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高精度な医療用画像処理向けに信頼性が高く正確なオペアンプドライバとSAR ADCを組み合わせた設計

著者 Bonnie Baker 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2019-09-04
マルツ掲載日:2019-12-02


 MRIや超音波スキャナ、X線装置などの医療用画像処理アプリケーションは、増え続ける正確なデータ量に依存しており、より多くのデバイスとシステムが接続されるにつれてその傾向は特に高まっています。しかしデータの精度は、センサ信号を取得しながら検知信号をデジタルに変換する前のノイズによる不安定さを最小限に抑えることのできる、優れたフロントエンドの設計によって決まります。

 安定性の問題については、差動入力、逐次比較レジスタ(SAR)A/Dコンバータ(ADC)を使用して部分的に対処すれば、特定のアナログ入力信号の正確なデジタル結果を得ることができます。しかし、ノイズが原因で入力信号が不安定になる場合は、コンバータが確実に生成できるのは入力信号のノイズだけです。アナログシステムのノイズとオペアンプの帯域幅がSAR ADCを補完できるようにすることが課題です。

 この記事では、相補型オペアンプと高分解能SAR ADCを適切に選択する方法について概説します。さらに、Analog DevicesのSAR ADCと完全差動アンプを紹介し、それらを組み合わせて16ビットの信号対ノイズ比(SNR)と全高調波歪み(THD)の性能を達成する方法について述べます。

医療用画像処理の性能要件

 画像処理を行う医療機器を使用する場合、すべての出力結果は、医師が効果的な治療法を評価し処方できるかどうかに大きく影響します。医療機器がMRI、超音波スキャナ、X線装置かに関わらず、症状からその合理的な治療を導き出す元になるのは、医療機器が示した結果と医師の診断です。

 高性能な医療機器によって、画質と出力結果も向上します。機器の感度が向上すれば、患者の被曝や余計な検査の繰り返しを減らし、診断画質が向上します。

 部品のレベルでは、機器のアンプやADC、それらの実装方法によって、感度と画質の最終的なレベルが決まります。これらのシステムでは、出力レベルにおいて画質が維持されるよう、A/D変換プロセスから16ビットの性能が必要となります。アナログシステム/デジタルシステムの出発点として、この16ビット分解能は標準的なシステム性能ではSNRが98dB 以上でTHDは-107.5 以下になります。

 SNRは、信号に乗るノイズ量を表します。SNRでは高調波信号やDCは考慮されません。フルスケールの正弦波入力を伴うSAR ADCコンバータの理想的なSNRは、(6.02×n)+1.76dBです。ここでのnはコンバータのビット数です。THDは、入力信号の倍数における高調波成分(スプリアス)のパワーの実効値(rms)の総和と、入力信号のパワーの比で表します。この比率は、rms dBで指定されます。

 これに必要な性能は、Analog DevicesのADA4945-1ACPZ-R2オペアンプとAD4003BCPZ-RL7 SAR ADCを使用することで実現することができます(図1)。ADA4945-1ACPZ-R2は、低ノイズ、完全差動、高速オペアンプで、ユニティゲイン構成です。

 これは、高分解能SAR ADCを効果的に駆動します。このデバイスは広い電源範囲(3~10V)で作動し、低オフセット電圧と、100kHzで1.8nV√Hzの低ノイズ特性を備えています。AD4003BCPZ-RL7は、18ビット、2MSPS(メガサンプル/秒)の差動入力SAR ADCで、100.5dBの標準SNR、-123dBのTHD、±1.0最下位ビット(LSB)の積分非直線性(INL)を備えています。

図1:Analog DevicesのADA4945-1オペアンプとAD4003 SAR ADCをベースにした医療用画像データ収集回路の簡略図。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)

システムノイズ解析

 高精度な医療用システムの設計での主な目標は、高レベルのSNRを達成することです。SNRを改善するには、低ノイズ部品を選択する方法とフルスケール信号振幅を増やす方法の2つがあります(図2)。

図2:アナログ領域のノイズ仕様は時間と周波数を単位とします。デジタル領域のノイズ仕様はdBを単位とします。(画像提供:ボニー・ベイカー氏、Analog Devicesの資料に基づく)

 図1では、ADA4945-1アンプの電源には、歪みのないレールツーレール出力性能を確保するのに十分な広さがあります。AD4003 SAR ADCの5V基準電圧は、入力範囲をカバーします。正しい部品を選択する際に重要なのは、信号チェーンのコンポーネントの全ノイズパワーを把握することです。

 なお、図2の下部のプロットには異なる単位があることに注意してください。アナログ領域では、ノイズの測定単位はV/√Hzです。デジタル領域のノイズはdB単位で測定されます。このように、アナログ領域とデジタル領域ではノイズの単位が異なります。

オペアンプのノイズ

 アナログ領域では、ノイズの測定単位は、特定の帯域幅全域での統計的平均に対して、V-rmsでも表されます。たとえば、ADA4945-1の差動入力電圧ノイズは、5Hzで5nV/√Hz、100kHzで1.8nV/√Hzです(図3)。

図3:アンプの1/fノイズと広帯域ノイズ領域を表すADA4945-1アンプの周波数と入力電圧ノイズのグラフ。(画像提供:ボニー・ベイカー氏、Analog Devicesの資料に基づく)

 図3では、2つのノイズ領域についての難しさは、それらを1つのノイズ統計平均に結合することにあります。入力換算1/f領域のrmsノイズは、(式1)を使用して求められます。

    (式1)

 ここでは、Cが1Hzでのアンプのノイズ密度であり、f1f2は1/f領域の帯域幅を定義します。標準では、f1は0.1Hzです。
 数値を入れると、
  f1 = 0.1Hz
  f2 = 1kHz
  C = 19nV/√Hz
 1/f領域でのADA4945-1のrmsノイズは57.66nV rmsです。入力換算のADA4945-1の広帯域rmsノイズは、(式2)を使用して算出します。

    (式2)

 ここでは、enはアンプの広帯域領域での特定周波数における指定のノイズ、BWは広帯域領域の帯域幅です。
 以下の場合、広帯域領域でのrmsノイズは4.74mV rmsです。
  en = 1.8nV/√Hz
  BW = 1kHz~4.42MHz(注:200Ω(W)、180pFのローパスフィルタをオペアンプとADC間に使用)
 
 どのシステムにも存在する全ノイズパワーは、個々のコンポーネント部分に起因するノイズパワーの2乗和平方根に等しくなります。アンプの入力換算ノイズの合計は、(式3)を使用して算出します。

    (式3)

 ここで、GAMPはアンプのゲインに等しくなります。GAMP = 1の場合、ADA4451からの出力換算rmsノイズ合計は4.74mV rmsです。

 (式1)、(式2)、(式3)のアナログ領域の計算単位は、Vと周波数です。SNRを表すdB単位へのアナログ電圧の変換は、SNRAMPに等しくなります(式4を参照)。

     (式4)

 ここで、VOUT_RANGEはSAR ADC入力範囲と一致します。
 以下の場合、ADA4451-2からの出力換算のSNRAMPは、+123dBです。
  VOUT_RANGE = 9.5V

アンプの歪み

 ADA4945-1は、Analog Devices独自のシリコンゲルマニウム(SiGe)コンプリメンタリバイポーラプロセスを使用して製造されており、デバイスの低レベル歪みを実現できます。

 入力電圧範囲が-VS~(+VS-1.3V)の場合、第2高調波歪み(HD2)は、搬送周波数(dBc)と相対して-133dBに等しくなります。HD2と第3高調波歪み(HD3)は、1kHzで-140dBc HD3です。100kHzでは、HD2は-133dBcに等しくHD3は-116dBcです。

SAR ADCノイズ

 アンプの入力換算ノイズは、2つの周波数の測定地点(1Hz、100kHz)に依存します。SAR-ADCのSNR(信号対ノイズ比)を導き出すのは、FFT RSSの計算によってdB単位で得られます。

 SAR ADCの理想的なSNRは(N×6.02 + 1.76)dBに等しく、Nはコンバータのビット数になります。18ビットコンバータとして指定されるADA4003 SAR ADCの理想的なSNRは110dBです。ただし、後述するように、このデバイスの実SNRは100.3dBです。

 ADA4003 SAR ADCのFFT測定の周波数スペクトルは0~fs/2に及び、ここでfsはコンバータのサンプリング周波数になります(図4)。

図4:ADA4003 FFTデータグラフを使用してADCのSNRとTHDを計算します。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)

 図4では、ドミナントスプリアス(A)はコンバータの入力信号です。ライン(B)はコンバータからの出力ノイズを示し、量子化および内部部品のノイズを含みます。HD5となっている2次スプリアス(C)は、約-128dBでの支配的な歪みを表しています。他のスプリアス(その周波数が入力信号(A)の倍数)はすべて、RSS式によって合算されTHD合計値を生成します。

SNRとTHDの組み合わせ:SINAD

 調べる対象の性能指数(FoM)は、SNRと歪み(SINAD、またはSNR + D)です。これは、THD+ノイズとも言えます。SINADは、SNRとTHDの組み合わせの計算、あるいは「基本入力信号のrms振幅」と「サンプリング周波数の下半分にあるその他の全スペクトル成分のrms総和(DCを除く)」の比です。SINADの理論的な最小値は理想的なSNRに等しくなります。また、SARやパイプラインコンバータの場合は、6.02n + 1.76dBです。

 SINADは、基本信号の絶対的なパワーを基準にする場合はdBcで表し、基本信号のパワーがコンバータのフルスケール範囲に外挿される場合はフルスケールに相対するdB(dBFS)で表します。

 SINADは、デジタルオシロスコープ/波形記録計や、地球物理画像処理、レーダー、ソナー、スペクトラム解析、ビデオ会議システム、広帯域デジタルレシーバなどのアプリケーションでの設計に重要な仕様です。

ノイズと歪みの結合

 元の設計に戻ると、システム要件は16ビットシステムを対象にしています。この16ビット分解能は、標準的なシステム性能では98dB SNR以上および-107.5 THD以下を意味します。

 この時点で、すべてのアンプのSNRとTHDおよびSAR ADCエラーを1つのFoMに結合します。式5を使用し、アンプとSAR ADCのノイズを結合して全システムノイズを求めます。

 (式5)では、dB単位を持つ2つのSNR項を合算することはできません。アンプとSAR ADCのSNR項は線形比に変換します。それを行った上でこれらの項を合算してから、元のdB(デシベル)に戻します。

    (式5)

 (式6)を使用して、アンプとSAR ADCの歪みを結合しシステム全体の歪みを求めます。

    (式6)

 (式7)を使用し、システムのSNRをシステムのTHDと結合します。

    (式7)

 信号周波数1kHzと10kHzで、AD4003 SAR ADCを駆動するADA1945-1アンプの組み合わせで試験対象となるSNRとTHDは、98dB SNR以上と-107.5 THD以下の必要条件を満たします(表1)。

表1図1によるADA4945-1とAD4003をまとめています。ADA4945-1は100kHzで16ビット性能を維持できるのに対し、AD4003のSNRとTHDは低下し始めます。(図表提供:ボニー・ベイカー氏)

 ADA4945-1は100kHzで16ビット性能を維持できるのに対し、AD4003のSNRとTHDは低下し始めます。

まとめ

 MRI、超音波スキャナ、X線システム用の高精度16ビットシステムを作成するには、完全差動アンプと18ビットSAR ADCの組み合わせが必要になります。最高の性能を総合的に実現するには、Analog DevicesのADA4945-1とAD4003が、医療用計測器システムの低ノイズ、低歪みソリューションに最適なデバイスと言えます。



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