アブソリュートエンコーダ用通信プロトコルガイド
著者 Jason Kelly 氏
Electromechanical Design Engineer, CUI Devices
2021-03-31
マルツ掲載日:2021-07-19
オートメーションは現代社会に革命をもたらし続けています。それは、製造業のオートメーションやインダストリ4.0にとどまらず、商業や消費者の領域にまで及びます。これらの領域で、かつては肉体労働によっていた作業を自動化する拡張IoTが活躍することで、電気機械式の作業が増えています。
電動モータは、ごく一般的に言えば、物理的な世界を操作する手段です。しかし、多くの電動モータはかなり基本的なものであり、自分の位置をフィードバックすることは通常ありません。
これは、単に負荷を動かすだけの低コストのモータに特にあてはまります。意外かもしれませんが、たとえば、車のキーでドアを開いたりエンジンを始動でしたりするとカーシートの位置が自動的に調整されるなどの、比較的高度なアプリケーションも含まれています。
これらの基本的なモータに、シートの位置や調整方法を知るために必要な「賢さ」を与えたのが、エンコーダです。モータにはエンコーダが搭載されているものもありますが、そうでないものは、モータシャフトの外側に取り付ける外部エンコーダを利用することができます。
このような用途に使用されるエンコーダにはさまざまな種類があり、種類によって動きを検出する方法は異なります。たとえば、光源の前を物体が通過するときの光パルスをカウントする光学式エンコーダや、磁石がホール効果スイッチを通り過ぎるときに発生するパルスをカウントするエンコーダなどがあります。
CUI Devices社のAMT シリーズのアブソリュートエンコーダのように、光エンコーダの高分解能と磁気エンコーダの頑丈さを兼ね備えたエンコーダもあります。両者の特性は、トランスミッタとレシーバの2枚のプレートを、ローターに取り付けられた3枚目のプレートで分離して使用する静電容量方式によって実現されています。
中央のプレートは、回転すると、送信機と受信機の間で静電容量方式で伝導されている信号に干渉します。この干渉は動きに依存しないため、ロータープレートが動いていない状態でもロータープレートの絶対位置を検出することができます。
一般的なアプリケーションでは、エンコーダはモータの速度を検出したり、回転数に基づいてモーターが動かしているものの位置を解釈したりする必要があります。また、進行方向の検出が必要な場合もあります。さらに、位置の報告の仕方もさまざまです。
前述したように、アブソリュートローターリエンコーダは、ローターの測定可能な位置ごとに固有の値を提供するため、前の位置を知っている必要がありません。これは、車に乗り込んだときなど、電源投入後のモータの位置を知る必要があるアプリケーションに役立ちます。
ロータリエンコーダで使用されるプロトコル
物理的な動きをどのような方法でキャプチャする場合でも、その情報をコントローラに渡す必要があります。これを実現するには、生のパルスを受け取り、送信用にプロトコルに変換する、別のレベルのエンコーディングが必要です。
物理的な接続は、プロトコルの選択と操作方法に影響を与えます。一般的にプロトコルには、クロック信号を使用する同期型と、クロック信号を使用しない非同期型があります。さらに、物理的な接続はシングルエンド型、または堅牢性を高めるために差動型にすることができます。
この組み合わせにより、4つの選択肢が生まれます。これらの選択肢がすべて含まれている最も一般的なプロトコルは、シリアルペリフェラルインターフェース(SPI)(シングルエンド型、同期型)、RS-485(別称:TIA/EIA-485。差動型、非同期型)、そして同期シリアルインターフェース(SSI)(差動型、同期型)です。
プロトコルを選択する理由はさまざまです。一定レベルの相互運用性を確保するプロトコルを選択する場合もあれば、特に産業用モータの制御など電気的ノイズの多いアプリケーションにおいて、通信チャンネルの堅牢性を高めるプロトコルを選択する場合もあります。
しかし、これだけでは用途ごとにどのプロトコルが最適なのかが不明です。幸いなことに、AMTシリーズには上記の3つのプロトコルをすべて備えたモデルがあります。そのため、選択に当たっては、それぞれの製品をもう少し詳しく見て各特性を十分に理解した方が良いので、各製品について以下に説明します。
SPIバス
同期バスであるSPIバスの接続の1つは、専用のクロック信号(SCLK)です。また、SPIバスは、マスターデバイスとスレーブデバイスの専用接続により全二重動作にも対応しています。すべてのデータ交換はクロック信号によって手配されるため、マスターとスレーブは、データレートやメッセージの長さなどのパラメータを最初にネゴシエートすることなく通信することができます。各スレーブにあるチップセレクト端子(図1)により、マスターはどのデバイスと通信するかを制御することができます。
たとえば、AMT22シリーズには、2MHzのクロック信号で動作するように構成可能なSPIエンコーダが搭載されています。つまり、マスターが現在の位置を要求すると、エンコーダは1500nsという短い時間で現在の位置を返すことができます。
また、SPIプロトコルの配線構成もシンプルで、各デバイスのマスターアウト/スレーブイン(MOSI)、マスターイン/スレーブアウト(MISO)用の専用接続を使用します。これらの各接続は、図1に示すように一緒に配線されていますが、マスターには個々のチップセレクトピン用の専用接続があります。
図1:SPIプロトコルでは、クロックとデータには共通接続、チップセレクトには専用接続を使用します。(画像出典:CUI Devices社)
シングルエンドバスであるSPIプロトコルは、高速クロックを使用する場合、約1メートル以下の比較的短い距離での接続に適しています。信号の完全性を維持するためにクロックスピードを下げる場合には、この距離を延長することができます。このため、SPIプロトコルは非常に汎用性が高く、さまざまなアプリケーションに適しています。
RS-485バス
1mを超える距離を移動するアプリケーションや、電気的ノイズが多い環境では、差動バスの方が良いかもしれません。これは、差動信号がシングルエンド信号よりも本質的に堅牢であるためです。堅牢性を高めるもう1つの手法は、バス上のクロック信号がクリーンでなくても良いようにすることです。ここでは、RS-485バスと関連プロトコルが適切な選択となります。
RS-485インターフェースはツイストペアケーブルを使用しており、差動型であるため、ケーブルの両端に適切な終端処理が必要となります。しかし、非同期であるため、バス上に専用のクロック信号がなく、2本の導体で済み(図2)、データレートが10Mbit/s以上に達することができます。
バスとしては複数の接続に対応していますが、各接続が終端処理され、ケーブルとのインピーダンス整合がとれている必要があります。性能を維持するためには、各デバイスをできるだけ短い長さのケーブルでバスに接続する必要があります。
AMT21シリーズはRS-485バス/プロトコルを採用しており、必要な接続数はツイストペアが2本、電源が2本だけです。AMT21シリーズは非同期型のため、すべてのデバイスはプロトコルの設定方法を認識する必要があり、AMT21シリーズはデフォルトで8N1(データビット8つ、パリティなし、ストップビット1つ)を使用しています。
この設定では、最上位6ビットがアドレスとして使用されるため、1つの接続で最大64台の、個別にアドレス指定可能なデバイスをサポートすることができます。最下位の2ビットが命令に使用されます。AMT21シリーズは、位置データの提供を命令された場合、3マイクロ秒以内に応答することができます。このほかの命令としては、エンコーダをリセットする命令や零点位置を設定する命令があります。
図2:1本のツイストペアで複数のデバイスをサポートするRS-485プロトコル。(画像出典:CUI Devices社)
SSIバス
SSIバスは、標準的な構成では、データ用の差動ペアの他に、クロック信号を伝送する差動ペアを追加することで、RS-485バスを拡張したものと見なすことができます。つまり、標準的なSSIインターフェースでは、クロックとデータ用に2つの差動ペア、つまり4つの接続を使用しているということです。
CUI Devices社は、この設計のバリアントとして、差動方式を取り除いてチップセレクトピンを追加したものを開発しました。これにより、1つの接続あたりのピン数が4から3に減るとともに、専用のチップセレクトという利便性が追加されました(図3)。
このバリアントは、チップセレクトをサポートするSSIコントローラと互換性があり、SPIと同等の性能を発揮します。CUI Devices社のAMT23シリーズは、このSSIバリアントを採用しており、図3のように構成することができます。
図3:このSSIバリアントは配線数が少なくて済みますが、チップセレクトにも対応しています。(画像提供:CUI Devices社)
まとめ
オートメーションの利用は増える一方です。アブソリュートエンコーダは、電動モータに取り付けることで、オートメーションアプリケーションでの制御性を高めるように設計されています。
CUI Devices社が開発したAMTシリーズの静電容量式エンコーディング技術は3つの通信プロトコルを採用しており、それぞれに特長や利点があります。これにより、設計の自由度が高まり、アプリケーションに最適な技術を選択することができます。
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