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eMobilityプラットフォーム向けの回路保護、高速データ、パワー変換を実現する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-09-21

マルツ掲載日:2022-01-10


 ハイブリッドおよび電気自動車、バス、中型・大型のオン/オフハイウェイ車、船舶など幅広いプラットフォームにわたり、eMobilityや輸送システムにおける信頼性の高い回路保護、高速通信、小型パワー変換ソリューションへのニーズが高まっています。

 これらの傾向は、輸送業界が自律制御や電気自動車(EV)またはハイブリッドEV(HEV)へと移行していく中で、持続可能性や安全性がますます重視されていることが背景にあります。その結果、新しい車両システムが登場し、安全で持続可能な車両運用への依存度が徐々に高まっています。

 コネクテッドカー、電気自動車、自動運転車の設計者は、安全性と信頼性を確保するために、多様な回路保護に加えて、厳しい環境下でも確実に動作するように設計され、AEC-Q200、SAE、USCARなどの性能基準を満たすことが認証された通信およびパワー変換ソリューションを必要としています。

 この記事では、設計者が考慮すべき回路保護デバイスの仕様の一部について簡単に説明します。次に、Bel Fuseの具体的な回路保護、コネクティビティ、パワー変換ソリューションを紹介し、eMobilityシステムにおけるこれらの製品の使用方法を考察します。

EVの保護部品と規格

 EVの課題を解決するために、車載用認定および認証を受けたさまざまな回路保護、高速通信、パワー変換ソリューションを利用することができます。

・これには、パワーシステムやサブシステムに最適なカートリッジ型、プリント基板実装型(スルーホールと面実装)、オフセットボルト型構成の車載用認定ヒューズに加え、運転支援レーダシステム、ブレーキポンプモータ、ポータブル充電器、バッテリシステム、インフォテイメント、カメラ、プログラム可能な照明、パワーステアリングなどの補助アプリケーションやアクセサリ用のヒューズが含まれます。さらに、特定のアプリケーションでは、高突入、速断型、遅延型、リセット可能なポリマー正温度係数(PPTC)ヒューズが必要になります。

・AEC-Q200認定の電磁干渉(EMI)抑制チョークは、ADASやナビゲーションシステム、マルチメディアシステム、V2X(vehicle-to-everything)クラスタ、アンテナなどを構成する多数のセンササブシステムにおいてノイズを除去し、高速データ信号を保護します。また、車載用Ethernet、コントローラエリアネットワーク(CAN)バス、FlexRay、車載用USBなどの差動ノイズを抑制します。

・自動車技術者協会(SAE)USCAR2-6「Performance Specification for Automotive Electrical Connector System – Revision 6(車載用電気コネクタシステムの性能仕様 - 第6版)」に準拠した完全シールドタイプのRJ45コネクタにより、設計者はCANバスを高速かつ軽量な車載用Ethernetに置き換え、運転支援カメラやレーダベースの運転支援システム、テレマティクス、メディアコンバータ、ゲートウェイなど、さまざまなADASシステムで高まる車両内コンピューティングのニーズに対応できます。

・電気自動車やハイブリッド車のバッテリチャージャを含む、IP67認証のパワーコンバータは、車載用認定されており、ガルバニック絶縁された対流式または液冷式の実装で提供されます。

回路保護デバイスの選択

 適切なデバイスを選択する際には、eMobilityシステムの回路保護デバイスを指定するにあたって、その動作特性を明確に理解することが重要です。基本的な仕様は、以下の通りです。

・電圧定格:安全に動作するための最大許容電圧
・電流定格:通常の動作条件でヒューズが流すことのできる電流をアンペア(A)で表したもの
・遮断容量(遮断定格または短絡定格とも呼ばれる):ヒューズがその定格電圧で破損することなく遮断できる最大電流。遮断容量は、その回路で予想される最大故障電流を満たすか、または上回る必要があります。
・時間電流曲線:ヒューズが速断型であるか遅延型(遅断型とも呼ばれる)であるかを定義します。速断型ヒューズは保護のスピードが重要な場合に使用され、遅延型ヒューズは短期間の電流サージまたは過負荷が発生するアプリケーションで使用されます。

I2t:テスト規格のない仕様

 特に注目すべき仕様は、公称溶断定格I2t(「Iの2乗T」と読む)です。これは、ヒューズエレメントを溶かすのに必要なエネルギーの指標であり、あらゆるアプリケーションにおいて重要なヒューズの特性です。

 I2tは「アンペア2乗秒」(A2sec)で表されます。設計者にとって残念なことに、ミニチュアヒューズやマイクロヒューズのUL/CSA248規格やIEC127規格には、I2tのテスト手順やテスト基準が含まれていません。I2tの業界標準の定義を以下に示します。

  定直流(DC)を使用して10Inで測定された溶断I2t(Inはヒューズの定格電流)。

 10Inの使用は問題となる可能性があり、必ずしも正確な溶断時間になるとは限りません。特に遅延型ヒューズは、真のI2t値を得るために公称電流定格の10倍以上の倍率が必要となる場合があります。

 このジレンマへの対処方法はメーカーごとに異なるため、設計者は特定のヒューズのI2t値を算出するのに使用される方法を明確に理解することが重要です。これらの課題については、I2tの説明で詳しく解説しています。

速断型チップヒューズと遅延型チップヒューズ

 車載用ナビゲーションシステム、リチウムイオンバッテリ管理システム(BMS)、LEDヘッドランプ、車載用PoE(Power over Ethernet)(PoE)、PoE+、および液晶ディスプレイ(LCD)の設計者は、厚膜技術に基づく面実装チップヒューズ(速断型ヒューズの0685Pシリーズなど)を使用することで、恩恵を受けられます。

 0685Pシリーズは、高突入電流耐性能力を備えています。これらのAEC-Q200準拠およびUL認証済みの1206サイズヒューズは、電流定格2A~50A、電圧定格50VACおよび63VDCで入手可能です。モデル0685P3000-01の電流定格は6A、I2t定格は10Inで1.3A2secです。

 遅延型ヒューズを必要とする設計者のために、Belは1206サイズのチップヒューズC1Tシリーズを提供しています(図1)。これらのヒューズの電流容量は750mA~8A、電圧定格は63VACまたは63VDCです。モデル0685T6000-01の電流定格は6.0 A、I2t定格は10Inで6.0A2secです。C1Tシリーズの遅延型ヒューズは、UL、CSA、CE認証済みであり、ミニチュアヒューズ向けのIEC 60127に対するTUV認証を取得しています。


図1:遅延型C1Tシリーズのようなチップヒューズは、小型フォームファクタが重視されるさまざまな車載用アプリケーションで使用されます。(画像提供:Bel Fuse)

リセット可能なPPTCデバイス

 極めて低い動作抵抗と極めて高い保持電流を備えたリセット可能な回路保護の恩恵を受けられる設計には、PPTCデバイスを使用できます。PPTCは、パワードアロック、ミラー、シート、サンルーフ、ウィンドウなどのモータやモータ回路の保護、HVAC(暖房、換気、空調)システムや電子制御ユニット(ECU)のI/O保護などのアプリケーションで特に有用です。

 Belは、PPTCデバイスの2つのファミリを提供しています。いずれもAEC-Q準拠で、EN/IEC 60738-1-1とEN/IEC 60730-1のTUV認証、UL1434のUL認定を受けています。

 0ZRSラジアルリードPPTCの電流定格は500mA~10A、最大電圧は32VDC、標準電力定格は0.9~7.0Wです(図2)。たとえば、0ZRS0100FF1Eのトリップ電流は1.9A、保持電流は1.0A、電力定格は1.4Wです。

 0ZCG面実装PPTCの電流定格は100mA~3A、最大電圧は6~60VDC、標準電力定格は0.8~1.3Wです。このファミリの0ZCG0110BF2Bデバイスの電圧定格は24VDC、保持電流は1.1A、トリップ電流は2.2A、電力定格は1Wです。


図2:OZRSラジアルリードPPTCの電圧定格は32VDC、最大電流は10Aです。(画像提供:Bel Fuse)

突入電流耐性ヒューズ

 角型2410パッケージサイズの面実装セラミックヒューズ0680Lシリーズは、高突入電流耐性能力を備えています(表1)。これらの遅延型ヒューズは、高いDC遮断定格と高いDC電圧定格を必要とするアプリケーション向けに設計されています。電圧定格は最大125VDCまたは125VACで、375mA~12Aの電流定格を備えています。0680LヒューズはAEC-Qに準拠しています。


表1:0680Lシリーズ面実装遅延型ヒューズの電気特性。(画像提供:Bel Fuse)

 これらの遅延型ヒューズは、PoE、PoE+、電源、バッテリ充電回路の保護によく使用されます。0680L3000-05の定格は3Aと0.81Wで、I2t定格は10Inで13A2secです。

速断型EV電力ヒューズ

 高電力バッテリやEVパワーコンバータを保護するために、カートリッジ式やボルトダウン式の速断型ヒューズを利用することができます。これらのヒューズは、EU指令2011/65/EUと改正指令2015/863に完全準拠しています。UL248-1に加え、JASO D622やISO8820-8の信頼性要件も満たすように設計されています。一般的なアプリケーションを以下に示します。

・メインシステムのヒューズ
・充電ステーション
・エネルギー蓄積とバッテリパック
・配電ユニット
・オンボードDC/DCコンバータ
・ブレーキポンプモータ
・エアコン用コンプレッサモータ
・電動ステアリングシステム

 これらのヒューズは、最大600Aの電流を処理することができ、電圧定格は500~1000VDCです。0ADAC0600-BEは、カートリッジ式ヒューズの良い例で、定格は600mAおよび600VDCまたは600VAC、I2t定格は10Inで0.073A2secです。

EVタイムラグヒューズ

 0697Wシリーズは、電圧定格350VACまたは72VDC、電流定格1A~6Aで、IEC60127-3に準拠した、サブミニチュアのラジアルリードタイムラグヒューズです(図3)。これらのヒューズは、AEC-Qの品質とMIL-STD 202Gの環境規格に準拠しています。


図3:0697Wシリーズは、AEC-Qに準拠したラジアルリードタイプの高電圧タイムラグヒューズです。(画像提供:Bel Fuse)

 0697Wデバイスのアプリケーションには、ECU、モータ、空調コントロール、プラグおよびシガレットライターアクセサリ、パワーアウトレット、ワイヤハーネスなどが含まれます。たとえば、0697W2000-02の定格は2Aと0.63Wで、I2t定格は10Inで30A2secです。

高速通信用コモンモードチョーク

 Ethernet、CANバス、FlexRay、USB通信バスを使用する車載用インフォテイメント、マルチメディア、ADASシステムの設計者は、差動モードノイズを抑制するAEC-Q200認証済みの超小型コモンモードチョークである、Signal TransformerのSPDLシリーズを利用することができます(図4)。

 この小型面実装デバイス(SMD)チョークは、2012、3216、3225、4532という4種類のメトリックサイズと26種類の部品定格で提供されます。SPDLシリーズは、定格電流範囲が150~400mA、インピーダンス範囲が90~2200Ωです。モデルSPDL3225-101-2P-Tの定格は150mAと2200Ωで、インダクタンスは100μHです。


図4:超小型SMDコモンモードチョークのSPDLシリーズは、Ethernet、CANバス、FlexRay、またはUSBの通信インターフェースと組み合わせて使用できます。(画像提供:Signal Transformer)

Ethernetへのアップグレード

 データレートが速く、ケーブルが軽量であることから、多くのeMobilityアプリケーションでは、CANバスがEthernetに置き換えられています。Bel FuseのMagJack車載用Ethernetシングルポート統合コネクタモジュール(ICM)は、Ethernet磁気ソリューションをコネクタパッケージに統合したものです。

 結果として、より小型のソリューションとなり、既存のCANバスシステムをEthernetの信号やケーブルスタイルにアップグレードする作業が簡単になります(図5)。MagJack Ethernet ICMは、最大100℃で動作し、SAE/USCAR2-6に準拠しています。これらのICMは、Broadcom、Intel、Marvellによって承認されており、標準的な車載グレードのトランシーバと互換性があるため、Ethernetへの移行がさらに簡単になります。

  
図5:MagJack車載用EthernetシングルポートICMは、小型ソリューションへのニーズに対応するため、磁気を内蔵しています。(画像提供:Bel Fuse)

 例として、IEEE 802.3 10/100Base-Tの電気要件をすべて満たすA829-1J1T-KM車載用Ethernet ICMが挙げられます。

HEVとEV向けのパワー変換

 Bel Power Solutionsは、DC/DCコンバータ、双方向DC/DCコンバータ、オンボード充電器、補助インバータ、双方向インバータ充電器と2つのDC/DCダウンコンバータを統合したインバータ充電器システムなど、eMobility用のあらゆるパワー変換オプションを設計者に提供します。

 たとえば、22kWのBCL25-700-8は、オンハイウェイとオフハイウェイで運用される中型・大型プラットフォームのHEVやEVに対応した、液冷式のオンボードバッテリチャージャです(図6)。BCL25-700-8の特長と仕様は、以下の通りです。

・単相(190~264VAC)または3相(330~528VAC)入力
・ACグリッド電源または電気自動車充電設備(EVSE)の充電ステーションに接・続可能(EV Std.IEC 61851-1)
・250~800VDCの電圧範囲で60Aの定出力電流
・最大4台のユニットを並列に配置可能
・IP67およびIP6K9K準拠
・IEC 61851-21-1とECE R10.6認証
・SAE J1772とCANインターフェースSAE J1939準拠
・アクティブ高電圧DCインターロックモニタリング
・全負荷で-40℃~+60℃の動作温度
・過熱保護、過電流保護、出力過電圧保護


図6:BCL25-700-8は、オン/オフハイウェイの両方で中型から大型のアプリケーションを想定した、HEVおよびEV向けの22kWオンボード液冷式バッテリチャージャです。(画像提供:Bel Fuse)

まとめ

 次世代のコネクテッドカー、電気自動車、自動運転車の安全性と持続可能性の要件に対応するためには、さまざまな回路保護、通信、パワー変換ソリューションが必要になります。

 この記事で説明したように、車載用に認定された回路保護デバイス、AEC-Q200準拠の電磁干渉(EMI)抑制チョーク、SAE/USCAR2-6準拠の完全にシールドされたRJ45Ethernetコネクタ、IP67認定のパワーコンバータなどのソリューションをすぐに利用することができます。これらは、自律型設計の進化に伴い、HEVやEVの設計者が現在および今後の設計課題の多くに対応するのに役立ちます。

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