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面実装抵抗器アプリケーションでの熱管理

著者 Vishay Intertechnology, Inc.
2021-09-14
マルツ掲載日:2022-01-10


 現代のプリント回路基板(PCB)における電子部品の高密度化と印加電力の増加に伴い、熱管理の重要性が高まっています。両方の要因により、個々の部品やアセンブリ全体の温度が上昇します。しかし、アセンブリ内のすべての電気部品は、その材料特性と信頼性の側面から、所定の動作温度範囲内で使用する必要があります。この記事では、面実装抵抗器などの電子デバイスの過熱を防止するための実験結果を示します。

電気的損失と熱伝達

 電気的損失(ジュール効果)によって抵抗器で熱が放散され、温度が上昇します。温度勾配が生じると、熱が流れ始めます。一定の時間が経過すると(デバイスの熱容量や熱伝導特性に応じて)、定常状態になります。一定の熱流量PHは、放散する電力Pelに対応します(図1)。

 物体内での熱伝導の性質は、電気伝導に対するオームの法則に似ているため、この式は次のように書き換えることができます(この記事の「熱伝達の基礎」の項を参照)。

         (1)

 ここで、

                    (2)

は、[K/W]次元の熱抵抗であり、電子機器の用途で注目されるほとんどの材料や温度領域では、温度に依存しないと考えられます。


図1:PCB上のチップ抵抗器の主な熱流路を模式的に示しています。(画像提供:Vishay Beyschlag)

熱抵抗

熱抵抗の近似モデル

 PCB上の面実装抵抗器のような電子デバイスにおける熱伝達は、熱抵抗の近似モデルで説明することができます。ここでは、抵抗膜から周囲の空気(外気)に伝わる、ラッカー塗膜を介した伝導と自由大気の対流による直接熱を無視しています。

 そのため、熱はアルミナ基板、金属チップコンタクト、はんだ接合部を経て、最終的には基板(銅クラッドを含むFR4)に伝わります。PCBからの熱は、自然対流によって周囲の空気に移動します(図2)。

 簡略化のため、全体の熱抵抗RthFAは、界面で対応する温度を持つ一連の熱抵抗器として、次のように記述することができます。

        (3)

 それぞれの熱抵抗等価回路を、図2に示します。ここで、

RthFCは、抵抗体層、基板、ボトムコンタクトを含む、抵抗器部品の内部熱抵抗です。
RthCSは、はんだ接合部の熱抵抗です。
RthSBは、ランディングパッド、回路経路、基材を含めたPCBの熱抵抗です。
RthBAは、PCB表面から外気(周囲の空気)への熱伝達の熱抵抗です。
RthFAは、抵抗器の薄膜から外気(周囲の空気)までの総合的な熱抵抗です。

 熱抵抗等価回路のノードに与えられた温度は、それぞれの界面で有効です。

θFilmは、ホットゾーンにおける薄膜の最大温度です。
θContactは、ボトムコンタクトとはんだ接合部の間の界面の温度です(最小サイズのハンダ接合部で有効、それ以外の場合は、特定の並列熱抵抗が発生する可能性があります)。
θSolderは、はんだ接合部とランディングパッド(PCBの銅クラッド)の間の界面の温度です。
θBoardは、PCB表面の温度です。
θAmbientは、周囲の空気の温度です。


図2:PCB上のチップ抵抗器の熱抵抗近似等価回路。(画像提供:Vishay Beyschlag)

熱伝達の基礎

 熱エネルギーは、伝導、対流、放射という3つの基本的なメカニズムによって移動します。

        (4)

伝導

 伝導の熱流量は、一次元の勾配dθ/dxに比例します。ここで、[W/mK]の次元のλは熱伝導率、Aは熱流束の断面積です。

            (5)

 これは、[W]の次元を持ちます。長さLと2つの平行な界面Aを持つ単純な立方体が、異なる温度、θ1とθ2である場合、熱伝達の方程式は次のようになります。

              (6)

対流

 対流の熱流量は、式(6)と同様に記述できます。

              (7)

 ここで、αは対流係数、Aは物体の温度θ1における表面積、θ2は周囲の流体(空気など)の温度です。係数αには、流体の材料特性(熱容量、粘度)および、流体の運動条件(流量、強制/自然対流、幾何学的形状)が含まれます。

 また、温度差θ1-θ2自体にも依存します。このように、式(7)は簡単そうに見えますが、熱伝達の問題を解決するためには、ほとんどの場合、係数αを近似するか、実験的に決定する必要があります。

放射

 熱放射フラックスは、ステファン・ボルツマンの法則(式(8))によって記述することができ、放射率と表面積が同一であると仮定した場合、異なる温度θ1とθ2という2つの物体間の正味のフラックス(式(9))が得られます。ここで、

                 (8)

            (9)

 εは放射率、σ=5.67×10-8Wm-2K-4はステファン・ボルツマン定数、θは表面Aの温度です。ただし、式(5)に基づく放射による熱伝達は、低温では寄与が小さいため、ここでは考慮しません。一般的に、全熱量の90%以上は、熱伝導によって放散されます。しかし、赤外線サーマルイメージングでは、式(9)が基本的な関心事です。

電気抵抗と熱抵抗の類似性

 電気抵抗器Rを流れる電流Iは、電位U1とU2の差に比例します。


図3a:電気抵抗器を通過する電流は、電位U1とU2の差に比例します。(画像提供:Vishay Beyschlag)

 熱抵抗器Rthを通過する熱流量Pは、θ1とθ2の温度差に比例します。


図3b:熱抵抗器を通過する熱流量は、θ1とθ2の温度差に比例します。(画像提供:Vishay Beyschlag)

 電気抵抗器と同様に、アセンブリ内の複数の物体の熱抵抗は、直列および並列の熱抵抗器のネットワークによって記述することができ、2つの熱抵抗器の場合は次の式で示されます。

             (10)

         (11)

内部熱抵抗

 内部熱抵抗RthFCは、主にセラミック基板(熱伝導率と形状)によって決まる部品固有の値です。

はんだ接合部の熱抵抗

 従来のはんだ付けでは、はんだの熱伝導率が比較的高く、流路の断面積と長さの比が大きい(約1K/W)ため、熱抵抗RthCSはごくわずかです。これは、特に小さなスタンドオフの場合に有効です。

 より大きなはんだ接合部は、ボトムコンタクトと(サイドコンタクトからランディングパッドまでの)もう1つの平行熱抵抗器の間にある1つの熱抵抗器とみなすことができ、熱伝導がわずかに向上します。これにより、はんだ接合部を含めた部品全体の熱抵抗を、次のように概算することができます。

          (12)

 なお、はんだ付けが不適切な場合は、熱抵抗RthCSによって全体の熱抵抗が高まります。特に、はんだにボイドがあったり、はんだの濡れ性が不十分だったりすると、接触熱抵抗が大きくなったり、流路の断面積が小さくなったりして、熱性能が低下することがあります。

アプリケーション固有の熱抵抗

 全体の熱抵抗RthFAには、抵抗器部品自体の熱特性と、環境への放熱能力を含むPCBの熱特性が含まれます。はんだから外気への熱抵抗RthSAは、基板の設計に強く依存し、これが総熱抵抗RthFAに多大な影響を与えます(特に、部品固有のRthFCの値が極端に低い場合)。基板から外気への熱抵抗RthBAには、空気流などの環境条件も含まれます。材料や寸法の選択は、回路設計者に任されています。

熱抵抗の実験的決定

赤外線サーマルイメージング

 赤外線サーマルイメージングは、熱実験に広く使われています。図6には、0603チップ抵抗器を200mWの負荷で使用した場合の、室温における赤外線熱画像が示されています。ラッカー表面中央部の最高温度が確認できます。はんだ接合部は、最高温度より約10K低い温度です。周囲温度が異なると、観測される温度にずれが生じます。

全体的な熱抵抗の決定

 熱抵抗は、最大フィルム温度を定常状態における放散電力の関数として検出することによって決定できます。各部品の全体的な熱抵抗RthFAの測定には、標準的なテストPCB(1)を使用しました。部品の中央部を測定しました。式(1)は、次のように書き換えられます。

               (13)

 単純に近似すると、0603チップ抵抗器の熱抵抗RthFA=250K/Wとなります(図4)。


図4:標準的なテストPCB上のMCT 0603チップ抵抗器の温度上昇を、放散電力の関数として示します。(画像提供:Vishay Beyschlag)

統合レベル

 PCBに実装された1個の1206チップ抵抗器(図5A)により、全体の熱抵抗RthFA=157K/Wとなります(図7)。PCB上に抵抗器を追加すると(負荷はそれぞれ同じ、図5B図5C)、温度上昇が大きくなります(抵抗器5個で204K/W、抵抗器10個で265K/W)。


図5:標準的なテストPCB上の1個(A)、5個(B)、10個(C)のチップ抵抗器を示す模式図。(画像提供:Vishay Beyschlag)

 すべてのデータは、標準的なテストボードから得られたものです。しかし、このデータは、異なる部品の比較や、所与の設計の熱放散能力の一般的な評価に役立ちますが、設計によって絶対値は変わります。また、数値シミュレーションの検証にも容易に利用できます。


図6:0603チップ抵抗器の200mW時の模式図(A)と赤外線熱画像(B)(周囲温度23℃、標準的なテストPCB)。(画像提供:Vishay Beyschlag)

部品の内部熱抵抗の測定

 PCBを、熱伝導率が高く、熱容量が無限大に近い理想的な物体(現実世界ではバルクの銅ブロックが適します。図8)に置き換えると、次のようになります。


図7:実験的に求められたフィルムの最高温度から導き出された温度上昇と熱抵抗RthFAを、放散電力の関数として示します。(画像提供:Vishay Beyschlag)

 ここでも、内部熱抵抗RthFCは、赤外線サーマルイメージングでフィルムの最大温度を放散電力の関数として検出し、実験的に決定しました。標準的なPCBの代わりに、電気的に絶縁された2つの銅ブロック(60mm×60mm×10mm)を使用しました。図9では、図10に示すようなチップ抵抗器、チップ抵抗器アレイ、MELF抵抗器などの一部の受動部品について、内部熱抵抗RthFCの値が示されています。

 その結果、熱抵抗はコンタクトの幅とともに減少しています(表1)。熱抵抗とチップサイズのバランスは、幅広端子の抵抗器が最適です。幅広端子の0406チップ抵抗器の内部熱抵抗(30K/W)は、1206チップ抵抗器の熱抵抗(32K/W)とほぼ同じです。


図8:バルク銅ブロック上のチップ抵抗器の主な熱流路と、それに対応する近似熱抵抗等価回路の模式図を示します。(画像提供:Vishay Beyschlag)


図9:実験的に求められたフィルムの最高温度から導き出された内部熱抵抗RthFCを、放散電力の関数として示します。(画像提供:Vishay Beyschlag)


図10:さまざまなタイプとサイズの面実装抵抗器を示します。(画像提供:Vishay Beyschlag)


表1:実験的に決定された面実装抵抗器の内部熱抵抗値を示します。

まとめ

 PCBの設計とアセンブリ全体の環境条件が、全体の熱抵抗RthFAを決定する主な要因となります。上述のように、放熱部品の集積度を下げることで、各部品の温度を下げることができます。これは、現在進行中の小型化のトレンドとは相反するものですが、特定の基板の一部では考慮されるかもしれません。

 PCBの設計変更以外にも、幅広端子の抵抗器(チップサイズ0406など)のような最適な部品を選択することで、部品レベルでの熱放散を大幅に向上させることができます。

 面実装抵抗器を使用する際の過熱防止には、いくつかの基本的な考慮事項があります。

(1) 熱放散は、近似した熱抵抗モデルで記述し、十分な空間的・熱的分解能を持つ赤外線サーマルイメージングで解析することができます。

(2) 部品固有の内部熱抵抗RthFCは、実験的に求めることができます。

(3) 全体の熱抵抗RthFAには、抵抗器部品自体の熱特性と、環境への放熱能力を含むPCBの熱特性が含まれます。一般的には、後者の外部からの影響に支配されます。特にPCBの設計とアプリケーションの環境条件に関しては、熱管理の責任は回路設計者にあります。

(4) 最高温度に達するのは、抵抗体層を覆うラッカー面の中央部です。注意すべきは、はんだの接合部です。一般的に、最高温度から約10K低い温度は、はんだの溶融温度、金属間層の生成、PCBの剥離などに関連する可能性があります。これは、特に周囲温度が高い場合に考慮しなければなりません。

(5) 温度安定性のある抵抗器部品の選択はもちろんのこと、はんだやPCBの基材の選択も重要です。薄膜チップやMELF抵抗器(最大動作フィルム温度175℃)などの車載グレード製品は、多くのアプリケーションに適しています。

(6) 熱放散を目的とした熱性能の向上は、以下の方法で実現できます。
  ・PCBの設計(基材、ランディングパッド、回路経路など)
  ・アセンブリ全体の環境条件(対流熱伝達)
  ・熱放散部品の集積度の低減
  ・熱放散最適化部品(幅広端子の抵抗器)


(1) EN 140400, 2.3.3準拠:FR4基材100mm×65mm×1.4mm、35μmのCu層、パッド/回路経路2.0mm幅。




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