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産業用の制御・検査・計測におけるPLCの役割

著者 ジョディ・ムエラナー 
Digi-Keyの北米担当編集者 の提供
2021-05-12

マルツ掲載日:2021-09-06


 プログラマブルロジックコントローラ(PLC)は、以下を行う産業用コンピュータです。

・産業用オートメーションアプリケーションの監視と制御
・検査・計測業務に関わるタスクの実行
・プロセスタイプの機能(HVACシステムに関するものを含む)の実行(ただし、本記事では触れない)

 PLCは、センサや入力機器からデータを受け取り、処理して論理的な判断を行い、機械装置や電気装置に制御命令を出力するものです。コンピュータのプロセッサやメモリと、入出力(I/O)デバイスを組み合わせた組み込みシステムの一種であり、競合するハードワイヤードのリレーベース論理回路やPCベース論理回路とよく似ています。

 現在のPLCは、物理的な形態としては、集積回路チップ(IC)形態の非常にシンプルなコンピュータから、複数のシャーシに格納されたコントローラサブコンポーネントの大規模なラックマウント型コレクションまで、様々なものがあります。

 よりシンプルなマイクロコントローラーベースのPLCや、システムオンチップ(SoC)形式のPLCは、極めて信頼性が高く、わずかな入力電力で動作します。一方、最も複雑なPLCは、PLC自体と、リアルタイムの産業制御用汎用コンピュータとの間の境界を曖昧にしています(前者では信頼性とリアルタイム性能を重視)。

 そもそも、PLCは、リレーやドラムシーケンサを使用した、固定配線により実現される制御ロジックを丸ごと置き換えるものでした。これら初期のPLCは、入力を出力に変換するという基本的な動作をするだけでよかったのです。

 比例・積分・微分(PID)制御を必要とする機械タスクは、付属のアナログ電子機器に任されていました。現在では、PID制御やさらに高度な操作が、PLCの命令セットの標準要素の一部になっています。

 実際、PLCに求められる機能は時代とともに増加し、現在では多くのPLCが汎用性の高い複雑なルーチンを実行できるようになっています。ムーアの法則により、半導体チップの性能が上がり、サイズが小さくなったことで、より小さなコントローラからこれまでにない情報を得ることができるようになりました。この傾向は、モーション制御、ビジョンシステム、通信プロトコルの統合的サポートという形で引き継がれています。

 一方、PLCのサイズ範囲の中で最大であるプログラマブルオートメーションコントローラ(PAC)は、PLCとPCを統合したものであり、いくつかのアプリケーションにおいて、PLCやプロプライエタリ制御システム(プロプライエタリのプログラミング言語で動作)に代わるものです。最近では、ヒューマンマシンインターフェース(HMI)に組み込まれるPLCも増えています。

PLCが動作する産業用デジタル環境

 今日の産業用オートメーションは、機械のフィードバックや操作データ、デジタル機器間の複雑な相互接続を使用することで、以下を行っています。

・デジタル機器の制御
・高度な機能の実行 - たとえば、IIoT接続に関する機能や、機械を再構成可能にする機能など
・マシンや操作の様々な状態の、人間による判断
・全体的な生産性と加工物の品質の向上

 このような自動化された設備としては、それらのデータを保存、処理、提供するための様々な情報システムがあります。

 資材所要量計画または製造資源計画(いずれも略称はMRP)システムは、生産計画、スケジューリング、財務、在庫管理などを行うシステムです。これに対し、ヒストリアンシステムは、センサや計測器からの時系列データを保存し、オペレータや管理システムがオートメーションのトレンドを理解して対応できるように、グラフィカルにプロットします。統計的プロセス制御(SPC))は、ヒストリアンアプリケーションの一つです。

 ヒューマンマシンインターフェース(HMI)とは、オペレータがデータを表示したり命令を発行したりするための、機械の制御パネル(またはモバイル機器とワイヤレスで接続するモジュール)のことです。

 HMIの機能と密接な関係にあるのが監視制御およびデータ収集(SCADA)システムで、オートメーション化された機械に対するHMIやヒストリアンからの操作をリアルタイムで制御・監視することができます。HMIではSCADAを使用して、複数の機械を制御したり、複数の機器に関連するデータを表示したりすることができます。

 生産実行システム(MES)には、操業スケジューリングやデータ収集などの機能があります。MESはある意味で、MRPとSCADAの間に位置し、両者と部分的に重なっているとも言えます。

 企業資源計画(ERP)システムは、製造関連のMRP、MES、製品ライフサイクル管理(PLM)、CRMなどの情報システムを統合したものです。ERPシステムは、これらの機能のすべてを扱うモノリシックなソフトウェアスイートとして導入することも、または複数のベンダー製の専門的アプリケーションと接続するコアERPシステムとして導入することもできます。通常、組織では、トップマネジメントのみがERPを操作し、ほとんどの従業員はERPにデータを供給するコンポーネントシステムのいずれかを操作します。

 PLCは通常、これらの情報システムよりも低いレベルで動作します。機械やモータ、センサなどと情報をやり取りします。また、ヒストリアンやSCADAにデータを送信したり、SCADAやHMIから制御入力を受信したりして、これら上位の情報レベルとやり取りすることもあります。さらに洗練されたPLCはSCADAやヒストリアン機能を実行できます。さらには、HMI機能を実行できるPLCも増えています。


図1:PLCは通常、オートメーションの情報システムよりも下位のレベルで動作する。(画像提供:Jody Muelaner)

 なお、PLCはオートメーションだけでなく、テストベンチ(製品開発)や、研究所での計測タスクにも使用されています。前述したように、オートメーションは一般に診断を重視しており、現実的な効果を得るためには決定性のあるリアルタイム操作結果をPLCから得る必要があります。一方、計測タスクに使用されるPLCは、計測値収集などのデータ取得を迅速かつ正確に行うことに重きを置いています。

 マシンオートメーションタスクにおいて、PLCは入力から応答出力までの時間をミリ秒単位で計測するリアルタイム処理を使用します。最も単純なPLC機能を除いて、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)が必要です。

 多くのPLCは未だにプロプライエタリなOSを使用していますが、オープンスタンダードなOSへの関心が高まっています。その例を挙げましょう。VxWorksはプロプライエタリなRTOSですが、産業制御に使用するために広くライセンス供与されています。KukaやABBなどの大手ロボットメーカーにも採用されています。

 また、オープンソースのRTOSとしては、MITオープンソースライセンスで自由に配布されているFreeRTOSがあります。FreeRTOSには、オートメーション化された様々なアプリケーション向けの、モノのインターネット(IoT)のライブラリが同梱されています。この選択肢の詳細については、Digi-Keyの記事「Connect Designs Quickly and Securely to the Cloud Using Amazon FreeRTOS」をご覧ください。

 検査や計測のタスクにおいて、PLCはフィールドデバイスの計測からそれら計測値の収集までの遅延をミリ秒単位で計測するリアルタイム処理を使用します。今までのように、設計者がトランスファーチャンネル群からなるインターフェースシステムやインターフェースコンバータを採用せざるを得ない時代ではありません。今日、スマートな周辺機器とI/Oアセンブリでは、デジタルおよびアナログ入力による信号収集を拡張し、簡素化し終わっています。

 また、今日の設計者には、標準化されたインターフェースや、メーカー間で互換性のある部品を使用した、より多くの選択肢があります。

 PLC機能が組み込まれたI/Oコンポーネントを考えてみてください。これらの製品は、WindowsやLinuxなどのOSを実行したりEthernetに接続したりする、構成可能なHMIに対応していますが、簡単な再較正オプションや、低電圧アナログ信号を生成するフィールドデバイスのためのアナログI/Oがありません。

 このようなI/Oコンポーネントは、リモートI/Oデバイスからデータを収集するように設定されたPLCや、オンボードI/Oを介してセンサから直接データを収集するように設定されたPLCとも連携します。


図2:T7の多機能データ収集デバイス(DAQ)は、Ethernet、USB、Wi-Fi、Modbusでの接続機能を備えているので、産業用HMIやPLCだけでなく様々なフィールドデバイスと連携することができる。特にModbus/TCPでの接続は、様々なサードパーティ製のソフトウェアやハードウェアのオプションを介して制御可能性を実現しているので、オープン性と柔軟性を備えている。このため、産業システムの設計者や研究開発(R&D)エンジニアに、データ収集やオートメーションアプリケーションのためのベンダーニュートラルな選択肢を提供する。(画像提供:LabJack)

 もちろん、PLCだけがマシンオートメーションや検査および計測のための選択肢ではありません。すべての産業制御装置がより複雑になるにつれ、一部のベンダーは、機能の向上を示すために、特定のハードウェア(多くの場合、複数のプロセッサを搭載しているハードウェア)をプログラマブルオートメーションコントローラ(PAC)として差別化するようになりました。

 実際には、PLCも高度化してきており、PLCの機能を実行するハードウェアがPACになるかどうかは厳密には決まっていません。ほとんどのPACは、PLCとPCを統合することで、PCベースの複数のアプリケーションやHMI、ヒストリアンを備えた複雑なオートメーションシステムとして機能しています。一つの明確な違いは、PACが従来の制御よりもオープンなアーキテクチャを持っているため、開発者から採用されやすいということです。

 また、最近ではモジュール型PLCというオプションも登場しました。これは、様々な機能を持つモジュールで構成されています。どのPLCにも、オペレーティングシステムとプログラムを動かすためのプロセッサとメモリが内蔵されたCPUモジュールが必要です。

 電源モジュールや入出力(I/O)モジュールを増設することもできます。PLCには、デジタルとアナログの両方のI/Oモジュールが搭載されている場合があります。また、ネットワーク通信を行うには、追加のモジュールが必要になります。

 PLCには、すべてのモジュールを1つのエンクロージャに収めた一体型と、モジュール型があります。一体型PLCはコンパクトですが、モジュール型PLCは汎用性が高く、1つのモジュールを他のモジュールに差し込んだり共通のラックをバスとして使用したりして、複数のモジュールを簡単に接続することができます。

 モジュールには、バス上の位置によってアクセスできます。ラックの物理的支持がDINなどの規格に準拠している場合でも、データバスは通常、PLCメーカー独自のものです。

IoTにおけるPLCの役割

 インダストリ4.0(別称:IIoT)への関心が高まるにつれ、産業界のユーザーは、インターネットプロトコルを使用して産業用コントローラを社内ネットワークに接続する手段の登場を期待するようになっています。この手段とは、伝送制御プロトコル(TCP)とインターネットプロトコル(IP)、つまりTCP/IPを使用した通信のことになります。

 しかし、IIoTのトレンドは、単にインターネットプロトコルを使用することだけではありません。機械学習やビッグデータも含まれています。PLCがより高性能になると(そして、より高度な制御によりPLCの機能が呼び物にまでなると)、ビジョンシステムなどのホスト機能が増えていきます。

 また、エンジニアは、インターネットに接続することでクラウドベースのアルゴリズムを(システムPLC経由で)活用して、ビッグデータと呼ばれる非常に大きなデータセットを処理したり機械学習を行ったりすることができます。

 このようなIIoT PLCの機能を実現するには、制御オートメーション技術用Ethernet(EtherCAT)が実用上優れています。EtherCATは、0.1ms未満のサイクルタイムを持つリアルタイム制御アプリケーションに適した、Ethernetベースの通信プロトコルであり、ナノ秒単位の精度で同期をとることができる最速の産業用Ethernet技術です。

 もう一つの重要な利点は、ネットワークのハブやスイッチがなくても動作できるEtherCATネットワークトポロジの柔軟性です。リング、ライン、スター、ツリー型などの構成でデバイス同士をシンプルにチェーン接続することができます。同様の機能を持つ競合規格としては、PROFINETがあります。

まとめ

 データ収集や産業制御の一層の高度化に向けた現在のトレンドは、今後も続いていくでしょう。つまり、産業用オートメーション、検査や計測のためのPLCは、ますますPACに似てきて、SCADAやヒストリアンと統合されていくということです。

 インターネットプロトコルや、EtherCATなどのオープン規格も、PLC通信に着実に採用されています。このような接続性が促進するビッグデータ分析や機械学習などのインダストリ4.0技術の利用は、必要な処理能力やメモリを以下に分散することによって部分的に推進されます。

・クラウドベースのコンピューティング
・データ処理が可能なエッジデバイス

 このようなトレンドだけでなく、比較的単純な検査・計測や制御機能を最大限の信頼性とエネルギー効率で実行する従来型のPLCのニーズも残ることでしょう。



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