルの電力を必要とするアプリケーションに対応し、さまざまな絶縁負荷をより柔軟に構成できるようになります。たとえば、極端な温度条件への対処に必要なヒータや冷却ファンと共に給電される屋外監視用カメラなどの用途が考えられます。

 別の例としては、信頼性と安全性のために冗長回路を備えたIIoTアプリケーションがあり、電力供給は同時ではなく交互に行われます。図1に、デュアル/シングルシグネチャの概念を示します。


図1:シングル/デュアルシグネチャの概念(画像提供:Microchip)

 IEEE 802.3btデュアルシグネチャPDの技術情報について詳しくは、Ethernet Alliance(EA)のウェブサイトを参照してください。

PDへの電力拡張
 IEEE 802.3bt規格では、PSEデバイスから伝送できる電力が最大90W、PDデバイスで受けられる電力は最大71.3Wです。このPSEからPDへの電力低下は、Ethernet規格で定義されている最長100mのケーブル長全体での損失、最大19Wを考慮したものです。

 新しいIEEE 802.3bt規格では、PDはケーブルの抵抗を測定し、ケーブルで失われる電力を計算し、100mのケーブルで「無駄に」浪費される最大19Wの電力を補償するのに十分な電力を供給できます。

 PDからPSEまでの距離が100m未満の場合は、71.3Wを超える電力をPDに供給できます。たとえば、ケーブルの長さが2~5mの場合、PDがPSEから受けられる電力は、PSEから供給される90Wに近いものになります。

IEEE 802.3btの電力効率の強化

 802.3bt規格に明示的に定義されてはいませんが、規格の批准に近づき電源管理の効率性とIoTアプリケーションの要件を特に意識した先進的なPoE ICベンダー数社は、電力効率に対処するために自社のチップ設計の改良に乗り出しました。


図2:PoEブロックトポロジ(画像提供:Microchip)

 図2を見る前に、PSEとPDの両機能について定義しておきます。PSEでは、機能的な要件が次のようにまとめられます。

・有効なPDを検出する
・PDの電力能力を分類する
・PDに44V~57Vで4W~90Wの電力を供給する
・電力の最適化と割り当てを行う
・必要に応じて障害監視と切断を行う
・不足電流の状態が検出された場合、該当するポートへの電力供給をシャットダウンする
・過電圧保護を提供する
・スイッチ回路からの絶縁を可能にする

 同様に、PDの機能は次のようにまとめられます。

・極性保護を提供する
・検出と正しい分類のためのシグネチャを提供する
・電力の最適化を行う
・絶縁を提供する
・DC/DC起動用にオプションのバイアスを提供する
・57Vを用途に必要な安定化電源電圧まで低下させる

 図2に示されるように、PSEからの電力はEthernetケーブルを経由してPDに送られます。次に、PDのダイオードブリッジチップがケーブルの電圧を整流します。2ペアのPoEシステムでは、データペアと予備のペアのいずれかを介して電圧を供給できますが、両方での供給はできません。IEEE 802.3btで定義される4ペアのPoEシステムでは、すべてのペアで電力が供給されます。

 このため、PD内部には2つのブリッジが必要になります(図3)。


図3:PD内部にある2つのブリッジ(画像提供:Analog Devices/Linear Tech)

 従来のダイオードブリッジソリューションには、次のようないくつかの短所があります。

・ケーブルの電圧降下による電力損失が大きい
・高い熱放散
・新たな熱設計を考慮する必要がある

 上記の短所により、多くのIoT用途で従来のダイオードブリッジを使用することが、不可能ではなくとも大きな問題になります。

 ダイオードブリッジよりも効率的なソリューションはIdealBridge™と呼ばれるもので、最初にMicrosemi(現在のMicrochip)が導入しました。このソリューションは、コントローラを備えたNチャンネルMOSFETベースのブリッジです。

 デュアルの従来型ダイオードブリッジとシングルのIdealBridgeの違いを図4に示します。


図4:デュアルの従来型ダイオードブリッジとシングルのIdealBridge™(画像提供:Microchip)

 IdealBridgeには、次の利点があります。

・完全な統合ソリューションによりBOMを削減、PCBスペースの節約と実装の簡素化が可能
・MOSFET用の自己駆動回路
・低RDS(ON)、低消費電力
・電力効率の最大化による、高出力の電力と電圧の供給
・熱放散の劇的な削減、熱設計の課題の解消、ヒートシンク不要
・2ペアPoEおよび4ペアPoEの用途に対応
・IEEE 802.3xx規格に準拠

 Microsemi/Microchipは、PD70224に初めて「IdealBridge™」ソリューションを導入しました。他のベンダーによる類似ソリューションには、Analog Devices/Linear TechのLT4321、ON SemiconductorのFDMQ8205A 1チャンネル理想ダイオード(ブリッジではない)、STMicroelectronicsのPM8805統合ソリューション(PDのICチップにIdealBridgeを統合)があります。

結論

 最新のIEEE 802.3bt規格では、PoE技術に新機能が加わり、既存の機能も強化されています。これらの機能により、PoEのコンセプトを使用した接続が可能になるエッジデバイスの種類が広がるため、新たなIoTアプリケーションが数多くサポートされます。

 PoE以外のインフラストラクチャをサポートするために、ミッドスパン/インジェクタやパワースプリッタなどのさまざまな中間ソリューションが存在します。しかし、IEEE 802.3btはきわめて新しい規格でありながら、2018年末の批准前に多くのベンダーがこの分野の製品を提供していることに注目すべきでしょう。

 IEEE802.3btの新機能の利点を活用し、ベンダー間の相互運用性を維持するには、部品や製品がこのIEEE 802.3bt規格に適合しており、その適合性がデータシートに明示されている必要があります。



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