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最小限のスペースで最大の電圧サージ抑制を実現するIsoMOVの選定と適用方法

著者 Bill Schweber 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-12-01

マルツ掲載日:2022-03-28


 電子機器が普及し、ユーザーの安全性に関わる規制が強化される中、設計者は、コストと基板スペースを最小限に抑えるだけでなくデバイスの保護機能を強化できるオプション製品を求めています。問題は、回路保護は保険のようなものであって、必要になるまでは不要な出費のように思えることです。

 回路保護は、内部や外部の短絡、過電流、電圧サージなど、様々な内部と外部の異常や故障に対して必要です。このような障害は、一時的または永久的にシステムを停止させたり、システムやその内部コンポーネント、負荷にダメージを与えたり、さらにはユーザーに危害を加える可能性があります。

 すべての故障や状況に対応できる単一の保護ソリューションはありません。たとえば、過電圧保護(OVP)を実装する場合、一般的に、長期的な故障にはガス放電管(GDT)のようなクローバが適しており、過渡的な事象には酸化金属バリスタ(MOV)のようなクランプが適しています。

 しかし、GDTは「ホールドオーバー電流」に悩まされ、MOVは永久に故障したり、熱暴走により危険な高温になることがあります。両者を直列に接続したハイブリッド方式を採用することで、潜在的な問題の穴を埋め合わせることができますが、この方式では基板のレイアウトが複雑になり、コストも高くなります。このような妥協を避けるには、設計を進歩させることが必要です。

 この記事では、OVP保護の重要性と、それを実現するための様々なアプローチについて説明します。次いで、GDTとMOVの利点を組み合わせた、より長寿命でホールドオーバー電流のない単一のデバイスであるIsoMOV技術を紹介します。

 その後で、Bourns Inc.製のデバイスの例を紹介し、それらの際立った特徴を説明して、効果的、効率的、低コストの保護を行うためにそれらをどのように選定、使用すればよいかを示します。

保護には複数の観点あり

 回路やシステムの保護には、万能のソリューションはありません。これには2つの理由があります。一つは、保護が必要とされる故障や障害の種類が多いこと、もう一つは、故障状態の深刻さや継続時間によって、必要とされる保護の種類や有効時間が決まることです。

 代表的な故障状況としては、以下のものがあります。

過電流
 これは、外部故障、短絡、内部コンポーネントの故障(絶縁不良を含む)により、負荷によって過大な電流が流れる場合です。
過電圧
 これは、誤接続によりシステムの一部が過大なストレス電圧を印加される場合です。

 これは、設計不良、熱管理の不備、または過度の周囲温度によりコンポーネントがオーバーヒートする場合です。
コンポーネント故障
 これは、内部のコンポーネントが故障して過電流・過電圧が発生し、他のコンポーネントや負荷にダメージを与える場合です。

 また、故障は単にシステムに影響やダメージを与えるだけではなく、ユーザーを感電させる可能性もあります。

サージ保護のためのクローバとクランプ

 AC回路、DC回路を問わず、最も困難な故障状態の一つに、一時的過電圧(TOV)現象と呼ばれる過電圧サージがあります。これは短いパルスやスパイクであり、多くの場合、その原因は近くで起きた落雷や、電気機器やその敏感な電子機器に有害な過渡電圧を注入する電気的スイッチングなどです。

 過電圧やTOVに対処するために、サージ保護デバイス(SPD)の2つの大カテゴリ、クローバとクランプが使用されています。(なお、これらの用語は大雑把な議論では同じ意味で使われることがありますが、同じものではありません)。

 簡単に説明すると、クローバは保護対象のライン全体を短絡させることで、サージとその電流をグランドに迂回させ、回路に到達させないようにします(図1)。クローバがこの低インピーダンス状態になるようにトリガされるのは、過電圧の状況が発生した場合です。

 興味深いことに、「クローバ」という用語は、電気が普及し始めた頃の工場労働者が、過電圧が発生したときに、実物の金属製クローバを電源バスバーとグランドバスバーの間に入れたことに由来すると言われています。


図1:クローバ保護機能は、トリガされると、保護対象のラインとグランド間の低インピーダンス経路となり、過電圧サージをグランドに迂回させることができます。(画像提供:Bourns Inc.)

 クローバは、電流が「保持電流」になるまで低インピーダンス状態に留まり、電流が保持電流になった後で、高インピーダンスの通常動作状態に戻ります。クローバは、電源が過電圧状態になっている間に自身内を流れる電流を処理できなければなりません。

 これに対し、クランプは、上記の電圧があらかじめ設定したレベルを超えないようにするためのものです(図2)。過渡電圧がクランピングデバイスの定格である上限レベルに達すると、クランピングデバイスは故障が解決するまで電圧を固定します。故障が解決した時点で、クランピングデバイスラインは通常の動作状態に戻ります。定格の制限電圧(クランピング電圧)は、通常の動作電圧よりも高い電圧である必要があります。


図2:クローバとは対照的に、クランプは過電圧サージをあらかじめ定義された値に制限します。(画像提供:Bourns Inc.)

 クランプは、過渡電圧がクランプの導通電圧を超えている間、クランプにかかる電圧を安全で望ましい値に維持するのに十分な電流を流します。この電流は、小さいとはいえ、安全性に関わる問題を引き起こす可能性があり、追加の保護が必要になる場合があります。この問題については、後で詳述します。クランプは、特定の期間に消費しなければならない電力(これは通常なら比較的短い過渡事象です)を定格とする必要があります。

OVP機能の実装

 クローバやクランプは重要な保護デバイスであるため、その性能特性はシンプルで信頼性が高く、よく知られており、安定していることが不可欠です。この点で、クローバやクランプは、古典的な過電流保護コンポーネントである温度ヒューズのように、追加の保護層として使用されることがよくあります。

●クローバデバイス
 最も一般的なクローバデバイスはGDTです。GDTとは、不活性ガスで満たされた密閉型のハウジングと、その中で寸法が決められて入念に作られたスパークギャップのことです。クローバデバイスは、通常動作では、TOV事象の前にはほぼ無限の抵抗値を持つように見えます(図3)。

 しかし、過電圧サージが発生し、GDTの設計電圧を超えると、GDTのガスがイオン化し、GDTの管がスパークギャップのように「フラッシュオーバー」し、高インピーダンスから超低インピーダンスに切り替わります。この切り替わりにより、ラインが故障が解決するまでの間、一時的にショートします。


図3:GDTは、端子間の電圧が設計値を超えたときにのみ導通し、それまではほぼ完全な開回路のように見える、高度なスパークギャップデバイスです。(画像提供:Bourns Inc.)

 GDTは、一般的に1A以下のかなり低い電流が流れる直流回路、通信回路、信号回路で使用されます。なお、映画などで見られるドラマチックなGDTとは異なり、低レベルサージ用のGDTは、基板に取り付け可能なケース入りの小型コンポーネントであり、フラッシュオーバーのスパーク(火花)は見えません。

 小型のGDTは75~600V、大型のGDTは数千Vの定格で製造されています。GDTの問題点として、故障が解決した後も電流が流れ続ける続流(別称:ホールドオーバー電流)があります。

●クランピングデバイス
 クランピングオプション製品として最も広く使用されているのは、パワー過渡電圧サプレッサ(PTVS)ダイオードと酸化金属バリスタ(MOV)の2つで、いずれもACおよびDC回路、モータ、通信回線、センシング回路などの大電流保護によく使われています(図4)。MOVには、数十Vから千V以上の定格電圧のものがあります。


図4:酸化金属バリスタ(およびパワー過渡電圧サプレッサ)は、広い設計範囲をカバーするクランピング電圧を提供しています。(画像提供:Bourns Inc.)

 MOVは、公称しきい値電圧よりもはるかに低い電圧が印加されても、通常は少量のリーク電流を流します。MOVがその定格を超える電圧サージを受けると、永久的な損傷を受けてリーク電流が増加することがあります。この電流は、通常は数ミリアンペア程度ですが、場合によっては感電する可能性があります。

 また、このリーク電流が十分に大きくなると、MOV内部で自己発熱が起こります。MOVが複数のAC電源に連続して接続されていると、この自己発熱により正のフィードバックが発生します。つまり、リーク電流が大きいと、自己発熱も大きくなり、それによってさらにリーク電流が大きくなります。後続のサージは、このサイクルをさらに加速させます。

 ある時点で、MOVが熱暴走状態に入り、かなりの熱が発生してMOVが破壊されます。場合によっては、MOVで発生した熱が潜在的発火源(PIS)となり、近くの素材が発火してしまうこともあります。このような作用が基本的な安全性や安全関連の基準に適合しているかどうかを検討し、対処しなければなりません。

ベターなOVPソリューション

 リーク電流がほとんどないので寿命が長くなるOVPソリューションを提供するために、設計者は通常、デュアルコンポーネント配置を使用します。このハイブリッドアプローチは、GDTとMOVという2つのディスクリートデバイスを直列接続で組み合わせたもので(図5)、電圧-時間曲線も両者の合成になります(図6)。


図5:GDTとMOVを直列に接続するハイブリッドアプローチは、より効果的なOVPソリューションを提供します。(画像提供:Bourns Inc.)


図6:GDTとMOVのハイブリッド配置の応答-時間グラフを見ると、両デバイスの基本的な応答特性が合成されているのがわかります。(画像提供:Bourns Inc.)

 これは、各デバイスが他方のデバイスで発生し得る問題点をカバーするために有効な方法です。しかし、この方法は以下のようにコスト高となります。

・回路基板の面積が大きくなる
・部品表(BOM)にもう一つの部品(コンポーネント)が追加される

 もう一つの課題は、回路基板におけるMOVとGDTの領域のレイアウトが、沿面距離とクリアランス距離の最小値を規定する規制上の要件によって複雑になっていることです。沿面距離とクリアランス距離の意味は、以下のとおりです。

・クリアランス距離とは、2つの導電性コンポーネントの間にある空間の最短距離を意味します。
・沿面距離とは、2つの導電性コンポーネントの間で固体絶縁材料の表面に沿った最短距離を意味します。

 問題は、クリアランス距離と沿面距離が電圧によって増大することです。このため、MOVとGDTをコンポーネントとして配置することで、基板のレイアウトで新たな規制と制約を考慮する必要が生じます。

 このようなコスト、スペース、規制の問題を解決するために、Bourns, Inc.ではIsoMOVシリーズのハイブリッド保護コンポーネントを開発しました。本製品は、MOVとGDTを一つのパッケージに収め、ディスクリートデバイスであるMOVとGDTを直列に配置することで、両方の機能を提供する代替ソリューションです(図7)。


図7:IsoMOVの回路図シンボル(右)は、GDT(左の中央)とMOV(左の上下)の各標準シンボルを統合したものとなっています。(画像提供:Bourns Inc.)

 IsoMOVの構造を見てみると、MOVとGDTを一つの共用筐体に収めただけの単純明快なものではないことがわかります(図8)。


図8:IsoMOVの物理的な構造は、2つの異なる既製デバイスを一緒にパッケージングしただけのものではなく、ハイブリッド機能を全く別の形で実現したものです。(画像提供:Bourns Inc.)

 コアを組み立て、リード線を付けて、本体にエポキシ塗装を施します。これにより、おなじみのラジアルディスクのMOVパッケージは、同じ定格の従来デバイスよりも、厚みがわずかに大きくなる代わりに直径が小さくなっています(図9)。

 さらに、特許出願中の酸化金属技術の設計により、IsoMOVコンポーネントは同じサイズの他のMOVよりも高い電流定格を実現しています。また、フットプリントペナルティや沿面&クリアランス距離の問題も解消されます。

     
図9:IsoMOVのラジアルリードディスクパッケージは標準的なMOVと同じように見えますが、異なる点は、同等のMOV単体よりも直径が小さく定格電流が高いことです。(画像提供:Bourns Inc.)

 IsoMOVは、単に「両方の長所を兼ね備えている」というだけではなく、設計も優れています。MOVの故障は、一般的に、金属を被覆した領域の端にいわゆる「サージホール」があることが特徴です。サージホールができる原因は通常、サージ中にMOV内部の温度が上昇することです。Bourns独自のEdgMOV技術は、このような故障状態を大幅に低減または解消するように設計されています。

 IsoMOVモデルの一つを見た方が、詳しい情報がわかります。ISOM3-175-B-L2は、最大連続動作電圧(MCOV)が275Vrms/350VDC、定格電流が3kA/15回、6kA/1回(最大値)となっています。また、同モデルは、20kHzで30pFという低静電容量のため、高速データラインに適していることも特筆すべき点です。さらに、10μA未満の低リークを実現しています。

規格の役割

 設計技術者は、慎重な設計を行うため、あるいは様々な規制基準によって義務付けられているためなどの様々な理由から、色々な形態のサージ保護(およびその他の保護)を実装する必要があります。

 これらの規格には、ACライン動作のような一般的な動作シナリオに適合するあらゆる機器に適用されるユニバーサルなものもあれば、医療機器などの特定クラスの機器に限定されたものもあります。規格制定機関としてはUL、IEEE、IECなどがあり、これらの機関の規格の多くは互いに調整されているため、同一またはほぼ同一の規格となっています。

 これらの規格はいずれも多くの要件を伴う複雑なものです。さらに、通常なら省略できる手順や特記事項を指示する例外規定を含む規格や、場合に応じて追加しなければならない要件を含む規格もあります。

 たとえば、IEC 60950-1「Information technology equipment – Safety」と、2020年にIEC 60950-1の後継規格となったUL/IEC 62368-1「Standard for Audio/video, information and communication technology equipment - Part 1: Safety requirements」では、MOVの定格電圧が機器の定格電圧の125%以上となることが義務付けられています。このため、MOVの定格電圧は、240Vrmsの主電源回路に対して300Vrms以上である必要があります。

 たとえば、二股と三股のものがある一般的なACラインプラグについて考えてみましょう。理論的には、3線式であれば安全なアースを取ることができますが、実際にはそのアースが接続されていなかったり、利用できなかったりすることがよくあります。実効性のある安全用アース端子接続がないと、熱線と中性線しか使えない場合、危険な状態が招来される可能性があります。

 そのような場合には、必要な接地を行っていない導電性コンポーネントにユーザーが触れても感電しないように、保護コンポーネントを設計に加える必要があります。しかし、そうした場合でも、MOVからのリーク電流がわずかでもあると、感電する可能性があります。

 MOVのリーク電流によってこのような感電が発生しないようにするための最も一般的なソリューションは、少なくとも一つのGDTをMOVと直列に配置することです(図10)。IsoMOVデバイスを使用することで、MOVとGDTの両方の機能が一つの省スペースパッケージで実現されます。このように、IsoMOVは、UL/IEC 62368-1で要求される安全要件を簡単に満たせるようにする、問題解決型のコンポーネントでもあります。


図10:交流の熱線と中性線の間に2つのデバイス(MOVとGDT)を直列に配置することで、非接地アプリケーションで不可避のリーク電流によってユーザーが感電しないようにすることができます。(画像提供:Bourns Inc.)


図11:MOVとGDTを個別に使用する代わりに単一のIsoMOVデバイスを使用することで、同じかそれ以上の性能が得られるとともに、ソリューション全体のサイズをはるかに小さくすることができます。(画像提供:Bourns Inc.)

まとめ

 技術者は通常、どのソリューションが「ベスト」なのかを判断することを求められます。ほとんどの場合、どのソリューションを採用してもトレードオフが発生するため、一つで済む単純明快なソリューションというものはありません。

 過電圧保護を実装する場合、一般的に、長期的な故障にはクローバが適しており、過渡的なイベントにはクランプが適しています。しかし、両方のデバイスを使用すると、フットプリントが増加し、基板レイアウトが複雑になります。

 しかし、ついに妥協する必要がなくなったのです!BournsのIsoMOVは、MOV単体よりもはるかに長い動作寿命を実現しながらも、GDTが持つ続流の問題を抱えていません。このデバイスは、小さなフットプリントで、すべての関連規格を満たすサージおよび過電圧保護を提供します。また、低リーク電流のため続流の問題が最小限に抑えられ、静電容量が非常に小さいため、低電圧・高速の回路を保護するのに適しています。




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