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高度な利用状況監視設計の開発を加速するドロップインソリューションの活用法

著者 Stephen Evanczuk 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-11-03

マルツ掲載日:2022-02-28


 利用状況の監視は、ビルオートメーション、健康、安全、セキュリティにおいて重要な役割を果たします。利用可能なコンポーネントから適切な人数カウントソリューションを組み立て、適切なアルゴリズムを開発することができますが、これには時間とコストがかかります。しかし、ソーシャルディスタンス要件への対応を含め、より洗練された最新機能を備えたソリューションをより早く提供することに期待が高まる中、よりシンプルで迅速なアプローチが求められています。

 この記事では、利用状況の監視について、なぜこのように重要な機能になったのかを説明します。その後、Analog Devicesが提供するエンドツーエンドの包括的な人数カウントキットを使用して、どのように取り組みを始めるかを紹介します。本キットを使用することで、利用状況の監視機能を利用した高度なアプリケーションの多様な要件に応えることができるのです。

利用状況監視が重要な理由

 建物内での人の数や位置、動きを監視する機能は、さまざまな用途で役割を拡大しています。自動化された建物管理システム(BMS)では、オフィスや会議室などの共有スペースを最大限に活用するために、部屋の利用状況や利用者の動きを追跡する機能が不可欠です。パンデミックが発生した際には、利用者がこの機能によって屋内空間で安全な距離を維持することができます。

 人々がオフィスビルに戻ってきても、部屋の利用状況を監視することで、あまり使用されていない多くのビルスペースでのエネルギー浪費を抑えることができます。2019年にはすでに約68%まで下がっていたオフィスの利用率[a]は、パンデミック中に急落し、2021年半ばでも約32%までにしか戻りませんでした[b]。

 しかし、建物空間の使用を最適化し、ソーシャルディスタンスを取ることができるだけでなく、増加するエネルギー消費を抑制するためには、利用状況の積極的な測定が不可欠になっています。

 世界グリーンビルディング協会[1]によると、建物と構造が世界全体の炭素排出量の39%に寄与しています。具体的には、建物の照明と冷暖房に使われるエネルギーが、世界の炭素排出量の28%を占めています(残りの11%は、材料や構造のライフサイクルにおける炭素コストに関連しています)。

 過去10年間でほぼ横ばいだった建物関連の炭素排出量は、異常気象の増加に伴うエネルギー需要の増加により、2019年には過去最高の水準まで上昇しました。実際、2019年は、世界的な気象パターンと地球の気温上昇が相まって異常に暖かい気候の「パーフェクトストーム」となった2016年以降、記録的な猛暑となりました。

 この温暖化の傾向は続いており、2020年は2019年よりも暖かくなったことがわかっています。その結果、米国海洋大気庁(NOAA)によると、これまでで最も温暖な3つの年に、2016年(1位)、2020年(2位)、2019年(3位)が含まれることになりました[2]。

 この傾向は続いており、2021年7月は世界の観測史上最も暑い月として記録されています[3]。7月以前の4か月間はいずれも記録的な温暖な月のトップ10に入っており[4]、NOAAは2021年が世界的に最も温暖な年のトップ10に入る可能性が高いと予想しています。

 世界的に見ても、気候に影響を与える炭素排出量を削減するための国家戦略では、建物のエネルギー利用をより効率的にすることが計画の中心となっています。個々の企業にとって、エネルギー消費量の削減は、企業の収益や従業員のウェルビーイングに直接的な利益をもたらします。

 エネルギー使用量を最小限に抑えるには、基本的な利用状況のデータが重要であるにもかかわらず、ほとんどの企業はアクセスバッジのスキャンデータや目視に頼っており、そのどちらもビルの効果的なエネルギー管理に必要な、部屋の利用状況に関する正確で最新の情報を提供することができません。より効果的な利用状況センシングの手段が必要です。

利用状況センシングソリューションの導入

 自動化された利用状況センシングソリューションの設計と実装には、センサ、低電力プロセッサ、コネクティビティを正確な人数カウントアルゴリズムと組み合わせ、人が屋内空間に出入りする際に即座に対応できる完全なアプリケーションを実現するために、複数分野の専門知識が必要となります。この開発とサポートには、時間とリソースが必要です。

 Analog Devicesは、よりシンプルな方法を提供しています。ADSW4000 EagleEyeは、2Dビジョンセンサをベースにした低電力、低帯域幅のドロップインプラットフォームで、スペース利用を最適化してエネルギー消費を最小限に抑えるために、最新のデータを提供できるよう特別設計されています。

 このキットは、Analog Devicesが提供するBlackfinデジタル信号プロセッサ(DSP)のADSP-BF707シリーズ上で動作する、Analog Devices独自の人数カウントアルゴリズムで構成されています。ADSW4000 EagleEyeは、屋内の個別スペースの利用状況データを提供するため、企業はオフィススペースの利用とエネルギー消費のバランスを取り、最大限の効果を得ることができます。

 EagleEyeアルゴリズムは、画像解析と人数カウントをBlackfinプロセッサのみで行うため、すべての画像がADSW4000に残り、個人を特定できる情報がプラットフォームから離れることがないため、世界的なプライバシー規制に準拠します。実際、Blackfinプロセッサで生成される結果は、監視した対象領域(ROI)内の人数、その領域内のx、y位置、移動の有無を含むデータパッケージに限られます。

 Analog Devicesは、ハイレベルな利用状況監視アプリケーションの開発を迅速に行うために、ADSW4000 EagleEye PeopleCountプラットフォームをEVAL-ADSW4000KTZ EagleEyeトライアルキットに統合しました。

 このトライアルキットは、EagleEyeアルゴリズムをセンサからクラウドまで一貫して実装するターンキーソリューションであり、ユーザーは利用可能なアプリとクラウドベースのオンラインダッシュボードを使用して、すぐに利用状況の監視を行うことができます。また、このキットはカスタムシステムの基盤となるため、開発者は独自の人数カウント方法の実装に関する詳細ではなく、より高度なアプリケーションに集中することができます。

個々のサブシステムで実装を加速

 EagleEyeトライアルキットは、2つのサブシステムで構成されています。1つのサブシステムはBlackfin DSPをベースにして人数カウントデータを生成し、もう1つのサブシステムはAnalog DevicesのADuCM4050マイクロコントローラユニット(MCU)をベースにして、コネクティビティと高レベルのアプリケーション機能を処理します(図1)。

 前述したように、人数をカウントする重要な機能は、ADSW4000 EagleEyeアルゴリズムを実行するトライアルキットのEagleEye DSPサブシステムにあります。


図1:Analog DevicesのEagleEyeトライアルキットでは、Analog DevicesのADSP-BF707 Blackfin DSPシリーズ上で動作するADSW4000 EagleEye PeopleCountアルゴリズムを用いて、DSPサブシステムが画像を取得・処理します。(画像提供:Analog Devices)

 このサブシステムは、onsemiの ASX340AT3C00XPED0-DPBR CMOSデジタルイメージシステムオンチップ(SoC)をベースにした2Dビジョンセンシングモジュールと赤外線(IR)フィルタを組み合わせて、対象領域の画像を取得します。

 EagleEye PeopleCount ADSW4000アルゴリズムは、Analog DevicesのEagleEyeフレームワークサービスと連携し、ISSIの512MビットシリアルフラッシュメモリIS25LP512MとMicron Technologyの1Gビット低電力ダブルデータレート(DDR)シンクロナスダイナミックランダムアクセスメモリ(SDRAM)MT46H64M16LFを使用して、ADSP-BF707 Blackfin DSP上で動作します。

 このサブシステムのADSP-BF707 Blackfin DSPは、人数カウントに必要となる複雑な画像取得/処理タスクを実行するのに適しています。その信号処理パイプラインには、複数のハードウェア積和演算(MAC)ユニットとシングルインストラクション・マルチプルデータ(SIMD)機能が搭載されています。

 ADSP-BF707 Blackfinプロセッサで動作するADSW4000 ADI EagleEye PeopleCountアルゴリズムは、対象領域内で最大90%の精度のカウントを実現します。それと同様に重要なのは、このサブシステムが結果を迅速に返してくれることです。

 たとえば、人がROIに入ってから、ROIが空き状態から利用状態に切り替わったことを認識するまでに、サブシステムにはわずか300msしか必要ありません。ROIの状態が利用から空室に変化したことを確認するのに必要な時間はユーザーが構成可能で、デフォルトでは5分に設定されています。

 生成された人数カウントや位置データについても、同様にレイテンシは低くなっています。コミッショニング時、このアルゴリズムはユーザーが定義したゾーンに個人が移動した後、1.5秒以内に更新された人数カウントと位置データを提供します。人を検出した後、アルゴリズムはわずか113msで最新のカウントと位置データを提供します。

 前述の通り、Analog DevicesのEagleEyeプラットフォームは、キャプチャした画像を送信しません。その代わり、DSPはプッシュモードで汎用非同期送受信機(UART)ポートを使用して、利用状況のメタデータを送信します。このメタデータパケットはJSON形式で送信され、利用状態(利用または空き)、人数、人の位置(x、y座標)、その他のデータが含まれます(表1)。


表1:Analog DevicesのEagleEyeアルゴリズムは、個人を特定できる情報を送信するのではなく、ここに挙げたメタデータを含むパッケージを生成することで、ユーザーのプライバシーを保護します。(表提供:Analog Devices)

 DSPサブシステムの下流では、ADuCM4050 MCUサブシステムがAWS FreeRTOS環境で動作し、センサのコミッショニングやAnalog Devicesの関連クラウドベースサービスとの通信に必要な高レベルのEagleEyeアプリケーションとコネクティビティサービスをサポートします(図2)。

 32ビットのADuCM4050 MCUは、Analog DevicesのEagleEyeのような産業用IoT(IIoT)アプリケーションに包括的な処理環境を提供します。ADuCM4050は、複雑な産業用アプリケーションワークロードをサポートするために、Arm Cortex-M4F 52MHzプロセッサコアをベースに、浮動小数点ユニット(FPU)、メモリ保護ユニット(MPU)、ハードウェア暗号化アクセラレータ、および保護されたキーストレージを統合しています。


図2:Analog DevicesのADuCM4050をベースにしたEagleEyeトライアルキットのMCUサブシステムは、より高いレベルのIIoTアプリケーションをサポートし、ローカルおよびキットとクラウドの間や他の建物管理システムとの間のコネクティビティサービスを提供します。(画像提供:Analog Devices)

 複数のパワーモードとクロックゲーティング機能を含む統合された一連の電源管理機能により、デバイスの低電力での実行が可能になります。その結果、MCUはアクティブモードでわずか41μA/MHz(標準)、ハイバネーションモードでは0.65μA(標準)しか必要としません。非活動期間中のプロセッサの消費電力は、高速ウェイクアップシャットダウンモードでわずか0.20μA(標準)、フルシャットダウンモードではわずか50nAとなっています。

人数カウントを迅速に開始する方法

 Analog Devicesは、DSPとMCUのサブシステムに、カメラセンサ、レンズ、LED、ボタンなどを組み合わせ、小型パッケージに収めたトライアルキットを開発しました(図3)。


図3: Analog DevicesのEagleEyeトライアルキットに含まれる2Dビジョンセンサユニットは、迅速な展開を目的として設計されており、人数カウントを行う対象領域の上に簡単に取り付けることができます。(画像提供:Analog Devices)

 開発者は、部屋や屋内スペースの対象領域の真上にセンサユニットを設置するだけで、人数カウントを迅速に導入することができます。このセンサは、さまざまな電源から電力を得ることができます。このユニットのDCコネクタにワイヤを通して5.5~36VのDC電源を供給することも、マイクロUSBケーブルを使ってUSB電源を供給することも、1mを超える距離ではアクティブUSBエクステンションを使って電源を供給することも可能です。

 ユーザーはセンサユニットを取り付けた後、iOSタブレットの場合はApple App Store、Androidタブレットの場合はGoogle Playで入手できる対応のEagleEye PeopleCountアプリを使用して、センサの位置や希望する視野(FOV)を視覚的に確認することができます(図4)。


図4:Analog DevicesのEagleEye PeopleCountアプリでは、コミッショニング前にセンサユニットの配置を簡単に確認することができます。(画像提供:Analog Devices)

 ユーザーは、センサのFOVを確認した後、デバイスの簡単なコミッショニングを行います。コミッショニング時やその後の運用時には、センサユニットに内蔵されたDSPとMCUのLEDを見て、それぞれのサブシステムの現在の状態を監視することができます(表2)。


表2:Analog Devicesが提供するEagleEyeトライアルキットのセンサユニットに内蔵されたそれぞれのLEDは、DSPとMCUサブシステムの状態を継続的に示します。(表提供:Analog Devices)

 このアプリは、センサのコミッショニングに必要ないくつかのステップをユーザーに教えてくれます。このプロセスでは、フロアマスクなどの包括的な一連のマスクをマークすることで、FOV内でアルゴリズムが監視すべき領域を示します(図5、左)。

 正確にカウントするためには、除外するエリアも同様に重要です。コミッショニングの際には、対応アプリを使用して、窓やディスプレイ画面など、さまざまな除外マスクを指定することができます(図5、右)。


図5:コミッショニング中、ユーザーは対応アプリを使用して、EagleEye PeopleCountアルゴリズムが確認すべきエリアと無視すべきエリアを特定し、フロアマスクなどの包括的なマスク(左)と、窓など人数カウントの精度を低下させるエリアに対する排他的なマスク(右)を使用します。(画像提供:Analog Devices)

 センサユニットが取り付けられ、コミッショニングが終わると、Analog Devicesのクラウドにメタデータの送信が開始されます。登録時に得た認証情報を使ってクラウドにログインすると、利用状況の一連のグラフを見ることができます(図6)。


図6:Analog DevicesのEagleEyeトライアルキットのセンサユニットを取り付けてコミッショニングを行った後、Analog Devicesのクラウドにあるオンラインダッシュボードにログインして、リアルタイムの利用状況データを見ることができます。(画像提供:Analog Devices)

 Analog DevicesのEagleEye PeopleCountテクノロジプラットフォームは、適切なBlackfinプロセッサと適切な外部フラッシュメモリで構築されたカスタム設計に組み込むことができます。また、Analog Devicesは、EagleEyeソフトウェアパッケージをトライアルキット登録者に提供しています。

 下流のMCUサブシステムでは、EagleEyeセンサインターフェースを実行して必要なコネクティビティを提供できるシステムプラットフォーム設計を使用して、より多くのセンサを含む付加機能を提供することができます。

 建物管理システムに人数カウントを素早く導入採用したいと考えている開発者に対しては、Analog DevicesのEagleEyeトライアルキットがセンサからクラウドまでのターンキーソリューションを提供します。

まとめ

 企業が負担するオフィスの照明や冷暖房による建物のエネルギー消費コストが大きいため、空室の多いオフィススペースのリソースを効率的に管理するために、より正確な利用状況データが必要とされています。

 ADSW4000KTZトライアルキットは、低電力のデジタル信号プロセッサ上で動作する専用アルゴリズムをベースにしており、利用状況監視の評価と導入のためにセンサとクラウド間の包括的なプラットフォームを提供することで、建物のエネルギー管理をより効果的に行うために必要な、利用状況に関する部屋レベルのデータをリアルタイムに提供します。

参考資料
(1) https://www.worldgbc.org/news-media/WorldGBC-embodied-carbon-report-published
(2) https://www.ncdc.noaa.gov/sotc/global/202107/supplemental/page-1
(3) https://www.noaa.gov/news/its-official-july-2021-was-earths-hottest-month-on-record
(4) https://www.noaa.gov/topic-tags/monthly-climate-report
(5) https://www.us.jll.com/en/space-utilization
(6) https://www.kastle.com/safety-wellness/getting-america-back-to-work/




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