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電流センシング用の抵抗温度係数-温度と構造が抵抗の安定性に与える影響

著者 Vishay Intertechnology, Inc.
2021-08-31
マルツ掲載日:2021-12-20


 この記事では、以下のトピックを取り上げます。

1. TCRとは
2. TCRの計算方法
3. 構造がTCRの性能に与える影響
4. アプリケーションにおけるTCR
5. データシートの比較方法
6. 原因と結果

 抵抗は、金属や金属合金の結晶格子の中で、電子の動きを理想的な経路から逸脱させる複数の要因の複合により生じます。電子が格子内の欠陥や不完全な部分に遭遇すると、拡散が発生します。これにより、移動する経路が長くなり、結果として抵抗が増大します。これらの欠陥や不完全な部分は、以下の原因から生じます。

・熱エネルギーによる格子内の運動
・不純物など、格子内に存在する様々な原子
・格子の一部または全体がない(アモルファス構造)
・粒界における無秩序なゾーン
・格子内の格子間欠陥と結晶欠陥

 抵抗の温度係数(TCR)とは、抵抗温度係数(RTC)と呼ばれることもあり、上記の不完全性の熱エネルギー成分の特性を指します。この抵抗変化の影響は、極端なパルス/過負荷イベントに起因する高温による結晶粒子構造の変化がなかった場合に温度が基準温度に戻ると、なくなります。Power Metal Strip®およびPower Metal Plate™製品の場合、これは抵抗合金が350℃を超えるような温度となります。

 この温度による抵抗変化は、ppm/℃という単位で測定され、材料によって大きく異なります。たとえば、マンガン銅合金のTCRは20ppm/℃未満(20℃~60℃の場合)であるのに対し、終端に使用される銅は約3900ppm/℃です。また、3900ppm/℃は0.39%/℃という別の方法でも表せると考えるとわかりやすいかもしれません。

 後者の表記方法だと小さな数字に見えるかもしれませんが、100℃の温度上昇による抵抗値の変化を考えてみましょう。銅の場合では100℃上がれば、抵抗値が39%変化することになります。

 TCRの影響を視覚化する別の方法として、温度による材料の膨張率で考える方法があります(図1)。長さ100mの2つの異なる棒、AとBを考えます。棒Aは+500ppm/℃の割合で長さが変化し、棒Bは+20ppm/℃の割合で長さが変化します。

 温度変化が145℃の場合、棒Aの長さは7.25m増加しますが、棒Bの長さは0.29mしか増加しません。以下は、その違いを視覚的に示すための縮小(1/20)表示です。長さの変化は、棒Aでは非常に目立ちますが、棒Bでは目立ちません。


図1:TCRによる影響を視覚化する一つの方法として、材料の抵抗変化を温度上昇による膨張率で表すことが可能(画像提供:Vishay Dale)

 これはそのまま抵抗にも当てはまります。その理由は、TCRが低いほど、電力の印加(抵抗素子の温度上昇)や周囲の環境によって引き起こされる温度変化に対して、より安定した測定が可能になるためです。

TCRの測定方法

 MIL-STD-202 Method 304によって測定するTCR性能は、基準温度25℃の抵抗値からの差異です。温度を変化させ、被測定デバイスを平衡状態にしてから抵抗値を測定します。これらの抵抗値の差がTCRの決定に使われます。パワーメタルストリップWSLモデルでは、TCRを低温の-65℃で測定した後、+170℃で測定します。

 式は以下のとおりです。一般的に、温度上昇により抵抗値が増大すると、TCRは正となります。また、自己発熱はTCRによる抵抗変化を起こすので注意が必要です。

抵抗温度係数(%)

          (式1)

抵抗温度係数(ppm)

       (式2)

 式の要素の意味は、次のとおりです。

  R1:基準温度における抵抗値
  R2:動作温度における抵抗値
  t1:基準温度(25℃)
  t2:動作温度

 動作温度(t2)は、多くの場合、アプリケーションに応じて決まります。たとえば、計測器の温度範囲は0℃~+60℃が一般的で、軍事アプリケーション用の温度範囲は-55℃~+125℃が一般的です。パワーメタルストリップWSLシリーズは-65℃~+170℃の動作範囲に対するTCRを提供しているのに対し、WSLTシリーズは+275℃までの温度範囲に対するTCRを提供しています。

 表1は、この記事に関連する一連の製品で使用されているいくつかの抵抗材料のTCRを示しています。


表1:各種抵抗素子材料のTCR(単位:ppm/℃)(画像提供:Vishay Dale)

 図2は、複数のTCRレベルを、25℃からの温度上昇に対する抵抗値の変化率として比較したものです。


図2:複数のTCRレベルを温度上昇に対する抵抗値の変化率として比較したもの(画像提供:Vishay Dale)

 次の式は、与えられたTCRに対する抵抗値の最大変化を計算しています。

       (式3)

 式の要素の意味は、次のとおりです。

  R :最終抵抗値
  R0:初期抵抗値
  α :TCR
  T :最終温度
  T0:初期温度

 Vishayでは、オンラインTCRカリキュレータを提供しています。

構造がTCRに与える影響

 パワーメタルストリップとPower Metal Plateのシリーズは、従来のオールメタル厚膜電流センス抵抗器よりも高いTCR性能を実現します。厚膜電流センス抵抗器は、材料として主に銀を使用し、端子には銀と銅を使用しています。銀と銅は同じぐらいの大きさのTCR性能値を持っています。


図3:Vishayパワーメタルストリップ抵抗器と一般的なメタルストリップ抵抗器および厚膜抵抗器との比較(画像提供:Vishay Dale)

 パワーメタルストリップ抵抗器シリーズは、ソリッド銅端子(図4の項目2)を低TCR抵抗合金(項目1)に電子ビーム溶接しており、低TCRで0.1mΩまでの低値を実現しています。しかし、銅端子はそのような抵抗合金(<20ppm/℃)よりもTCRが高く(3900ppm/℃)、より低い抵抗値が要求されるため、やはりTCR全体の性能に影響を与えます。


図4:Vishayパワーメタルストリップ抵抗器の一般的構造。(画像提供:Vishay Dale)

 銅端子は抵抗合金に低抵抗値で接続できるため、抵抗素子に流れる電流を均一にすることができるので、大電流アプリケーション用の電流測定をより正確に行うことができます。しかし、銅端子は抵抗合金(<20ppm/℃)よりもTCRが高い(3900ppm/℃)ため、非常に低い抵抗値でのTCR性能全体に大きな影響を与えます。

 このことが図5で、銅端子と低TCR抵抗合金の組み合わせによる全抵抗値の変化として示されています。特定の抵抗器構造の最低抵抗値では、銅がTCRの評価と性能において通常の場合よりも重要になります。


図5:特定の抵抗器構造の低抵抗値では、銅がTCRの評価と性能において通常の場合よりも重要になります。(画像提供:Vishay Dale)

 銅が重要となるのは、部品ごとに抵抗値の範囲が異なる場合です。たとえば、TCR定格は、WSLP2512では1mΩで275ppm/℃であるのに対し、WSLF2512では1mΩで170ppm/℃です。WSLFでは、銅端子の方が抵抗値が同じでも寄与が小さくなるため、TCRが低くなります。

ケルビン端子と2端子の比較

 ケルビン(4端子)構造には、電流測定の再現性の向上とTCR性能の向上という2つのメリットがあります。ノッチ付き構造により、測定対象となる、回路内の銅の量を減らすことができます。表2は、2端子付きのWSLP2512と比較した場合のケルビン端子付きのWSK2512のメリットを示しています。


表2:ケルビン端子付きのWSK2512と2端子付きのWSLP2512の比較(画像提供:Vishay Dale)

 以下の2つの質問が重要です(図6の例はWSL3637のものです)。

・なぜ抵抗合金にまでノッチを付けて最高のTCRを実現しようとしないのでしょうか?

 これが新たな問題を引き起こすからです。というのも、銅端子により、電流を測定する領域に低抵抗で接続できるためです。抵抗合金にまでノッチを付けると、抵抗合金の中の電流が流れない部分まで測定されてしまうのです。その結果、測定電圧が上昇することになります。これは、銅のTCRへの影響と測定の精度・再現性との間にトレードオフの関係があることを示しています。

・4端子付きのパッド設計でも同じ結果が得られるでしょうか?

 いいえ、得られません。4端子付きパッドの設計は、測定の再現性を高めますが、測定回路における銅の影響をなくすことはできません。そのような抵抗器でも同じ定格TCRに合わせて動作するからです。


図6:ノッチ付き構造(ここではVishay DaleのWSL3637を示す)により、電流センシングの測定対象となる、回路内の銅の量を減らすことができます。(画像提供:Vishay Dale)

高架構造

 ケルビン端子部品は、平面(またはフラット)タイプ以外の構造にも使用できます。たとえば、高架構造を採用した抵抗器として、WSK1216WSLP2726があります。これらの抵抗器の目的は、基板のスペースを節約すると同時に、低TCR抵抗合金が寄与する抵抗値を最大化することです。抵抗素子の最大化とケルビン終端の組み合わせにより、超低抵抗値(最低値0.0002Ω)での低TCR、省スペース、高電力定格の抵抗器を実現しました。

クラッド構造とメッキ溶接構造の比較

 抵抗素子に薄い銅層を塗布した端子も、TCRや測定の再現性に影響を与えます。薄い銅層は、クラッド構造や電気メッキ溶接構造によって作成することができます。クラッド構造を作成するには、抵抗合金と銅のシートを超高圧で圧延することで、これら2つの材料の間に均一な機械的結合を作り出します。

 クラッド構造と電気メッキ構造のどちらの工法でも、銅層の厚さは通常数千分の1インチなので、銅の影響が最小限に抑えられ、TCRが向上します。その反面、銅層が薄いと電流が高抵抗の合金に均一に流れないので、抵抗器を基板に取り付けたときに抵抗値が少しずれてしまいます。

 場合によっては、比較する抵抗器間のTCRによる影響の違いよりも、基板上の抵抗値のずれの方がはるかに大きいこともあります。クラッド構造の詳細については、こちらの解説をご覧ください。

 また、構造が抵抗器のTCR特性に小さくない影響を及ぼしているのは、銅と抵抗合金の特性が相殺され、非常に低いTCR特性が得られるという点です。抵抗器の性能特性を完全に理解するには、その抵抗器の詳細なTCR試験が必要な場合があります。

アプリケーション(周囲環境条件と印加電力)でのTCR

 TCRは一般的に、環境や周囲の条件による抵抗器の変化という点で考慮されますが、電力の印加による温度上昇という別の側面も考慮する必要があります。電力を印加すると、抵抗器が電気エネルギーを熱エネルギーに変換することで発熱します。この電力印加による温度上昇もTCRに関係する成分であり、抵抗の電力係数(PCR)と呼ばれることもあります。

 PCRでは、構造によって作成される別の層が算入されています。この算入では、内部の熱抵抗Rthi(internal thermal resistance)や部品を介した熱伝導を使用します。熱伝導率の高い基板に熱抵抗が非常に小さい抵抗器を設置すると、抵抗器の温度が低く保たれます。たとえば、WSHP2818では、大型の銅端子と内部構造により、熱効率の高い構造となっており、印加電力の割に温度が大きく上昇することはありません。

すべてのデータシートが同じように作られているわけではない

 TCRには様々な表示方法があるため、複数のメーカーの仕様を比較することは困難です。たとえば、一部のメーカーでは素子のTCRを記載していますが、これは終端による影響を無視しているため、製品全体の性能の一部しか表していません。最も重要なパラメータは、終端の影響も含んだコンポーネントTCRであり、これは抵抗器がアプリケーションでどのように動作するかを示しています。

 また、+20℃~+60℃といった限られた温度範囲でのTCR特性を表示している場合と、-55℃~+155℃といった広い動作範囲でのTCR特性を表示している場合があります。これらの抵抗器を比較した場合、限られた温度範囲に指定された抵抗器は、より広い範囲に指定された抵抗器よりも高い性能を発揮します。

 TCRの性能は一般的に非線形で、負の温度範囲では低下します。抵抗器の構造や抵抗値に応じた詳細なTCR曲線を用意していますので、設計の参考にしてください。図7の各グラフは、非線形TCR特性や、異なる温度範囲における同一抵抗器のTCRの違いを示しています。



  
図7:非線形TCR特性や、異なる温度範囲における同一抵抗器のTCRの違いを示す例(画像提供:Vishay Dale)

 データシートに抵抗値範囲に対するTCRが記載されている場合は、記載値よりも高い性能が得られる可能性があります。抵抗値範囲内の最も低い抵抗値が、終端の影響による抵抗値範囲の下限値となります。同じ抵抗値範囲内の最高抵抗値を持つ抵抗器は、抵抗値の多くが低TCR抵抗合金に由来するため、TCRがゼロに近くなることがあります。

 厚膜の場合、TCRは、抵抗膜中の銀の含有量と終端の影響との組み合わせによって決まります。このグラフの比較でもう一つ明確にしておきたいのは、抵抗器は常にこのような大きさの傾きを持つわけではなく、抵抗値における銀と終端のTCRに対する相互作用に応じて、よりフラットなものもあるということです。

比較チェックリスト

 このセクションの目的は、このアプリケーションノートに記載されている内容に基づいて、あるデータシートのTCRを別のデータシートのTCRと比較するためのガイドを提供することです。

(1) 抵抗器の構造は同じですか?
 a:端子構造はクラッド端子、電気メッキ端子、またはソリッド銅端子のいずれですか?
 b:データシートには、抵抗合金のTCRとコンポーネント(トータル)のTCRのうち、どちらの性能パラメータが記載されていますか?これを判断するのは必ずしも容易ではありません。

(2) 温度範囲
 a:指定されたTCRの温度範囲は、20℃~60℃と同じ、またはこれよりも広いですか?
 b:記載されているTCR値はすべての抵抗値で比較可能ですか?

(3) TCRの性能を向上させるために、当該の設計にケルビン端子があった方がよいですか?

(4) 設計上、より詳細なデータが必要ですか?www2bresistors@Vishay.comまでお問い合わせください。

リファレンス
(1) 出典:Zandman、Simon、Szwarc共著『Resistor theory and technology(抵抗器の理論と技術)』(2002年刊)、p.23~p.24

その他のリソース
(1) 概要:パワーメタルストリップ面実装型電流センス抵抗器




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