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BESS:エネルギーを積極的に管理するソリューション

著者 Andrey Solovev 
2021-09-28
マルツ掲載日:2022-01-24


 再生可能エネルギーの拡大とエネルギー消費の効率化を目指す世界的な傾向により、エネルギー貯蔵ソリューション、特にバッテリエネルギー貯蔵システムへの関心が高まっています。この記事を読めば、これらのシステムがどのようなものであるか、そしてそれらを使用する利点を理解するのに役立ちます。

BESS:それを支援するもの

 バッテリエネルギー貯蔵システム(BESS)は、充電式電池を利用してエネルギーを貯蔵し、後でそれを放出する複合ソリューションです。BESSの種類は電気化学的性質や採用するバッテリによって異なり、リチウムイオンバッテリ、鉛酸バッテリ、ニッケルカドミウムバッテリ、ナトリウム硫黄バッテリ、フローバッテリなどがあります。

 エネルギー貯蔵システム(ESS)とは、より広い意味の言葉であり、バッテリ以外のさまざまな技術、たとえば水力発電、フライホイール、圧縮空気などに基づく場合もあります。BESSとはなにか、そしてどのように機能するのかを理解するには、以下に示すその構造と主な要素を見てみるとよいでしょう。

●バッテリ
 太陽光や風力、発電所などから供給される電気エネルギーは、バッテリの充電過程で化学エネルギーに変換されます。放電時にバッテリから放出されるエネルギーにより、家庭、自動車、商業ビル、グリッドなどに電力を供給することができます。バッテリはセルで構築されており、モジュール、パック、コンテナなどで構成できます。

バッテリ管理システム(BMS)
 BMSは、バッテリを安全かつ正しく動作させるためのものです。バッテリの種類によって、充放電の条件が異なります。BMSは、バッテリが必要な電流、電圧、温度の範囲内にあることを確認します。BMSは、パラメータを監視し、バッテリの充電状態(SOC)と健全性(SOH)を推定することで、バッテリの信頼性と長期的な性能を確保します。

電力変換システム(PCS)
 BESSは、電力変換システムを用いて、直流(DC)を交流(AC)に、または交流を直流に変換します。電源から交流が流れ、バッテリ充電時に直流に変換されます。バッテリが放電する際は直流になり、これをBESSアプリケーションに必要な交流に変換します。

エネルギー管理システム(EMS)
 EMSは、バッテリエネルギー貯蔵システムの制御ユニットです。これは、BESSで利用可能な電力を管理します。つまり、いつ、なぜ、どのような量のエネルギーを蓄積したり放出したりするかを管理するのです。EMSは、BESSの各要素をまとめ、全体の性能を最適化するものです。

●安全システム
 安全システムにはさまざまなものがあり、それぞれが特定のタスクを担っています。たとえば、HVACシステムは、暖房、換気、空調によって、BESSが望ましい温度と湿度を維持できるようにします。防火システムは、煙を検知して火災事故を防ぐことができます。


図1:標準的なBESSの構造。(画像提供:Integra Sources LLC)

BESSにできること

 バッテリエネルギー貯蔵システムは毎年、世界中にある何千もの家庭、企業、工場、およびコミュニティに電力を供給しています。その規模や貯蔵能力はさまざまです。

 たとえば、Tesla Powerwallは、13.5kWhの使用可能な容量を持ち、1世帯向けの無停電電源装置として使用できるコンパクトな装置です。世界最大のBESSであるVistra Moss Landingエネルギー貯蔵施設の総容量は1,600MWhで、30万世帯分のエネルギーを供給することができます。

 しかし、サイズや容量の違いはあっても、BESSは同様の機能を果たし、同様の問題に対処することができます。では、どのような場合にバッテリエネルギー貯蔵が有効なのかを考えてみましょう。

●再生可能エネルギーの統合
 BESSは、いつでも、どんな天候でも、太陽光や風力を効率よく利用することができます。充電式電池は、断続的に発生する再生可能エネルギーの余剰電力を蓄えることができます。その後、このエネルギーをユーザーのニーズに応じて分配できます。

 再生可能エネルギー源は、バッテリ貯蔵ソリューションと統合することで、化石燃料に取って代わることができ、安価でクリーンなエネルギーをさまざまなアプリケーションに提供することが可能になります。再生可能エネルギーの統合は、以下の用途で広く採用されています。

・太陽光発電・風力発電所
・送電線網のない孤立したコミュニティ(島や到達しにくい地域)
・ソーラーパネルと組み合わせた家庭用エネルギー貯蔵装置(Powerwallなど)

 BESSはオフグリッドシステム以外にも、住宅、商業、産業用のオングリッドソリューションやハイブリッドソリューションを大きくサポートします。


図2:バッテリエネルギー貯蔵システムは、太陽光発電所や風力発電所で広く使用されています。(画像提供:Integra Sources LLC)

●エネルギー裁定取引
 電気の需要とコストには、正の相関関係があります。エネルギー価格は、需要のピーク時に上昇し、需要が低下すると下降します。エネルギー裁定取引は、タイムシフトとも呼ばれ、バッテリ貯蔵システムを使用することにより消費者が利用できるものです。

 消費者はオフピーク時にバッテリを充電することで、安価なエネルギーを購入し、BESSで蓄えることができます。そして、電気料金が上昇するのを待ってバッテリを放電し、低コストのエネルギーを利用するか、グリッドに売ることができます。

 これにより、家庭や企業はエネルギー資源を効率的に管理し、コストを削減することができます。

●負荷管理
 エネルギーは1日の中で、また季節によっても消費される量が異なり、ピーク時とオフピーク時があります。BESSは、これらの切り替えについてユーザーを支援し、エネルギー消費を調整できるため、電気代を節約することが可能になります。

 ピークシェービングは、負荷管理におけるBESSの最も一般的な使用事例の1つです。これは、ピーク時の消費電力を抑えることです。それとともに、消費者はエネルギー裁定取引と同様に支出を削減することができます。

 バッテリ貯蔵ソリューションは、電力グリッドのピーク負荷を回避し、その結果、停電やその他の緊急事態を回避するのに役立ちます。BESSは蓄えられたエネルギーを放電することで、グリッドから負荷を取り除き、途切れることなく電力を供給します。

●ブラックスタート
 BESSは、発電所や電力グリッドにおける停電時の迅速な復旧に役立ちます。ディーゼル発電機を使用する代わりに、バッテリ貯蔵システムを使用することで、より安価で環境に優しいブラックスタートを実現します。BESSは、グリッドの送電線から独立して動作し、数分から数時間の間、必要な時間だけエネルギーを供給することができます。

●電源バックアップ
 BESSは、家庭や企業、その他の施設にエネルギーを供給し、その継続的な運営を可能にします。これは、人々の健康や安全に関わるサービスを提供する医療機関などにとって、非常に重要なことです。BESSは、蓄電容量にもよりますが、グリッドに深刻な障害が発生した場合でも、可能な限りバックアップ電力を供給することができます。

●周波数と電圧の制御
 電源が実際の需要と合っていない場合は、周波数や電圧が動作限界を超えてしまうことがあります。これにより電力が失われ、停電が発生する可能性があります。BESSは、電圧や周波数の調整によって、電力グリッドや電力システムの安定性を確保することができます。バッテリエネルギー貯蔵システムは応答時間が速いため、効率的なグリッドバランシングソリューションとなります。

●マイクログリッド
 これは、大きなグリッドに接続された状態で、商業ビルや製造工場、または近隣に電力を供給することができる小さな電力グリッドのことです。自律型マイクログリッドは、島などの遠く離れたエリアやコミュニティに電力を供給することができます。BESSと組み合わせて再生可能エネルギーと統合すると、マイクログリッドは複数のユーザーにとって弾力性のある電力システムとして機能します。


図3:マイクログリッドは、島などの遠く離れたエリアやコミュニティに向けた弾力性のある電力システムとして機能します。(画像提供:Integra Sources LLC)

●送電線および配電線の繰り延べ
 送電と配電(T&D)ラインは、ピーク時の負荷や集中のために、経時変化や価値の低下が進みやすいものです。バッテリ貯蔵リューションは、T&D資産の役割を担うことにより、この問題を解決することができます。BESSによって蓄電容量を増やして負荷をバランスさせることができるため、既存のT&Dラインのアップグレードや新しいインフラの建設を延期することができます。つまり、莫大な金額を節約できるのです。

BESSが活躍する場面

 BESSには、手頃な価格の技術が使用されています。たとえば、リチウムイオンバッテリの価格は過去10年間で90%近く下落し、今後もさらに下落すると予想されています。バッテリ貯蔵ソリューションは、蓄電容量やサイズなどの構成が多岐にわたるため、多くの産業や用途に対応できます。

 これらの用途は、フロントオブザメータ(FTM)やユーティリティ規模のシステム(消費エネルギーは電気メータで計測される)および、ビハインドザメータ(BTM)やオンサイトソリューション(消費エネルギーはグリッドに関係ないため、電気メータで計測できない)に分けられます。以下に、FTMとBTMのBESSアプリケーションのリストを示します(完全なものではありません)。

●フロントオブザメータのアプリケーション
 バッテリエネルギー貯蔵システムは、ユーティリティ規模の施設や装置の運用とメンテナンスに大きく貢献します。BESSは、供給予備力やブラックスタートサービスを提供し、電圧や周波数の安定性をもたらし、メンテナンスの繰り延べによるコスト削減も可能にします。FTM BESSの用途には、以下が含まれます。

・ユーティリティグリッド
・変電所
・送電線、配電線
・パワーステーション

●ビハインドザメータのアプリケーション
 BTMシステムは、電力グリッドを経由せずに消費者に電力を供給することができます。BESSは、グリーンエネルギー源とともに、独立した電力システムやマイクログリッドを常時サポートすることができます。

 製造業では、生産設備のダウンタイムを回避するために、電力のバックアップとしてバッテリストレージを使用することができます。BESSを利用することで、企業や家庭ではエネルギーのタイムシフトによる電気料金の大幅な削減が可能になります。BTMのバッテリエネルギー貯蔵システムは、以下の用途で用いられます。

・産業/製造施設
・企業
・家庭用
・電気自動車
・海洋システム


図4:BESSの用途。(画像提供:Integra Sources LLC)

BESSを構築する価値はあるのか

 簡単にいえば、価値はあります。詳しく答えるには、いくつかの説明が必要です。

 既製のBESSを購入することで、間違いなく多くの時間と、時にはお金を節約することができます。システムに特別な要件がなければ、市場に出回っている多くのエネルギー貯蔵製品の中から、すぐに使えるソリューションを選ぶことができます。とはいえ、たとえば以下のように、顧客が購入を躊躇するような理由もあります。

・ビジネスニッチな要件や動作条件を含む、特定の顧客要件
・必要な機能がない、または不要な機能によるシステムコストの増加
・システムの不完全性と支援装置の不足
・低品質なソフトウェア
・保証の不在と保証期間後のメンテナンス

 バッテリエネルギー貯蔵システムの構築には、時間と費用、そして専門知識が必要となります。しかし、これにより、エンドユーザーの要件を完全に満たす高度にカスタマイズされたソリューションを作成する機会がもたらされます。

 カスタムメイドのBESSは、機能性、使いやすさ、安全性、サイバーセキュリティを向上させることができます。高度なBMSアルゴリズムを実装することで、ユーザーはバッテリの性能を高め、その寿命を延ばすことができます。カスタムソリューションの開発により、エンドユーザーやBESSプロバイダが必要とするテクニカルサポートやカスタマーケアなどのサービスを最適化することができます。

 高品質のBESSを設計するためには、バッテリ技術、パワーエレクトロニクス、組み込みソフトウェア、ハードウェアの開発に精通した専門家チームが必要です。設計から認証、製造に至るまで、製品作成の各段階を整理し、調和させることが不可欠です。関連する専門知識と経験を持つエンジニアを採用することで、顧客の期待を先取りした本格的なバッテリ貯蔵システムを構築することができます。

 とはいえ、カスタム製品は万能ではありません。カスタムBESSの製作は、ケースバイケースで検討する必要があり、プロジェクトによってはターンキーソリューションが最適な場合もあります。

 カスタムメイドのBESSと即納製品のBESSの違いに関する詳細は、Integra Sources LLCのブログページにある、バッテリエネルギー貯蔵システムに関するより大きな記事をご覧ください。こちらでは、バッテリのさまざまな技術や特性、主要なBESSメーカー、代替エネルギー貯蔵システムなどの詳細についても紹介されています。




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