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測位マルチコンステレーションGNSSモジュールを迅速に実装する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-09-09

マルツ掲載日:2022-01-04


 欧州のGalileo、米国の全地球測位システム(GPS)、ロシアのGLONASS、中国の北斗衛星測位システム(BeiDou)、および日本のQZSSに対するマルチコンステレーション全地球航法衛星システム(GNSS)レシーバを用いた位置情報に基づく機能の利用は、ロボティクス、自律車両、産業用オートメーション、物流や資産追跡、ドローン、農業用機械や建設重機など、幅広いアプリケーションで拡大しています。

 マルチコンステレーションGNSSレシーバを使用する利点には、測位・航法・タイミング(PNT)信号の可用性向上、精度と整合性の向上、アプリケーションの堅牢性向上などが挙げられます。

 しかし、マルチコンステレーションレシーバの開発は、Lバンドアンテナの最適化、RF(無線周波数)フロントエンドの設計、各種PNT信号の取得・追尾・補正を行うベースバンド信号処理アルゴリズムの統合、ベースバンドの各チャンネルからPNTデータを抽出し、その情報をもとにシステム機能を実装するアプリケーションの処理ソフトウェアのコーディングなど、複雑で時間のかかる作業です。また、設計者は適切なアンテナを選び、正しく配置しなければなりません。

 別の方法として、設計者は事前に設計されたGNSSモジュールや開発環境を利用して、システムに迅速かつ効率的に測位機能を組み込むことができます。これらのGNSSモジュールには、RFフロントエンド、ベースバンド処理、アプリケーション処理ソフトウェアの開発を迅速に行うための組み込みファームウェアが含まれています。一部のGNSSモジュールには、アンテナも含まれています。

 この記事では、GNSS、PNT、マルチコンステレーションGNSSレシーバの動作の基礎について考察します。次に、アンテナをGNSSモジュールに組み込むことのメリットとデメリットを説明した上で、設計者が位置情報に基づく高精度で堅牢なアプリケーションを効率的かつコスト効率よく開発するために活用できる、STMicroelectronics、Septentrio、Würth Elektronikのアンテナ内蔵/非内蔵のGNSSモジュールおよび関連する評価ボードを紹介します。

GNSSとPNTとは?

 GNSSとPNTは、密接に関連する概念です。GNSS衛星は、PNT信号の最も一般的な発信源です。GNSS衛星は基本的に高精度の同期クロックであり、そのPNT情報を常に送信しています。

 GNSSモジュールは、特定の衛星からのPNT信号を受信し、その衛星からの距離を計算します。レシーバは、4つ以上の衛星までの距離がわかると、自分の位置を推定することができます。しかし、位置推定の精度は、以下のようなさまざまな誤差原因の影響を受けます。

・GNSS衛星の計時回路のクロックドリフト
・GNSS衛星の正確な軌道位置を予測する際の不正確さ
・他の衛星と比較した場合の衛星装置全体の一般的な性能ドリフト(別称:衛星バイアス)
・電離層や対流圏を通過する際の信号送信の歪みや遅延。
・マルチパス反射およびレシーバの可変性能とドリフト

 衛星と大気のGNSS誤差を補正するために、設計者はさまざまな技術を利用することができます。

GNSS性能の向上

 GNSSレシーバに起因する誤差の影響を最小限に抑えるための最善の方法は、特定のアプリケーションのコストとサイズの制約に適合する最高性能のレシーバを使用することです。ただし、高性能なレシーバであっても完璧ではなく、その性能を向上させることは十分可能です。これらの補正方法が提供する性能は異なるため、それらを理解することが重要です。GNSSモジュールによっては、すべての補正方法を実装できないものもあります。

 地上の基準局は、いくつかのGNSS補正方法で使用されています(図1)。地上の基準局を使用してレシーバにGNSS補正情報を提供するための最も確立された方法は、リアルタイムキネマティック(RTK)と精密単独測位(PPP)です。最近では、RTKとPPPのハイブリッド方式も登場しています。


図1:GNSSユーザーレシーバは、基準ネットワークから大気、時計、軌道の誤差に関する情報を取得して、測位精度を向上させることができます。(画像提供:Septentrio)

 RTKは、1つの基地局やローカル基準ネットワークに依存して補正データを提供し、GNSS誤差のほとんどを取り除くことができます。RTKでは、基地局とレシーバの距離が最大40kmで近接していることを前提としているため、同じ誤差が生じます。後処理キネマティック(PKK)とは、RTKのバリエーションの1つであり、高精度な測位データやセンチメートルレベルの精度を得るために、測量やマッピングで広く使用されています。

 PPPの補正に使用されるのは、軌道と衛星の時計誤差のみです。このような衛星固有の誤差は、必要となる基準局の数を制限するユーザーの位置に依存しません。しかし、PPPは大気関連の誤差を考慮していないため、RTKに比べて精度が低くなります。加えて、PPPの補正では、初期化に20分程度かかることもあります。初期化時間が長く、精度が低いため、PPPは多くのアプリケーションで実用的ではありません。

 最新のGNSS補正サービスであるRTK-PPP(状態空間表現(SSR)と呼ばれることもある)は、RTKに近い精度と迅速な初期化を必要とするアプリケーションに多く採用されています。約100kmの間隔で配置された基準局の基準ネットワークを使用してGNSSデータを収集し、衛星補正と大気補正を組み合わせて計算します。

 基準ネットワークでは、インターネット、衛星、携帯電話ネットワークを使用して、補正データを加入者に送信します。RTK-PPPを使用したGNSSレシーバでは、サブデシメートル単位の精度を得ることができます。RTK、PPP、RTK-PPPのいずれの補正方法を使用するかという選択には、開発者が特定のアプリケーションプロファイルに最適なソリューションを選択するために確認すべき一連の設計トレードオフが関係します(図2)。


図2:一般的な3つのGNSS補正方法の長所と短所。(画像提供:Septentrio)

 RTK、PPP、RTK-PPPといった地上局に基づく補正方法に代わって、衛星型補強システム(SBAS)が地域ごとに利用可能になり始めています。SBASでは、GNSSの誤差を測定するために地上局を使用していますが、その地上局は大陸全体に広がっています。

 測定された誤差は中央で処理され、補正値が計算され、カバーエリア上の地球同期衛星に送信されます。補正データは、オーバーレイまたは補強として、衛星から元のGNSSデータに送信されます。

 GNSSの精度は、衛星による測定とそれに関連する補正の可用性と精度に依存します。高性能なGNSSレシーバは、複数の周波数のGNSS信号を追跡し、複数のGNSSコンステレーションとさまざまな補正方法を使用して、必要な精度と耐性を実現します。結果として冗長性を持たせることで、一部の衛星の測定やデータが干渉を受けても、安定した性能を発揮することができます。設計者は、さまざまなGNSS精度と冗長性の機能を選択することができます(図3)。


図3:補正方法と選択したアプリケーションに対応するGNSS精度等級。(画像提供:Septentrio)

GNSSモジュール:内蔵アンテナと外付けアンテナの比較

 マルチコンステレーションの測位は複雑なため、市場投入までの時間を短縮し、コストを削減し、性能を確保するためのモジュールが、さまざまなサプライヤから提供されています。とはいえ、設計者は、内蔵アンテナを使用するか、あるいはGNSSモジュールの外部にアンテナを設置するかを検討する必要があります。

 市場投入までの時間とコストを重視するアプリケーションでは、エンジニアリングが大幅に少なくて済む内蔵アンテナが好ましいでしょう。FCCまたはCE認証が必要なアプリケーションでは、アンテナを内蔵したモジュールを使用することで、認証プロセスを短縮することができます。しかし、内蔵アンテナソリューションではソリューションのサイズが大きくなり、柔軟性が制限される可能性があります。

 外部アンテナは、より広範な性能やレイアウトの選択肢を提供します。大型の高性能アンテナや小型の低性能アンテナを選択することができます。加えて、GNSSモジュールの配置と比較して、アンテナの配置は柔軟性が高く、設計柔軟性がさらに向上します。

 また、柔軟な配置により、外部アンテナではより信頼性の高いGNSS動作を実現できます。ただし、アンテナの配置や接続配線は複雑で時間のかかるプロセスであり、特定の専門知識を必要とするため、コストが増加し、市場投入までの時間が遅くなる可能性があります。

スペースに制約のある設計用の小型GNSSモジュール

 アンテナの配置や配線に必要な専門知識を持つ設計チームは、外部アンテナを使用するマルチコンステレーション(GPS/Galileo/GLONASS/BeiDou/QZSS)GNSSモジュールである、STMicroelectronicsのTeseo-LIV3Fを使用することができます(図4)。

 このモジュールは、9.7mm×10.1mmのLCC-18パッケージに収められており、平均誤差半径(CEP)1.5mの位置精度、コールドスタートとホットスタート時の初期位置算出時間(TTFF)をそれぞれ32秒未満、1.5秒未満に抑えています(GPS、GLONASS)。スタンバイ消費電力は17μW、トラッキング時の消費電力は75mWです。


図4:Tesco-LIV3F GNSSモジュールでは、9.7×10.1mmのパッケージに、GNSSコアとサブシステム、必要なコネクティビティと電源管理のすべてが含まれています。外部アンテナが必要です。(画像提供:STMicroelectronics)

 Tesco-LIV3Fのオンボード26MHz温度補償水晶発振器(TCXO)は、高精度の確保に役立ちます。また、専用の32kHzリアルタイムクロック(RTC)発振器により、初期位置算出時間(TTFF)を短縮できます。16Mビットの内蔵フラッシュメモリにより、データロギング、7日間の自律支援型GNSS、ファームウェアの再設定やアップグレードなどの機能を実現しています。

 Tesco-LIV3Fに適したアプリケーションは、保険、物流、ドローン、通行料徴収、盗難防止システム、人やペットの位置情報、車両追跡、緊急通報などです。

 あらかじめ認証済みのソリューションであるTeseo-LIV3Fモジュールを使用することで、最終的なアプリケーションの市場投入までの時間を短縮することにつながります。動作温度範囲は-40℃~+85℃です。

 このモジュールで実験したり、アプリケーション開発を加速化したりするために、設計者はAEK-COM-GNSST31評価ボードを使用することができます。この評価パッケージをX-CUBE-GNSS1ファームウェアと組み合わせて使用すると、外部メモリなしで取得、追跡、ナビゲーション、データ出力機能をサポートできます。このEVBは、SPC5マイクロコントローラと組み合わせて車載用アプリケーションの開発にも使用できるように設計されています。

干渉軽減機能付きGNSSモジュール

 Septentrioの410322mosaic-X5マルチコンステレーションGNSSレシーバは、31mm×31mm×4mmの低電力面実装モジュールであり、4つのUART、Ethernet、USB、SDIO、2つのユーザープログラム可能なGPIOなど、豊富なインターフェースを提供します。

 mosaic-X5は、ロボティクス、自律システムなどの大量市場向けアプリケーションで使用するために設計されており、100Hzの更新レート、10ms未満のレイテンシ、0.6cmの垂直RTK測位精度と1cmの水平RTK測位精度を備えています。

 あらゆるGNSSコンステレーションを追跡でき、現在および将来的な信号をサポートします。また、PPP、SSR、RTK、SBASの補正に対応しています。このモジュールのTTFFは、コールドスタート時に45秒未満、ウォームスタート時に20秒未満です。

 mosaic-X5は、AIM+を含むSeptentrioの複数の特許技術を備えています。AIM+は、単純な連続狭帯域信号から複雑な広帯域およびパルス妨害波まで、さまざまな干渉を抑制するオンボード干渉軽減技術です。

 このモジュールのインターフェース、コマンド、データメッセージは、完全に文書化されています。付属のRxToolsソフトウェアを使用すると、レシーバの構成と監視、データロギングと解析が可能になります。

 Septentrioの410331P3161 mosaic-X5開発キットにより、設計者はmosaic-X5の機能を最大限に活用したプロトタイプを検討、評価、開発できます(図5)。


図5:設計者は、410331P3161 mosaic-X5開発キットを使用し、Ethernet、COMポート、USB 2.0などのさまざまな接続やSDメモリカードを用いて、プロトタイプを作成することができます。(画像提供:Septentrio)

 このキットでは、簡単な操作と監視のためにmosaic-X5の直感的なWebユーザーインターフェースを使用します。これにより、設計者は任意のモバイルデバイスまたはコンピュータからレシーバモジュールを制御できます。Webインターフェースでは、読みやすい品質インジケータを使用して、レシーバの動作を監視します。

 設計者は、Ethernet、COMポート、USB2.0、SDメモリカードのいずれかの接続を使用してmosaic開発キットを統合することで、プロトタイプを作成することができます。

アンテナ内蔵型GNSSモジュール

 アンテナを内蔵したGNSSモジュールの使用から恩恵を受けるアプリケーションの設計者向けに、Würth Elektronikは、高性能システムオンチップ(SoC)を搭載した2614011037000 Erinome-Iモジュールを提供しています(図6)。

 このモジュールは、GPS、GLONASS、Galileo、BeiDouの各GNSSコンステレーションをサポートしており、上部にはアンテナが内蔵されているため、ハードウェアの統合を容易にして市場投入までの時間を短縮します。内蔵アンテナを含めたモジュールのサイズは18mm×18mmです。


図6:2614011037000 Erinome-Iは、高性能なGNSS SoCと内蔵アンテナを備えた完全なGNSSモジュールです。(画像提供:Würth Elektronik)

 また、このモジュールには、TCXO、RFフィルタ、低ノイズアンプ(LNA)、シリアルフラッシュメモリも搭載されています。

 Würthは、Erinome-I向けに2614019037001評価ボード(EVB)も提供しています(図7)。EVBは、GNSSモジュールをアプリケーションに組み込む際のリファレンス設計としても利用できます。USBポートを使用して、EVBをPCに接続することができます。マルチピンコネクタにより、GNSSモジュールのすべてのピンにアクセスすることができます。


図7:Erinome-I用2614019037001評価ボード(ボードの中央付近、モジュールの中央に内蔵アンテナが見える)は、リファレンス設計としても機能します。(画像提供:Würth Elektronik)

 Würth Elektronik Navigation and Satellite Software(WENSS)は、UARTインターフェースを使用してErinome-I GNSSモジュールと対話するためのシンプルなPCツールです。このツールは以下をサポートしています。

・EVB動作の制御
・Erinome-Iモジュールとの双方向通信
・Erinome-Iの機能と性能の評価
・Erinome-Iのプロトコル、センテンス、コマンドの理解
・プロトコルの知識に頼らないErinome-Iの構成
・Erinome-Iが使用したセンテンスやコマンドの解析

 WENSSにより、高度な知識がなくても簡単に測位アプリケーションを評価することができます。経験豊富な開発者は、WENSSを使用してより高度な設定を行うこともできます。

まとめ

 高精度で信頼性の高い測位機能を実現する最善の方法は、関連する補正技術をサポートする複数のコンステレーションを使用することです。これらは複雑なシステムですが、設計者は事前に設計されたGNSSモジュール、関連する開発キット、および環境を活用することで、選択肢を迅速かつ効率的に比較し、位置情報に基づく機能やサービスを実装することができます。

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