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オートメーションネットワークにおける専用リングトポロジとは?

著者 ジョディ・ムエラナー 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-05-04

マルツ掲載日:2021-08-30


 産業用オートメーションやIoTにおけるネットワークトポロジとは、主にノードやデバイス(センサ、アクチュエータ、スマートモータ、ドライブ、コントローラなど)、スイッチ、ハブ、ゲートウェイなどの間におけるハードワイヤードの通信接続の配置を意味します。機械や大規模プラントの設置に使用されるネットワークトポロジにより、以下が決まります。

・システム通信の安定性と速度
・産業用ネットワークが持つ冗長性の大きさとリカバリ時間
・極めて重要な接続リカバリ機能(ネットワークのどこかのリンクに不具合が生じた後)

 この記事では、さまざまなリングトポロジを含むいくつかのネットワークトポロジと、いくつかの専用トポロジ、そしてそれらが使用される場所について説明します。


図1:産業用ネットワークのトポロジの主なファミリを示します。(画像提供:Design World)

産業用ネットワークのトポロジの種類に関する詳細

 産業用オートメーションネットワークのトポロジとは、リンク(有線の場合はケーブルの接続部分)とノードに分類されるネットワークの構成要素が、互いにどのように配置されているかということです。

 ノードは、再分配ポイントや通信エンドポイントの役割を果たすデバイスです。一方、リンクとは、有線・無線を問わず、ノードが接続するための手段です。リンクには、以下のようなものがあります。

・単方向:一方通行の通信しかできない
・二重:双方向の同時通信が可能
・半二重:どちらの方向にも通信できるが、一度に片方しか通信できない

 ネットワークのトポロジとは、ノードがリンクでどのように結ばれているかを示すもので、さまざまな配置があります。

バスネットワークトポロジ
 バストポロジのネットワークでは、1本の主なケーブルの「経路」(バスと呼ばれる)に各ノードが個別に接続(多くの産業基準ではドロップと呼ばれる)されます。

スターネットワークトポロジ
 スタートポロジのネットワークとは、ハブと呼ばれる1つのノードを中心としたネットワークのことです。そして、他のノードはそのリンクを介してハブに接続します。また、スタートポロジは、断続的な送信しか行わない個々のデバイスの電源を落とし、継続的に電力を必要とするハブだけに供給することができるため、省電力化にも有利です。

メッシュネットワークトポロジ
 各ノードと他のノードが完全に接続されたトポロジのネットワークです。メッシュトポロジのネットワーク(完全に接続された配置など)は、他と同様に分散型の接続を基本としていますが、すべてのペアのノードが接続されている必要はありません。すべてのノードが他のノードと接続されているわけではない設定は、部分的に接続されたメッシュネットワークと呼ばれることがあります。

 無線ネットワークでは、堅牢性と安全性および、バッテリ駆動のノードがあるネットワークに便利な消費電力の低減を実現するために、メッシュトポロジがよく使われます。また、メッシュネットワークでは、個々のリンクをネットワーク全体よりも短くできるため、一定の配線量でのネットワーク範囲を広げることができます。

 これは、低消費電力のセンサを多く持つ大規模なIoTネットワークにとって有益です。特に、メッシュトポロジのネットワークは、特に完全に接続されている場合、オプションの中で最も高い柔軟性と冗長性を提供します。

 注意点としては、リンク障害からのリカバリに時間がかかることが挙げられます。これは、システムがメッシュ内の新しい経路を見つける必要があるためで、リンク障害の周辺でポートの再構成が必要になる可能性があります。有線ネットワークの場合、ケーブルやポートの追加により、メッシュトポロジのコストも高くなります。

リングネットワークトポロジ
 リングトポロジのネットワークは、各ノードを隣接する2つのノードにリンクし、リングを形成する順序で接続します。これは、必要になるまで1つのリンクを無効にできるため、冗長リングとも呼ばれます。

産業用オートメーション向けリングトポロジの詳細

 リングトポロジのネットワークは、データ転送速度が速く、リンク障害からも早くリカバリできます。また、ケーブルのコストも比較的低くすみます。産業用オートメーションの有線ネットワークでは、リングトポロジが一般的な選択肢となっているのも不思議ではありません。

 1つの冗長リンクが無効だと、リングは実質的に1つのラインになり、高速で効率的な通信が可能になります。リンク障害時には、複雑なリルートは行われません。その代わり、冗長リンクが単にアクティブになり、他のすべてのリンクはシステムのデフォルトポートルートを使用し続けます。

 伝送制御プロトコル(TCP)とユーザーデータグラムプロトコル(UDP)でよく見られるリングトポロジのパーミュテーションを考えてみます。TCPとUDPのIPプロトコルでは、すべてのデバイスがIPアドレスを持っているため、インターネット接続が可能です。

 これらのIPアドレスにより、システムがあるアドレスから別のアドレスへデータパケットをルーティングすることが可能になります。パケットには、実際のデータに加えて、送信先のIPアドレスなどの付加情報がヘッダに含まれます。

 TCP(TCP/IPと呼ばれることも多い)は、データパケットが宛先でどのように再構成されるかを制御します。これが機能するためには、送信元と受信側の両方からの通信があることが前提となります。

 送信元はヘッダにシーケンス番号を入れ、受信側はパケットを受け取ったことを確認するメッセージを返す必要があります。パケットが確認されなければ、再送されます。デバイスはまた、各パケットヘッダのチェックサムを使用して、パケットのエラーをチェックします。

 このTCPプロセスは、往復の通信プロセスが比較的遅い代わりに、確実なデータ交換を実現します。これに対し、UDP(より新しいIPプロトコル)は、IPアドレス間のデータ転送をよりシンプルかつ高速に行うことができます。受信側のデバイスはパケットの受信を確認する必要がないため、信頼性が多少低下する代わりに速度は速くなります。

冗長化の課題と補完的なソリューション

 Ethernetベースのシステムにおけるネットワーク管理プロトコルは、問題となるブリッジループやそれによって引き起こされるブロードキャストストームを回避しながら、効率的なデータを確保するために冗長性機能を補完します。

 基本的に、ブリッジやスイッチングループは、不必要で問題のある繰り返しのデータ伝送です。これらは、デバイス間の重複した接続を介して移動し、ネットワークにおいて、通信する2つのネットワークノード間に複数の経路がある場合に発生します。


図2:産業用オートメーションにおいて、リングトポロジは高速で、リンク障害からの迅速なリカバリが可能です。(画像提供:Design World)

 ブリッジループが発生すると、データの再ブロードキャストが繰り返され、ネットワークの過負荷や急激な速度低下を引き起こします。この問題は、冗長性の高いシステムで発生する可能性が高くなります。

 リンクアグリゲーションは、並列したEthernetケーブルとポートを使用し、帯域幅を増やしてリカバリを早める技術です。つまり、リンクに不具合が生じても、接続が失われることはありません。

 しかし、一部のデータは失われる可能性があり、帯域幅が減少します。通常、ケーブルは何らかの機械的損傷を受けて故障するため、並行するケーブルを異なる経路で配線する必要があり、設置コストが大幅に増加します。このシンプルな方法は、リンクアグリゲーション制御プロトコル(IEE 802.1ad)として標準化されています。

 ブリッジループを回避しつつ、冗長化の利点を維持することが可能です。ここでは、並列の物理的ループを備えたトポロジと、それを補完するネットワーク管理プロトコルを使用したリンクの選択的無効化機能が解決策となります。そして、アクティブなリンクに障害が発生すると、論理トポロジは冗長リンクの1つを含むように拡張され、障害が発生したリンクを迂回してリルートされます。

 このネットワーク管理機能は、スパニングツリープロトコル(STP)、ラピッドスパニングツリープロトコル(RSTP)、および各種の専用リングプロトコルによって実現されます。なお、スパニングツリーとは、これらのプロトコルで作成されるループフリーの論理トポロジの別名であり、スパニングツリーに含まれないリンクは無効化されます。

 STPとRSTPはメッシュトポロジとリングトポロジの両方に対応しており、ほとんどのアプリケーションで適切な速さのリカバリ時間を実現します。しかし、最も要求の厳しい産業用オートメーションのアプリケーションでは、専用リングプロトコルでしか実現できないような非常に速いリカバリ時間が要求されることが多くなります。

専用リングプロトコルのサンプリング

 専用リングプロトコルは、その名が示すように、ネットワークハードウェアのメーカーに固有のものです。たとえば、Red LionのN-Tronスイッチの中には、N-Ringという専用リングプロトコルを採用しているものがあります。これらの専用プロトコルは、ネットワークループを制御したり、リンク障害を処理したりするもので、STPやRSTPの代替となります。

 前述のように、リングトポロジは、物理的に配線された産業用オートメーションネットワークで主に使用されています。それは、低レイテンシで最高の信頼性を提供し、最速のデータ転送とリンク障害のリカバリ率を実現するためです。リンク障害からのリカバリには、冗長性が重要です。

 ここでの注意点は、冗長性を持たせることで、データのループが問題のある繰り返しをするという課題が生じることです。この問題を防ぐには、ループ防止とリンク障害からの迅速なリカバリが可能なネットワークプロトコルが必要です。

 特に産業用オートメーションの運用では、ダウンタイムが許されません。このようなアプリケーションでは、障害リカバリ時間を短くする必要があるため、多くの場合、専用リングプロトコルが最適な選択肢となります。

 最も広く使われている専用リングプロトコルをいくつか考えてみましょう。

 HiPER ringは、1999年にHirschmannとSiemensが専用リングプロトコルとして発表したものです。現在はIEC 62439で標準化されており、メディア冗長プロトコル(MRP)という一般的な名称になっています。最大200ノードまで対応可能です。標準バージョンのリカバリ時間は500ミリ秒ですが、Fast HiPER ringでは60ミリ秒というさらに優れたリカバリ時間を実現しています。

 レジリエントEthernetプロトコル(REP)は、Ciscoの専用プロトコルであり、Rockwell AutomationやWestermoも採用しています。REPは、高速で予測可能なネットワーク動作を提供し、リカバリ時間はわずか20ミリ秒と謳われています。

 制約としては、REPがプラグ&プレイではないことと、自動的にループを防ぐことができないことが挙げられます。そのため、REPはこれらの機能を提供できるよう適切に構成しなければなりません。REPは、ネットワークセグメントと呼ばれる配列において、連鎖したポートのコレクションを作成することで機能します。

 X-ringはAdvantechの専用リングテクノロジーで、謳われているリカバリ時間(10ミリ秒)はおそらく最速です。ここでの注意点は、X-ringはノード数が20以下の比較的小さなネットワークに限られるということです。

 先に述べたRed Lionの専用N-Ringプロトコルは、30ミリ秒でのリカバリを実現し、最大250ノードの大規模ネットワークにも対応します。

 上記のように速度の幅が広いのには理由があります。TCPとUDPのネットワークプロトコルは速度が若干異なりますが、産業用ネットワークのトポロジと管理プロトコルの方がネットワーク速度に大きな影響を与えます。

 たとえば、STPの冗長リングネットワークのリカバリ速度は、TCPで30~90秒、UDPで10~50秒ですが、RSTPでは1~3秒に短縮されています。メッシュネットワークのリカバリ時間は、さらに長くなります。

 対照的に、ある専用リングネットワークでは、リンク障害からのリカバリに要する時間がTCPでわずか0.3秒、UDPでは0.2秒です。実際、一部のメーカーは、自社の専用リングネットワークのリカバリ時間がはるかに優れており、10ミリ秒以内に収まることもあると主張しています。

産業用オートメーション向けリングトポロジの結論

 有線の産業用オートメーションネットワークでは、リングトポロジが一般的です。その低遅延と最高の信頼性は、多くの場合、従来のSTPやRSTPよりも優れたループ防止やリンク障害の処理を行う専用の方法によって補完されます。



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