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産業用オートメーションにおける実用的な5Gアプリケーション

著者 ジョディ・ムエラナー 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-06-16

マルツ掲載日:2021-10-11


 ワイヤレス通信は、産業用オートメーションの通信においてますます重要になっています。現在、第4次産業革命「インダストリー4.0」や「産業用IoT(IIoT)」を推進するための重要な無線技術として、第5世代(5G)セルラー通信が広く注目されています。

 5Gでは膨大な数のデバイスを接続でき、それらのデバイスがどこにあっても接続できることを主な理由に、一部では5Gがコンシューマや非産業用のIoT実装を普遍的なものにする鍵になると言われています。


図1:第3世代パートナーシッププロジェクト(3GPP)は、通信標準化団体を束ね、セルラー通信技術に可能な限りの相互・下位互換性を持たせることを目的としています。(ロゴ出典:3GPP)

 しかし、現在使われているさまざまな無線規格は、5Gに取って代わられるのでしょうか。5Gは、Wi-Fi、Bluetooth、IEEE 802.15.4などの技術が現在リードしているアプリケーションを凌駕するようになるのでしょうか。

 それとも5Gは、古いセルラー技術が使われている少数の自動化アプリケーションのための改良技術に過ぎないのでしょうか。5Gの性能面での優位性は何であり、すでにどの程度まで活用可能なのでしょうか。

 これらの質問に対する答えを理解するために、まず、5Gが他のセルラー通信や非セルラー通信とどのように違うのかを考えてみましょう。5Gは現在、これまでの2G、3G、4G世代のデジタルセルラー技術をベースに、携帯電話や産業用ネットワークで展開されています。

 2Gの前身は、現在のネットワークとはほとんど共通点のないアナログの無線電話技術であるため、1Gは存在しません。2Gでは、初めてのデジタル技術が導入され、電話やショートメッセージサービス(SMS)の通信が暗号化されました。移動通信用グローバルシステム(GSM)の規格は、全二重音声通話が可能な2Gの回線交換ネットワークを規定しています。

 その後、汎用パケット無線サービス(GPRS)、GSM進化型高速データレート(EDGE)と、2Gネットワークはさらに進化していきました。GRPSとEDGEは、インターネット接続用の汎用データパケットの送信を高速化して実現したものであるため、これらの機能を持つネットワークはそれぞれ2.5G、2.75G技術と呼ばれることもあります。

 3Gでは、データ転送速度がさらに向上し、ビデオ通話も可能になりました。関連する規格としては、CDMA2000やさまざまな形態の高速パケットアクセス(HSPA)があります。

 次に4Gが登場し、マルチ入力マルチ出力(MIMO)送信を採用したロングタームエボリューション(LTE)やWiMax規格により、データ転送速度がさらに向上しました。

 5Gは4Gから進化したもので、2018年末に初めて市販の5Gネットワーク製品が発売されました。この開発に至るまでの歴史的視点については、2016年のDigi-Keyの記事「5Gはどのように産業用モノのインターネットを変えるか」をお読みください。

 民間や商用ユーザーにとって最も関心が高いのは、5Gネットワークがいかにして数万人ものユーザーに対して数十Mビット/秒のデータレートをサポートできるかということです。また、オフィス内の数十人に1Gビット/秒の接続を提供することも必要です。

 その他、産業用オートメーションのアプリケーションに最も関係のある5Gの特徴について説明します。具体的には、5Gのネットワークは、非常に低いレイテンシと信頼性の高いカバレッジで、何十万もの同時接続を可能にしなければなりません。これらの機能は、IIoTや機械制御のアプリケーションに関連する大規模なセンサ展開の鍵となります。

 関連するDigi-Keyの記事「5Gは約束するすべての機能を現在提供しているわけではない」をご覧ください。

スペクトルとミリ波のデータ通信

 注意点として、モバイルネットワークに接続されたデバイスの普及に伴い、周波数スペクトルが不足する恐れがあります。一般的に、低い周波数帯はより広い範囲をカバーし、高い周波数帯は小さなエリアでより多くの接続を可能にします。

 たとえば、1GのAMPS規格では800MHz帯を使用していましたが、2GのGSM方式では当初1,900MHzを使用しました。現在、多くのGSM携帯電話は、国際的な使用を可能にするために、3つまたは4つの異なる帯域をサポートしています。そして、現在のモバイルネットワークは、700MHzから2.6GHzの間で運用されています。

 しかし、IoTによってモバイルネットワークに接続するデバイスの数が増えると、既存の周波数帯で利用できるスペクトルが減少していきます。そのため、5Gでは6GHzなどの高い周波数や、24GHz以上のいわゆるミリ波周波数(28GHzや38GHzも含む)への進出が始まっています。


図2:Sliver高速インターコネクトは、25Gbpsのデータレートと、データセンターやテレコムのスイッチングとルーティングを含む5GのAASアプリケーションをサポートします。(画像提供:TE Connectivity)

 ミリ波の通信周波数は、より高い帯域幅と非常に多くの接続数を可能にします。しかし、この周波数でのデータ送信は、送信距離が限られていることや、固体を通過する際の損失が大きいという欠点があります。実際、ミリ波通信は、乾燥した空気中では他の周波数の通信に比べて減衰が少ないのですが、雨の影響を強く受けます。

 このような高い周波数の優れた帯域幅を活用しつつ、送信距離の問題を回避するための1つの解決策が、ビームフォーミングです。この技術は、単純に全方向に発信するのではなく、特定のターゲットに向けて集中的に通信ビームを照射するものです。

 ビームフォーミングにより、ミリ波通信は近い将来、現在一般的に使用されている低い周波数の通信範囲を、通信干渉を最小限に抑えながら実現できるようになるでしょう。

 5G New Radio(NR)規格は、5Gの無線アクセス技術を規定するために策定されています。これには2つの周波数帯域が含まれます。周波数帯域1は6GHz未満、周波数帯域2は24GHz~100GHzのミリ波領域です。

オートメーションにおける5Gによる大規模なコネクティビティ

 より多くのスペクトルを得るために周波数を上げることは、センサ密度の大幅な向上など、IoTの約束を完全に実現するために必要となる大規模なコネクティビティを可能にする解決策の一部です。そのため、5Gネットワークの普及に伴い、接続可能なデバイスの数が一気に増える可能性があります。

 ミリ波の5Gは、1平方キロメートルあたり100万台のデバイス接続に対応できますが、そのためにはナローバンドのIoT(NB-IoT)が必要です。

 NB-IoTは、低コスト/低消費電力のデバイスの屋内カバレッジに焦点を当てた低消費電力技術です。現在のNB-IoTのコネクティビティは、100万台のデバイスには遠く及ばず、セルでサポートするのは1万台です。

 機械のロングタームエボリューション(LTE-M)はもう1つの低電力技術で、NB-IoTよりも高いデータレートと低いレイテンシを提供しますが、デバイスのコストと消費電力が大きくなります。もう1つの解決策は、特に需要の多いエリアでのセルの小型化です。

5Gのレイテンシ:公表値と実際のパフォーマンス

 5Gは1ミリ秒未満のレイテンシを実現するとされていますが、このように宣伝されている仕様は、ほとんどの場合実現されていません。実際、低消費電力のNB-IoT技術のレイテンシは、通常のカバレッジでは約1秒であり、拡張カバレッジでは数秒に増加します。

 LTE-Mのレイテンシは多少良く、通常の範囲では100ミリ秒程度ですが、それでもリアルタイム制御アプリケーションに必要な1ミリ秒には遠く及びません。


図3:5Gのさまざまな形態が世界的に急速に普及しています。(画像提供:Design World)

 一元化されたネットワークで1ミリ秒未満のレイテンシを達成することは、ラウンドトリップに50~100ミリ秒かかるため不可能です。これを解決するためにセル内で処理を行いますが、そのためにはセルレベルのサーバが必要になります。

 これは単純化した議論です。なぜなら、自律走行車のように、接続されたデバイスがセル間を移動する場合、制御と調整の連続性を維持する必要があるからです。そのためには、ネットワーク内で分散型制御と集中型制御の組み合わせが必要になります。小さなセルは、レイテンシの低減にも役立ちます。

 また、5Gではレイテンシを減らすために、ネットワークスライシングという手法が用いられます。ネットワークの帯域幅を個別に管理可能なレーンに分割し、そのレーンのトラフィックを低く抑えることで、一部を低レイテンシ送信用に確保します。そのため、この機能を必要とする産業制御アプリケーションでは、この予約レーンを使用することができます。

 現在の5Gネットワークでは、30ミリ秒未満のレイテンシを実現していますが、リアルタイム制御に必要な1ミリ秒はまだ先の話です。

5Gのその他の利点:低エネルギーと高信頼性

 より小さなセルを使用するため、当然ながらエネルギー消費量が減少しますが、デバイスの数が増えることである程度相殺されます。また、よりスマートなエネルギー管理も、5Gネットワークにおいてエネルギー使用量を削減する役割を果たします。NB-IoTは、多くのデバイスで10年を超えるバッテリ寿命を実現し、通信距離は10kmに及びます。

 より信頼性の高いカバレッジは、5Gのもう1つの利点です。5Gは急速に展開されています。NB-IoTとLTE-Mのネットワークは、すでに世界の多くの地域で利用可能です。低レイテンシの予約レーンが利用できるかどうかは、現段階ではやや不明瞭です。

その他非セルラー系のワイヤレスコネクティビティ

 産業用デバイスをワイヤレスで接続する方法は、5Gセルラー技術だけではありません。代替技術としては、Wi-Fi、Bluetooth、IEEE 802.15.4ベースの技術などがあります。

 Wi-Fiのレイテンシは通常20~40ミリ秒で、接続の安定性に問題があるため、一般的に制御や産業用オートメーションのアプリケーションには使用されません。しかし、現在は機械の状態監視やモーションセンサ、バーコードスキャナなどに使われています。

 IEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLow)は、900MHzを中心に動作し、非常に低い消費電力で1kmまでの通信が可能です。これにより、低レイテンシと高センサ密度では及ばないものの、IoTに特化した5G技術との競争力を高めています。

 Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE)は、低コストかつ低消費電力のコネクティビティを提供しますが、速度と距離に制限があり、民生用デバイスに焦点を当てています。IEEE 802.15.4ベースの技術も、速度や距離よりも低コスト/低消費電力を重視しており、速度はわずか250Kビット/秒、距離はわずか10mです。

 しかし、メッシュネットワークトポロジに対応しているため、ネットワーク内の他のデバイスから10m以上離れているデバイスがないようにすれば、ネットワークを10m以上に拡張することができます。多くの低コストIoTデバイスは、6LoWPAN、WirelessHART、ZigBeeなどの技術を使用しています。これらの中で最も産業界にフォーカスしているWirelessHARTは、ABB、Siemens、Fieldbus Foundation、Profibusなど、さまざまな業界団体によってサポートされています。

結論

 5Gは、テクノロジのファミリとして考えなければなりません。非常に高い帯域幅、膨大なセンサ密度、超高速のレイテンシといった印象的な性能は、単一のテクノロジでは同時に実現できません。つまり、最も重要な産業用オートメーションの5G実装は、5Gモバイルネットワークサービスが普遍的になったからといって簡単に実現するものではないということです。

 自動化設備の高いセンサ密度には、NB-IoTやLTE-MのようなIoTに特化した技術が必要になります。幸いなことに、このような技術はすでに先進国だけでなく開発途上国でも導入され、普及が進んでいます。エンジニアは、今後数年間で5Gネットワークの能力が着実に向上することを期待できるのです。

ビデオ:5Gで期待されること


 極めて低いレイテンシが要求される制御アプリケーションに5Gを使用するのは、まだ少し先の話です。NB-IoTやLTE-M 5Gなどの低消費電力技術(特にIoTに特化した応用)は、インダストリー4.0を実現し、機械をよりスマートに、工場をより柔軟に、工程をより無駄のないものにするために重要な役割を果たします。

 もちろん、5Gは非セルラー系のWi-Fi、Bluetooth、IEEE 802.15.4ベースの技術と競合し続けます。最終的に、これらすべてが自動化による生産性の向上につながります。

 つまり、5Gやその他の形態の安全で柔軟なワイヤレス接続により、ビッグデータ分析に必要なセンサ密度が実現し、生産工程の完全な特徴付け、メンテナンスプログラムの最適化、マテリアルフローの調整、自律的なロボットの連携が可能になるのです。




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