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ヘビーデューティの三相ACモータ向け電気機械式コンタクタの選択と適用方法

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング) 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2022-02-16

マルツ掲載日:2022-05-30


 小さな電圧信号を使用して比較的高い電圧や電流の絶縁型スイッチングを実現するには、一般的にリレーを活用します。低電圧のスイッチでリレーを作動させることで、高電力電源がオンになります。電気機械式リレー(EMR)は低コストで比較的高い電圧にも対応でき、またソリッドステートリレー(SSR)は接触摩耗やアーク放電を排除します。

 しかし、数百Vや数十A(およびそれ以上)の頻繁なスイッチングに対応するには、どちらのタイプにも課題があります。このような高負荷時のアーク放電はEMRのコンタクトを急速に摩耗させ、SSRのリーク電流は過熱を引き起こします。設計者は、こうした要求の高いアプリケーションに対する代替選択肢を必要としています。

 馴染みの薄い電気機械式コンタクタ(EMC)は、リレーに代わる強力な製品です。これらのデバイスは実証済みの技術であり、信頼できる多くのサプライヤから容易に入手できます。数十種類もの選択肢があるため、EMCの動作を詳細に理解していないと、選択プロセスですぐに混乱してしまいます。

 この記事では、EMRとコンタクタの違い、コンタクタの動作の仕組みについて簡単に説明してから、設計を成功させるための最初のステップとして、特定のアプリケーションが製品の選択にどのように影響するかに焦点を当てます。IE3電気モータの実装に使用されるSiemensのSIRIUS 3RTシリーズ パワーコンタクタを例に、設計上の選択肢を説明します。

電気機械式リレーとコンタクタの違い

 スイッチは閉じた状態で全回路電流にさらされるため、大型三相モータのような高電力デバイスのオン/オフに使用するのは現実的ではありません。スイッチは反転する際に危険なアークを発生し、動作中には過熱します。その解決策は、従来のスイッチによるオン/オフの低電力回路を使用し、高電力回路をトリガすることです。これがEMRの目的です。

 EMRは、低電力回路によって通電されたコイルを使用して磁界を発生させ、その磁界が可動式コアに衝撃を与え、コンタクトを開閉(ノーマリクローズ(NC)またはノーマリオープン(NO))させる仕組みになっています。EMRは、ACまたはDC負荷を最大定格まで切り替えることができます。

 EMRの主な利点は、低コストであることと、デバイスの誘電定格を下回る印加電圧で絶縁が保証されることです。(「特殊な低ノイズソリッドステートリレーでEMIを制限し重要な規格を満たす方法」を参照してください。)

 しかし、EMRが扱える電力には限界があります。たとえば、数kW以上を生成する三相モータが負荷の場合、EMRを使用してスイッチングすると過剰なアーク放電が発生し、リレーが急速に摩耗してしまいます。EMCは、数千万サイクルにわたって高負荷を確実に切り換えることができるように設計された、産業用リレーに相当するヘビーデューティで頑丈な代替品です(図1)。

     
図1: 電気機械式コンタクタは、ヘビーデューティなスイッチングアプリケーションにおいてリレーの代わりとなります。(画像提供:Siemens)

 EMCは、高電流を必要とするデバイスに安全に接続でき、一般的に、高負荷時のスイッチングで発生するアークを制御・抑制する機能を備えた設計となっています。リレーと同じ通電コイル/可動コアによる起動方式を採用しており、ほとんどがNOコンタクトのみを備えていますが、NCコンタクトも使用可能です。

 NOコンタクトは、EMCへの電力供給が停止したときに、コンタクトがオープンに切り替わり、高電流を消費するデバイスへの電力供給を遮断します。このデバイスは、極とも呼ばれる1組または複数組のコンタクトを備えています。

EMCの選択

 EMRに比べて、EMCの選択を決定するのは比較的簡単です。EMCはより高価ですが、高負荷アプリケーションにとって唯一の選択肢となります。EMCが必要であると判断することよりも、作業に最適なEMCを選択することの方が困難です。

 まず、アプリケーションの動作電圧におけるピーク負荷電流(全負荷アンペア(FLA)とも呼ばれる)の要件を決定することから始めるのが最善です。これにより、必要なコンタクタの電流負荷容量が決まります。

 たとえば三相モータの場合、メーカーは通常、データシートに動作電圧とFLAを明記しています。しかし、その情報が得られない場合、技術者は米国電気工事規程(NEC)の表などの資料を参照することができます。この表には、さまざまな公称電力と入力電圧の三相モータにおけるFLAの詳細が記載されています。

 モータは、国際電気標準会議(IEC)のモータ分類に基づいて分類されています。たとえば、375Wの三相モータで110Vの動作電圧の場合、FLAは4.4Aとなり、1.1kWのモータで220Vの動作電圧の場合、FLAは6Aとなります。

 次に、技術者はEMCに必要な制御電圧を決定する必要があります。この電圧は、関連モータに電力供給するために使用する電圧と同じである場合もありますが、安全上の理由から、より低い電圧がしばしば使用されます。EMCの制御電圧は一般的に、常時250VAC未満です。

 次に、モータがアプリケーションでどのように性能を発揮するかを考慮する必要があります。たとえば、2つの異なるアプリケーションで同じ仕様の三相モータを使用する場合があります。しかし、長期間にわたってモータをオン/オフする必要があるアプリケーションでは、頻繁にオン/オフするアプリケーションとは異なるEMCが必要です。後者には電流負荷が繰り返しかかるため、より堅牢な製品が必要となります。

 IECの利用カテゴリまたは「コード」は、特定のアプリケーションに対して適切なEMCを選択するための優れたガイドとなります。たとえば、EMCのコードが「AC-3」であれば、定期的にモータをオン/オフするようなアプリケーションの「かご形」電気モータ(電気誘導モータの一般的なタイプ)に適しており、「AC-20」であれば、ゼロ電流状態での負荷の接続/切断に適しています。

 IECコードが不適切に指定されたEMCは、特定のアプリケーションでは機能するかもしれませんが、適切なコードのEMCよりも寿命がはるかに短くなる可能性があります。

 また、負荷が抵抗性か誘導性かということもEMCの選択に大きく影響するため、IECコードは負荷のタイプを考慮するのにも役立ちます。たとえば、電気モータは誘導性負荷で、ヒータは抵抗性負荷です。

 また、1つのEMCに何本の極が必要か、そしてNOかNCかを考慮することも重要です。たとえば、あるアプリケーションでは、電気モータの各相にNOコンタクタを使用する3極に加えて、電力供給されているモータが回転していないことを示すLEDを点灯させるNCペアが必要になります。

 さらに、EMCには比較的高い電圧と電流が流れることが多いため、デバイスの絶縁定格がアプリケーションの安全基準をすべて満たしていることも重要です。

 モータは発電電力の大きな割合を消費するため、米国やEUでは、可能な限り効率的なモータ動作を保証するための法案が可決されています。EUのエネルギー効率レベルは、国際エネルギー(IE)効率クラスで表されます(図2)。

 現行の規制では、モータはその定格電力やその他の特性に応じて、IE2(高効率)、IE3(プレミアム効率)、IE4(スーパープレミアム効率)のいずれかのレベルに達しなければなりません。EMCは電気モータの効率に影響を与えるため、制御システムがEUで使用される場合は、適切なIE効率クラスに合わせて設計することが重要です。

 米国では、モータがアメリカ電機工業会(NEMA)のプレミアム効率プログラムに準拠している必要があり、IE3で規定されているような基準への準拠が求められます。オーストラリアの要件は、米国の要件と同様です。


図2:電気モータのIE効率要件は、低電力のモータほど効率の向上が大きいことを示しています。IE1とIE2のモータは、米国とEUの規制では許可されなくなりました。(画像提供:Siemens)

商業用製品

 ほとんどの高負荷アプリケーションに対して幅広い高品質EMCが入手可能です。たとえば、SiemensのSirius 3RT2シリーズのEMCは、電気モータのスイッチングなどのアプリケーションにおいて現代製品の機能を実証しています。これらのデバイスは、高い動作信頼性、高いコンタクト信頼性、高温動作、および長い耐用年数を実現するように設計されています。

 これらのパワーコンタクタは、並べて設置してもディレーティングなしで最高60℃まで使用することができます。このシリーズには、AC-1(ヒータなどの非誘導性負荷またはわずかに誘導性のある負荷)、AC-3(頻繁にスイッチングを行うかご形電気モータ)、AC-4(かご形電気モータ:始動、プラッギング、インチング)の動作に分類されたEMCが含まれています。SIRIUS 3RT2製品はすべて、IE3とIE4のモータ動作を実現するように設計されています。

 SIRIUS 3RT2シリーズの3RT20152AP611AA0は、S00サイズのコンタクタを備えたNO 3極EMCで、AC-3アプリケーション用にコード化されています。制御電源電圧は220~240VACです。出力電圧は400Vまたは690Vで、最大電流は400Vで7Aまたは690Vで4.9A、公称最大電力は400Vで3kWまたは690Vで4kWです。

 コンタクトは35ms未満で閉じ、14ms未満で開きます。負荷時の最大スイッチング周波数は、毎時750サイクルです。耐用年数は3,000万サイクル、故障率は1億回に1回です。このEMCを使用する場合、付属の三相モータのFLAは、480V定格のモータで4.8A、600V定格のモータでは6.1Aとなり、2.2kW(480V)または3.7kW(600V)のモータに十分な電力を供給することができます(図3)。


図3:3RT20152AP611AA0 EMRは、3つの極がNOであるため、3相モータのスイッチングに適した構成となっています。(画像提供:Siemens)

 SIRIUSシリーズの対極には、3RT20261AP60があります。これもNO 3極EMCで、AC-3アプリケーション用にコード化されていますが、S0サイズのコンタクタを使用しています。制御電源電圧は220~240VACです。

 このデバイスの出力電圧は400Vまたは690Vで、最大電流は400Vで25Aまたは690Vで13A、公称最大電力は両方の出力電力で11kWです。付属の三相モータのFLAは、480V定格のモータで21A、600V定格のモータでは22Aとなり、11.2kW(480V)または14.9kW(600V)のモータに十分な電力を供給することができます。

 SiemensのSIRIUS 3RT2 EMCは、さまざまなアプリケーションに適していますが、IE3またはNEMAプレミアム効率準拠のモータのスイッチングに最適です。これに準拠するためには、EMCがモータの制御システムの効率的な部分であることが求められます。

 この要件を満たすために、EMCはコイルの消費電力を低減するための永久磁石や電子コイル制御などの特長を備えています。これにより、コンタクタを閉じたままにするための保持電力を最小限に抑えることができます。EMC固有の電力損失は、従来のデバイスに比べて92%削減されました。

 たとえば、2.2kWから7.5kWの三相モータをEMCの出力電圧に応じて切り替えることができる3RT20171BB41パワーコンタクタは、電気モータに全電力を供給した場合、1極あたり1.2Wの損失、全体では3.6Wの損失となります。

EMCを使用したIE3モータの始動

 モータ駆動系は、安全で信頼性の高い動作を実現するために、いくつかの部品で構成されています。たとえば、包括的なセットアップは、以下の部品で構成されます。

・保護デバイス(例:モータプロテクタスターターや過負荷リレー)
・始動ユニット(例:EMC)
・コントローラ(例:モータ管理システム)
・制御ユニット(例:周波数コンバータ)
・電気モータ
・ギアボックス
・ケーブル
・被駆動機械

 SIRIUS 3RT2 EMCは、他の部品と一緒にDINレールに取り付ける(またはネジ止めする)モジュール式デバイスとして設計されています。EMCは、他のモジュールと組み合わせることで、モータ駆動系に望ましい制御部を構成できます(図4)。モジュール設計のためキャビネット内の配線量を抑えることができ、接続にはスプリング装填コンタクトを使用するため、特別な工具は必要ありません。


図4:SIRIUS 3RT2シリーズはモジュール式デバイスであるため、モータ制御システムを簡単に実装できます。ここでは、24VDC信号でスイッチングする3RT20171BB41 EMRを保護デバイスや過負荷リレーと組み合わせて、コンベヤモータを制御しています。(画像提供:Siemens)

 EMCを慎重に選択すれば、それが制御システムのプラグアンドプレイ要素となります。3RT2パワーコンタクタは、1~15kW範囲のIE3電気モータのスイッチング用に最適化されており、直入れ始動および逆転始動アプリケーションにも追加の制約なしで使用することができます。

 しかし、3RT2 EMCを使用する際には、IE3タイプよりもIE2タイプの電気モータに慣れている技術者にとって、設計上の重要な考慮事項がいくつかあります。IE3モータの制御システム設計に影響を与える特性には、定格電流の低減、始動電流比の増加、突入電流の増加などがあります(図5)。


図5:三相ACモータ用のEMCを選択する際には、突入電流、始動電流、定格モータ電流が考慮すべき重要なパラメータとなります。(画像提供:Siemens)

 IE3電気モータの効率を向上させるための秘訣は、定格モータ電流の低減です。しかし、IE3では、電気モータの電力範囲全体における効率の直線的な向上は規定されていません。その代わり、IE2タイプと比較した場合、低電力の電気モータの効率を高電力ユニットよりもはるかに向上させる必要があります(上記の図2参照)。

 つまり、低電力の電気モータでは、IE2タイプに比べて定格モータ電流が大幅に低減されます。ここで、動作電圧を上げても同等の電力を維持していることに注意してください。

 定格電流を低減する裏返しとして、効率性の高いモータでは始動電流比(始動電流/定格電流)が増加します。これは、IE3モータの始動電流は低いものの、同一電力のIE2とIE3モータの差が、始動電流では定格電流ほど顕著ではないために起こります。電力効率の低いモータでは、始動電流比が高電力のモータに比べて高くなります。

 始動電流比の増加による影響は、突入電流の増加です。突入電流は本来、モータなどの誘導負荷の接続や、モータの積層コアにおける動的な電流過渡や飽和効果などの要因によって生じる動的な補償現象です。突入電流はFLAの最大5倍にもなり、モータや他のシステムに損傷を与える可能性があります(図6)。


図6: 突入電流は高効率のモータほど高く、低電力のユニットほど大きくなります。適切な制御システム設計により、その影響を軽減することができます。(画像提供:Siemens)

 3RT2 EMCは、他のモジュール式制御部品とともに、突入電流を制限するスターデルタ(YΔ)始動システムで使用することができます。ユニットのY結線にかかる全ライン電圧を使用してモータを始動することで、ライン電圧の約58%がモータの各相に到達します。

 これにより、電流が低下して突入ピークが抑えられます。モータが定格速度に達すると、動作がΔモードに切り替わり、各相に全電圧が(突入電流の危険なしに)印加され、モータは全出力を発生させることができます。

 この配列では、モータの給電ケーブルU1、V1、W1に過負荷リレーを直接配置する必要があります(図7)。これにより、3つのEMCすべてに対する過負荷保護が有効になります。完全な実装には、リレーと3つの3RT2 EMCが必要になります。


図7:モータ始動時に電源を切り替えるために、モータ給電ケーブルの過負荷リレーと3つのEMCで構成されたYΔ回路。(画像提供:Siemens)

 動作時には、K1とK3のEMCを一緒に閉じることで、シーケンスのY部がトリガされます。(モータの最高速度の約80%時に)あらかじめ設定された時間が経過すると、タイマーによってK3が開き、K2が閉じることで、デルタ部が始動され、モータに全電力が適用されます。

まとめ

 三相ACモータなどの高電力負荷をスイッチングする場合は、EMRの代わりにEMCを使用することをお勧めします。EMCは、数千万回の動作にわたって信頼性の高いスイッチングを実現するように設計されています。これらのデバイスは、数キロワットから数百kWまでの幅広いモータ出力に対応しています。

 この記事で示したように、SiemensのSIRIUS 3RT2 EMCは、2~25kWの三相ACモータのスイッチングに適しており、そのモジュール設計により、制御システムへの導入が容易になっています。SIRIUS EMCは比較的簡単に取り付けることができますが、過剰な突入電流によるモータの損傷を避けるため、制御システムの実装には注意が必要です。




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