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双方向パワーコンバータとPFCを使用した、HEV、BEV、送電グリッドの効率性向上

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-09-29

マルツ掲載日:2021-1-25


 ハイブリッド電気自動車(HEV)やバッテリ式電気自動車(BEV)の電源システムの設計者は、効率性と信頼性を向上させると同時にコストを下げるという圧力を常に受けています。12V/48Vのデュアル電源レールへの移行は、シャーシの配線重量が減ることによって効率性を高めることに寄与しました。

 しかし設計者は、2つの電源が効果的に互いをサポートしながら、自動車が双方向のV2G(vehicle-to-grid)アプリケーションにも対応できるようにするために、2つの電源をより適切に管理する専用ソリューションを必要としています。

 このようなニーズは、双方向コンバータと双方向力率補正(PFC)システムの開発に結び付いており、設計者はこれらにより12V/48Vデュアル電圧の電気自動車(EV)設計の総合的なパフォーマンスを最適化し、さらにグリッドに接続して双方向の電力フローを実現できます。

 この記事では、自動車システムと関連規格における双方向パワー変換の利点とは何かを定義し、それらについて考察します。さらに、Texas Instruments、Analog Devices、Infineon Technologiesといったベンダーのソリューションを紹介し、それらを活用して双方向パワーコンバータを実装する方法について説明します。

双方向パワー変換とは

 デュアル電圧12V/48VアーキテクチャをともなうHEVでは、双方向電源が12V系と48V系をリンクすることで、片方のバッテリをもう片方のバッテリで再充電できるようになります。

 また、過負荷の状態で、各バッテリがいずれかの電圧レールに対して追加の電力を供給することもできます(図1)。これにより、設計者はより小型のバッテリをそれぞれの電源に使用できるようになり、信頼性と効率性の向上や低コスト化にもつながります。


図1:デュアル電圧アーキテクチャの中核には双方向電源があり、12V系と48V系をリンクします。これにより各バッテリがもう一方のバッテリで再充電可能になり、過負荷の状態では追加の電力を供給できます。(画像提供:Texas Instruments)

 BEVの場合、設計者は双方向PFCを使用して、双方向のバッテリ充電とともにV2Gの動作をサポートできます。V2Gシステムでは、次のような方法で効率性をさらに高めることができます。

・電力需要が多い期間に、エネルギーをグリッドに戻して供給することが可能
・グリッドでのロードバランスのために、必要に応じてバッテリ充電率の低減が可能
・再生可能エネルギー源からエネルギーを貯蔵するために、車両の利用が可能

 HEVのデュアル電圧システムは車両自体で自己完結しており、燃料経済性を向上させる一方で、V2Gシステムに使われる双方向充電器は、燃料経済性の向上以外にも幅広いコストメリットをもたらすように設計されており、車両外部との接続が必要になります。

 V2Gの実装には、グリッドの状況を検知するための通信技術とアルゴリズムが必要であり、さらに電気自動車用の充電インフラとのインターフェース機能も必要になります(図2)。


図2:V2Gシステムには双方向パワー変換とともに、各種の相互接続と通信規格が含まれる必要があります。(画像提供:Honda)

 このようなV2Gインフラがもたらす経済的メリットには、電力需要のピーク期間にはグリッドに電力を供給し(車両の所有者は収入を得られる場合もある)、電力需要が低い期間に車両のバッテリを充電(車両の充電コストを削減)できることが含まれます。

双方向パワー変換の関連規格

 LV148/VDA320の各仕様は、48Vバスと12Vバスをデュアル電圧自動車システムで組み合わせる際の電気要件とテスト条件を規定しています(図3)。LV148は、ドイツの自動車メーカーであるAudi、BMW、Daimler、Porsche、Volkswagenが採用しており、従来の内燃機関自動車とHEVに適用されます。

 この記事の執筆時点では、「Road vehicles—Supply voltage of 48 V—Electrical requirements and tests(道路車両-48V電源電圧-電気要件とテスト)」のためのISO21780規格が策定の途上にあります。


図3:LV148/VDA320の各仕様は、48Vバスと12Vバスをデュアル電圧自動車システムで組み合わせるための電気要件とテスト条件を規定しています。図は48Vバスの仕様です。(画像提供:Texas Instruments)

 V2Gシステムに適用できる通信プロトコルには、次のものがあります。

ISO/IEC 15118:この規格は、電気自動車の双方向充放電用のV2G通信インターフェースを定義しています。IEEE P1901.2 HomePlug Green PHY(HPGP)広帯域電力線通信(PLC)仕様を最も相応しいプロトコルとして使用し、堅牢な通信と高データレートを確保します。HPGPは2MHz~30MHzの周波数で機能し、システムが接続回線上の有効なデータを付近にある別のノイズ源によるノイズから区別できるようにします。

IEC 61850:この規格は、再生可能電力リソースと充電器のような電気自動車の電源装置(EVSE)との間でのエネルギーフロー管理を可能にする、変電所におけるインテリジェント電子機器の通信プロトコルを定義しています。


図4:IEC 61850はV2Gシステムの電力フローとデータフローを規定する規格であり、IEEE P1901.2 HPGP PLC仕様の使用により、堅牢な通信および高データレートが保証されます。(画像提供:IBIS)

12V系/48V系用の双方向多相DC/DCコンバータ

 通常の場合、パワーレベルが高い標準的な12V/48V双方向DC/DCコンバータでは、多相トポロジを使うことになります。多相設計では、位相ドロップに対応して電力需要の低下にともないアクティブな位相数を減らすことで、全体的な変換効率が高まります。

 また多相設計では、より小型のフィルタ部品を各相の出力に使用できるようになります。より小型のインダクタを使うことで、負荷過渡性能が向上します。そして、適切なインターリーブによる位相動作は、出力リップルの低減にもつながります。

 Texas Instrumentsの高性能な多相双方向電流コントローラであるLM5170-Q1は、自動車用デュアルバッテリシステムの48V系と12V系の間の電流転送を管理するために使われます(図5)。このコントローラには重要なアナログ機能が組み込まれており、最小限の外付け部品点数によるハイパワーコンバータの設計を可能にします。

 3相または4相の動作用に2つのLM5170-Q1コントローラを接続するか、または位相数が多い場合に複数のコントローラを同期してシフトされたクロックを同調させることで、多相並列動作が実現されます。


図5:LM5170-Q1多相双方向電流コントローラは、自動車用デュアルバッテリシステムの48V系と12V系の間の電流転送を管理します。赤い矢印は、双方向の電流フローを示しています。(画像提供:Texas Instruments)

 LM5170-Q1には、デュアルチャンネル差動電流センスアンプと専用のチャンネル電流モニタが内蔵されており、1%の標準電流精度を達成します。堅牢な5Aハーフブリッジゲートドライバは並列MOSFETスイッチを駆動することができ、チャンネルあたり500W以上を実現します。

 同期式整流器のダイオードエミュレーションモードは負の電流を防止するのに加え、軽負荷での効率改善のために不連続モード動作も可能にします。汎用的な保護機能には、サイクル毎の電流制限、高電圧ポート/低電圧ポート両方での過電圧保護、MOSFETの故障検出、過温度保護が含まれています。このコントローラは、自動車の機能的安全性に対応しています。

 Texas InstrumentsはLM5170EVM-BIDIR評価モジュールを提供しており、エンジニアはこのモジュールを使用して12V/48VのデュアルバッテリシステムアプリケーションでLM5170-Q1を評価できます。2相は180˚インターリーブオペレーションで動作し、60Aまでの最大DC電流を均等に共有します。

 この評価モジュールは、回路を柔軟に構成するための便利な各種ジャンパを備えていることで多様なユースケースにフィットし、たとえばマイクロコントローラ(MCU)やハイパワー単方向降圧/昇圧コンバータにより制御される機能などが含まれます。

双方向コンバータ用のマスター/スレーブ多相アーキテクチャ

 Analog Devicesの昇降圧スイッチングレギュレータコントローラであるLT8708は、12V/48V双方向パワーコンバータで使用します。LT8708は、双方向機能を備えた80V同期4スイッチ昇降圧DC/DCコントローラであり、約30Aまでの負荷電流をサポートできます。

 さらに高い電流が必要な場合は、LT8708コントローラをマスターとして1つ以上のスレーブチップと組み合わせることができます。マスター/スレーブアーキテクチャを使用すると、単一の(高額な)マスターICによって複数の(より低コストな)スレーブICを制御できるため、多相設計のソリューションコストを削減できます。

 マスターに接続されるスレーブによって、システムの電力と電流能力が比例して高まります。ただし重要なのは、スレーブはLT8708と同じ導通モードを備えているため、マスターと同じ方向に電流と電力を導通できることです。マスターはLT8708多相システムの全体的な電流制限と電圧制限を制御し、スレーブはこれらの制限に従います。

 4つの信号をまとめて接続することにより、スレーブはLT8708と簡単に並列化できます(図6)。各スレーブでは2つの追加電流制限(順方向VIN電流と逆方向VIN電流)を利用することが可能で、それぞれ個別に設定できます。


図6:LT8708(マスター)とスレーブICを使用した3相DC/DCコンバータでは、4つの信号相互接続が特徴的です。(画像提供:Analog Devices)

 Analog Devicesから提供されるDC2719Aデモボードでは、連携するスレーブ(LT8708-1)と組み合わせてLT8708を使用し、40Aの電流が供給されます。デモボードは、順方向および逆方向モードの両方で動作できます。

 このコントローラには、入力電圧レギュレータと出力電圧レギュレータ、電流フローを順方向や逆方向で制御する入出力電流レギュレータ2セットが統合されています。バッテリ/コンデンサバックアップシステムや、場合によりVIN、VOUT、IIN/IOUTの安定化を必要とする他のアプリケーションには、双方向パワー変換を簡素化する機能が含まれています。

グリッドインタラクティブBEVの双方向力率補正

 InfineonはグリッドインタラクティブBEVの設計者向けに、双方向パワー機能を備えた3300Wブリッジレストーテムポール力率補正器であるEVAL3K3WTPPFCSICTOBO1評価ボードを提供しています(図7)。このブリッジレストーテムポールPFCボードは、高効率(約99%)で高電力密度(72W/立方インチ)を必要とするアプリケーションを対象にしています。


図7:EVAL3K3WTPPFCSICTOBO1は、3300WブリッジレストーテムポールPFCボードです。(画像提供:Infineon)

 連続伝導モード(CCM)動作をともなうPFCアプリケーションでのトーテムポールトポロジは、ワイドバンドギャップ半導体の使用により実現可能になります。ここでは、InfineonのTO-247 4ピンパッケージ入りIMZA65R048M1 CoolSiC MOSFETを使用して、半負荷での効率を99%に押し上げています。このコンバータは、CCMにおいて高ライン電圧(最小176Vrms、公称230Vrms)と65kHzのスイッチング周波数で排他的に動作します。

 この3300Wブリッジレス双方向(PFC/AC-DCとインバータ/AC-DC)トーテムポールは、Infineonのパワー半導体とInfineonのドライバとコントローラを使用して開発されたシステムソリューションです。この設計に使用されているInfineonのデバイスには、次のものが含まれます。

・TO-247 4ピンパッケージ入りトーテムポールPFC高周波スイッチの、64mΩ、650V CoolSiC MOSFET(IMZA65R048M1)
・トーテムポールPFCリターンパス(低周波ブリッジ)用のTO-247パッケージ入り17mΩ、600VのCoolMOS C7 MOSFET(IPW60R017C7)
・2EDF7275F絶縁ゲートドライバ(EiceDRIVER)
・補助バイアス電源用ICE5QSAG QRフライバックコントローラおよび950V CoolMOS P7 MOSFET(IPU95R3K7P7AKMA1)
・Infineonが提供する、PFC制御実装のためのXMC1404Q048X0200AAXUMA1マイクロコントローラ

 EVAL3K3WTPPFCSICTOBO1評価ボードに実装されているトーテムポールは、CCMにおいて整流器(PFC)とインバータモードの両方で動作し、InfineonのXMC1404Q048X0200AAXUMA1マイクロコントローラを使用した完全なデジタル制御を実現しています。

結論

 設計者が効率性の向上を目指すのにともない、12V/48Vのデュアル電圧アーキテクチャがHEVやBEVに適したトポロジとして登場しました。これにより、このアーキテクチャを最適な形で使用できるように、効率的な電源管理のニーズが生まれました。

 双方向DC/DCコンバータとバッテリ充電器が登場したことで、12Vと48Vのシステムのうち片方に再充電が必要になった場合や過負荷の状態が生じたときに、両システムが相互にサポートすることが可能になっています。

 またBEVの場合、双方向のPFC段がバッテリと電力グリッドの間で双方向の電力フローをサポートします。これによりV2G接続が実現され、燃料経済性の向上以外にも、電力需要のピーク時にグリッドに電力を供給して電力需要が低い期間に車両のバッテリを再充電できるといった経済的メリットを得ることができます。

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