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電圧制御発振器(VCO)の基礎とその選択と使用方法

著者 Art Pini 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2021-01-26

マルツ掲載日:2021-06-01


 多くの電子アプリケーションでは、信号の周波数を他の信号の振幅に基づいて変化させる必要があります。良い例として、キャリヤの周波数が変調源の振幅に応じて変化する周波数変調信号があります。

 また、位相ロックループ(PLL)についても検討してみましょう。これは、基準入力信号の周波数/位相に合わせて発振器の周波数か位相またはその両方を変化させる制御システムを使用します。

 設計者の目標は、この機能を可能な限り効率的かつ費用対効果の高い方法で実行し、時間や温度に対する精度、信頼性、安定性を確保することにあります。

 これが電圧制御発振器(VCO)の機能です。これらのデバイスは、周波数が入力信号の電圧振幅に応じて変化する出力信号を生成するように設計されています。これらは、PLL、周波数および位相変調器、レーダ、その他多くの電子システムで使用されています。

 この記事では、なぜVCOが設計者のベストチョイスとなることが多いのかを説明した後、VCOがどのように機能するのか、およびディスクリート部品設計からモノリシックVCO ICに至るまでのVCOの設計について簡単に説明しています。

 次に、Maxim Integrated、Analog Devices、Infineon Technologies、NXP Semiconductors、Skyworks Solutions、Crystek Corporationなど、さまざまなベンダーの実例を使用して、特定のアプリケーションに合わせてVCOをどのように指定できるかを見ていきます。

VCOの役割とは?

 上述のとおり、多くの電子アプリケーションでは、信号の周波数や位相を他の信号の振幅に基づいて変化させたり制御する必要があります。代表的なアプリケーションには、通信システム、レーダの周波数チャープ、PLLの位相トラッキング、リモートキーレスエントリなどの周波数ホッピングアプリケーションなどがあります(図1)。


図1:印加された信号電圧によって周波数や位相の変動を制御する必要があるアプリケーションの例としては、通信システムの周波数変調(上段)、レーダの周波数チャープ(2段目)、位相ロックループの位相トラッキング(3段目)、リモートキーレスエントリシステムのような周波数ホッピングアプリケーション(下段)などがあります。(画像提供:Digi-Key Electronics)

 VCOは、特にその周波数がある一定の周波数の範囲に対し入力信号の振幅に応じて変化する出力信号を生成するように設計されています。

VCOのしくみ

 VCOにはディスクリートやモジュール、モノリシックなどの形態がありますが、ディスクリートVCOの説明では、VCOがどのように動作し、なぜ特定の仕様が重要なのかについて基本的な理解を得ることができます。その後、モジュラーソリューションとモノリシックソリューションの概要を説明します。

 ディスクリートのアプローチでVCOに取り組むことにより、設計者はカスタム仕様を満たすことに関して、大きな柔軟性が得られます。このアプローチは、特にアマチュア無線ではdo-it-yourself(DIY)プロジェクトによく見られます。

 このような設計は、高周波無線プロジェクトでの動作を目的としており、ハートレーとコルピッツのインダクタ-コンデンサ(LC)発振器などの古典的な発振器トポロジをベースにしています(図2)。


図2:ハートレーやコルピッツLC発振器などの古典的な発振器は、VCOの設計の基礎として使用できます。(画像提供:Digi-Key Electronics)

 すべての発振器は、持続的な発振を実現するための正帰還の使用に基づきます。ハートレー発振器とコルピッツ発振器は、異なる方法で正帰還を発生させる基本的な設計です。正帰還では、発振器の出力の信号を360°の総位相シフトで入力に戻す必要があります。

 アンプは180°の単相反転を提供し、360°の残りの半分は共振タンク回路のLCから得られます。タンク回路は、発振の公称周波数を決定します。ハートレー発振回路ではL1、L2、Ct、コルピッツ発振回路ではL1、Ct1、Ct2で構成されています。

 ハートレー発振器は、誘導カップリングを利用して、回路に示されているデュアルやタップインダクタ(L1、L2)を用いて位相反転を得ます。コルピッツ発振器は、それぞれの回路にCt1とCt2からなる容量性分圧器を採用しています。

 これらの基本的な設計から派生した設計が多くあり、それぞれに固有の名前があります。派生の設計では、負荷による周波数シフトを防ぐため、タンク回路をアンプから分離する試みが見られます。このような多くの派生品があり、設計者はその中から目的に合ったものを選ぶことができます。

 これらの設計では、タンク回路の共振周波数を変化させる可変容量ダイオードを採用することで、周波数制御を追加しています。可変容量ダイオードは、ときにバリキャップダイオードとも呼ばれますが、可変静電容量を提供するように設計された接合ダイオードです。

 pn接合に逆バイアスをかけると印加するDCバイアスの変化でこのダイオードの静電容量を変えることができます。可変容量ダイオードの静電容量は、印加されたDCバイアスに反比例して変化し、逆バイアスが高いほどダイオードの空乏領域が広くなり、静電容量が低下します。

 この変動は、Skyworks SolutionsのSMV1232_079LF超階段接合可変容量ダイオードの静電容量と逆電圧の比較グラフで見ることができます(図3)。このダイオードの静電容量は、0Vで4.15pF、8Vで0.96pFです。


図3:Skyworks SolutionのSMV1232可変容量ダイオードの電圧-静電容量プロットは、印加されたDCバイアスに反比例してキャパシタンスがどのように変化するかを明確に示しています。(画像提供:Skyworks Solutions)

 可変容量ダイオードの静電容量範囲は、VCOの同調範囲を決定します。発振器の電圧制御は、図4に示すようにタンク回路と並列に可変容量ダイオードを追加することで実現しています。図は、中心周波数が1GHz、同調範囲が約100MHzのコルピッツ発振器VCOの評価ボードリファレンス設計を示しています。

 負荷変動からVCOを分離するためにエミッタフォロワバッファを組み込んでいます。本設計の共振タンク回路は、インダクタL3とコンデンサC4、C7、C8を含みます。可変容量ダイオードのVC1はタンクと並列になっています。コンデンサC4は、所与の可変容量ダイオードを選択するための周波数変動範囲を制御し、C7とC8は、発振を維持するために必要な帰還を提供します。


図4:中心周波数が1GHz、同調範囲が約100MHzのコルピッツ発振器VCOの評価ボードリファレンス設計を示しています。可変容量ダイオードVC1(左下)はタンクと並列に配置されており、インダクタL3とコンデンサC4、C7、C8で構成されています。(画像提供:NXP Semiconductors)

 可変容量ダイオードとバイポーラ接合トランジスタの選択は、発振器の周波数に依存します。公称周波数が1GHzの場合は、NXP SemiconductorのBFU520WXやInfineon TechnologiesのBFP420FH6327XTSA1などのRFトランジスタを使用することができます。

 BFU520WXはトランジション周波数10GHz、ゲイン18.8dB、BFP420FH6327XTSA1はトランジション周波数25GHz、ゲイン19.5dBとなっています。どちらも1GHzでこの回路に十分なゲイン帯域幅積があります。

 まとめると、ディスクリートVCOでは設計の柔軟性を最大限に発揮できますが、モジュール式やモノリシック式のデバイスよりも大きく、プリント基板の面積を多く占有します。

VCOの仕様決定

 通常、主なVCOの仕様決定は公称周波数範囲、つまり得られる最小/最大周波数から開始します。また、公称周波数や中心周波数、同調範囲として指定することもできます。入力同調電圧範囲は入力電圧スイングに対応しており、同調範囲にわたってVCOを同調します(図5)。


図5:入力同調電圧の作用としての出力周波数の同調曲線プロットは、直線近似と比較したVCOの直線性に関する基本的な捉え方を示しています。出力周波数対同調電圧の傾きが同調感度となります。(画像提供:Digi-Key Electronics)

 同調ゲインや感度は、MHz/Vの単位で測定され、周波数対電圧プロットの傾きです。同調の直線性の指標になります。VCOがPLLなどの制御ループ内にあるアプリケーションでは、同調感度はVCO素子のゲインであり、制御ループのダイナミクスと安定性に影響を与える可能性があります。

 VCOの出力電力は、指定されたインピーダンスの負荷に供給される電力を指定しますが、RF VCOの場合は通常50Ωです。出力電力は、1mWを基準値としたdB値で指定されます(dBm)。また、VCOの周波数範囲にわたって出力される電力の平坦さも関心の対象となります。

 ロードプルは、MHzの最大振幅(pk-pk)で測定される負荷インピーダンスの変化によるVCOの出力周波数の変化です。通常、図4に示すエミッタフォロワのようなバッファアンプを使用することで、負荷の絶縁性を向上させることができます。

 電源プッシュとは、電源電圧の変動によるVCO出力周波数の変動のことです。MHz/Vで測定されます。

 位相ノイズの仕様は、VCOの信号純度を示すインジケータです。理想的な発振器の周波数スペクトルは、発振器の周波数において狭いスペクトル線になります。位相ノイズは発振器の不要な変調を表し、スペクトル応答を広げます。

 位相ノイズは、発振回路内の熱やその他のノイズ源の結果であり、キャリヤを基準としたdBc/Hzで示されます。周波数領域の位相ノイズは、時間領域のタイミングジッタを時間間隔誤差(TIE)として顕在化させます。

モジュラーVCO

 モジュラーVCOは、回路統合の次に高いレベルを表しています。これらのVCOは小型のモジュール式エンクロージャにパッケージされており、コンポーネントのように使用されます。モジュラーVCOは一般的に、VCOのディスクリート実装よりも高いパッキング密度になります。

 これらはさまざまな出力周波数、同調範囲、出力レベルで利用可能です。例として、Crystek CorporationのCRBV55BE-0325-0775 VCOがあります(図6)。このデバイスは、1.25×0.59インチ(31.75×14.99mm)、高さ1.25インチで、入力電圧0~12Vの範囲で325~775MHzの同調範囲を備えています。出力電力レベルは+7dBm(標準)、位相ノイズはキャリヤから10kHzオフセットで-98dBc/Hz、100kHzでは-118dBc/Hzとなっています。


図6:Crystek CRBV55BE VCOの外観図で、寸法が1.25×1.25×0.59インチのコンパクトなフォームファクタを示しています。(画像提供:Crystek Corporation)

 制御ダイナミクスについては、Crystek VCOは45MHz/Vのチューニング感度(標準値)を備えています。電源プッシュは、標準値0.5MHz/V、最大値1.5MHz/Vで規定されています。ロードプルは最大5.0MHz pk-pkです。

モノリシックVCO

 VCOはモノリシックICとして実装することができます。モノリシックICは、最高の体積密度を提供します。モジュラーVCOと同様に、モノリシックVCOは特定の運用バンド用に設計されています。例として、Maxim Integrated のMAX2623EUA+Tを検討してみましょう。これは、シングル8ピンのmMaxパッケージに統合されたオシレータと出力バッファを備えた自己完結型VCOです(図7)。


図7:Maxim Integrated MAX2623 VCOのブロック図とピン構成。電圧制御にデュアル可変容量ダイオードを使用した従来のLCベースのVCOです。8ピンパッケージに出力バッファを内蔵しています。(画像提供:Maxim Integrated)

 設計には、オンチップタンクインダクタと可変容量ダイオードが含まれています。+2.7~+5.5Vの電源で動作し、8mAしか消費しません。MAX2623は、製品ファミリの3つのVCOのうちの1つであり、それぞれのVCOは意図された動作周波数によって区別されています。

 MAX2623は885~950MHzの範囲に調整されており、902~928MHzの産業/科学/医療(ISM)バンドをカバーし、局部発振器として使用することができます。VCOの出力電力レベルは50Ωで-3dBm、位相ノイズは標準値-101dBc/Hz(100kHzオフセット時)です。制御電圧範囲は0.4~2.4Vで、ロードプルは標準で0.75MHz、pk-pkです。電源プッシュは280kHz/V(標準値)です。パッケージの大きさは0.12×0.12×0.043インチ(3.03×3.05×1.1mm)です。

 モノリシックVCOの別の例としては、Analog DevicesのHMC512LP5ETRがあります。このVCOは、2~13Vの同調電圧を用い、9.6~10.8GHzの周波数範囲をカバーしています。これは、衛星通信やマルチポイント無線、軍事用途向けです(図8)。


図8:Analog Devices HMC512LPETR VCOのブロック図で、内蔵可変容量ダイオードと内蔵共振子を備えた発振器コアを示しています。(画像提供:Analog Devices)

 このモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)VCOは、GaAsとInGaPヘテロ接合バイポーラトランジスタを使用して広帯域幅を実現し、5VのDC電源を使用した場合50Ωの負荷に+9dBmの出力電力レベルを実現しています。

 位相ノイズは、–110dBc/Hz(100kHzオフセット)です。ロードプルは、通常5MHzの最大振幅(標準値)です。通常、電源プッシュは5Vで30MHz/V(標準値)です。デバイスはQFN 5×5mmの面実装パッケージにパッケージングされています。図では、このVCOには2分の1と4分の1周波数の補助出力も含まれていることに注意してください。これらの分数周波数出力は、PLLシンセサイザを駆動してVCOの一次出力を位相ロックしたり、他のタイミングチェーン信号を同期させたりするために使用できます。

 これらのモノリシックデバイスは、いずれも小型であることが特徴であり、このタイプのVCOの第一の利点です。

まとめ

 VCOは、ディスクリート、モジュラー、モノリシックのいずれの形態であっても、多くのアプリケーションで必要とされる電圧ベースの周波数制御のニーズを満たします。ファンクションジェネレータ、PLL、周波数シンセサイザ、クロックジェネレータ、アナログミュージックシンセサイザなどに使用されています。

 比較的シンプルなデバイスではありますが、適切に使用するためには、操作方法や主要な仕様をしっかりと理解しておく必要があります。それらが明確になれば、数多くの設計や業者から選ぶことができます。



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