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A4964KJPTR-Tモータドライバで車載およびIoT BLDCモータアプリケーションの開発を加速

著者 Jacob Beningo 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-10-26

マルツ掲載日:2022-02-14


 ブラシレスDC(BLDC)モータは、IoTで遠隔操作されるガレージオープナや自動車の窓、人工衛星の推進コントローラなど、さまざまな用途で使用されるようになっています。BLDCモータで設計者が直面する問題は、駆動に必要な制御アルゴリズムが複雑で、特殊なものが多いことです。一般的なエンジニアが所定の時間内に1つのアプリケーションを立ち上げるのが難しいと感じているのは、このためです。

 開発者は一般的に、ソフトウェアベースのソリューションを選択するか、専用集積回路(IC)を使用するかを選ぶことになります。前者は、柔軟なソフトウェアソリューションを提供する一方で、マイクロコントローラに計算負荷をかけることになります。後者は、BLDCモータの制御機能をすべてカプセル封止し、BLDCの制御をホストからオフロードします。

 この記事では、マイクロコントローラベースのソフトウェアソリューションと、専用のハードウェアチップソリューションの違いを説明します。その後、車載用BLDCモータの制御を容易にするために設計されたモータドライバ、Allegro MicroSystemsのA4964KJPTR-Tの使用方法について詳しく解説します。また、A4964KJPTR-Tの操作方法と、予期せぬ動作を避けるためのいくつかのベストプラクティスも紹介します。

BLDCモータの(非常に)簡単な紹介

 BLDCモータは、幅広い回転数で効率的にトルクを発揮し、静粛性に優れ、ブラシ付きモータのような機械的な摩擦がないのが特徴です。BLDCモータは、電圧ではなく電流で制御されるため、さまざまなアプリケーションに使用することができ、その形状やサイズ、コストもさまざまです。

 たとえば、TRINAMIC Motion ControlのQBL4208-41-04-006は、24V、4000回転/分(RPM)のモータで、最大0.06Nmのトルクを実現しています(図1)。モータは0.662ポンド(lb)と軽量で、開発者は、逆起電力(BEMF)を利用したセンサレス動作や、位置を知らせる内蔵センサを利用するなど、さまざまな方法でモータを制御することができます。


図1:QBL4208-41-04-006は、24V、4000RPMのBLDCモータで、最大速度で0.06Nm強のトルクを出すことができます。(画像提供:TRINAMIC Motion Control GmbH)

 また、より大きなトルクを必要とする場合は、同じくTRINAMIC Motion ControlのQBL4208-100-04-025を使用することができます(図2)。24V、4000RPMのBLDCモータで、0.25Nm強のトルクを発揮します。


図2:TRINAMIC Motion ControlのQBL4208-100-04-025は、24V、4000RPMのBLDCモータで、最大速度で0.25Nm強のトルクを発揮します。(画像提供:TRINAMIC Motion Control GmbH)

 BLDCモータは、3相線で駆動することで磁界を発生させ、その磁界が永久磁石を押してステータを動かし、モータを回転させます。理論的には簡単に聞こえますが、実際にはBLDCモータの駆動はかなり複雑で、開発者はソフトウェアフレームワークを使ってモータを駆動するか、専用のチップソリューションを選ぶことになります。

ソフトウェアと専用チップソリューションの比較

 BLDCモータをどのように回転させるかについて、開発者が考えなければならない要素がいくつかあります。これらの要素は、基本的には以下のようになります。

・BOMコストと人件費の比較
・ボードの複雑性とソフトウェアの複雑性
・メンテナンスの時間とコスト

 ハードウェアの観点からすると、専用のチップソリューションではBOMに追加コストがかかるため、ソフトウェアを選択するのが魅力的に思えます。専用のチップではなく、その分のコストをかけずにマイクロコントローラを搭載し、そのマイクロコントローラにすべての制御アルゴリズムを搭載するということです。一見するとウィンウィンの状況ですが、チームがこの決定のあらゆる影響を考慮していないことがよくあります。

 確かにBOMコストは下がりますが、その分、BLDCの状態データを処理してモータを継続的に駆動するためのマイクロコントローラの負担が増えてしまいます。また、マイクロコントローラが他のセンサをサンプリングしたり、無線機と通信したり、他の機器を制御したりしようとすると、ソフトウェアの開発やメンテナンスのコストが大幅に増加する可能性があります。

 しかし、マイクロコントローラを使ったソフトウェアベースのソリューションには、モータ制御アルゴリズムを微調整できるという柔軟性があります。また、ソフトウェアを使ったからといって、必ずしも事態が複雑になりすぎるというわけではありません。

 たとえば、モータ制御のアルゴリズムをマイクロコントローラに移すと、RAMの使用量が増えたり、フラッシュが大量に必要になったりすることがよくあります。しかし、Texas Instrumentsのモータ制御用マイコンF280049CRSHSRのように、モータ制御用に設計されたマイクロコントローラを使用すると、アルゴリズムはマイコンのROMに格納されたライブラリに組み込まれます。つまり、アプリケーションに追加されるコードは、あらゆる困難な処理を行うライブラリにアクセスするための関数呼び出しだけです。

 BLDCモータを回転させるには、ソフトウェアだけではなく、ハードウェアも必要です。図3は、F280049CRSHSRが属するC2000マイクロコントローラを用いたアプリケーション例で、BLDCモータを駆動するために必要なものとオプションを示しています。マイクロコントローラの他に、BLDCモータの3相を駆動して回転させるための3相パワー段が必要です。


図3:Texas InstrumentsのC2000マイクロコントローラは、モータ制御アプリケーション用に設計されています。この画像は、マイクロコントローラを中心に、BLDCモータを駆動するために必要な回路やオプションの回路を配置したアプリケーション例です。(画像提供:Texas Instruments)

 マイクロコントローラを使ってモータを駆動するのは確かに興味深いことですが、専用のハードウェアソリューションとはどのようなものでしょうか。Allegro MicroSystemsのA4964KJPTR-Tモータドライバチップを見てみましょう。

Allegro MicroSystems A4964KJPTR-Tモータドライバ

 Allegro MicroSystemsのモータドライバチップA4964KJPTR-Tは、モータ駆動に必要な機能をすべて備えたBLDCモータ専用のドライバです(図4)。車載用に特別に設計されたこのチップは、NチャンネルMOSFETでの使用を想定されており、センサレスで起動および整流するため、最小限の外部ハードウェアしか必要ありません。

 また、A4964KJPTR-Tは、5.5~50Vの幅広い電圧で動作するため、車載システムとともに、ほぼすべての標準的なアプリケーションをカバーしています。

 おそらく、A4964KJPTR-Tの最大の特徴は、シリアルペリフェラルインターフェース(SPI)を介してマイクロコントローラや中央電子制御ユニット(ECU)と接続し、モータの動作に必要な各種レジスタを設定できることでしょう。もちろん、モータ制御のアルゴリズムを実行するマイクロコントローラほど高性能である必要はありません。


図4:A4964KJPTR-T BLDCモータドライバは、5.5~50Vで動作し、センサレスでの起動と整流が可能です。モータの速度は、SPIまたは専用のPWM信号で設定できます。(画像提供:Allegro MicroSystems)

 また、ここが興味深いところですが、A4964KJPTR-Tのモータ速度は、パルス幅変調(PWM)信号を供給するだけで、SPIなしで駆動することができます。モータの設定を保存できる不揮発性メモリがあり、電源投入時に設定が読み込まれるため、PWM信号だけでモータを制御することができます。

 構成の観点では、A4964KJPTR-Tは、32個のアドレス可能な16ビットレジスタと、ステータスレジスタを備えています。ステータスレジスタは、SPIの読み取り/書き込み操作のたびに最初の5ビットが送信されるという固有の機能を持っています。

 これにより、ソフトウェアは、障害や問題がないかどうか、一般的なステータスをチェックすることができます。A4964KJPTR-Tからデータが返されないため、チップへの書き込み中にすべてのステータスレジスタを読み出すことができます。

 32個のアドレス可能なレジスタの中には、2つの特別なレジスタもあります。レジスタ30は書き込み専用、レジスタ31は読み取り専用です。この書き込み可能なレジスタにより、開発者は要求入力、つまりモータが駆動するデューティサイクルレートを0~1023の値で設定することができます。

 読み取り専用レジスタのデータは、リードバックセレクトレジスタであるレジスタ29に書き込まれる要求データに基づいて変化します。このレジスタにより、以下のような広範囲のテレメトリ情報を取得することができます。

・診断
・モータ速度
・平均電源電流
・電源電圧
・チップ温度
・要求入力
・適用されたブリッジピークデューティサイクル
・適用されたフェーズアドバンス

 これらの特別なレジスタ以外の残りの30個のレジスタでは、特定のモータアプリケーションを調整したり、電流制限やゲートドライブフォールトなどのフォールトを有効または無効にしたりすることができます。

 専用モータドライバが興味深いのは、モータを動かすために必要な設定をすべて数十個の構成レジスタにまとめているからです。これにより、マイクロコントローラに存在するソフトウェアのオーバーヘッドを劇的に排除することができます。また、それ以上に重要なのは、ソフトウェアの開発およびメンテナンスコストを劇的に削減することでしょう。

 BLDCを駆動するには、マイクロコントローラにオーバーヘッドがかからないPWMを送るか、モータビットを有効にしてSPIベースの要求入力を与えてBLDCを回転させるだけです。

A4964KJPTR-Tの使い方のヒントとコツ

 A4964KJPTR-Tのインターフェースは非常にわかりやすいものですが、開発者が心に留めておくべき、開発を簡素化してスピードアップするための「ヒントとコツ」をいくつかご紹介します。

・ステータスレジスタは、チップへの書き込みのたびにSPIインターフェースで返され、専用のアドレス可能なレジスタとしては利用できません。つまり、ドライバコードは、チップへの書き込み中にSPIバスのSDOラインを監視して、ステータス情報を得る必要があります。

・フォールト情報はステータスレジスタに含まれていますが、チップの状態の概要は、マイクロコントローラがアドレスアクセス情報を提供しているときに、すべてのSPIトランザクションで最初の5ビットから確認できます。このデータは、問題が発生したかどうかを判断するために使用することができます。

・メモリマップには、読み取りと書き込み専用の2つの固有のレジスタがあります。これは簡単なことですが、書き込み専用のレジスタから読み出そうとすると、読み取りシーケンスで使用されているダミーデータがレジスタに書き込まれてしまうので、注意が必要です。

・チップには不揮発性メモリが搭載されており、デフォルトのパラメータを保存することができます。これらのパラメータはRAMに読み込まれ、起動時に使用されます。チップが最も効率よくレディ状態になるように、「安全な」起動値をチップにプログラムしてください。

・エンドデバイスがノイズや放射線の多い環境で動作している場合、構成データを定期的に再設定するようにアプリケーションコードを設計してもよいでしょう。チップの構成はRAMに保存されているため、宇宙線やビット反転など、エレクトロニクスで起こりうるおかしな珍しいイベントに弱いのです。

まとめ

 自動車やIoTなどの用途でのBLDCモータの実装は非常に一般的ですが、その駆動は複雑な場合があります。ソフトウェアの複雑さを管理するために、開発者は、すべてのモータ制御機能をカプセル封止したA4964KJPTR-Tのような専用のBLDCモータドライバを使用することができます。

 チップとの連携にはやはりソフトウェアが必要ですが、ソフトウェアを実行するマイクロコントローラは構成設定を行うだけです。モータの駆動はA4964KJPTR-Tが行います。A4964KJPTR-Tの使用を試みる際、提供された「ヒントとコツ」に従えば、IoTデバイスの開発に取り組む際に大幅に時間を節約でき、悩み事が減ることでしょう。




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