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電子部品業界で繰り広げられる環境への影響との戦い

著者 Scott Raeker 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-10-27

マルツ掲載日:2021-03-02


 電子部品業界は環境に影響を与えてきましたし、これからもその発展過程において影響を与え続けます。プラス面を見ると、発電、照明、モータ制御、センサ、他の多くの用途にますます多く使用される電子機器は、エネルギー効率と環境を監視および制御する機能において著しい向上をもたらしています。

 マイナス面では、電子製品の普及によって埋立地に大量の電子廃棄物が持ち込まれることになり、エネルギー使用量や環境への有害物質の放出が増加しました。ではいったい、この問題と戦い、電子機器の発展の道筋に沿って継続的な進歩を実現するには何ができるでしょうか?解決策を見出すために、業界では複数の新しいアイデアとトレンドが探求されています。

低消費電力

 環境への影響と持続可能性の領域に関連した新しいトレンドの1つは、低消費電力に対する要求です。人々にとって、携帯電話、スマートウォッチ、ノートパソコン、タブレット、スマートヘッドフォンなど5、6台の電池駆動デバイスを持ち運ぶことは珍しくありません。

 この分野に見られる一般的なトレンドは、これらのデバイスの電力要件を低減するための持続的な取り組みです。低消費電力により、電池とデバイスの小型化が可能になります。デバイスユーザーにとって、低電力から得られる別の利点は充電間隔や電池交換間隔が長くなることです。

 具体的な新しいトレンドは、電池の充電方法に関係しています。化学組成によっては不適切に充電すると爆発することが知られているため、バッテリの場合は、電池寿命を最大化し、とりわけその安全を維持するための独特な充電プロファイルが要求されます。

 充電は、充電サイクル中に閉ループ可変調整による電池の温度、電圧、電流の監視が必要な高度なアプリケーションになりました。適切な充電により、電池の平均寿命も延長されます。新しい化学組成の開発にともなって、この高度な充電のトレンドは継続することが見込まれます。電池寿命の延長は、デバイスの長期使用、最終的には埋立地に持ち込まれる電子廃棄物の削減に貢献します。

 環境にやさしい有機的なエネルギー蓄積技術が話題を呼んでいますが電池ほどは普及していません。たとえば、スーパーキャパシタなどがあります。従来の電池のような容量や長期蓄積機能はありませんが、従来の充電式電池よりもはるかに高速に充電でき、しかもより多くの再充電サイクルを維持できます。

 スーパーキャパシタには一般に数週間単位で測定される自己放電時間があるため、可能性のある用途ではこれを考慮に入れる必要があります。現在、複数のサプライヤがスーパーキャパシタを提供しており、図1はKEMETのスーパーキャパシタパッケージオプションの例を示しています。

 電池ではなくキャパシタを使用する一部のデバイスは、通常の周囲照明を使用しても充電できます。これにより、デバイスは光をエネルギー源として使用して定期的にキャパシタを充電し、十分な量のエネルギーを供給する自然なエネルギーハーベスターになります。モーション、示差熱、光は、現在最も注目されている形式のエネルギーハーベスティングです。


図1:さまざまなKEMETのスーパーキャパシタパッケージスタイル。(画像提供:KEMET)

エネルギーハーベスティング

 エネルギーハーベスティングは、ソーラーパワー、熱エネルギー、風力エネルギーなどの外部ソースに由来するエネルギーを取得して蓄積するプロセスです。代表的な用途は、ウェアラブルデバイスやワイヤレスセンサネットワークで使用されるような小型のワイヤレス自律デバイスです。図2は、一般に低電力電子機器の電源として使用される一部のLittelfuse IXOLAR™太陽電池を示しています。

  
図2:Littelfuse IXOLAR™小型太陽電池。(画像提供:Littelfuse)

 エネルギーハーベスティングは風車や水車に遡りますが、新しいエネルギーハーベスティングデバイスの探求の背後にある推進力は、センサネットワークとモバイルデバイスに電池なしで電力供給するという需要です。

 人気のある増加中の使用例は、電池交換作業が困難で費用のかかる現場に展開されたリモートセンサへの電源供給です。また、気候変動や地球温暖化の問題に対処するために、エネルギーハーベスティングへの関心が高まっています。

 Digi-Keyは、多くのタイプのエネルギーハーベスティング評価ボードとデモボードや個々の電源管理チップを提供しています。Power Filmの屋内ソーラーキット(図3)は、完全なソリューションを実証しており、屋内ソーラーパネル、エネルギーハーベスティングと蓄積電力管理の評価ボード、および充電式電池を含みます。この評価ボードには、NordicのnRF52832 BLEモジュールとTexas InstrumentsのBQ25570エネルギーハーベスティング/電力管理ICが内蔵されています。


図3:Power Film屋内ソーラーキット。(画像提供:Power Film)

使い捨て薄膜電池

 もう1つの持続可能な代替選択肢は、固体薄膜電池として知られる柔軟性のある印刷薄膜電池です。固体電池とは、その名のとおり、内部にゲルや液体を含まない固体の電池です。それらの電池はきわめて薄い材料の層または膜を使って設計、製造されており、その薄型設計が、電池をきわめて柔軟にし、ウェアラブルセンシング市場を引き付ける一因となっています。

 このような固体薄膜電池の多くは、薄さと柔軟性に対する市場ニーズに応えていますが、環境にとって有毒となり得るリチウムベースの化学組成などを採用して設計されることが現在も多くあります。

 毎年膨大な量の電池が廃棄されることを考えると、ある種の電池が有毒であり、それが広く使用されるのは問題になります。ノートパソコンやスマートフォンなどの電子デバイスの需要が増すにしたがい、年々、それらのデバイスが廃棄物の発生量に占める割合も増しています。

 電池は一般に生物分解性ではなく、無頓着に廃棄すると有毒な金属や化学物質を地中にばらまくことになる恐れがあります。多くの国では、現在、電池の廃棄に関する規制を設け、リサイクルプログラムを提供しています。

 そのようなプログラムは、電池に含まれる金属のリサイクルに役立ち、電池の廃棄による環境への悪影響を抑制できます。米国環境保護庁は、電子機器の持続可能な管理のための多くのイニシアチブやプログラムを備えたウェブサイトを維持しています。

 電池の廃棄規制は、より多くのデバイスに電力を供給し、モノのインターネットに接続するというニーズの高まりとともに、企業が危険な電池の化学組成に代わる安全で持続可能な選択肢を探究する動機付けになります。Molexが提供する薄膜電池のラインナップはそうしたソリューションの1つです(図4)。リチウム電池による対応物とは異なり、これらの電池は亜鉛二酸化マンガンの化学組成を使用した設計で、より安全でエンドユーザが廃棄しやすくなっています。

  
図4:Molexの薄膜電池。(画像提供:Molex)

 実社会での使用例を見れば、薄型、柔軟性、廃棄可能性、フットプリントの小ささといった特長が高く評価される用途、薄膜電池市場の成長継続を期待できる用途が見えてきます。特に興味深い1つの使用例は、極超短波(UHF)スマート温度タグにおける薄膜電池の利用です。

 このタグはクレジットカード並みのサイズで、標準的なプリンタ用紙よりも少し厚みがあります。薬剤製品、傷みやすい食品や花など、温度に敏感な製品用にコールドチェーンロジスティクスの管理者によって使用されています。これらのスマート温度タグは、電波による個体識別(RFID)、インテリジェント温度センシング、印刷薄膜電池の技術を組み合わせて利用し、製品の輸送と保管時の時刻と温度を正確に追跡します。

 さらに、民生、化粧品、医療の市場では、薄膜電池の応用実験が行われています。民生市場と化粧品市場の中心にあるのが電気アイマスクです。このアイマスクは、柔軟性のある印刷電池、電極、接着テープ、カバーシートで構成されたマイクロカレントデバイスを搭載しています。

 このパッチを皮膚に当てると、即座に電流ループを生成し、化粧品成分がマスク内のアクティブ電極から皮膚へ流れます。薄膜電池のその他の民生市場への応用としては、ウェアラブル電子デバイスやスポーツモニタリングデバイスがあります。

 その1例として挙げられるのが、ゴルフクラブのヘッド側面に貼り付けて加速度と角速度を測定する低消費電力Bluetooth(BLE)センサパッチです。廃棄可能な薄膜電池の医療分野への応用には、患者の診断、治療、モニタリングのためのデバイスなどがあります。

 この数十年の間、私たちが日々使用する多くのデバイスやアプリケーションに電力を供給するという世間で高まる要求を満たすため、新しいさまざまなタイプのエネルギー源や電池の開発は長足の進歩を遂げてきました。

 近年では、豊富に存在し、持続可能で、環境にも人間にも安全な原料を使用して製造するキャパシタや電池の開発に企業が取り掛かっています。自然発生するエネルギーのエネルギーハーベスティングは、多くの企業が検討しているもう1つの持続可能な方法です。

 産業、IoT、民生、医療などの市場では、既に薄膜電池、スーパーキャパシタ、エネルギーハーベスティング対応デバイスを電源とする製品の実験および製造に成功しています。これらの手段の容量と製造可能性を増すため、さらなる開発が必要とされていますが、ある差し迫った疑問が常に開発者を駆り立てています。それは「これらの手段や方法の次の使い道は何か」ということです。



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