マルツTOP > APPLICATION LAB TOPページ おすすめ技術記事アーカイブス > 建築照明における最適なLED性能の設計方法

建築照明における最適なLED性能の設計方法

著者 Bill Schweber 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-10-12

マルツ掲載日:2022-02-07


 白熱電球、ハロゲン電球、蛍光灯のような従来の建築照明(AL)源は、既存の設計だけでなく、新しい設計でも、発光ダイオード(LED)に基づく照光に急速に置き換えられています。その理由は明白です。規制による義務化とは別に、LED照明は、より高い効率、低い運用コスト、熱負荷の低減、はるかに長い設置寿命(低いメンテナンスコスト)、そしてビル機能をスマートに管理する方法を約束してくれます。

 しかし、長い歴史を持つライトにぴったり合う代替品としてLEDを使用することは、容易なことではありません。電圧ではなく電流を制御し、多くの場合調光機能を備えた、新しい駆動回路が必要となります。加えて、白熱電球は抵抗性負荷であり、AC電源ラインから直接動作させることができますが、LEDは違います。

 LEDはユニティ力率を提供せず(つまり電流と電圧が同相)、スイッチングレギュレータの駆動回路が電磁干渉(EMI)の原因となる可能性があります。その代わりに、駆動回路は、LED負荷の特性に最適な方法で必要な駆動電流を供給し、制御する必要があります。また、ドライバには、力率補正(PFC)、調光機能、EMI抑制の実装も必要になる場合があります。

 この記事では、建築照明のさまざまな側面と、LEDベースの建築照明を実現するICについて考察します。その後、実際の回路での使用例として、Diodes IncorporatedのICを紹介します。

建築照明の目標とLEDの課題

 建築照明とは、小売店、オフィス、倉庫などの商用、非住宅用構造物の内外に組み込まれた照明システムの設計と使用を意味します。建築照明設計の目的は、技術的要件と安全要件を満たしつつ、ムードや視覚的な面白さを演出し、空間や場所の体験を向上させるために、照明の芸術性と科学のバランスをとることです。

 これには、お気に入りの卓上ランプのように、人々が持ち込んだり配置を変えたりする即席の照明は含まれません。そうではなく、短期的および長期的なニーズが拡大するにつれて、いくらかの柔軟性や再配置がしばしば許容されるものの、これは「建物に付属する」照明です。

 近年、主にエネルギーを節約したり照明関連の機能を管理したりするニーズにより、建築照明は技術主導のより大きな分野となっており、課題も増えてきています。LEDベースの照明が建築照明のアップグレードにおける支配的要因になったことで、AL照明器具(備品)のLEDを効率よく駆動するための技術、回路、部品がますます重要になっています。

 LEDベースの建築照明への移行は、調光性、PFC、EMI生成など、効率に関する様々な視点を定義する複数の規制義務や規格に後押しされています。これらの非常に複雑で長い要件の詳細は、世界の地域、国、さらには米国内の州によって異なります。

 米国における重要な規制要件には、連邦Energy Star基準と、Energy Starよりも厳しいカリフォルニア建築基準コードのタイトル24があります。タイトル24では、他の多くの考慮事項に加えて、以下のことが求められています。

・照明負荷を自動的にオン/オフするための占有センサ
・調光機能付きLEDドライバ
・入力電力1Wあたりの有用な出力のルーメンで測定される高い効率
・Bluetooth、Zigbee、DALI/IEC 62386を介して個別やグループのライトをワイヤレスで制御できるスマートコネクテッド照明(SCL)で、システムのスタンバイ電力が200mW未満であること
・厄介で気を散らすフリッカを避けるために、LEDの出力電流リップルを30%未満に抑えていること
・定義された高電力時のPFCが0.9以上であること
・非抵抗負荷による無駄な電力を最小化するために、全高調波歪み(THD)を20%未満に抑えていること

●調光率とフリッカに関する注意点
 人間の目は一般的に100Hz以上のフリッカには鈍感ですが、明るさや色を制御するためにパルス幅変調(PWM)を使用してLEDを調光する場合には、「Eフリッカ」と呼ばれる関連現象が発生します。PWMでは、LEDを短時間(数百マイクロ秒)に高速で消灯させます。この調光率は、基本的なLED読み取り、ディスプレイ画面、セキュリティカメラ、その他の光学イメージングデバイスのスキャンおよびリフレッシュレートと相互作用する可能性があります。そのため、LEDのリフレッシュレートを目の感度よりもはるかに高くする必要がありますが、Diodes Incorporatedの部品はこれに対応しています。

チップを超えてチップセットへ

 エネルギーに関する複数の要件を満たすことは、相反するアプローチを両立させなければならないという設計上の課題であり、それぞれの目的に対する「最善」のソリューションの間で相互作用や妥協が避けられません。

 問題の特定の側面に対処するために最適化された個別のICが用意されていますが、完全なソリューションには、これらのICが反発するのではなく、調和して相互に補強し合うことが必要です。

 そのため、1社のベンダーのICと、そのベンダーが組み立てた関連チップセット(それらのICをグループ化した検証済み回路)の両方に注目することは理にかなっています。これにより、設計者はテスト済みのトポロジを手に入れることができ、良い出発点となります。

 Diodes Incorporatedは、LEDベースの建築照明について、低消費電力(30W以下)と高消費電力(30W以上)の2つのグループに分けてチップセットを提供しており、前者は屋内、後者は屋外での使用が一般的です。

 図1のブロック図は、30W未満のパワーアプリケーション用チップセットを構成する3つの基本IC(調光可能LEDコントローラ、リップルサプレッサ、調光信号インターフェースコントローラ)が相互に作用して、必要なコア機能を提供する様子を示しています。


図1:調光可能LEDコントローラ、リップルサプレッサ、調光信号インターフェースコントローラなどの高度なICが、30W未満の建築照明に対する設計の核となっています。(画像提供:Diodes Incorporated)

 3つのICを個別に見ると、AL1666S-13高性能調光可能LEDコントローラは、85VAC~305VACの幅広い入力電圧で動作し、PFC0.9以上、THD10%未満を提供します。このICは、5%~100%の範囲で0~10Vのアナログ調光に対応し、ANSI規格のすべての調光器で動作します。非アナログのPWM調光では、1kHzで1%~100%の範囲に対応します。

 一貫した性能を実現するために、LED-電流ラインレギュレーションは±2%以下、LED-電流負荷レギュレーションは全負荷から半負荷まで±2%以下という厳しい基準をクリアしています。

 次に、AL5822W6-7は適応型の100/120Hz LED-電流リップルサプレッサで、SOT-23-6パッケージを採用しています。厳しさを増す規格に対応するため、電流リップルを最小限に抑えるという難しい課題をクリアしています。また、LEDとインターフェース接続する機器であるため、短絡、過電流、過温度に対する保護を備えている必要があり、回路と電球が「ライブ」ソケットに挿入された場合のホットバルブ動作にも対応している必要があります。

 基本的な数値が示すように、このICは劇的なリップル低減をもたらし、元の値のわずか数パーセントにまで下げることができます。たとえば、AL1666S-13の兄弟機種であるAL1665S-13高性能調光可能LEDコントローラと組み合わせた場合、電流リップルは約520mAピーク-ピークになりますが、AL5822と組み合わせた場合はわずか17mAに減少します(図2)。


図2:AL1665S-13高性能調光可能LEDコントローラを設計に加えることで、リップルを520mAピーク-ピークからわずか17mAに低減できます。(画像提供:Diodes Incorporated)

 最後に、0~10Vに柔軟に対応する調光信号インターフェースコントローラ、AL8116W6-7があります。このICは、補助巻線の出力電圧、電源レール、またはLEDチェーン電圧から得られる10~56Vの広いVCC範囲で動作します。0.2kHz~10kHzのPWM調光、0~10Vの電圧制御、ポテンショメータ(抵抗性)調光(0~100kΩ)に対応しています。

 調光制御をシステムに必要なPWM出力に変換するとともに、シンプルなクロス絶縁バリアの調光ソリューションを提供します。また、±2.5%のPWM出力デューティサイクルを提供し、複数のLEDを設置する際に重要となる正確な調光カーブを実現します。

 もちろん、高レベルブロック図では、受動部品、ディスクリートアクティブコンポーネント、その他のICを含む全体の部品表(BOM)を表示するという点では当てにならない場合があります。したがって、実際の回路図を確認して、全体の回路が何を必要としているのかを理解することが重要です。これは、パッケージング、生産、コストに影響します。

 図1に示す30W未満のチップセットの場合、図3の回路図は、実際に必要な部品数がいかに少ないかを示しています。(1次側と2次側間をガルバニック絶縁するためには、トランスT1とオプトカプラが必要です。)


図3図1に示した高レベルブロック図の回路図が示す詳細は、設計全体で必要な追加部品がわずかであることを示しています。(画像提供:Diodes Incorporated)

 すべてのスイッチングベースの電源回路には、回路図だけではわからない実世界の機微があるため、評価ボードは設計の検証や確認を迅速に行う資産になります。AL1666+AL8116+AL5822EV1は、これら3つのICを使用して、0~10Vの調光可能な高PFCのシングルステージフライバックLEDドライバを提供する評価ボードです(図4)。このボードは、90VAC~305VACの入力電圧から、25~50Vの電圧範囲で1200mAの定出力電流を提供します。


図4:プロジェクトの完成を早めるために、AL1666+AL8116+AL5822EV1評価ボード(上と下)は、AL1666 1次側コントローラ、AL8116 2次側調光インターフェースIC、AL5822 LED電流リップルサプレッサを利用する調光可能LEDドライバ回路の動作をより深く理解する助けになります。(画像提供:Diodes Incorporated)

下位互換性のためのサイズの重要性

 従来の「小さいことは良いことだ」という理由よりも、なぜ小型化やBOMの短さが重要なのでしょうか。これは、LED駆動用ICを単独やグループで使用する場合、既存のライト(電球)との下位互換性の問題でもあります。

 たとえば、一般的に使用されているALライトのフォームファクタはさまざまですが、特に広く普及しているのは、住宅や商業施設で指向性照明として使用されているMR16です(図5)。このフォームファクタを持つハロゲン光源の電球は、長年にわたり標準的なAL照明の最初の選択肢の1つでした。


図5:ハロゲンを光源として使用するMR16電球のフォームファクタとサイズは、建築照明の導入で広く採用されています。(画像出典:Wikipedia、W.W. Grainger, Inc.)

 MR16の直径は、最大円周部で2インチです。「MR」は多面反射板を意味し、これは放出する光の方向や広がりを制御するものです。この電球は通常(常にではない)、一般的にライン電圧の降圧トランスを介して供給される12VのACラインから動作します。

 小型のハロゲンMR16の消費電力は20Wで、寿命は2,000~6,000時間です。一方、同等のLEDの消費電力はわずか数Wで、10万時間程度の寿命があります。建築照明の光源がLEDベースに移行していく中で、このパッケージに必要な回路を搭載可能にすることは、巨大な交換用アフターマーケットや新規建築照明のデザインインに適合する電球を提供する上で重要です。

より高い電力ニーズへの対応

 屋外でのアプリケーションなど、30W(LED電流駆動では約3Aに相当)を超えるLEDライトの駆動には、その制御モジュールや通信モジュールは同じでも、シングルステージよりも2ステージのトポロジの方が好ましい場合があります(図6)。


図6:高電力のLED照明設計(30W以上)では、低電力設計のシングルステージのアプローチ(左)とは対照的に、2ステージのトポロジ(右)が使用されますが、その「スマート」なインターフェースは同じです。(画像提供:Diodes Incorporated)

 今回も、回路図(この場合は高電力LED照明設計ソリューションの回路図)により、詳細な洞察が得られます(図7)。


図7:この回路図でも、この高電力ソリューションがもたらす比較的高いレベルの統合が示されています。(画像提供:Diodes Incorporated)

 低電力設計と同様に、3つのICがこの実装の核となっています。最初に、1次側コントローラのAL1788W6-7は、オプトカプラ不要の降圧(ステップダウン)およびフライバックトポロジに対応し、「バレーオン機能」を備えた擬似共振(QR)動作によって低スイッチング損失を実現しています。力率は0.9以上、THDは15%未満で、200mW未満のスタンバイ電力(日中の消灯時などに使用)によって全体の効率を高めています。

 次に、AL17050WT-7は、小型のSOT-25パッケージで、正確な定電圧(CV)制御と極めて低いスタンバイ電力を実現した、ユニバーサルAC非絶縁型降圧レギュレータです。これは500VのMOSFETを内蔵し、1巻線インダクタで動作するため、外付け部品がシンプルになり、BOMコストが低減されています。

 このデバイスは、その電気的役割と全体のトポロジにおける位置から、過温度保護、VCC不足電圧ロックアウト、出力短絡保護、過負荷保護、オープンループ保護など、複数の製造「レイヤ」を含んでいます。

 最後に、AL8843SP-13は、1MHzの降圧レギュレータおよびPWM調光機能付きアナログLEDドライバで、外付け抵抗を介して調節可能な最大3Aの出力電流を供給できます。これは、4.5~40Vの幅広い入力電圧に対応し、±4%の電流センス精度を備えているため、マルチLED設計の優れたチャンネル間マッチングを実現します。

 AL8843SP-13は、パワースイッチとハイサイド出力電流センシング回路を内蔵しており、電源電圧や外付け部品に応じて、最大60Wの出力電力を最大97%の効率で供給することができます。重要な調光機能は、DC電圧またはPWM信号を受け入れる1つのパッケージピンに外部制御信号を適用することで実装できます。

 また、熱特性を強化したこのSO-8EPパッケージデバイスには、他の保護モードに加えて、LEDのオープン/短絡および電流センス抵抗器のオープン/短絡に対する保護機能も搭載しています。

 低電力LED駆動方式と同様に、高電力ソリューション用の評価ボードは、完全なデザインインの状況をよりよく理解するために必要な時間を大幅に削減し、プロジェクトをより効果的に進めることを可能にします。高電力設計で最も難しいとされるAL8843SP-13降圧LEDドライバに対し、Diodes Incorporatedは、AL8843EV1評価ボードを提供しています(図8)。


図8:AL8843SP-13のユーザーは、シングル降圧レギュレータとPWM調光機能付き3AアナログLEDドライバICに完全に焦点を当てた、基本的なAL8843EV1評価ボードの恩恵を受けることができます。(画像提供:Diodes Incorporated)

 AL8843EV1評価ボードにより、他のアクティブコンポーネントによる相互作用や干渉なしに、ICの基本的な演習を行うことができます。

「コネクテッド照明」の存在

 他の機能拡張の1つとして、最新のLED照明では、しばしば「コネクテッド照明」とシンプルに記載される「スマートコネクテッド照明」(SCL)を実装することが実用的かつ望ましいとされています。コネクテッド照明では、そのさまざまな属性に加えて、接続規格を介してライトをグループとして制御したり、グループ内で個別に制御したりできます。

 SCLの利点より高レベルのシステムという観点から見れば、おそらく多少の推測や誇張はあるにせよ、コネクテッド照明インフラはビル全体の接続グリッドにおける投資となります。ビル管理者は、このインフラを流れるデータにより、主要なビルシステムの統合、自動化、寿命延長、運用コストの削減、性能の向上、ダウンタイムの低減を図ることができます。

 一部のアナリストは、コネクテッド照明の利点は単なる照明にとどまらないと主張しています。たとえば、SilvairのCTOおよび創業者であるシモン・スルピク氏は、「スマート照明によって実現される追加サービスの価値は、照明制御や省エネそのものの7倍から10倍の価値がある 」と指摘しています。

 SCLライトは長時間にわたって受動的な「リスニング」状態であることが多いため、スタンバイ消費電力は設計者にとって重要なパラメータであり、さまざまな規制義務によって最大値が規定されています。

 Diodes Incorporatedのコントローラとレギュレータは、スタンバイ電力定格が許容値未満になるように設計されています。また、Bluetooth、Zigbee、Wi-Fiなど、さまざまなインターフェース規格に対応した調光制御/通信モデルとも連携します。

 コネクテッド照明の導入を促進する要因の一つは、異なるベンダーのSCLコンポーネントの相互運用性を確保する業界標準の策定です。たとえば、Bluetooth Special Interest Group(SIG)は、照明業界と協力して、適用可能な大規模デバイスネットワークの構築に最適なBluetooth mesh規格を開発しました。

 さらに、Bluetooth SIGとDALI Allianceは、D4i認証を受けた照明器具とDALI-2デバイスをBluetoothベースのメッシュ照明制御ネットワークに展開できるよう、標準化されたインターフェースを共同で作成しました(D4iは、IoT対応のインテリジェントな照明器具のためのDALI規格です)。このインターフェースを介し、センサが豊富な照明器具と照明制御装置、さらには他の建築物管理システムとの間で、データがスムーズにやり取りされます。

まとめ

 スマートなLEDベースの建築照明は、商業ビルの照明システムのエネルギー効率を向上させます。それは、建物全体の性能を長期的に向上させるための重要な要素でもあります。Diodes Incorporatedのコントローラ、レギュレータ、LEDドライバICは、LEDベースの建築照明に焦点を当てて最適化されており、これらの高度な建築照明の可能性の潜在的な利点を、パワフルで多用途、そしてコスト効率の良い現実にうまく変換するために必要となる重要な構成要素の1つです。

リファレンス
(1) DALI Alliance、D4i–IoT対応のインテリジェント照明器具に向けたDALI規格

参考情報
(1) AL8805の電磁設計プラクティス
(2) 屋内および屋外LED照明向けの新規格コネクタの理解と応用




免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、Digi-Key Electronicsの意見、信念および視点またはDigi-Key Electronicsの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

 

このページのコンテンツはDigi-Key社より提供されています。
英文でのオリジナルのコンテンツはDigi-Keyサイトでご確認いただけます。
   


Digi-Key社の全製品は 1個からマルツオンラインで購入できます

※製品カテゴリー総一覧はこちら



ODM、OEM、EMSで定期購入や量産をご検討のお客様へ【価格交渉OK】

毎月一定額をご購入予定のお客様や量産部品としてご検討されているお客様には、マルツ特別価格にてDigi-Key社製品を供給いたします。
条件に応じて、マルツオンライン表示価格よりもお安い価格をご提示できる場合がございます。
是非一度、マルツエレックにお見積もりをご用命ください。


ページトップへ