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低入力電源からの高出力DC電圧の生成

Digi-Key's North American Editorsの提供
2018-01-10
マルツ掲載日:2018-10-29

多くの設計における傾向は、ポータブルアプリケーションやウェアラブルアプリケーションによって推進されており、3.6V以下の電源電圧へと確実に移行しています。しかしながら、多くのポータブルデバイスは、高電圧が求められる特定の機能を備えているため、設計者は、DC/DC昇圧コンバータの最適な実装を通してできる限り効率的に、必要なレベルにアップコンバージョンする必要があります。

この記事では、DC/DC昇圧レギュレータの用途を検討し、そのトポロジについて説明します。また、デバイスの例を挙げ、ポータブルアプリケーションやウェアラブルアプリケーションに最適な設計を実現する上で求められる設計手法とトレードオフについても説明します。

DC/DC昇圧コンバータの役割

一般的なウェアラブルデバイスまたはポータブルデバイスでは、公称出力3.6VDCのリチウムイオン電池が使用されています。ほとんどのバッテリ駆動アプリケーションでは、主な電源電圧としてリチウムイオン電池を1個、または複数を直列接続にして使用しています。多くのアプリケーションではこれで十分ですが、ラップトップ、タブレット、およびその他のモバイルデバイスの機能には、はるかに高い電圧が必要となるものがあります。

たとえば、白色発光ダイオード(LED)バックライトのドライバ、RFトランシーバ、高精度アナログ回路、受光器のアバランシェフォトダイオード(APD)のバイアス回路などです。昇圧型(ブースト)DC/DCレギュレータは、小さな入力電圧を大きな出力電圧に変換することでこうしたニーズに応えるものです。

一般的な昇圧コンバータのトポロジ

昇圧レギュレータは主として、インダクタ、半導体スイッチ(通常はパワーMOSFET)、整流器ダイオード、集積回路(IC)制御ブロック、入力コンデンサおよび出力コンデンサから構成されています(図1)。

図1:昇圧レギュレータの基本構成。矢印はスイッチ開閉時それぞれの電流の流れる方向を示す(画像提供:Digi-Key Electronics。Texas Instruments提供の原資料に基づく)

VINを印加し電源スイッチを閉じると、電流は青矢印に沿ってインダクタを通りアースへと流れます。インダクタの磁場内にはエネルギーが蓄えられます。ダイオードには逆バイアスがかかり、出力コンデンサにかかる電圧は、コンデンサに蓄積されているエネルギーが負荷となるため低下します。

反対に電源スイッチを開くと、電流は赤色の矢印方向に流れます。これは、磁場が崩壊することで正電圧が生じ、順バイアスのかかったダイオードを通じてインダクタのエネルギーが流れて出力コンデンサが充電され、負荷が供給されるためです。

制御ブロックは入力電圧の変動や負荷の変化に応じて、電源スイッチのデューティサイクルを変えて出力電圧を一定に保ちます。出力側にある抵抗分割器から制御ブロックに電圧フィードバックを提供し、デューティサイクルを調整して出力電圧を目的の値に保つことができます。

総合的な設計では、これらの基本機能に加え、過熱、出力の短絡、負荷の開放、入力過電流などを対策する保護機能の選定も行います。

基本回路の一般的な改善方法としては、ダイオードを2つ目のMOSFETに置き換えます。この2つ目のMOSFETは同期整流器の役割を果たし、電源スイッチのオフ時にオンになります。ダイオードに比べ電圧降下が小さいため電力消費が抑えられ、レギュレータの効率が向上します。

同期設計は、効率が高まればバッテリ寿命が伸びることになるバッテリ駆動デバイスに有用です。また、一般にポータブルデバイスやウェアラブルデバイスのスペースは限られているため、こうしたアプリケーション向けの昇圧コンバータの多くは高度に一体化されています。パッケージに電源部品を搭載すると供給可能な電流は制限されますが、バッテリ駆動型の設計では問題となりません。こうしたアプリケーションの多くはシャットダウンモードである時間が長いため、静止電流の消費を極めて小さく抑えることが重要です。

低電力昇圧レギュレータの1例として、Texas InstrumentsのTPS610993YFFTがあります(図2)。これは同期式デバイスであり静止電流はわずか1マイクロアンペア(µA)ですが、0.7V程度の入力電圧で最大800ミリアンペア(mA)の電流を供給し、3.0Vの出力電圧を生成できます。このデバイスは、軽負荷状態での動作効率を最大限に高めるよう設計されています。アルカリ電池だけでなくNiMHやLiイオン電池などの充電式でも動作します。

図2:0.7Vの入力電圧で最大5.5Vを出力可能なTPS61099xシリーズ(画像提供:Texas Instruments)

TPS610993では、サイズがわずか1.23mm x 0.88mmの6ボールウェハチップスケールパッケージ(WSCP)に、電源スイッチと同期整流器の両方が組み込まれています。サイズが小さいため、光心拍数モニタやメモリ液晶ディスプレイ(LCD)バイアスドライバなど、スペースの限られたアプリケーションに最適です。このデバイスはTPS61099x製品シリーズの1つであり、出力電圧範囲は1.8V~5.5Vです。

スマートフォンのカメラのフラッシュ用回路やバッテリ駆動型LEDライト向けにより高い電圧を出力するため、Microchip TechnologyのMCP1665では異なるアプローチを採用しており、36V、100ミリオーム(mΩ)のNMOS電源スイッチを組み込みながら非同期トポロジの外部ダイオードが使用されています。

図3:Liイオン電池、NiMH電池、NiCd電池から最大32Vを出力可能なMicrochipのMCP1665(画像提供:Microchip Technology)

このデバイスは5V電源で最大1000ミリアンペアを出力でき、起動時の電圧の制御、各種動作モード、500キロヘルツ(kHz)のスイッチング周波数などの特徴を備えています。ピーク電流モードのアーキテクチャでは、幅広い負荷範囲にわたり高い効率を実現します。

昇圧アプリケーションの中には、出力電圧を設定値に保つことが設計の第一目標ではないものもあります。LEDバックライトドライバでは、目的のLEDの輝度はLEDストリングを流れる電流の関数となるため、シャント抵抗器を流れる電流が制御装置へのフィードバック電圧となり、昇圧後の電圧を左右します。バックライトアプリケーション向けの昇圧コンバータの例としては、Diodes Incorporatedの提供する最大8個のLEDで構成されるストリング用に最適化されたAP3019AKTR-G1があります(図4)。

図4:1.2MHzの標準スイッチング周波数で動作し、LEDバックライトストリングの輝度制御用の特別な機能を備えたAP3019Aドライバ(画像提供:Diodes Incorporated)

このドライバはスペースの限られたアプリケーション向けに最適化されており、電源スイッチとダイオードの両方を内部に搭載しています。スイッチング周波数は1.2MHzであるため、小型の外付け部品も使用できます。AP3019AはSOT-23-6パッケージに収められ、最大出力電流は550mAです。

CTRLピンは特殊なシャットダウン入力と調光入力になっており、1.8V以上の電圧に接続するとデバイスはイネーブルに、0.5V以下の電圧に接続するとディセーブルになり、パルス幅変調(PWM)信号を入力すればLEDの輝度を制御できます。

効率を最大化するためのヒント

これまでに紹介したデバイスの中にはメーカーが内部のパラメータをすでに一部修正しているものもありますが、多くの場合、設計でいくつかのトレードオフを利用して変換効率を最大化することも可能です。また、以下のガイドラインに従って適切な外付け部品を入念に選定しなければなりません。

スイッチング周波数:スイッチング周波数が出力電圧に直接影響することはありませんが、電源の設計には多大な影響を及ぼします。一般には、一定のアプリケーションでは、スイッチング周波数が高いほどより小さなインダクタやコンデンサを採用できます。インダクタのサイズは、主として許容されるリップル電流量で決まります。インダクタンスが一定の場合、スイッチング周波数が増加するとリップル電流は減少します。デバイスの選択肢が複数ある場合には、スイッチング周波数が高いものを選ぶことで、リップル電流量を一定に保ちながらインダクタを小型化できます。

動作周波数が大きいほどスイッチングレギュレータの帯域幅は大きくなり、過渡応答時間は短くなります。また、インダクタが小さいほど、電源のサイズと費用を抑えられます。

インダクタの選定:インダクタは昇圧レギュレータの主要なコンポーネントです。電源スイッチがオンである間はエネルギーを蓄え、電源オフ時には出力整流器ダイオードを通じて出力側へエネルギーを伝達します。

設計では、インダクタの電流リップルの低さと効率の高さのバランスを取る必要があります。インダクタは物理サイズが同じであれば値が低いほど飽和電流は大きく、直列抵抗は小さくなりますが、インダクタンスが小さいほどピーク電流が大きくなり、効率の低下、リップルの増加、ノイズの増大につながる可能性があります。

適切なインダクタを選択するには、定格飽和電流がピークインダクタ電流よりも大きく、定格RMS電流がレギュレータの最大入力DC電流よりも大きいものを選んでください。

ほとんどの昇圧レギュレータのデータシートには、各種負荷電流および電圧ごとに推奨されるインダクタが記載されています。前述のMicrochipのMCP1665では、出力電圧が15V以下の場合はPanasonic Electronic ComponentsのELL-8TP4R7NB 4.7マイクロヘンリー(µH)インダクタが、これよりも大きな出力電圧の場合はWurth Electronicsの7447714100 10µHインダクタが推奨されています。

ダイオードの選定

非同期設計では、損失を抑えるために順電圧の低いショットキーダイオードを使用してください。このダイオードは、平均順電流定格が最大出力電流以上のものでなければなりません。また、ピーク繰り返し順電流定格はインダクタのピーク電流以上であり、逆降伏電圧は内部電源スイッチの定格電圧よりも大きい必要があります。

たとえば、MCP1665の内部スイッチの定格電圧は36Vであり、最大1Aを出力できます。このため、Microchipでは、逆降伏電圧40V、順源流2AのSTMicroelectronicsのSTPS2L40VUショットキーダイオードが推奨されています。

高温では、ダイオードのリーク電流もコンバータの動作効率に大きく影響します。電流と周囲温度が高い場合には、熱特性の優れたダイオードを使用してください。

入力コンデンサと出力コンデンサ:昇圧レギュレータのトポロジでは、インダクタはレギュレータ回路の電源回路にかかる過渡の需要を取り除き、必要な入力フィルタリングを低減する役目を担います。+85°Cの動作温度では、たいていはX5R定格のセラミックコンデンサで十分ですが、+125°Cでの動作ではESR X7Rコンデンサが必要になる可能性があります。

電源のインピーダンスが高すぎて、高負荷ステップで入力電圧を過小電圧ロックアウトしきい値より大きく保つことができない場合には、別途電解コンデンサやタンタルコンデンサが必要になります。

負荷側では、出力コンデンサが負荷のリップルを抑えるため、負荷の過渡状態時にも安定した出力電圧が得られます。出力コンデンサにはセラミックコンデンサX7Rがお勧めです。他のタイプでは、ESRが高くコンバータの効率が低下する可能性があります。

セラミックコンデンサを最大電圧付近で動作させると効率が損なわれるため、コンデンサのDC定格は、最大出力電圧VOUTよりも十分に大きくなければなりません。コンデンサの選定にあたっては、データシートの推奨事項を確認してください。

昇圧レギュレータのレイアウトに関する考慮事項:昇圧レギュレータはスイッチング特性が高速であるため、そのパフォーマンスにはPCBのレイアウトが大きく影響します。寄生インダクタンスやコンデンサは、出力リップルの増加、出力レギュレーションの低下、過度の電磁干渉(EMI)の原因となり、大きな電圧ノイズにより故障する場合もあります。

このため、次のヒントを踏まえPCBのレイアウトには細心の注意を払ってください。

 1.出力コンデンサはデバイスの近くに配置するとともに、電圧のリンギングやノイズの原因となる寄生インダクタンスを最小限に抑えるため、短く幅の広いトレースで接続してください。寄生インダクタンスを抑えるには、ビアを複数設けるのも有用です。
 2.出力コンデンサの配置後は、放射性EMを抑えるためインダクタをICに近づけて配置します。SWノード(図2、3、4を参照)は電気的なノイズが多いため、フィードバック(FB)信号などのデリケートなトレースはこのノードから十分に離してください。
 3.また、ループの面積を最小化するため、入力コンデンサのアースノードをIC電源のアースピンの近くに配置してください。
 4.最大限の熱性能を得るため、レイアウトの接地平面にはデバイスの熱パッドの熱ビア(該当する場合)も含めてください。こうすることで放熱が改善され、熱によるシャットダウンのリスクを抑えられます。
 5.電源用アース、信号用アース、熱パッドはインピーダンスの低い単一接地点にまとめて接続してください。

オンライン設計ツールにより設計プロセスを短縮

効率の高い電源を設計するには、部品の評価と選定、磁気、補償回路設計、最適化、熱分析、レイアウトなどさまざまな分野の専門知識が必要です。

設計の複雑さを考慮して、いくつかの電力半導体サプライヤから、ガイド手順に従って適切な設計を行うことのできる有用なオンライン設計ツールが提供されています。

Texas Instrumentsではさまざまなツールを用意しています。たとえば、Power Stage Designer™は、最も一般的なスイッチング電源の設計に役立ちます。昇圧コンバータのトポロジとしては、昇圧、昇降圧、SEPICが用意されています。提案されたトポロジの選択後は、さまざまなパワーFETの性能の比較、バルクコンデンサの選定、補償ネットワークの決定などの設計機能の実行をサポートします。

ADIからは、完全な回路図と部品表(BOM)の生成、および回路性能の計算を行うことのできるADIsimPower™設計ツールセットが提供されています。ADIsimPowerは、ICおよび外付け部品の動作状態や制約を考慮に入れながら、コスト、面積、効率、そして部品点数について設計を最適化することができます。

結論

昇圧レギュレータは、バッテリ駆動型のポータブルデザインやウェアラブルデザインにおいて、より高い電圧の回路機能を使用可能にするという重要な役割を担っています。 しかし、設計においては、求める昇圧アプリケーションに適したデバイスを選ぶとともに、数々の主要な設計のバランスやベストプラクティスを考慮しなければなりません。

 

このページのコンテンツはDigi-Key社より提供されています。
英文でのオリジナルのコンテンツはDigi-Keyサイトでご確認いただけます。
   


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