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CPU、ASIC、FPGA、USBに効果的に電源を供給する高分子アルミコンデンサの使用理由と使用方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-12-02

マルツ掲載日:2022-03-28


 IC、ASIC(アプリケーション特有のIC)、CPU(中央処理装置)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)などの電子システムやサブシステム、さらにはUSB電源などの電源供給ソリューションの設計者は、効率を高める方法を常に模索しながら、小型フォームファクタで広い温度範囲にわたって安定したノイズフリー電源を確保するよう尽力しています。

 つまり、効率、安定性、信頼性の向上、コストの削減、ソリューションのフォームファクタの小型化といったニーズに応える必要があります。それと同時に、電源回路の入出力電流の平滑化、ピーク電力需要への対応、電圧変動の抑制など、増加の一途をたどる電源性能要件も満たさなければなりません。

 これらの課題に対応するには、リップル吸収とスムーズな高速過渡応答に対応できる、低ESR(等価直列抵抗)と高周波数での低インピーダンスを特長とするコンデンサが必要です。さらに、動作の信頼性とサプライチェーンの信頼性の両方が重要となります。

 こうした課題と選択肢を概観して、優れたソリューションとして浮上しているのが高分子アルミ電解コンデンサです。高分子アルミ電解コンデンサには、高い電気性能、安定性、低ノイズ、信頼性、小型フォームファクタといった特長があるうえ、紛争鉱物を使用しないためサプライチェーンリスクを抑制できます。

 また、低ESR(通常mΩで測定)と高周波数(最大500kHz)での低インピーダンスを兼ね備え、電源ラインでのノイズ抑圧、リップル吸収、デカップリング性能にも優れています。また、高い動作周波数や高温での静電容量も安定しています。

 この記事では、高分子アルミ電解コンデンサの仕組みと製造方法の概要を紹介します。また、これらのコンデンサの性能を他のコンデンサ技術と比較し、高分子アルミ電解コンデンサの具体的なアプリケーションを考察します。最後に、Murataの代表的なデバイスと、これらのコンデンサを使用する際に設計者が注意しなければならないアプリケーション上の考慮事項を紹介します。

高分子アルミコンデンサの製造方法

 高分子アルミコンデンサは、エッチングされたアルミホイルをアノードに、アルミ酸化皮膜を誘電体に、導電性高分子をカソードに使用します(図1)。デバイスに応じて、6.8~470µFの静電容量と、2~25Vの直流(Vdc)の電圧範囲をカバーします。


図1:アノードのエッチングされたアルミホイル(左)、誘電体のアルミ酸化皮膜(中央)、カソードの導電性高分子(右)の関係を示した高分子アルミ電解コンデンサのモデル。(画像提供:Murata)

 MurataのECASシリーズ デバイスでは、エッチングされたアルミホイルを正極に直接貼り付け、導電性高分子をカーボンペーストで覆い、導電性銀ペーストを使用して負極に接続しています(図2)。構造全体を成形されたエポキシ樹脂で包み込むことで、機械的強度と環境保護を実現しています。薄型の面実装パッケージは、ハロゲンフリーで、湿度感度レベル(MSL)3に準拠しています。

 MurataのECASシリーズは、アルミホイルと酸化皮膜の多層(積層)構造になっているため、カソードに高分子や電解液を使用できる缶タイプの巻線構造など、一般的なアルミ電解コンデンサとは異なります。


図2:導電性高分子(ピンク)、エッチングされたアルミホイル(白)、アルミ(Al)酸化皮膜(青)、導電性高分子と負極を接続するカーボンペースト(茶)と銀ペースト(ダークグレー)、エポキシ樹脂ケースを示したECASシリーズ 高分子アルミコンデンサのデバイス構造。(画像提供:Murata)

 特定の材料を使って積層構造にすることで、ECASコンデンサは電解コンデンサの中で最も低いESRを実現できます。ECASシリーズ 高分子アルミコンデンサは、高分子タンタル(Ta)コンデンサ、Ta二酸化マンガン(MnO2)コンデンサ、多層セラミックコンデンサ(MLCC)と同等の静電容量を持っています。また、ESRはMLCCと同等で、高分子コンデンサやMnO2 Taコンデンサよりも低くなっています(図3)。


図3:高分子アルミコンデンサ(ECASシリーズ)は、MLCCと比較して高い静電容量値と同等のESRを持ち、タンタルや缶タイプのアルミコンデンサと比較して同等の静電容量値と低いESRを持っています。(画像提供:Murata)

 コスト重視のアプリケーションでは、アルミ電解コンデンサやTa(MnO2)コンデンサで比較的低コストのソリューションを実現できるでしょう。従来のアルミ電解コンデンサやタンタル電解コンデンサは、カソードとして電解液や二酸化マンガン(MnO2)を使用しています。

 ECASコンデンサは、導電性高分子をカソードに使用することで、低ESR、より安定した熱特性、安全性の向上、耐用年数の延長を実現しています(図4)。MLCCは比較的低コストですが、他のコンデンサ技術にはないDCバイアス特性という問題があります。


図4:高分子アルミコンデンサには、基本的に、低ESR、DCバイアス特性、温度特性、耐用年数、信頼性が揃っています。(画像提供:Murata)

 DCバイアス特性とは、DC電圧を印加したときのMLCCの静電容量変化のことです。印加されるDC電圧が増加すると、MLCCの実効静電容量は減少します。DCバイアスが数ボルトに増加すると、MLCCは公称静電容量値の40%~80%を失う可能性があるため、多くの電源管理アプリケーションには向いていません。

 高分子アルミ電解コンデンサの性能特性は、CPU、ASIC、FPGAなどの大型ICの電源を含む電源管理アプリケーションや、USB電源システムのピーク電力ニーズへの対応に適しています(図5)。


図5:例1(上):リップルの除去や電圧源の平滑化および安定化のために、対象アプリケーションで使用される電源管理回路の高分子アルミコンデンサ。例2(下):高分子アルミコンデンサはUSB電源システムのピーク電力ニーズに対応可能。(画像提供:Murata)

 高分子アルミコンデンサは、低ESR、低インピーダンス、安定した静電容量といった特長を備えているため、特に電流負荷の変動が大きい電源ラインでのリップルの平滑化や除去などのアプリケーションに適しています。このようなアプリケーションでは、高分子アルミコンデンサをMLCCと組み合わせて使用することができます。

 高分子アルミコンデンサは電源管理機能を提供し、MLCCはICの電源ピン上の高周波ノイズを除去します。また、高分子アルミコンデンサは、小型のプリント基板フットプリントを維持しつつ、USB電源システムのピーク電力ニーズにも対応できます。

高分子アルミコンデンサ

 ECAS高分子アルミコンデンサは、定格に応じて4種類のEIA 7343メトリックケースサイズがあります。D3:(7.3mm×4.3mm×高さ1.4mm)、D4:(7.3mm×4.3mm×高さ1.9mm)、D6:(7.3mm×4.3mm×高さ2.8mm)、D9:(7.3mm×4.3mm×高さ4.2mm)。DigiReel、カットテープ、テープ&リールなどの形態で入手可能です(図6)。その他の仕様は以下のとおりです。

・静電容量範囲:6.8µF~470µF
・静電容量許容差:±20%、+10%/-35%
・定格電圧:2Vdc~16Vdc
・ESR:6mΩ~70mΩ
・動作温度:-40℃~+105℃


図6:ECAS高分子アルミコンデンサは、DigiReel、カットテープ、テープ&リールの形態で提供され、ケースサイズにはD3、D4、D6、D9があります。(画像提供:Murata)

 最近、MurataはECASファミリを拡大し、D4ケースサイズでESRが9mΩのECASD60J337M009KA0のような330µF(±20%)、6.3Vデバイスなどを追加しました。静電容量が大きいほど、リップルの平滑化が向上し、必要なコンデンサの数も減るため、ソリューション全体のサイズを縮小することができます。

 たとえば、300kHzでスイッチングするDC/DCコンバータの出力をフィルタリングするために使用した場合、ECASD40D337M006KA0のESR 6mΩ、330µF(±20%)、2Vの高分子アルミコンデンサは13mVp-pのリップル電圧を生成します。

 これに対し、ESRが15mΩのアルミ高分子コンデンサは36mVp-pのリップル電圧を生成し、ESRが900mΩのアルミ電解コンデンサは950mVp-pのリップル電圧を生成します。

 ECASコンデンサの他の例として、D4ケースで150µF(±20%)、2Vdc定格、ESR 9mΩのECASD40D157M009K00や、D4ケースで68µF(±20%)、16Vdc定格、ESR 40mΩのECASD41C686M040KH0などがあります。ECAS高分子アルミコンデンサの特長は以下のとおりです。

・高静電容量で低ESR
・印加されるDC電圧/温度/高周波数での安定した静電容量
・優れたリップル吸収、平滑化、過渡応答
・電圧ディレーティングは不要
・セラミックコンデンサから発生する音響ノイズの除去(圧電効果)
・製品に記載された極性バー(プラス)
・面実装構造
・RoHS対応
・ハロゲンフリー
・MSL 3パッケージ

設計上の考慮事項

 ECAS高分子アルミ電解コンデンサは、電源管理アプリケーションでの使用に最適化されていますが、時定数回路、カップリング回路、リーク電流に敏感な回路での使用は推奨されません。ECASコンデンサは、直列接続を想定して設計されていません。他の設計上の考慮事項は以下のとおりです。

極性:高分子アルミ電解コンデンサには極性があるため、正しい極性で接続する必要があります。逆電圧が瞬間的に印加されるだけでも、酸化皮膜が損傷し、コンデンサの性能が損なわれる可能性があります。
動作電圧:これらのコンデンサをAC回路やリップル電流回路で使用する場合は、ピーク-ピーク電圧(Vp-p)またはオフセット-ピーク電圧(Vo-p)(DCバイアスを含む)を定格電圧範囲内に維持してください。過渡電圧が発生する可能性のあるスイッチング回路では、定格電圧を十分に高くして、過渡ピークにも対応する必要があります。
突入電流:20Aを超える突入電流が予想される場合は、ピーク突入電流を20Aに維持するために、追加の突入電流制限が必要です。
リップル電流:ECASシリーズの各モデルには、超えてはならない特定のリップル電流定格があります。過度のリップル電流は発熱し、コンデンサを損傷する恐れがあります。
動作温度
 コンデンサの温度定格を決定する際、設計者は装置内の温度分布や季節的な温度要因など、アプリケーションの動作温度を考慮する必要があります。
 コンデンサの表面温度は、リップル電流などの特定のアプリケーション要因によるコンデンサの自己発熱も考慮して、動作温度範囲内に保つ必要があります。

まとめ

 電源供給システムの設計者にとって、効率、性能、コスト、安定性、信頼性、フォームファクタの最適なバランスを実現することは容易ではありません。MCU、ASIC、FPGAなどの大型ICに給電する場合や、USBアプリケーションのピーク電力ニーズに対応する場合は、特に困難なものとなります。

 電源信号チェーンの主要部品の1つは、コンデンサです。これらのデバイスにはさまざまな特性があり、適切な技術を使用すれば、設計要件を満たすことができます。

 前述のとおり、高分子アルミコンデンサは、適切なバランスを得やすいコンデンサです。このコンデンサの構造は、最大500kHzまでの周波数での低インピーダンス、低ESR、優れたリップル平滑化に加え、電源ライン上での優れたノイズ抑圧とデカップリングを実現しています。

 また、DCバイアスの制限に悩まされることなく、自己回復が可能なため、動作信頼性が向上します。さらに、紛争鉱物を使用していないため、より信頼性の高いサプライチェーンを構築しています。このように、高分子アルミコンデンサは、さまざまな電源管理システムの要件に対応するための、高性能オプションを設計者に提供します。

お勧めの記事
(1) 基礎解説:コンデンサのタイプごとの特性を理解して適切かつ安全に使用する




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